25 / 47
冷たい旦那様の告白 3
しおりを挟む
お城の夜会から飛び出して、王都からセルシスフィート伯爵領を通過して、ウォールヘイト伯爵領に来ていた。
王都から、早く帰るには、セルシスフィート伯爵領を通過するのが一番早いからだ。
でも、ウォールヘイト伯爵領に入るためには、高額な通行料を取られる。だから、今までは、時間がかかってもセルシスフィート伯爵領を迂回してウォールヘイト伯爵領に帰っていた。
でも、今夜は違う。
夜会が名残惜しいとも思えない。ただ、早く離れたかった。
ぼんやりと馬車の外の暗い夜の景色を見ていたはずなのに、何一つ覚えてない。
ウォールヘイト伯爵邸に到着すれば、御者が扉を開けてくれた。虚ろな表情の私が降りれば、途中の休憩で買ったパンを紙袋で差し出してきた。
「あの……これ、どうぞ……」
「いいのよ……これから、王都に帰るのでしょう? 遠くまでありがとうございます」
「お気になさらず……その、途中で客でも拾って帰りますし……あの指輪はすごい値段になりそうなので、パンぐらいどうぞ」
「そう……高く売れると良いですね。パンも、ありがとうございます」
申し訳なさそうに出されたパンを受け取ると、御者がほっと肩を撫でおろして、馬車に乗ると、お互いに頭を下げて馬車を走らせて行った。
ウォールヘイト伯爵邸に入ると、ずっと使っていた自分の部屋へと行った。
時々帰って来ては掃除もしていたし、ベッドもいつでも使えるようにしている。
貰ったパンを小さな一人用のテーブルに歩きながら置いて、ベッドに腰掛けてコテンと身体を倒した。
色々考えることはある。でも、ウォルト様に、ふしだらな妻と思われていたことが、一番堪えた気がする。私をそういう目で抱いていたのだ。
「……すぐに離縁するわ」
部屋にある書斎机に目をやる。あの引き出しには、三年後に出す予定だった離縁状が入っていた。
♢
「ティアナ!! ティアナはいないのか!?」
王城の夜会では、ティアナは見つからずに、荷物一つ持ち出してなかった。
やっと見つけた小さな情報は、ティアナらしき女性が辻馬車で誰よりも早く出て来たピンク色の髪の令嬢がいたということ。
王城を出ていっても、王都でのセルシスフィート伯爵の別邸を知っているかどうか自信がなかった。少なくとも、俺はまだ連れて行ってない。
帰るとしたら、セルシスフィート伯爵邸のはず……。そう思い、飛竜で急いで帰って来た。
でも、ティアナはどこにもいない。
「ウォルト様。どうされました?」
「トラビス! ティアナはどこだ!?」
「ご一緒に王都に行かれたのでは? アリス様も、王都へと向かいましたし……」
「アリスなどどうでもいい! 探しているのは、ティアナだけだ!!」
こんな時まで、ティアナよりもアリスを気にするトラビスに怒気をはらんで叫ぶと、トラビスの身体が強張った。
「し、失礼しました! ですが、ティアナ様は、お帰りになっておらず……」
ティアナがいない。ティアナの友人など知らない。そもそも、ティアナは仕事に通い、質素な生活をしていた。
そんな彼女が、どこに行くと言うのか……。
「まさか……ウォールヘイト伯爵邸に帰ったのか?」
思わず呟いた言葉が、どこか自分で納得してしまう。そのまま、緊張感に包まれたままのトラビスにかまうことなく、庭に降りた飛竜の元へと駆け乗った。
一晩中ティアナを探して、ウォールヘイト伯爵邸に着くころには、すでに朝になっていた。
古びれたウォールヘイト伯爵邸の庭園とは言い難い、田園のような庭に飛竜で降り立つと、邸を囲んでいる木の門のところに、中年男の村人が立っていた。
「……何の用だ?」
「お、お嬢様が帰ってきていると聞いて来たのだが……ど、どなただ?」
「ティアナが、帰ってきている……?」
やはりここにいた。やっと見つけた。どの部屋にいるかもわからないのに、ティアナに恋焦がれるように邸を見上げた。
「……ティアナに何の用だ?」
「怪しい奴には、言わねぇ……ウォールヘイト伯爵領の人間ではないだろう」
「それは、失礼した。俺は、ティアナの……夫のウォルト・セルシスフィート伯爵だ」
「あんたが……っ、」
「要件は俺からティアナに伝える」
「いい……セルシスフィート伯爵領は信用できない」
「その当主であり、領主である俺に言えば、要件が伝言送りになることはないぞ」
「どうせ、何もしない……だから、今も魔物討伐にセルシスフィート伯爵領は手も貸してくれない」
「魔物討伐?」
「そうだ。街に被害が出る前にセルシスフィート伯爵領との境にある森の中に魔物討伐のための人員を集めたいのに、セルシスフィート伯爵領は、自分たちには関係ないと、聞く耳も持たない。だから、お嬢様に相談して、別の街から魔物討伐に出る人を雇いたくて……」
その金がないから、ウォールヘイト伯爵家のティアナを頼ってきたのだと言う。
「ティアナは、いつも村人たちに金を融通していたのか?」
「そうだ。お嬢様は、よそで借りないようにと言って、困っている村人たちに金を貸してくれていた。だから、俺たち小作人は新しい農具も買えたし、村の病院を運営しているのも、お嬢様だ。魔物討伐にも、お嬢様がついてきてくれた。セルシスフィート伯爵家は、お嬢様と結婚しておきながら、何もしてくれなかったのに……」
よそで借りて、多額の利子を取られないようにと危惧してティアナは、自分が金をかしていたのだ。
セルシスフィート伯爵領よりも、田園に近いウォールヘイト伯爵領。確かに観光も商売もそう成り立たないだろう。
邸を見上げれば、質素と言い難いほどの古びた邸。今にも崩れそうな石壁すらある。
伯爵邸でありながら、修繕すらされてない。
……だが、ティアナは、多額の支度金は自分のために使うことなく、ウォールヘイト伯爵領の村人のために使っていたのだ。
「魔物討伐は、俺が行こう。だが、少し待ってほしい。ティアナにも、必ず伝える」
「信用はしてない……お嬢様に伝えて下されば、それでいいのです」
「わかった。昼前には、関係者を連れて来い。話を聞こう」
納得はしてない様子だが、伯爵という身分に逆らうこともできずに、不信感をあらわにしたままで、村人は何度もこちらを振り向きながら去っていった。
王都から、早く帰るには、セルシスフィート伯爵領を通過するのが一番早いからだ。
でも、ウォールヘイト伯爵領に入るためには、高額な通行料を取られる。だから、今までは、時間がかかってもセルシスフィート伯爵領を迂回してウォールヘイト伯爵領に帰っていた。
でも、今夜は違う。
夜会が名残惜しいとも思えない。ただ、早く離れたかった。
ぼんやりと馬車の外の暗い夜の景色を見ていたはずなのに、何一つ覚えてない。
ウォールヘイト伯爵邸に到着すれば、御者が扉を開けてくれた。虚ろな表情の私が降りれば、途中の休憩で買ったパンを紙袋で差し出してきた。
「あの……これ、どうぞ……」
「いいのよ……これから、王都に帰るのでしょう? 遠くまでありがとうございます」
「お気になさらず……その、途中で客でも拾って帰りますし……あの指輪はすごい値段になりそうなので、パンぐらいどうぞ」
「そう……高く売れると良いですね。パンも、ありがとうございます」
申し訳なさそうに出されたパンを受け取ると、御者がほっと肩を撫でおろして、馬車に乗ると、お互いに頭を下げて馬車を走らせて行った。
ウォールヘイト伯爵邸に入ると、ずっと使っていた自分の部屋へと行った。
時々帰って来ては掃除もしていたし、ベッドもいつでも使えるようにしている。
貰ったパンを小さな一人用のテーブルに歩きながら置いて、ベッドに腰掛けてコテンと身体を倒した。
色々考えることはある。でも、ウォルト様に、ふしだらな妻と思われていたことが、一番堪えた気がする。私をそういう目で抱いていたのだ。
「……すぐに離縁するわ」
部屋にある書斎机に目をやる。あの引き出しには、三年後に出す予定だった離縁状が入っていた。
♢
「ティアナ!! ティアナはいないのか!?」
王城の夜会では、ティアナは見つからずに、荷物一つ持ち出してなかった。
やっと見つけた小さな情報は、ティアナらしき女性が辻馬車で誰よりも早く出て来たピンク色の髪の令嬢がいたということ。
王城を出ていっても、王都でのセルシスフィート伯爵の別邸を知っているかどうか自信がなかった。少なくとも、俺はまだ連れて行ってない。
帰るとしたら、セルシスフィート伯爵邸のはず……。そう思い、飛竜で急いで帰って来た。
でも、ティアナはどこにもいない。
「ウォルト様。どうされました?」
「トラビス! ティアナはどこだ!?」
「ご一緒に王都に行かれたのでは? アリス様も、王都へと向かいましたし……」
「アリスなどどうでもいい! 探しているのは、ティアナだけだ!!」
こんな時まで、ティアナよりもアリスを気にするトラビスに怒気をはらんで叫ぶと、トラビスの身体が強張った。
「し、失礼しました! ですが、ティアナ様は、お帰りになっておらず……」
ティアナがいない。ティアナの友人など知らない。そもそも、ティアナは仕事に通い、質素な生活をしていた。
そんな彼女が、どこに行くと言うのか……。
「まさか……ウォールヘイト伯爵邸に帰ったのか?」
思わず呟いた言葉が、どこか自分で納得してしまう。そのまま、緊張感に包まれたままのトラビスにかまうことなく、庭に降りた飛竜の元へと駆け乗った。
一晩中ティアナを探して、ウォールヘイト伯爵邸に着くころには、すでに朝になっていた。
古びれたウォールヘイト伯爵邸の庭園とは言い難い、田園のような庭に飛竜で降り立つと、邸を囲んでいる木の門のところに、中年男の村人が立っていた。
「……何の用だ?」
「お、お嬢様が帰ってきていると聞いて来たのだが……ど、どなただ?」
「ティアナが、帰ってきている……?」
やはりここにいた。やっと見つけた。どの部屋にいるかもわからないのに、ティアナに恋焦がれるように邸を見上げた。
「……ティアナに何の用だ?」
「怪しい奴には、言わねぇ……ウォールヘイト伯爵領の人間ではないだろう」
「それは、失礼した。俺は、ティアナの……夫のウォルト・セルシスフィート伯爵だ」
「あんたが……っ、」
「要件は俺からティアナに伝える」
「いい……セルシスフィート伯爵領は信用できない」
「その当主であり、領主である俺に言えば、要件が伝言送りになることはないぞ」
「どうせ、何もしない……だから、今も魔物討伐にセルシスフィート伯爵領は手も貸してくれない」
「魔物討伐?」
「そうだ。街に被害が出る前にセルシスフィート伯爵領との境にある森の中に魔物討伐のための人員を集めたいのに、セルシスフィート伯爵領は、自分たちには関係ないと、聞く耳も持たない。だから、お嬢様に相談して、別の街から魔物討伐に出る人を雇いたくて……」
その金がないから、ウォールヘイト伯爵家のティアナを頼ってきたのだと言う。
「ティアナは、いつも村人たちに金を融通していたのか?」
「そうだ。お嬢様は、よそで借りないようにと言って、困っている村人たちに金を貸してくれていた。だから、俺たち小作人は新しい農具も買えたし、村の病院を運営しているのも、お嬢様だ。魔物討伐にも、お嬢様がついてきてくれた。セルシスフィート伯爵家は、お嬢様と結婚しておきながら、何もしてくれなかったのに……」
よそで借りて、多額の利子を取られないようにと危惧してティアナは、自分が金をかしていたのだ。
セルシスフィート伯爵領よりも、田園に近いウォールヘイト伯爵領。確かに観光も商売もそう成り立たないだろう。
邸を見上げれば、質素と言い難いほどの古びた邸。今にも崩れそうな石壁すらある。
伯爵邸でありながら、修繕すらされてない。
……だが、ティアナは、多額の支度金は自分のために使うことなく、ウォールヘイト伯爵領の村人のために使っていたのだ。
「魔物討伐は、俺が行こう。だが、少し待ってほしい。ティアナにも、必ず伝える」
「信用はしてない……お嬢様に伝えて下されば、それでいいのです」
「わかった。昼前には、関係者を連れて来い。話を聞こう」
納得はしてない様子だが、伯爵という身分に逆らうこともできずに、不信感をあらわにしたままで、村人は何度もこちらを振り向きながら去っていった。
69
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
恋愛
王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています
※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる