犬猿の仲の政略結婚なのに、旦那様が別れてくれません。

屋月 トム伽

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一緒に帰りたい 1

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「お、お、お待たせしました……」
「お嬢様……」
「いいの、言いたいことはわかるわ」

何も持たずに帰って来たから、着るものがドレスしかなくて、下着で村人たちの前に出るわけには行かずに、昨夜のドレスで玄関前に出て来たのだ。
しかも、夜会用のドレス……その隣には、タキシードの上着だけ脱いでいるシャツ姿のウォルト様が冷酷な顔で立っている。
怖い顔のウォルト様を直視できずに、でも、気になる村人たちは必死でウォルト様を見ている。

「あの、こちらが、その、……お、お……」

目の前に集まった村人たちが、ごくりと息を飲み込んで、私の夫だと言う言葉を待っているのだろうけど……なぜだろうか。夫と言えない。

くっ、上から見下ろされるウォルト様の視線も痛い。

考えてみれば、ウォルト様を夫と紹介などしたことないし、人生でウォルト様を夫だと紹介する日がこようとは思ったこともなかった。
しかも、ウォルト様初めて通じ合った肌を重ねたのだ。

「……セルシスフィート伯爵様です」
「ティアナ。夫が抜けている」
「ウォルト様の名前がわかれば十分かと……」
「この状況で?」

わかっています。夜会用の姿に、先ほど窓からウォルト様は全裸で姿を現わしたのです。
窓があって、腰にそこらにあったシーツを巻いて立っていたから、大事なところは見られてないのは、わかるけど……何かしら、予想はつくだろう。

でも、これでいいのだろうか。

そんな言葉が、脳裏を掠った。

「あの、ごめんなさい。もう一度ご紹介します。……夫の、ウォルト・セルシスフィート伯爵様です……」

深呼吸して、胸をギュッと引き締めて言った。
今さら遅かっただろうかと、おそるおそるウォルト様を見れば、彼は口元を手で隠して横を向いていた。

「……お嬢様。大丈夫なのですか? その、セルシスフィート伯爵領には……」
「だ、大丈夫よ。ウォルト様は、大丈夫。優しいところもあるから……それよりも、どうして、みんなが集まっているの?」
「そちらの方が、昼前に来るようにと……」
「ウォルト様が?」
「俺では、信用を得るのは難しいからな」

セルシスフィート伯爵であるウォルト様を警戒している村人たちに、ウォルト様がもう一度来るようにと言った理由に納得してしまう。

私も、セルシスフィート伯爵領では、こんな風だった。
自分と同じようなことをウォルト様にも味わわせている。そう思うと、結婚してから何も変えられなかった自分が恥ずかしい。

「ティアナ。ウォールヘイト伯爵邸で、魔物が出ているらしい。だから、すぐに俺が行こう」
「ウォルト様が?」
「ウォールヘイトでは、人手を集めたり、傭兵でも雇おうとしていたようだが……今は、ここに俺がいるのだから行く。セルシスフィート伯爵領でも、そうしている」

セルシスフィート伯爵領でも、そうしている。ウォルト様がいない時は、セルシスフィート伯爵領にいる警備隊もいるらしいが、セルシスフィート伯爵領でも、魔物討伐にウォルト様が出ることはあったという。ほとんど王都にいるから、いつもではないというけど。

「ちょうどヒューズもいる。場所を教えてくれ。これでも、竜騎士団に所属している竜騎士だ。腕には自信はあるし、飛竜なら、すぐに着く」
「お嬢様、いいのですか? その……セルシスフィート伯爵です」
「大丈夫よ。すぐに場所を教えてください」

そう言って、場所と目印になりそうなものを、村人が緊張の面持ちで伝えていた。

「では、行ってくる」
「私も、行きますよ?」
「いい。ティアナは、ここで村人たちの話を聞いてやれ」

ウォールヘイト伯爵邸の庭でジッと釣りあがった縦長の瞳孔でウォルト様を見ている飛竜ヒューズにウォルト様が歩き出した。そのあとに、置いてかれまいと早足でついていく。

「ヒューズ。行くぞ。魔物討伐だ」

ウォルト様に、顎を撫でられて__キュルウルゥ。と甘えたような撫で声を出した飛竜のヒューズ。

「ティアナは、ここで必ず待っててくれ」
「私は、役立たずですか?」
「違う。どこにも行ってほしくないから……ティアナも、君の大事なものも俺が守りたい」

そう言われたら、もう何も言えない。
飛竜の前で立ち止まると、ウォルト様が腰を折り、私の頬に唇が触れた。
そして、何事もなかったかのように、ウォルト様は冷酷な顔のまま慌てずに飛竜に乗って行ってしまった。

「お嬢様。セルシスフィート伯爵は、本当に行ったのですか?」
「行ったわ。竜騎士だから、すぐに魔物討伐をして帰って来るわ」
「しかし、あのセルシスフィートですよ」
「……私は、ウォルト様を信じると決めたの。だから、どうかみんなもウォルト様を信じてください。お願いです」

頭を下げてお願いする私に、村人たちが顔を合わせて困ってしまう。

「お嬢様が、そう言うなら……」

それでも、私の顔を立てて村人たちが頷いてくれた。





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