犬猿の仲の政略結婚なのに、旦那様が別れてくれません。

屋月 トム伽

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一緒に帰りたい 3

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ウォールヘイト伯爵領の評判が悪い。

私が結婚してから、セルシスフィート伯爵領への通行料を下げてもらったはずだったのに、いつの間にか戻っているどころか上がっている。

そのせいで、また王都やほかの領地への通行に時間がかかり行商に行くお金がない。そして、外にそのせいで、収入も激減している。

通行料を上げられたのは、口利きしてくれたお義父様が他界されたからだろうか。
絶対にそれまでは、下げたままだったはず。

ウォルト様が、魔物討伐に行っている間にウォールヘイト伯爵領のみんなから聞き取りすれば、やはりセルシスフィート伯爵領への印象は悪いものだ。

「……やっぱり、離縁は必要なのかしら……」

今は、離縁に戸惑いがある。ウォルト様の気持ちを知ってしまったからだ。
そう言えば、ウォルト様はよくわからない方だったけど、一度もウォールヘイト伯爵家も蔑まなかった。

「離縁だと……」

いつまでも帰って来ないウォルト様を、ウォールヘイト伯爵邸の玄関前の庭で待っていると、突然低くて凄んだ声が聞こえた。むしろ、淀んだような声音だ。
振り向けば、タキシードのタイを緩めたままのウォルト様が、暗い面持ちで立っている。

「……あの、おかえりなさいませ。飛竜で帰って来られると思ったのですけど……」
「ヒューズは、森に置いてきた。魔物除けだ。それよりも、離縁とはなんだ? 思い直してくれたと思っていたが……」
「怖いので睨まないでください。離縁はしたいと思っているわけでは……」

でも、犬猿の仲ではいつか引き裂かれるような気もするのです。

怖い顔のウォルト様から、目を反らすと目の前に何かかが出され、

「にゃぁ」

と鳴いた。

「子猫?」
「森で拾った。魔物の側ではすぐに食べられるだろうし、ティアナが喜ぶかと……」
「私に? 可愛い……オッドアイなんて初めて見ましたけど……」

魔物の側に子猫がいるものなのだろうか。

「もしかして、この子猫を魔物が狙っていたのかも……」
「猫一匹を食べるためにか?」
「……時々幻獣界から、幻獣が迷い出るのですよ」
「知っている。飛竜もそうだ。遥か昔に幻獣界から来て、こちらで繫殖して今に至る、ということだったはずだ」
「そうです。でも、その反対もあるのです。幻獣界に迷って行ってしまって……」
「また、戻って来たと?」
「子猫だから、もしかしたら迷って幻獣界に行ったのは、親猫かもしれません。そして、この猫を幻獣界で産んで……」

子猫だけが、こちらに迷い出た。

「この子猫から、妙な気配はしたが……確かに、普通の猫なら魔物討伐をするほど魔物は集まらない……」

確かに、不思議だ。この眼は特に珍しい。
幻獣は魔物に狙われやすい。食べると力を得るという説もあるのだ。
そう思うと、子猫がまた鳴いた。

「……保護できてよかったです」
「嬉しいか?」
「はい。でも、お腹が空いていますよね……ミルクでも買いに行きましょうか」
「いい。先ほど酒場で飲ませた」
「え……」

どうして、酒場に? など考える間もなくウォルト様が懐から、何かを出してきた。

「これ……」
「ティアナに贈った指輪だ。いらないならまた売ってもいいが、そうでないなら売る必要はない」

胸に何かがこみ上げると目尻りが熱くなる。情けない。どんな気持ちで打ったかどうかなど関係ない。ウォルト様からの贈り物をあんなに簡単に売ってしまった。
抱いた子猫に力が入ると、また子猫が可愛らしく鳴いた。

「私、お金がなくて……」
「夜会から飛び出したみたいだからな。そうだと思った……気にしなくていい。それと、聞きたいこともあるんだ」

心配気にウォルト様が私の肩に手を置いて引き寄せようとすると、馬車が一台ウォールヘイト伯爵邸にやって来た。

「ああ、思ったよりも早かったな」
「ウォルト様が呼んだのですか?」
「そうだ。飛竜のヒューズは、森に置いて来たから、馬車で帰ろうかと思って……一緒に帰ってくれるか」
「はい……でも、指輪を売ったりしてすみませんでした」
「気にしなくていいと言った。それに、ティアナを嫌いになれなかった……」

私を傍らに抱いたままで、ウォルト様が「ここだ」と手を上げて馬車の御者に合図する。見覚えのある馬車を見れば、私が王都から乗って来た馬車だった。

「お帰りになってなかったのですね」
「休憩して、帰ろうと思っていたんですよ。そしたら、こちらの旦那様が酒場に来られて……」

指輪を返して欲しいと頼み込んだらしい。それもかなりの額を提示してきたようで、御者はお金さえくれればと言うことで、返してくれたのだと言う。
そして、この迫力のある冷たい顔のウォルト様に逆らえなかったらしい。

「では、すぐにセルシスフィート伯爵邸まで頼む。金はそこで渡す」
「はい、すぐに出発します」

御者が馬車の扉を開けてくれれば、ウォルト様が手を差し出してくれる。

「おいで、ティアナ」
「はい……」

子猫を抱いたままで、ウォルト様の手を取り馬車に乗れば、そのままセルシスフィート伯爵邸へむかって出発した。






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