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旦那様はお怒りです 7
しおりを挟む「本当に何をやっているんだ……急いで早馬を飛ばして帰ってくれば、秘密の夜会に出かけたと言うし……ブランシュは、鳴いているし……」
「ブランシュが……? 急いで帰らないと……」
「そんな状態では、帰られんだろう」
「きゃっ」
不機嫌な様子でウォルト様にベッドに投げだされた。
先ほどの部屋とは違う部屋だった。私を抱き上げたままで、ウォルト様に連れてこられたのだ。薄暗いランプの灯りしかない部屋は、ここでもお楽しみ用の部屋なのだろう。
天蓋のある大きなベッドで横たわる私の身体をウォルト様が、眉根をつり上げて見ている。
そして、ジッと凝視されたかと思えば、ウォルト様がシャツを緩めていた。
「媚薬まで飲んで……何をやっているんだ……!」
恐ろしい形相でウォルト様が私の頭の左右に両手をついて見下ろしてくる。
「知らなかったのです……」
火照った手でウォルト様の伸びた腕を掴めば、彼の目がまた鋭くなる。
「媚薬の意味を知っているのか?」
「先ほどの偽物に聞きました。だから、ウォルト様のところに帰りたくて……」
「どういう意味だ? 利用されるのは好きではないんだ」
そうじゃない。身体が火照りを直して欲しいからじゃない。利用するつもりなど微塵もなくて、ただ、火照った身体が欲しいと願ったのはウォルト様だけだったのだ。
それなのに、身体が疼く。でも、意識もある。ただ、それが鮮明でも、理性的でもないだけで。
目尻から涙がでる。始めて飲んだ媚薬のせいだ。
そうじゃないと、きっとこんな風にならない。そう思いたい。
でも、胸が高ぶっている。
「私、ウォルト様が好きで……あなたがいいの」
その言葉がウォルト様の胸に刺さる。でも、今の私には、それすらわからない。
ただ、ウォルト様に抱き締められるままに、身体をウォルト様に預けた。
「もう一回言って」
「ウォルト様が好き……他の人は嫌なの。だから、帰りたくて……」
ウォルト様の背中に手を回して言う。耳元が近い。そのウォルト様の耳に口づけするように囁いた。
「いろいろ言いたいことはあるが……」
頭が離れると、冷たい表情のウォルト様が私の唇を愛おしそうに撫でた。
それだけでどきりと動悸がしてくる。
密着した身体でウォルト様にキスをされる。それが、酷く甘かった。
♢
翌朝。秘密の夜会の帰りは、ウォルト様と一緒に馬車に揺られていた。
アリス様を捕まえようとして、見事なまでに空振りに終わった。
そして、ウォルト様に捕まえられているように膝の上に乗せられて馬車はセルシスフィート伯爵邸へと向かっている。おそるおそる見上げれば、冷たい、冷酷そのもののウォルト様が睨んでくる。
「あの……いろいろすみません」
「まったくだ。だが、まぁ、ティアナの本心が聞けたから許そう」
「それは、どうも……」
媚薬のせいで、いつになく素直だった。そのせいで、ウォルト様に何度も好きだと言ってしまった。
ウォルト様は、まったく顔には現れていないが、満足そうだった。
「セイルは、大丈夫かしら?」
「あの女に、伝言を事づけたから大丈夫だろう。それに、あの媚薬は女のほうが良く効くらしい」
私を別の部屋に連れていく前に私が雑に縛った縄を解いてあげたらしい。重ね重ね申し訳ない。
そのうえ、あれからウォルト様に抱かれていつの間にか眠っていた。目が覚めた朝には、いつもと変わらない体調で、媚薬が身体に残っている感覚はなかった。
ただ、羞恥心が湧き出ていただけで……。
それにしても……。
「よくあそこがわかりましたね」
「急いで帰れば、ルドルフがセイルという男とティアナが秘密の夜会に行ったと聞いた。夜会のことは、まぁ、調べればわかる」
「もしかして、お使いになったことが?」
「使ったことはない。だが、誘われたことはあると言うだけだ」
不機嫌なウォルト様。利用しようと思われたのかと思えば、胸がチクンとする。
「あの……ウォルト様。私、ウォルト様を利用しようとは思ってないですから……確かに、身体がおかしくて、そういうことをして欲しいと思いましたけど……誰でも、よかったわけではなくてですね。ウォルト様じゃないとダメで……」
「昨夜もそう言っていた……媚薬のせいではなくて安心した」
そう言って、ウォルト様が膝の上に乗っている私を抱きしめる。
「好きだよ。ティアナ」
「私もです」
いつの間にか好きになっている。なんだかんだと言って、優しさを見せてくれるウォルト様にちゃんと惹かれていた。契約結婚のはずだったのに、この冷たい旦那様が好きなのだ。
「ティアナ……アリスが邪魔なら、別の邸に移そうか?」
「私、自分で解決したかったのです……トラビスのことも……そうじゃないと、セルシスフィート伯爵夫人になれない気がして……」
「ティアナは、俺の妻だからセルシスフィート伯爵夫人だろう」
「……ウォルト様が帰還する前までは、きっと違っていました。でも、ウォルト様が好きだと言ってくれたから……だから、私はセルシスフィート伯爵夫人になろうと決めたのです……」
そのためには、私と敵対する使用人もアリス様も一緒に暮らすなら、なんとかしないといけないと思っていた。
「ブランシュの食事も気になりますし……あの二人が、何をするかわからないので、排除しようと思って……」
「食事? そんなものは使用人に言えばいいだろう」
「それが、スムーズにいかないから困っているのです。でも、自分で解決します。そのために、アリス様を捕まえて、私がふしだらという噂も納めて、快適な生活を手に入れようとしたんです」
それが、アリス様ではなかった。まったくの華麗な空振りどころか、大変な目に合いました。
「そのために、秘密の夜会にまで行ったのか? 男を連れてまで……」
最後の男を連れてまで……には、声音が強調されている。意外と嫉妬心が見え隠れしているウォルト様に、怖い顔はやめて欲しいと思う。
「ウォルト様も、妻がふしだらな女と言われるのは嫌ですよね。それに、ウォルト様にそう思われたくなくて……アリス様を捕まえようとした理由は一つじゃないんです。でも、セイルは怒らないでくださいね。セイルも貴族だから、秘密の夜会を知っていると思ったのです。私は、何も知らなくて……セイルは、一人で行ったら危ないと考えて一緒に来てくれただけですから……」
でも、セイルと一緒に行ったせいで恋人、もしくは秘密の夜会で意気投合した男女だと思われて、知らずにボーイが配っていた媚薬入りのお酒を飲んでしまったのだ。
「危険から守るために行ってくれたにしても、全然役に立ってないじゃないか……しっかりと媚薬入りを二人で飲んで」
「そんな身も蓋もないことを……セイルは友人ですよ」
呆れたウォルト様が眉間に指を立てて言う。そんな彼の胸にそっと顔を寄せれば、窓の外は、セルシスフィート伯爵邸が見え始めていた。
セルシスフィート伯爵邸に到着すると、ウォルト様が手を引いて馬車から降ろしてくれたが……セルシスフィート伯爵邸の庭には、辺り一面に飛竜がいる。
予想もしない光景だった。その物々しい雰囲気に呆気にとられていた。
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