39 / 47
冷たい旦那様はどこへ 1
しおりを挟む邸に帰るなり、着替えを済ませて、セルシスフィート伯爵邸の書斎の机に領地の書類を広げていた。
ウォルト様とお互いの領地について話し合うためだ。
高額な通行料に、お互いの領地でも不当な値段で売られている品の数々。セルシスフィート伯爵領と違い、裕福ではないウォールヘイト伯爵領には、打撃を受けるものだったのだ。
「一番は通行料です。王都や他の領地への輸送にセルシスフィート伯爵領を通れば、時間を短縮できるものが高額な通行料のせいで通過できず、長旅になってしまうために、王都にすら農作物が下ろせません。出稼ぎすらできない領民もいるのです。でも、ウォールヘイト伯爵領にも問題はあります。腹いせのようにセルシスフィート伯爵領から来る通行料を上げてしまっているのです。ただ、セルシスフィート伯爵領から、ウォールヘイト伯爵領に来るメリットも理由もないために、まったくセルシスフィート伯爵領には打撃を与えることはできませんでしたが……こればっかりは、私が言ってもなかなか聞き入れません」
セルシスフィート伯爵領と同じようにしているのだと言って、自分たちだけ下げられないと頑ななのだ。
だから、何とかセルシスフィート伯爵領の通行料を下げてもらった。そうすれば、ウォールヘイト伯爵領も下げてくれるからだ。
それなのに、お義父様の口利きで結婚してから一時は下げていたのに、いつの間にか戻っている。これでは、お互いの信用を得るのは難しいのだ。
「通行料は、何とかしよう。それと、確か……ウォールヘイト伯爵領は農作物が盛んだったな……」
「他に目ぼしいものは、ありません。でも、それも魔物の被害で多くはないのです」
魔物討伐に男手を取られてしまうことも多々ある。
それが、今回の竜騎士団が守りについてくれたら、少しでも改善されるはず。
「どこかに売れるところがあればいいのですけど……没落寸前のウォールヘイト伯爵領と、手を組もうとする領地もなくて……」
「それなら、気にしなくていい。セルシスフィート伯爵領で、売る許可を出そう。問題は、許可を出すだけで、問題も起こさずに売り手と買い手が両立するか、だ。何かイベントでもした方がいいのかもしれん」
イベント……確かに、売る許可が出たからと言って、セルシスフィート伯爵領が素直に買ってくれるわけがない。
「セルシスフィート伯爵家で一度すべて買い取って、セルシスフィート伯爵領に配るか……」
「そんなことをすれば、足元を見られませんかね……」
セルシスフィート伯爵領の人間が買う、と言うことが必要な気がするのです。
悩む私とウォルト様。そこに、ブランシュが鳴きながらやって来た。
トコトコと歩いてくるブランシュを抱き上げれば、今日もモフモフで心地よい。
「あら、お食事は終わったの? ブランシュ」
「みゃ」
「可愛いです……」
「ルドルフは、引っかかれていたぞ」
「おかしいですね……ウォルト様には、懐いているのに……」
「俺に懐いているのを、不思議そうに見るな」
首を傾げると、私の手からウォルト様の膝に飛び乗ったブランシュ。
なぜ、にこりともしないウォルト様に懐いて、同じようににこりともしないルドルフには懐かないのか……やはり、ウォルト様が拾ったからだろうか。
「それにしても、昨夜の私の偽物は、いったい何だったのでしょうか? お名前を確認できずにいました」
すべては媚薬のせいです。そのせいで、朝まで秘密の夜会の部屋でウォルト様と夫婦として寝ていたのだ。
「偽物? 何の話だ?」
「セルシスフィート伯爵夫人と名乗っていました。彼女が私を、ティアナ・セルシスフィートを演じていたんです。なぜ、そうしたかをお聞きしなければ……」
「あの女が……噂はそのせいか。適当に流したウソの噂ではなく。だから、アルフェス殿下も、部下が見たなどと言っていたのか……」
眉間にシワを寄せるウォルト様に、同意するように頷いた。
「しかし、どこの誰かは聞いているが、一人で行くようなところではないぞ」
「ご存知なのですか?」
「縄をほどいた時に聞いた。あとで使いをやるつもりだったが……何をしていたのか、まったくわからんから、ほっとこうかと思っていたのだがな」
「それなら、私が行きます」
「……何をしに?」
「セルシスフィート伯爵夫人と名乗っていたんですよ。彼女に私の偽物を止めてもらうようにお話しなければなりません」
真っ直ぐにウォルト様に言うと、ぎらりと睨まれる。
「ティアナ……変なことをするなと言ったはずだぞ」
ガタンと椅子から立ち上がったウォルト様が、じりじりと近づいてくる。それに合わせて、じりじりと下がってしまう。
でも、あの偽物を放置はできない。
「で、でも、放置はできません。また、どこかで噂を作られるわけには……」
「……わかった。俺と一緒なら連れて行ってやる。俺と一緒ならだぞ」
「は、はい。ありがとうございます! 必ず、偽物はやめてもらいますので」
「そうさせる。ほっといたら何をするかわからないし……」
ウォルト様が、私に向かってそう言うが、何をするかわからないのは、私ではありませんよ、と言いたい気持ちを抑えて、セルシスフィート伯爵夫人と名乗った偽物のいるであろう場所へと向かった。
73
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
さようなら、お別れしましょう
椿蛍
恋愛
「紹介しよう。新しい妻だ」――夫が『新しい妻』を連れてきた。
妻に新しいも古いもありますか?
愛人を通り越して、突然、夫が連れてきたのは『妻』!?
私に興味のない夫は、邪魔な私を遠ざけた。
――つまり、別居。
夫と父に命を握られた【契約】で縛られた政略結婚。
――あなたにお礼を言いますわ。
【契約】を無効にする方法を探し出し、夫と父から自由になってみせる!
※他サイトにも掲載しております。
※表紙はお借りしたものです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
【完結】旦那に愛人がいると知ってから
よどら文鳥
恋愛
私(ジュリアーナ)は旦那のことをヒーローだと思っている。だからこそどんなに性格が変わってしまっても、いつの日か優しかった旦那に戻ることを願って今もなお愛している。
だが、私の気持ちなどお構いなく、旦那からの容赦ない暴言は絶えない。当然だが、私のことを愛してはくれていないのだろう。
それでも好きでいられる思い出があったから耐えてきた。
だが、偶然にも旦那が他の女と腕を組んでいる姿を目撃してしまった。
「……あの女、誰……!?」
この事件がきっかけで、私の大事にしていた思い出までもが崩れていく。
だが、今までの苦しい日々から解放される試練でもあった。
※前半が暗すぎるので、明るくなってくるところまで一気に更新しました。
余命わずかな私は、好きな人に愛を伝えて素っ気なくあしらわれる日々を楽しんでいる
ラム猫
恋愛
王城の図書室で働くルーナは、見た目には全く分からない特殊な病により、余命わずかであった。悲観はせず、彼女はかねてより憧れていた冷徹な第一騎士団長アシェンに毎日愛を告白し、彼の困惑した反応を見ることを最後の人生の楽しみとする。アシェンは一貫してそっけない態度を取り続けるが、ルーナのひたむきな告白は、彼の無関心だった心に少しずつ波紋を広げていった。
※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも同じ作品を投稿しています
※全十七話で完結の予定でしたが、勝手ながら二話ほど追加させていただきます。公開は同時に行うので、完結予定日は変わりません。本編は十五話まで、その後は番外編になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる