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冷たい旦那様はどこへ 7
しおりを挟む「どうしたの? ブランシュ……それに、何だか寒いですね……」
「嫌な予感がする……」
上階へ上がり、ロザムンド様を探していた。あとでアリス様に話があると言っていたから、どこにも姿の見えないロザムンド様を探して、アリス様の部屋もお尋ねしようと思っていたら……アリス様の部屋に近付くにつれて冷気が漂っていた。
廊下の温度が明らかに下がりすぎている。寒くて鳥肌が立つと、ブランシュはいっそう寒そうだった。
そして、廊下をウォルト様が進めばアリス様の部屋の前でロザムンド様の侍女が先ほどと違いコートに身を包み立っている。
いったい、いつの間に防寒対策を!?
侍女の足元には、アリス様が引き連れていたメイドたちが失神して転がっていた。
「な、何事……っ!!」
「だから、嫌な予感がしたんだ……」
呆れるウォルト様。彼はこの冷気の理由がわかっているようにため息を吐いた。
私は意味がわからずに、啞然としている。
「ウォルト様。ティアナ様。今は寒いので、お入りにならないほうがよろしいかと存じます」
ロザムンド様の侍女が、控えめにそれでいてはっきりと言う。
「アリス様は部屋で何を!?」
「この魔法はアリスではない……母上は、いったい何しに帰って来たんだ?」
「私には、存じかねます」
困惑した私を横目に、部屋からはアリスの叫び声が聞こえる。
ウォルト様を見上げれば、彼の呆れた表情が消えていた。
「いくらおば様でも、許せないわ!! 返してよ!! あれは、お義父様が私に残してくれたものよ!!」
「何を言っているのかしら。そんな遺言はどこにもなくてよ。それに、アレは、あなたの我儘で夫に書かせたもの。なぜ、私が素直に返す必要があるのかしら?」
「今まで姿まで隠していて……どれだけ探したと思うの!! 許せない!!」
争っている二人のやり取りを聞きながら、部屋に入ろうと扉を開けると、突然火の弾が飛んできた。
「ティアナ!!」
「キャア!」
私が避けるよりも早く、ウォルト様が私を庇ってくれた。火の弾は私とウォルト様を掠って廊下の壁へと命中した。
「ウォルト!?」
「アリス! 何をやっているんだ! ティアナが怪我をするところだったぞ! 母上もいったい何をしているのです!」
アリス様の部屋にやって来た私たちを見て、アリス様が驚く。廊下に控えていた侍女は華麗に避けていた。
ロザムンド様は扇子を広げて、私を庇ってくれたウォルト様を見下ろしている。
「ちょっとお話をしていただけよ」
「何の話ですか。ここで何をしているのです。そもそも、母上は何のために帰って来たのです」
「そうねぇ、ちょっと嫌がらせをしようかと……」
「何のですか……とにかく、魔法は引っ込めてください」
「アリスが火の魔法を使うから、私は得意な氷の魔法で対応しただけよ」
頭をかきながら、ウォルト様が私の手を引いて起こしてくれる。ブランシュは、いつの間にかウォルト様から飛び降りて部屋の隅で震えている。
「ウォルト! 聞いたでしょ!? おば様は、私たちを引き裂く気よ!?」
「もともと、繋がってない。引き裂くものはない」
アリス様の訴えに、ウォルト様が淡々と告げる。
「そういうことよ。だから、これはもういらないわねぇ」
そう言って、ロザムンド様が扇子の陰から出してきたのは二枚の紙。
「まさか……離縁状」
ウォルト様が、呟くように言う。
「知っていたの? ウォルトは、知らないと思っていたのだけど」
「気づかないほど、愚かではない」
でも、まさかロザムンド様が持っているなんて予想外だった。
「返してよ! それは、お義父様が私に用意してくださったものよ!!」
「嫌よ。離縁状も、婚姻状もあなたには、必要ないでしょう」
「返してくれないと、許さないわ!」
そうして、アリス様が手に力を込める。魔力を集中させてまた魔法を放つ気なのだ。
「アリス様……っダメ!!」
「うるさいですわ!!」
アリス様が怒ると、部屋の隅で怯えていたブランシュが飛び出してくる。
「ブランシュ!?」
そして、カッと口を開けば、口から魔法の閃光が放たれた……が、弱い。
しゅぽんと残り火のようになった閃光に、ブランシュが涙目になる。
普通の猫ではないかもしれないと思ったが……。
「にゃ、にゃあぁん……」
「だ、大丈夫よ。ブランシュ。あなたは可愛いから大丈夫」
勇気を出して出てきたのに、しくしくと泣くブランシュを抱き上げて慰める。
「ティアナ。ブランシュは下げろ」
ウォルト様が、抑揚のない呆れた声音で言う。
「は、はい。そうします。ロザムンド様の侍女さん!」
「はい」
「ブランシュを、この子猫をお願いします!!」
「かしこまりました」
誰もが呆然とする空気の中で、ブランシュをそっと廊下から顔を出したロザムンド様の侍女に泣いているブランシュを渡した。
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