子供が可愛いすぎて伯爵様の溺愛に気づきません!

屋月 トム伽

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証明

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氷漬けにされたジェレミー様を放って、私を心配するリクハルド様にシリル様の出産証明書が入っている箱を渡した。

「これにシリルの出産証明書が?」
「はい。ジェレミー様が大事に隠していたみたいです。でも、自分では開けられなかったようで、私に開けさせるために拉致したのだと」
「ルミエルが言っていたな。ジェレミーがキーラを欲しがっているのは、魔力だと……」
「そうみたいですね。私が妾になれば、秘密はバレないと思ったみたいですよ? フンですわね。誰があんな奴の妾になるものですか。盛大に秘密はバラしてやりますわ」

自意識過剰なジェレミー様は、私が未練でもあると思ったのだろうか。私を襲わせたのも、慰謝料バックれだけではなく私が次の婚約を申し込まれないようにしたのかもしれない。

でも、リクハルド様が私と婚約してくれた。そのおかげで、ジェレミー様はすぐに私に手が出せなかったのだ。

「私にはリクハルド様がいるのに、お馬鹿な奴ですわね。誰がリクハルド様以外と結婚するものですか」
「……本当に?」
「だって……私を助けてくれましたわ。ここまで来てくれて……婚約もしてくれました」

そっとリクハルド様を見上げれば、寡黙な彼の顔が近づいてくる。口付けをされる。そのまま、リクハルド様がしばらく私を抱擁していた。



ジェレミー様は氷漬けにされたままで、クリストフ様が率いる魔法師団の部隊が王都へと護送していった。

リクハルド様に抱きかかえられたままでヘイスティング侯爵家の別邸を出れば、邸の外まで氷が広がっていた。そして、シリル様がリュズと待っていた。

その後、私たちはシリル様と連れてウィルオール殿下の別邸へと戻って来ていた。

「これにシリルの出産証明書が?」
「間違いないかと。キーラにずっと開けるようにジェレミーが迫っていたそうで」
「エヴァンスは、魔法で誰にも渡らないようにしていたのか……」
「そのおかげで、ジェレミーも捨てられなかったのですよ」

出産証明書の入った箱を囲んでウィルオール殿下とリクハルド様が話していた。

「それにしても、キーラ嬢も無事で良かった」
「ご心配をおかけしました」
「ふふ、元気ならいい。それに君には感謝している」
「感謝、ですか?」
「ああ、キーラ嬢のラッキージンクスのおかげで俺は真実の愛の相手に出会えた」
「いったいいつ!?」

思わず、素で驚いた。

「秘密の夜会でだ。キーラ嬢が婚約を了承した後に、運命の女性に出会えたのだ。素晴らしい出会いだ」
「そ、それは、ようございました」

あんなたった少しの期間で出会うなんて、私のラッキージンクスはどこまで本当なのだろう。それに、ウィルオール殿下が私に婚約を申し込んできたことを知ったせいで、隣にいるリクハルド様の威圧感も怖い。

「リクハルド様。寒いです」
「では、温めてやろう」
「うっ……」

リクハルド様が私の肩の手を回して抱き寄せてくる。人前でリクハルド様に抱擁されると恥ずかしい。

「リクハルド様。俺だってシルヴィアを我慢しているのにズルいぞ」
「俺のせいではないでしょう」

リクハルド様の様子にウィルオール殿下が呆れる。

「そのシルヴィア様はどちらに?」
「レーネのところだ」
「レーネ?」
「ジェレミー・ヘイスティングの婚約者だった令嬢だ。彼女は、健気でね。今はレーネの看病をしている」

思い出した。夜会でジェレミー様と一緒にいた令嬢だ。妾の話をするジェレミー様に怒っていた気がする。

「リクハルド様。結果から言おう。ヘイスティング侯爵はすでに他界していた」

驚いた。シリル様を認めなかったヘイスティング侯爵がすでに死んでいたのだ。リクハルド様は予想していたのか、驚きもしない。

「やはり……」
「知っていたのですか?」
「確信はなかった。だが、あまりに表舞台に出なさ過ぎたのだ」

リクハルド様が言う。

「レーネは、結婚前から妾を取ろうとするジェレミーを止めてもらおうとヘイスティング侯爵を探していたらしい。そこで、定期的にジェレミーが訪れる邸を偶然にも見つけた。そして、すでに死んでいるヘイスティング侯爵を発見してしまい、ジェレミーに監禁されたのだ。結婚まで外に出さないつもりだったらしい」

ジェレミーのことをシルヴィアに相談していたレーネ。レーネの家は、ジェレミーのところにいると思って探しもしなかった。
だけど、シルヴィアだけは違った。彼女は、レーネから、ジェレミーの行動の不信感を聞いていたのだ。そのレーネと連絡も居場所もわからなくなり、シルヴィアはウィルオール殿下に助けを求めてきたところで出会ったのだという。

「もしかしたら、死の間際にはヘイスティング侯爵もシリルを引き取ろうとしたのかもしれないな」

そうかもしれない。ジェレミー様が父親の死を隠す必要があるのは、自分がヘイスティング侯爵家を継ぐことだけ。もし、死に間際にヘイスティング侯爵がシリル様を引き取れば、ジェレミー様は跡を継げない。
それどころか、どこかにヘイスティング侯爵の遺言でシリル様のことが書いてあれば、ヘイスティング侯爵家の爵位はシリル様のものだ。
出産証明書さえなければ、ヘイスティング侯爵の遺言書が見つかっても正式な子供とは認められない。彼は本当に後がなかったのだ。

シリル様を見れば、きょとんとした表情で私たちの話を聞いていた。

「では、開けようか。リクハルド。やってくれ」

ウィルオール殿下が言うと、リクハルド様が私の肩から手を離して、箱に手を掲げた。

リクハルド様の氷の魔法のような水色に近い青い光が箱を包む。そのまま、箱が宙に浮かんだ、そして、光が箱から弾けた。ゴトンと箱がテーブルの上に落ちて衝撃で箱が開いた。

中には一枚の紙があった。シリル様の出産証明書だ。

「……間違いない。シリルの出産証明書だ」

怪訝な表情でリクハルド様が出産証明書を手に取った。出産証明書には、シリル様の両親の名前が記載されている。

出産証明書を見たウィルオール殿下が言う。

「エヴァンスとセアラの名前だ。これで、証明された。シリルは正式なヘイスティング侯爵家の跡継ぎだ」





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