光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ

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 本格的に暑さが到来した季節なのに、店は連日満員の状態が続いている。時々、同業者と思われる男が様子を窺っているが、予約は簡単に取れる状況にないので、本当にただ見て帰っていると、ダーフィットは苦笑していた。

 同じことを、したいならすればいい。そんなスタンスで、ダーフィットはいる。元々、自分のアイディアではないのだから、独占する気はないと言った。

 慌ただしくも、充実した日々を蓮は送っている。仕事にも店にも馴染んで、ペースがつかめてきていた。

 少しいびつになった焼き菓子は、だいたい蓮の口に放り込まれる。リュークの手によって。
 それを見たヨリックが、餌付けしているみたいだなと笑い、露天で買ったというキャンディを、手のひらに落としてくれる。

「おまえらなぁ」

 呆れた顔をするレオンも、休憩時間になると色々な飲み物を淹れ、時々新作だという飲み物さえ出してくれるので、ずるい、と他の三人がぶうぶうと文句を言った。

 四人を目当てに、通う客がいるのも頷ける。そんなちょっと特別感のある人たちに、よくしてもらいすぎて蓮の方が戸惑う。この世界へきた経緯、残してきたものたちを話してから、ダーフィットを筆頭に、みんなが甘い。

(なんか、過保護がふえた)

 どうにも、蓮が二十歳を超えているのを、忘れているとしか思えない。態度が、エミリーや小さな子どもにするようなそれだ。

 それにディルクまでもが対抗するように加わるので、蓮はもう気にしないようにはしている。宣言通り、仕事を終えた後で毎日迎えに来る姿に、さすがに四人全員が呆れ顔だ。

 結局、実家から馬を連れてくる案は、世話を考えると無理だという結論に至り、ボツになっている。
 夜の散歩を楽しむ感覚で帰るからいいよ、と迎え自体を遠慮した蓮に、それならばとディルクが頷き、納得したのかと思えば、店までディルク一人来るだけなら、魔法を駆使すればそう時間もかからず問題ないと言われて、話が終わった。

 ――転移魔法の習得も、視野に入れている。

 それはなぜ? とは訊けなかった。ありえない動機を、さも当然と語りそうで。

 迎えに来るのを待って、帰宅してから食事の準備をすると遅くなるので、ダーフィットの申し出通り、食べてから帰ることにしている。自立して家を出たディルクと、一緒に食事する機会が増えたと、ダーフィットはひそかに喜んでいた。

 誰が食事の用意をするのかはその時々で、蓮の割合が多い。時々他の三人も同席して食べる夕食の席は賑やかで、楽しかった。

「俺ら、呑みにいくから夕飯いいよ」

 明日は定休日なので、今夜は呑みに行くという三人の分を除き、蓮は食事の用意をする。暑い季節には定番の、冷やし中華、風にした。

 中華麺がないので、パスタで代用している。正しくは、冷製パスタだ。

 具は上に全部のせるのではなく、多めにした野菜は麺と一緒に先にタレにからめて、器に盛ってから、目に鮮やかな彩りを足していく。黄色いたまご、赤いトマト、ディルクには食べ応えも必要かなと照り焼きチキンものせた。

 酸味をきかせたタレは、好みがわかれるかもしれないと、作ってから気付いたのだけれど。
 先に謝れば、さっぱりしていていくらでも食べられると、二人には好評だった。

「家事能力底辺のディルクには、レンがいて助かるんだろうけど、レンの無駄遣い感がすごいな」
「はい?」
 なんだそれは、と食べる手が止まる。助かっているのは、蓮の方だ。

「やらないからな」

 険のある声が、ダーフィットへ向けられる。ディルクの眉間に、ぎゅうっとシワが寄っていた。

「取らないよ。お兄ちゃんは、弟も大好きなんですぅ」
「えっと?」

 兄弟だけが通じる物があるのか、時々蓮が首を傾げる会話が交わされる。最近ではもう、そういうこともあるかと、あまり気にしていない。

 山盛りにしていたパスタも残りわずかになった頃、そういえば、とディルクが切り出す。

「魔獣討伐で、来月あたり少し留守にするかもしれない」
「あー、そういえば、魔獣が出ている話、聞いたな」

 店での日頃の会話から、情報収集をしているダーフィットも、知っている話だった。蓮だけが首を傾げる。

「魔獣討伐?」

 魔獣といえば、時々精肉店に並んでいる、肉の塊のイメージしかない。
 討伐と狩りは同義でいいのだろうかと、蓮は色々想像していく。騎士団が狩り? にたどり着いて、何かが間違っている気がした。

「今日、その話が出たんだ」
「えっと?」

 戸惑う蓮をどう受け取ったのか、魔獣は王都に入れないから心配しないでいいと、ディルクが補足する。余計にわからなくなった蓮は、はい、と手を上げた。

「説明を求めます」
「ああ、知らないのか」

 魔獣とは瘴気の発生により産まれる魔物で、通常は森の奥、迷宮などに生息している。それでも時々は、街道に現れることもあるが、冒険者たちが対処してくれるので大きな問題にはならない。

 今回、通常より数が増えてきているとの報告があり、騎士団が調査したところ、森の奥で大量に発生していることがわかって、討伐部隊が組まれることとなった。

 王都をぐるりと囲む壁が魔獣を阻むので、王都内で魔獣が発生することはない。この国は国境沿いにある各地に結界を構築する道具があり、魔獣の素となる魔素を浄化する聖樹があるので、基本的には強い魔獣は市街地にはあらわれないが、効果が弱まるとその限りではなかった。

 その弱まる周期が、そろそろらしい。現時点で、結界を強化できる聖女はこの国に存在していない。そうなれば、物理的に魔獣の数を減らし、被害を食い止めるのが騎士団の仕事だった。

「ディルクも、討伐に行くんだ」
「まあ、第三はそれが主な仕事だからな」

 平然としているディルクに、蓮の方が動揺する。動いている魔獣を見たことがないので、うまく想像できない。それでも、討伐の対象になっているのだから、危険が伴うのは確かだ。

 だからと言って、蓮が何かを言うべきではない。

「気をつけろよ」
「ああ。討伐は慣れている。レン?」

 心配そうに、顔をのぞき込まれる。瞳に映る顔に、蓮ははっとした。

「あー、悪い。俺の世界では身近じゃない話だから、ちょっと動揺した」
「本当に、大丈夫だ。せいぜい、軽いケガ、ってぇ!」

 ばしり、とダーフィットがディルクの頭をたたく。余計なことは言うなと、目が言っていた。

「レンは、ディルクが留守の間はウチにいたらいいよ」
「いや迷惑だろ」
「まったく。通勤時間ゼロになるしさ」
「……そうしてくれ」

 やっぱりおもしろくなさそうに、むすりとしたディルクがそう言った。

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