勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【74.5話】 その張り紙 ※少し前の話し※

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ルーダ・コートの冒険者酒場にジョブボード、リクエストボードがある。
何の変哲もないボードだ。
どこの冒険者酒場、ギルド酒場にでもあるあれだ。
カウンター嬢が依頼を受けては紙が張り出され、仕事がコンプリートしてはファイルにしまわれる。
もちろんカウンターで直接適当な仕事を探してもらっても構わない。
仕事の紙は張り出されたら直ぐに冒険者が仕事を引き受ける場合もあれば、難易度と金額が不釣り合いだったり、依頼主が面倒で有名な人間だと長い事ボードに張り出されっぱなしの時もある。人気の高い仕事は、冒険者達が依頼の張り出されるのを待ち構えている場合もある。
長い事張り出されている紙は、引受人が現れないとたいていは金額が見直されて、張り出され直すか、いつの間にか取り下げられている物が一般的。
長くても三か月程度、誰も引き受けないと金額を見直す依頼主が多い。何回か繰り返すと、そのうち何とか仕事してくれる人間が出てくるものだ。
まぁ、とにかく、ジョブボードの張り紙のほんどは、人間ドラマを伴いながら、適当な期間で入れ替わっていくのが一般なのだ。

そう、この一枚を除いては…

ルーダ・コートの冒険者酒場にジョブボード、リクエストボードがある。
そのボードの片隅にひっそりと放置状態の張り紙がある。
入れ替わりの激しい業界なので、その張り紙がいつ頃から張り出されて、どういう経緯で現在まで放置されるに至ったか誰も事情を知る者はいない。
新人冒険者は自分が手を付けられる仕事を選ぶのに必死。ベテランは一度この張り紙に興味を持った時期があっても、その内見向きもしなくなる。
「この紙まだ貼ってあるな」
「あぁ、これか、文字も擦れて読めないな」
「俺が気がついた時からあるけど、いつから貼ってあるのか誰も知らないよな」
「良い報酬だけど、誰も引き受けないし」
たまにボードを前にこんな会話がされるが、それ以上には発展せず、解散していく。

その張り紙に興味を持つのは、駆け出し時期を脱出し、ジョブボードを大局的視野で眺められる余裕ができ始めた者だ。

そのボードの前に一人の女冒険者が立った。
背が高く、ポニーテール姿、弓を背負っている、リリアだ。
そのリリアの後ろ姿に男性冒険者が声をかける。
「よ、元気かリリア。仕事探しか?」男がリリアに挨拶する。
「こんにちは、デール。ここの情報も仕入れとかないとね… この端にあるリクエストずっと貼ってあるわね、何なのこれ?」
「… それか?俺も詳しい事はわからん。受付に聞いた者もいるらしいが、受付も入れ替わるからな…」
「色褪せて、宝の地図みたいになっているし、依頼主も擦れて読めなくなってるよ」リリアが紙をのぞき込む。
「確か、地主からの退治依頼だったはずだが、土地も転売を繰り返したらしく、今じゃその依頼主も他所に移ったらしいぞ」
「そんな状態なら取り下げたらいいのね」リリアが呟くように言う。
「実際、他の酒場では当の前から見なくなっているな。話によると元の地主との契約が生きているとか、国が責任を引き継いだとかでちゃんと報酬は出る正規の仕事みたいだぜ」男も張り紙を覗き込んでいる。
「一、十、百… すごいよね、5年間くらいは遊んで暮らせるじゃない、この報酬」リリアが数字を指で辿りながら言う。
「とんでもない借金を背負ったやつとかが、パーティー組んで退治に向かったが誰一人帰って来やしてねぇよ」男は他人事のように言ってのける。
「そんなに危険なの」リリアが振り返った。
「究極の最終決断なんだろうな…」

「… これ魔物、ハツ… ハツミ?… 何て読むの?」リリアが男に質問する。
「それで、ショケンだ。魔物初見殺し、だ」
「強いの?まぁ、とんでもなく強いんでしょうねぇ」
「強い?そんなレベルじゃねぇよ。そいつは常識的な攻略方外で初めて見た奴は必殺されるってレベルだ。おまえ、金の為に引き受けるか?」男がリリアの顔を覗き込むようにして聞いてきた。
「…… やんないわねぇ… 必ず殺されるんじゃ…」
リリアと男はボードを後にする。ちょうどカウンター嬢が新しいリクエストをボードに張り出しに来ていた。
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