勇者の血を継ぐ者

エコマスク

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【190.5話】 床の上のダカット ※189.5話の続き※

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ノックの音が去ってからしばらく静かになった…

「…………」ダカットは黙っている。
「zZz… zzZ…」リリアは寝ている。

部屋は静かになったがダカットは警戒している。さっきのノックは胸騒ぎを起こさせる変な感じがあった。

「動けなくて夜は退屈しないの?」リリア達に聞かれる事がある。
これもダカットには上手く説明できない。恐らく人間の感覚をベースに語るのは難しい事のようだ。
寝ないといけないわけではなく、寝ないと疲れるわけでもなく、寝たら疲れが取れるという利点もない。寝てはいないが意識を… 薄くするような感じで人間が寝ないで夜中を過ごすよりもかなり早い感覚で朝を迎える事ができる。

「…………」ダカットは黙っている。
リリアを見ると下着姿、寝顔がキュート、胸がプリプリしている。
骨太で二の腕が力強いがこれは仕方がない…
「…………」
ダカットは少し鼻で呼吸する真似事をしてみた。
“一度リリアの匂いを感じてみたいなぁ”こんな時にふと思う。
一瞬さっきのノックの出来事を忘れていた。


何かゴソゴソした音、気配を感じた。
ノックからさほど時間は経っていない。ダカットが気配を伺うと窓側からのようだ。明らかに気配が接近している。
「リ、リリア… リリア!リリア!」
宿の二階の部屋だが明らかに窓の外に気配がする。
「リリア、起きろ! 窓の外にだれかいるぞ、リリア!」ダカットがリリアに声をかける。
「…Zzz… エンド・オブ・イヤー・ジャンボミミックを倒したら、石造りの豪邸建てるの…」リリアは酔って寝込んでいる。変な寝言ばっかりだ…
二階の部屋なのに明らかに窓の付近に気配が来ている。何者かが壁を伝って上がってきたようだ。まともな連中ではない。
「おい!!寝ぼけている場合かよ!リリア!誰か窓の外にいるぞ!リリア!」ダカットが呼ぶ。
「… 家建てたら皆雇うよ… コトロはマイミュージックボックス、ペコはお風呂焚き係… zzz…」
リリアは寝ている。

「リリア!リリア!」ダカットが必死に呼びかける。
窓は開け放たれている。気配はすぐそこだ。
「リリア!リリア!」
「……z…  … ぬぁ? ダカット?…」
リリアが少し目を開けた、まだ寝ぼけているがとりあえず起こさせないといけない。
「リリア!起きろ!窓の外…  っわ!」
ダカットが注意しかけたが、「ホウキ、うるっさい」と呟いてベッドの向こうに放られてしまった。
ダカットは音を立てて床に転がった。ベッドの奥に投げられ見えるのは床とベッドの足ばかり。

“…………”ダカットが音を立てたので一瞬の静寂が訪れた。

リリアの「……… しまった!」とダカットの「リリア!」が同時に響いた時だった。
「気づかれた」「やっちまえ!」「殺せ!」
ドっと足音が窓から部屋に入ってきた。
「ダガー! リターン!リターントゥマイハンド! リターーーーン」
「リリア!リリア! 誰か!人殺し!」
「間違いないこの女だ!」「クレジットの腕輪だ!」「生け捕れ、女も貰え」
部屋中に大きな物音が響く。人がぶつかり合い、憎しみ合う息遣い
「リリア!リリア!」
「っく… この女!」
「誰か!!誰か来て!!! 人殺し!! 誰かーーーー!」
「こいつ強いぞ!!」
「早くしろ、ダメなら殺して腕ごと切れ!」
「わああぁぁぁぁぁぁーーーー 誰かーーーーーー! 助けてーーー! 殺す!ぶっ殺すーー!!」
「リリア!! 誰か来てくれ!! 誰か助けてくれ!!」
「おぐ… こ、こいつ… 殺せ!殺しちまえ!」
「この女!! 大人しくしやがれ!!」
「ぎゃーーーーー!! このクソアマ!! なめやがって!」
「抑え込め!! 腕を切り落とせ!」
「誰かーーーーーーーーー!! 助けてーーーーーー! 殺す!!殺す!!」
肉が壁に、床にぶつかる音、影がうごめき、月明かりに刃物が光る。
勇者と侵入者の戦いではない。獣の醜い欲が交差する音が不気味に響く。

「大丈夫か!! ドアを開けろ!!」
「おい!人が中で… ドアを… 宿主を呼べ」
「外に回れ!外から部屋に入れるぞ!」
冒険者や旅行者が数名宿泊している。騒ぎを聞いて起きてきたようだ。プロが集まってきた。
「ドアはラチェットがしてある、外からだ! リリアがんばれ! 誰か早く助けてくれ!」
「ぅぐ… この くっそ」
「人が来るぞ!早く腕を切れ!」
「ぐわああぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁーーー! このーー! やめろ!!!誰かーー!」
外からはドアをこじ開けようとしている音がする。
「クソ! 駄目だ! 逃げるぞ」
男がそう叫ぶと慌てて気配は窓から出て行った…
「リリア! 大丈夫か! リリア!おい! リリア!」ダカットは必死にリリアを呼んだ。


ダカットが呼びかけてもリリアからの返事はない。生きてはいるようだ、震えるような息遣いが聞こえる。
窓から助けが入ってくるのとドアが破られるのがほぼ同時だったであろうか。
「大丈夫か?マーガレット、ヒーリングだ!」
部屋の中が慌ただしくなっている。
「リリア!大丈夫か! 誰か! 俺を拾ってくれ!」ダカットは必死に呼びかける。


「あら?あなたはリリアの使い魔さん?ごめんなさいね、今気がついた」
冒険者の中にリリアの知り合いがいたようだ。呼びかけるダカットに気がついてもらえたのはリリアがベッドに寝かされて落ち着いた後だった。
「リリアはもう大丈夫。治癒したわよ。数か所切られて…かなり腕に傷を受けていたけど傷は治って目立たないはず。震えて放心状態だったから幻想薬を少し飲ませて寝かせたわ。明日、一緒に街まで連れて帰るから安心して」
ダカットが見るとリリアはベッドに寝かされていた。
シーツは血がついたので代わりを持ってくるらしい。部屋は血の池が出来ていて、男が一人死んでいた。喉を一突きだったようだ。苦悶に満ちた表情。

「今、掃除をするから、安心して傍にいてあげてね、使い魔さん」
魔法使いはそう言うとダカットをリリアの隣に寝かせた。
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