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第9話 再生
9-2(完)
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「蓮様! お父様!」
蓮と芭蕉との間を塞ぐように、雪樹は立った。華奢な肩を精一杯いからせ、まるで子猫が毛を逆立てているかのようだった。
「おお、雪樹……! 無事だったか!」
羽村の男たちの顔が安堵に緩む。芭蕉は抜きかけた槍を、ひとまず収めた。
――これが、家族というものか。
誰か一人でも欠ければ、心配でたまらない。助けに駆けつける。
そういった存在とは無縁の蓮は、遠い目をして、羽村親子を眺めた。蓮にとって彼らの姿は、一種の憧憬であった。
「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。お父様」
息せき切って詫びる雪樹が、蓮には眩しく見えた。
――ああ、もうじき、こいつを羽村の家に戻すことができる。
自ら手放すことは、彼女への執着が強すぎてできなかった。そのせいで、どれだけつらい想いをさせたことだろう。
――だが、もうじき俺は消える。
だから、どうか幸せになって欲しい。やりたいことを、やりたいようにやって、生きて欲しい。
――俺のぶんまで。
すっかり諦観の境地に至っていた蓮は、だが次に自分の耳を疑うことになる。
「このたびのことは、私が全て……! 私が全て、悪いのです! どうか、蓮様を責めないでください!」
「おい……!」
何を言っているのか。蓮は雪樹の肩を掴み、自分のほうを向かせようとした。しかし雪樹は鉄の塊のようにびくともせず、ひたすら声を張り上げる。
「私がここにいたいと、蓮様と離れたくないから家に帰さないでくださいと、お願いしたのです。だから……!」
娘と再会した喜びに浸る間もなく、羽村家の面々は困惑している。
不可解そうな顔をした芭蕉は、娘に尋ねた。
「それは……どういう意味かね」
「私と蓮様は、あ、愛し合っております!」
羽村家の男たちはしばらく沈黙し、ようやく事態を把握したのちは、揃って目を丸くした。
「……………………………………は?」
彼らにとっては、寝耳に水だろう。奸譎なる皇帝に囚われた哀れな娘、あるいは妹が、実はその悪漢と通じていたというわけだから――。
いやそれ以前に、雪樹は性別を男と偽っていて、皇帝とは友人として親交を深めていたのではなかったか? 愛し合うなどという関係では、なかったはずだ。
いやいやそもそも、自分たち家族の知っている雪樹は、色恋沙汰に縁遠い少女ではなかったか?
それが、今や――。
ただガツガツと勉強ばかりしていて、色気なんて微塵もなかった雪樹と、今目の前に現れた雪樹は、まるで別人のようだった。
見目悪い芋虫が、蝶に育った。すっかり麗しくなった雪樹は、もういっぱしの女性(にょしょう)である。
羽化させたのは――。
雪樹が必死になって背に庇う、香蓮陛下なのか?
「どういうことだ……」
羽村家の男たちは、すっかり混乱してしまった。
兄たちは魚のようにぱくぱくと口を動かすばかり。芭蕉も忙しなく顎髭をいじっている。
「ま、待ちなさい。雪樹。ともかく……一度、家に帰ろうじゃないか」
「いいえ、いいえ!」
雪樹は首を振った。
蓮は生きる気力が尽きている。それを知った今、彼を残していなくなるわけにはいかない。片時も目を離さず、ずっとそばにいなければ。
――私を置いて死ぬなんて、許すものか。
「だが、雪樹……」
兵士を引き連れて皇宮に侵入するなど、大それたことをしでかしたのだ。このまま手ぶらで帰ることはできない。当然父も父で、食い下がってくる。
このままでは、力づくで連れ帰られてしまうかもしれない。――ならば。
雪樹はすうっと大きく深呼吸してから、一息に諳んじた。
「私のお腹には、蓮様の赤ちゃんが……!」
「!?」
周囲の人々が目を剥く。蓮すら、驚きのあまり仰け反っている。
「……いるかもしれません、ので」
誰にも聞こえないくらい小さく、雪樹はつけ加えた。そう、嘘は言っていないのだ。
「……………!」
芭蕉は娘と蓮を交互に見比べながら、再び槍の柄に手を置いた。
――皇帝を、このままにしておいていいのか?
香蓮陛下は、自分の謀の一部始終を知っている。
だがそんな男と、最愛の娘は愛し合い、彼の子を宿したという。
――殺せるのか?
そのような無情なことをすれば、娘には一生恨まれるだろう。
芭蕉の手が、ガタガタと震え出す。その脇を一頭の馬がすいっと進んだ。
近づいてくる人物を見て、雪樹は食いしばっていた口元を解いた。
「柾兄様」
柾は雪樹のすぐ上の兄だ。歳が近いせいもあって、三人の兄たちの中では一番仲が良かった。
「雪樹。おまえは自ら望んで、香蓮陛下の寵姫になったというのだな? ――本当か?」
「はい」
「脅されたり、無理矢理後宮に押し込められたり、そういうわけではないんだな?」
「――はい」
それこそ生まれたときからの、長いつき合いだ。雪樹の嘘に、兄が気づかないわけはない。だが柾は、それ以上何も質さなかった。
「そうか……」
一流の武人だと褒めそやされる柾は体格も良く、しかし童顔で、成人した今でもよくそれをからかわれている。そして、雪樹と柾の面差しはよく似ていた。
実はそのせいで、先般妹を取り返しに皇宮へ乗り込んだ際は、皇帝陛下にやり込められる羽目になったのだが……。
蓮からすると愛する雪樹に似た男が、彼女と同じようにいちいち真っ正直に感情を面に出すのが、面白かったのだろう。
柾は颯爽とした身ごなしで、馬からサッと下りた。
「子が生まれれば、おまえは正式に陛下のお后となる。羽村家にとって、これほどの名誉はない」
柾の言葉にハッとなり、上の二人の兄も急いで下馬した。
兄たちは深々と頭を下げる。だが、芭蕉は馬に乗ったまま、放心したように雪樹と蓮を眺めていた。
「このたびは誤解がありましたようで、大変申し訳ございませんでした。ですが、妹の元気そうな顔を見ることができて、安心致しました。我らはこれにて退散致します。お詫びはまた、改めまして」
柾は礼儀正しく口上を述べ、一礼すると、再び馬に跨った。
「さあ、父上」
「ああ……」
息子たちに促され、芭蕉も元来た道へ馬首をめぐらせる。
「待て!」
蓮は焦り、自分に背を向け、遠ざかっていく羽村の男たちを呼び止める。だが、「時既に遅し」であった。
羽村家の男たちを先頭に据え、兵士たちも大門の方角へ動き出す。
人馬の群れが小さくなっていく――。
「芭蕉! 行くな! 俺を……殺してくれ!」
「蓮様!」
腕に縋る雪樹を払いのけ、蓮は芭蕉たちを追おうとする。その曇った昏い瞳に、雪樹の姿は写っていない。
「待て! 待ってくれ!」
「……!」
母のあとを追う幼子のようにフラフラと歩む蓮の前に、雪樹は回り込んだ。
本当は横っ面でも一発叩いてやりたかったが、背が届かない。仕方なく拳を、彼の腹に突き立てた。
「いたっ!」
悲鳴を上げたのは、雪樹のほうだった。蓮の硬い腹筋のせいだ。
だが、その甲斐はあったらしい。蓮の目に光が戻った。
「何をする……!」
「蓮様のバカ! 最低! 無責任男! 分かってるんですか? あなたがやろうとしたのは、『やり逃げ』ってやつなんですよ!」
小さな体からどうやって出しているのかと思うほどの大声を、雪樹は絞り出した。
「私にひどいことをしておいて、何も償っていないじゃない! 謝ってもいない! そんなんで、天国に逃げようなんて、卑怯者!」
やがて吊り上がった眉が下がったかと思うと、雪樹はぶるぶると震え出した。
「お願いだから……! お願いだから、生きてください! 死のうなんて思わないで……! あなたは皇帝である前に、あなたなんです! 私の愛した、蓮様なんです! 生きる意味がないとダメだっていうなら、私のために生きて! 今からあなたは、私のために生きてよ!」
自分でも筋が通っているのかいないのか、分からない。それでも必死に、雪樹は叫び続けた。
「おまえの……ために」
なんと罪深いことだろう。
賢く、きっと誰よりも美しく育つだろうこの娘を、無理矢理、自分のものにした。
自らの檻に、取り込んだ。
そのうえ、彼女の光り輝く人生を、ここで閉じてしまおうとしている――。
眉間に皺を寄せ、蓮は苦悶する。
本当は、死にたくなどなかった。
雪樹と共に過ごす日々は楽しかったから、幸せだったから。
だがそれだけに、雪樹を帰したあとのことを想像すれば――生きていても仕方がないと思えて。
「俺は、俺は……」
間違いだと分かっている。それでも誘惑に抗えない。
腕を伸ばし、蓮は雪樹を引き寄せた。
「――そばに、いてくれ……! おまえが一緒にいてくれるなら、俺は生涯、皇帝という役を演じ続けることができる……!」
苦しそうに吐き出された、その願いを耳にした瞬間、雪樹の双眸からは大粒の涙が零れ落ちた。
「バカぁ! バカ! なんでもっと早く、全部話してくれなかったんですか! つらかったなら、言ってくれたらいいのに! 私たちは、そんなに浅い仲だったんですか! 十年以上のつき合いなのに! 私はあなたの子を産んでもいいって――産みたいって、本気でそう思ってるのに!」
「……………………」
何も言わず、言えず、蓮はただひたすら雪樹を抱き続けた。
その力の強さが、愛する人はちゃんと生きているのだと――失わずに済んだのだと、雪樹の心に大いなる喜びを湧き起こす。
まるで獣の咆哮のような声を上げて、雪樹は泣いた。
~ 終 ~
蓮と芭蕉との間を塞ぐように、雪樹は立った。華奢な肩を精一杯いからせ、まるで子猫が毛を逆立てているかのようだった。
「おお、雪樹……! 無事だったか!」
羽村の男たちの顔が安堵に緩む。芭蕉は抜きかけた槍を、ひとまず収めた。
――これが、家族というものか。
誰か一人でも欠ければ、心配でたまらない。助けに駆けつける。
そういった存在とは無縁の蓮は、遠い目をして、羽村親子を眺めた。蓮にとって彼らの姿は、一種の憧憬であった。
「ご心配をおかけして、申し訳ありませんでした。お父様」
息せき切って詫びる雪樹が、蓮には眩しく見えた。
――ああ、もうじき、こいつを羽村の家に戻すことができる。
自ら手放すことは、彼女への執着が強すぎてできなかった。そのせいで、どれだけつらい想いをさせたことだろう。
――だが、もうじき俺は消える。
だから、どうか幸せになって欲しい。やりたいことを、やりたいようにやって、生きて欲しい。
――俺のぶんまで。
すっかり諦観の境地に至っていた蓮は、だが次に自分の耳を疑うことになる。
「このたびのことは、私が全て……! 私が全て、悪いのです! どうか、蓮様を責めないでください!」
「おい……!」
何を言っているのか。蓮は雪樹の肩を掴み、自分のほうを向かせようとした。しかし雪樹は鉄の塊のようにびくともせず、ひたすら声を張り上げる。
「私がここにいたいと、蓮様と離れたくないから家に帰さないでくださいと、お願いしたのです。だから……!」
娘と再会した喜びに浸る間もなく、羽村家の面々は困惑している。
不可解そうな顔をした芭蕉は、娘に尋ねた。
「それは……どういう意味かね」
「私と蓮様は、あ、愛し合っております!」
羽村家の男たちはしばらく沈黙し、ようやく事態を把握したのちは、揃って目を丸くした。
「……………………………………は?」
彼らにとっては、寝耳に水だろう。奸譎なる皇帝に囚われた哀れな娘、あるいは妹が、実はその悪漢と通じていたというわけだから――。
いやそれ以前に、雪樹は性別を男と偽っていて、皇帝とは友人として親交を深めていたのではなかったか? 愛し合うなどという関係では、なかったはずだ。
いやいやそもそも、自分たち家族の知っている雪樹は、色恋沙汰に縁遠い少女ではなかったか?
それが、今や――。
ただガツガツと勉強ばかりしていて、色気なんて微塵もなかった雪樹と、今目の前に現れた雪樹は、まるで別人のようだった。
見目悪い芋虫が、蝶に育った。すっかり麗しくなった雪樹は、もういっぱしの女性(にょしょう)である。
羽化させたのは――。
雪樹が必死になって背に庇う、香蓮陛下なのか?
「どういうことだ……」
羽村家の男たちは、すっかり混乱してしまった。
兄たちは魚のようにぱくぱくと口を動かすばかり。芭蕉も忙しなく顎髭をいじっている。
「ま、待ちなさい。雪樹。ともかく……一度、家に帰ろうじゃないか」
「いいえ、いいえ!」
雪樹は首を振った。
蓮は生きる気力が尽きている。それを知った今、彼を残していなくなるわけにはいかない。片時も目を離さず、ずっとそばにいなければ。
――私を置いて死ぬなんて、許すものか。
「だが、雪樹……」
兵士を引き連れて皇宮に侵入するなど、大それたことをしでかしたのだ。このまま手ぶらで帰ることはできない。当然父も父で、食い下がってくる。
このままでは、力づくで連れ帰られてしまうかもしれない。――ならば。
雪樹はすうっと大きく深呼吸してから、一息に諳んじた。
「私のお腹には、蓮様の赤ちゃんが……!」
「!?」
周囲の人々が目を剥く。蓮すら、驚きのあまり仰け反っている。
「……いるかもしれません、ので」
誰にも聞こえないくらい小さく、雪樹はつけ加えた。そう、嘘は言っていないのだ。
「……………!」
芭蕉は娘と蓮を交互に見比べながら、再び槍の柄に手を置いた。
――皇帝を、このままにしておいていいのか?
香蓮陛下は、自分の謀の一部始終を知っている。
だがそんな男と、最愛の娘は愛し合い、彼の子を宿したという。
――殺せるのか?
そのような無情なことをすれば、娘には一生恨まれるだろう。
芭蕉の手が、ガタガタと震え出す。その脇を一頭の馬がすいっと進んだ。
近づいてくる人物を見て、雪樹は食いしばっていた口元を解いた。
「柾兄様」
柾は雪樹のすぐ上の兄だ。歳が近いせいもあって、三人の兄たちの中では一番仲が良かった。
「雪樹。おまえは自ら望んで、香蓮陛下の寵姫になったというのだな? ――本当か?」
「はい」
「脅されたり、無理矢理後宮に押し込められたり、そういうわけではないんだな?」
「――はい」
それこそ生まれたときからの、長いつき合いだ。雪樹の嘘に、兄が気づかないわけはない。だが柾は、それ以上何も質さなかった。
「そうか……」
一流の武人だと褒めそやされる柾は体格も良く、しかし童顔で、成人した今でもよくそれをからかわれている。そして、雪樹と柾の面差しはよく似ていた。
実はそのせいで、先般妹を取り返しに皇宮へ乗り込んだ際は、皇帝陛下にやり込められる羽目になったのだが……。
蓮からすると愛する雪樹に似た男が、彼女と同じようにいちいち真っ正直に感情を面に出すのが、面白かったのだろう。
柾は颯爽とした身ごなしで、馬からサッと下りた。
「子が生まれれば、おまえは正式に陛下のお后となる。羽村家にとって、これほどの名誉はない」
柾の言葉にハッとなり、上の二人の兄も急いで下馬した。
兄たちは深々と頭を下げる。だが、芭蕉は馬に乗ったまま、放心したように雪樹と蓮を眺めていた。
「このたびは誤解がありましたようで、大変申し訳ございませんでした。ですが、妹の元気そうな顔を見ることができて、安心致しました。我らはこれにて退散致します。お詫びはまた、改めまして」
柾は礼儀正しく口上を述べ、一礼すると、再び馬に跨った。
「さあ、父上」
「ああ……」
息子たちに促され、芭蕉も元来た道へ馬首をめぐらせる。
「待て!」
蓮は焦り、自分に背を向け、遠ざかっていく羽村の男たちを呼び止める。だが、「時既に遅し」であった。
羽村家の男たちを先頭に据え、兵士たちも大門の方角へ動き出す。
人馬の群れが小さくなっていく――。
「芭蕉! 行くな! 俺を……殺してくれ!」
「蓮様!」
腕に縋る雪樹を払いのけ、蓮は芭蕉たちを追おうとする。その曇った昏い瞳に、雪樹の姿は写っていない。
「待て! 待ってくれ!」
「……!」
母のあとを追う幼子のようにフラフラと歩む蓮の前に、雪樹は回り込んだ。
本当は横っ面でも一発叩いてやりたかったが、背が届かない。仕方なく拳を、彼の腹に突き立てた。
「いたっ!」
悲鳴を上げたのは、雪樹のほうだった。蓮の硬い腹筋のせいだ。
だが、その甲斐はあったらしい。蓮の目に光が戻った。
「何をする……!」
「蓮様のバカ! 最低! 無責任男! 分かってるんですか? あなたがやろうとしたのは、『やり逃げ』ってやつなんですよ!」
小さな体からどうやって出しているのかと思うほどの大声を、雪樹は絞り出した。
「私にひどいことをしておいて、何も償っていないじゃない! 謝ってもいない! そんなんで、天国に逃げようなんて、卑怯者!」
やがて吊り上がった眉が下がったかと思うと、雪樹はぶるぶると震え出した。
「お願いだから……! お願いだから、生きてください! 死のうなんて思わないで……! あなたは皇帝である前に、あなたなんです! 私の愛した、蓮様なんです! 生きる意味がないとダメだっていうなら、私のために生きて! 今からあなたは、私のために生きてよ!」
自分でも筋が通っているのかいないのか、分からない。それでも必死に、雪樹は叫び続けた。
「おまえの……ために」
なんと罪深いことだろう。
賢く、きっと誰よりも美しく育つだろうこの娘を、無理矢理、自分のものにした。
自らの檻に、取り込んだ。
そのうえ、彼女の光り輝く人生を、ここで閉じてしまおうとしている――。
眉間に皺を寄せ、蓮は苦悶する。
本当は、死にたくなどなかった。
雪樹と共に過ごす日々は楽しかったから、幸せだったから。
だがそれだけに、雪樹を帰したあとのことを想像すれば――生きていても仕方がないと思えて。
「俺は、俺は……」
間違いだと分かっている。それでも誘惑に抗えない。
腕を伸ばし、蓮は雪樹を引き寄せた。
「――そばに、いてくれ……! おまえが一緒にいてくれるなら、俺は生涯、皇帝という役を演じ続けることができる……!」
苦しそうに吐き出された、その願いを耳にした瞬間、雪樹の双眸からは大粒の涙が零れ落ちた。
「バカぁ! バカ! なんでもっと早く、全部話してくれなかったんですか! つらかったなら、言ってくれたらいいのに! 私たちは、そんなに浅い仲だったんですか! 十年以上のつき合いなのに! 私はあなたの子を産んでもいいって――産みたいって、本気でそう思ってるのに!」
「……………………」
何も言わず、言えず、蓮はただひたすら雪樹を抱き続けた。
その力の強さが、愛する人はちゃんと生きているのだと――失わずに済んだのだと、雪樹の心に大いなる喜びを湧き起こす。
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~ 終 ~
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