30 / 44
㉚贈り物(クロード)
しおりを挟むリサが連れて行かれるのを見届けたあと、俺はレイラ嬢の肩を抱き寄せる。
「わたくし、リサ様を不幸にしてしまったわ。やっぱりわたくしが上手く悪役令嬢を出来なかったからなんだわ。」
涙目になりながら俺に訴えるレイラ嬢。
この子はどうしてここまで他人の為に心を痛めることが出来るのか・・・
彼女はこの世界が自分の知ってるゲームという物語の世界だと思っている。リサはその中のヒロインだったらしい。
「レイラ嬢のせいなんかじゃないよ。」
俺はレイラ嬢の目元を親指で拭う。
「レイラ嬢の知ってるリサの性格はあんなだった?」
俺の質問に、レイラ嬢は首を傾げてしばらく考える。
なにかを思い至ったのか、そうか!と小さく呟いた。
「ここは君の思ってる世界と似てるけど、また違う世界なんだよ。現に、レイラ嬢は全然悪役なんかじゃないじゃないか。」
俺はそう言ってレイラ嬢の手を取って甲にキスをする。
「レイラ嬢は俺の可愛い天使だよ。」
俺の言葉にレイラ嬢は頬を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
「はいはい、二人だけで世界に入らないでください。俺たちにも分かるように説明して貰えないですか?さっきの下女は何ですか?」
シドの言葉にレイラ嬢が我に返る。
チッ、可愛いレイラ嬢をもう少し眺めていたかったのに・・・
「お二人の愛の深さに感動したわ!」
アイリスがまた目をキラキラさせて俺たちを見ている。
「陛下、こんな目立つところに居てはレイラ様が可哀想ですよ。」
ライルも俺の後ろから注意をしてくる。
そう言われて辺りを見ると、遠巻きに女達が俺を見ているのが目に入った。
それは、恋、憧れ、トキメキを宿した瞳だ。そして、嫉妬の目をレイラ嬢に向けている者もいる。
確かに、可哀想だな。
俺はマントでレイラ嬢を隠すように肩を抱くと、その場を離れた。
離宮へ戻ると、リサについてレイラ嬢の言うゲームとやらの話は省いて大まかな説明をした。
「何それ!お姉様可哀想!そんな事があったの?」
俺の話を聞いて一番に怒りを顕にしたのはアイリスだった。
「リサ様さえ居なかったらレイラお姉様はヘンリー王子様と結婚していたんじゃないの?あれ?」
アイリスは勢いよく話してから、困った顔をする。
「でも、ヘンリー王子様と結婚していたらお兄様は失恋して、私もヘンリー王子様には会うことはなかったの?あれ?あの女が邪魔してくれたおかげ?」
アイリスがどう怒っていいのかわからなくなっている。
「俺はレイラ嬢が幸せになってくれるならそれでいいと思っていたけど、婚約破棄になってなかったら、レイラ嬢を奪いに行ってたかもな。」
「さすがお兄様ですわ!」
アイリスが嬉しそうに俺を見る。
また、なんか想像しているんだろう。アイリスってこんな夢見る乙女だったか?
レイラ嬢が変えたのだろうか?
元々俺は婚約破棄されようとするレイラ嬢を見守りはしていたが、それを止める気は無かったから、俺も自分の都合のいいようにさせてもらってた。但し、レイラ嬢が傷付いて泣くような事があったら許すつもりはなかったけど。
「わたくし、ミカが好きだって気がついた時にはヘンリー王子様からの婚約破棄の悲しみも何処かへ消えてしまっていたの。いつも一緒に居てくれたミカの事を当たり前に思ってしまっていたのよ。気がつてけ良かったわ。」
レイラ嬢が照れながらも、うれしそうに俺を見つめてくれる。
それを見て、俺はライルに預かってもらっていた箱を受け取る。
「レイラ嬢、誕生日おめでとう。」
俺は小さなサファイアの付いた青薔薇の髪飾りをレイラ嬢の髪に着けた。
「え?え?誕生日?」
レイラ嬢が驚いて口をぱくぱくさせている。
可愛い。
思わずくくっと笑ってしまう。
「今日はレイラの十七歳の誕生日だろ?」
「あ、・・・そうでしたわ!」
「お姉様、おめでとう!」
「レイラ嬢、おめでとうございます!」
みんながレイラ嬢にお祝いの言葉を口々に言う。
「レイラお姉様、髪飾りとてもお似合いよ!青薔薇はお兄様の瞳の色ね、サファイアも帝国の象徴で、お兄様の瞳の色なのよね。」
アイリスに言われて、自分が何を付けられたのか分かったのか、レイラ嬢の顔が綻ぶ。
「いつも付けていられるように小ぶりの物を作ったんだ。」
「ミカ、ありがとう。とっても嬉しいわ!」
レイラ嬢は本当に嬉しそうに自分の髪に付けられた髪飾りをそっと手で包んで大事そうにする。
「大事にするわね。」
嬉しそうににっこり笑ったレイラ嬢の笑顔はやっぱり天使の笑顔だ。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました
Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。
そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。
お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。
挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに…
意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。
よろしくお願いしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる