【完結】Ωになりたくない僕には運命なんて必要ない!

なつか

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31. 緊急の電話

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 震えるスマホを手に部室を出た累は、画面をタップして耳に当てた。

『佐久間?! 今ど……る?! ちと……はいっ……か?!』
「えっ、なに?? クソっ電波悪っ」
『ま… …と…から……れる……』
「あーだめ、全然聞こえない。ちょっと移動するから待って」

 今いる部活棟は、何かよくわからない電波を発信している部活でもあるのか、たまに電波がすごく悪くなる時がある。こんな時に、タイミングが悪い。――せっかく千歳と二人でいたのに。

 最近、登下校は一緒にいられないこともあり、昼休みくらいはと累は少し強引に千歳と湊の間に割り込んだ。
 千歳はすごく不本意そうだったが、累だけ学年が違うのだ。このくらいしないと一日に一度も千歳の顔が見られないなんてことになってしまう。だから仕方がない。
 それに、案外、湊は二人の間に累が入ることを強く拒否したりはしない。湊も累と同じように、千歳を守るためには自分一人ではなく、累と二人のほうがいいという考えなのだろう。千歳をめぐる一番のライバルが、最も信頼できる相手だというのは皮肉なものだ。

 そんな湊も今日は学校を休んでいる。有力な情報があれば自分たちの足で確認しに行っているのだが、今のところ空振りばかり。なかなか進展がなく、焦りだけが募っていく。
 千歳も最近はむすっとしていることが多い。もともと累といるときは割とそんな感じだが、意地っ張りな千歳のあれは、いうなればツンデレの『ツン』だ。とてもかわいい。
 でも、今は、”拗ねている”といった様子だ。それもすごくかわいいのだが、寂しそうな顔をされるのはやっぱり堪える。
 多分、千歳は何が起こっているのか知りたいのだろう。累たちが何も話さないことを怒っていることもわかっている。でも、千歳には何の憂いもなく、安全な場所にいてほしい。それほど、千歳が大切なのだ。
 それに、自分が過去をうまく清算できなかったせいで千歳に危険が及びそうになっているなんて知られたくない、というのもある。――だってかっこ悪いじゃないか。
 バカげたプライドだと言われても仕方がない。でも、好きな人にはつい見栄を張りたくなるものだ。

 そのためにも、早く済ませて、早く戻ろう。湊がわざわざこの時間に電話をしてきたということは、重要な用件のはずだ。累は急いで電波が良いところまで移動した。

「もしもし、湊さん? 聞こえる??」
『聞こえる! お前、今どこにいる?! 千歳はどうした?!』
「えっ、俺は部室棟から出てきたとこ。千歳さんは新聞部の部室に、」
『バカ野郎! 今すぐ戻れ!!』
「はっ? なに?」
『学校だ! 広瀬は生徒に紛れ込んでる!!』

 突然の罵声に面食らいながらも、累は湊の言葉に慌てて踵を返した。
 当然、累も湊も学校内へ侵入されることを警戒していた。だから、佐久間の家の力も借りて学校の警備体制は強化したはずなのに、――どうやって?! 疑問は尽きないが、今はそれどころではない。累は焦りながら階段を駆け上がる。でも、一歩足を進めるごとに鈍い痛みが走り、思うように走ることができない。こんなにもケガを恨めしく思ったのは、事故以来初めてだ。
 もうこれから先、走れなくなってもかまわない。だから、今は一秒でも早く千歳のもとへ――!

「千歳さん!!!!」

 痛む足を無理やり動かし、必死にたどり着いた部室には鍵がかかっていた。それだけで、何か異常事態が起こっていることがわかる。鍵を取りに行っている時間なんてない。
 強引にドアを蹴破り、部室の中に入ると、千歳は累が部屋を出た時と変わらず、弁当を前にして椅子に座っていた。ドアを蹴破った音に驚いたのだろう、目を丸め、累を見ている。
 そして、その正面、もともと類が座っていた椅子には一人の男が座っていた。

「千歳さん、こっちに!!」

 千歳に駆け寄り、かばうように抱き寄せる。目の前にいる男はかなり以前と印象は変わってしまったが、累たちが探していた広瀬で間違いないだろう。
 広瀬はおそらく千歳に危害を加えるために、わざわざ学校へ侵入したはずだ。でも、累の登場に驚いた様子もなく、椅子に深く腰を掛け、背もたれにもたれたまま動かない。その違和感に累は内心首をかしげながら、千歳を抱きしめる腕に力を込めた。

「ちょっ、ちょっと離してよ!」
「ダメです、こいつはこの学校の生徒じゃない!」
「えっ、そうなの? でも、知り合いなんでしょ?」
「へ? まぁ、そうだけど」
「この人の恋人を奪ったんだって?」
「はぁ?! 違うけど?!」

 慌てて腕の中にいる千歳を見下ろせば、疑うようにじとっと目を細め、累を睨みつけてくる。

「ぐっ、かわい…じゃなくて、何吹き込まれたの?!」
「きみが彼の恋人を奪って閉じ込めたから、取り返しに行ったのに会わせてもらえなかったって」
「いやいや、違うから!」

 そこから累は、過去のいきさつを千歳に話す羽目になった。
 広瀬の恋人が優里恵の運命の番だったこと。勘違いした広瀬に突き落とされ、膝をけがしたこと。その後、入院中に刃物を持った広瀬に襲われたこと。結局、黙っていたこと全部だ。

「……だいぶ彼から聞いた話と違うんだけど?」
「それは、そいつが勘違いをして、」
「俺が聞いていた話とも違う。そうか、それが真実か」
「えっ?」

 累の話を黙って聞いていた広瀬は、初めて知ることになった真実にうなだれて下を向き、両手で顔を覆った。
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