8 / 35
野焼きで草を焼く
しおりを挟む
あれから数日。
俺は町の役所に行ったり、前の仕事の用事で東京に呼び出されたりと忙しかった。
なので、レムネアと一緒に仕事をするのが遅くなってしまった。
今日は初めての畑作業だ。
買ったばかりの青ジャージに身を包んだレムネアはやる気満々で、俺が玄関から出てくるのを仁王立ちして待っていたものだ。
「どうそれ、着心地の方は?」
「最高です、肌触りがとてもよくて!」
挨拶代わりに聞いてみると、ご機嫌な様子で彼女は答えた。
気に入って貰えてるようでなによりだ。畑への道すがら、楽しそうに前を歩く彼女を眺める。
野暮ったそうなジャージでも、金髪碧眼の小顔モデル体型が着るとオシャレに見えるから不思議だよな。
「ん? どうしましたケースケさま。そんなにこちらばかり見て」
「あ、いや。似合うと思ってな」
「そうですか!?」
パァッと明るい顔を見せてくるレムネア。
女の子は着た物を褒められると喜ぶよな、――とか思っていると。
「ふふふ。農作業スーツがそこまで似合うという私は、今日から農業の化身」
どうも仕事への情熱が溢れているだけだった。
なんだよ農作業スーツって。と俺がツッコむと、彼女は笑顔で答える。
「衣服屋の店員さまが言っておられました。機能的な作業服といえばコレ、だそうな。安心してオススメできる農作業スーツだと」
「間違いじゃないけど」
「私、頑張りますよー!」
農作業スーツじゃなくて、ジャージというんだ。
あの店員さん、ノリノリだったからな。レムネアを事情知らずの外国人だと思って、好き放題吹き込んでいる可能性がある。
だがまあ、いいか。
農作業スーツを着て、彼女には農業の化身となって貰おう。
やることはいっぱいあるからね。頑張る気分を作っていくのは良いことだ。
というかここ数日、彼女は仕事をしたくてウズウズしていたらしい。
毎朝食事の席で、「今日から仕事ですか?」と聞いてきた。
他の用事があってまだだ、というとシュンとする。
その間は家で待機して貰っていたり近場なら車で付き合わせたり、レムネアも少しだけこちらの世界に慣れてくれた気がする。
それは、俺との生活に少し慣れてきたことも示すのだ。
昨日などは、夕飯の支度を手伝いましょうか、などと言ってきた。
良い傾向だよな。
さて。そうこうあって、今日は二人になって初の畑仕事だ。
この日は抜いた草を焼く。いわゆる野焼きをする予定。
役所と消防署に届け出をした上で、広い休耕地の真ん中に草を集めた。
「魔法すごいな、草がきっちり根から抜けてる」
「草は根が本体ですからね。上だけ千切る魔法じゃダメかと思いまして」
「まさしくだよ。根が残るとそこからまた草が生えてきちゃうから、本来草抜きはとても大変なんだ」
俺は草をひとつ手に取った。
「ほら見て、このスギナ。根だけで1メートル以上ある。こんな長いのが土の中深くまで伸びてるんだから、たまったもんじゃないよなぁ」
それがしっかり根ごと抜けているんだからなー。レムネアには感謝しかない。
俺はレムネアと手分けして、ドラム缶の中に草を入れていった。
焼却用のドラム缶は祖父の家に置いてあったものを使っている。
野焼きは最近の法律で基本的に禁止になったのだが、農家は例外的に許されているのだ。
それでも近隣への配慮で、なるべく煙を出さないようにと指導される。
そのためのドラム缶だった。
ドラム缶は二つ。
草が多いから時間が掛かりそうだな。
「じゃあ、火をつけるぞー」
って、あれれ?
火付けのバーナーが付かない。
「いかがなさいました?」
「ごめん、火の調子が悪いみたいだ。代わりの火種を持ってくるから少し見ててくれ」
「いま詰め込んだ草に火を点ければ良いのですね?」
「え、あ? うん」
「わかりました。それでは」
レムネアはどこから呼び出したのか杖を構え、呪文を唱えた。
「ちょっぴり火を熾す魔法」
杖の先にポッと点った火を、ドラム缶に近づける。――が。
「……なかなか燃え始めませんね」
「まだ草が乾燥しきっていないからな。ホントは灯油でもぶっかけて焼ければ楽なんだけど」
灯油を掛けると煙が凄くなるから自重した。
だけど、こんな燃えにくいとは。経験不足が出てしまった形だ。
「その魔法、火力は上げられないのかな?」
「申し訳ありません、あくまで生活魔法なので……。すごい火力は、攻撃魔法の範疇なんです。ドーン、とかドカーン、とかズドドーンとか」
あ、レムネアの長い耳がシューン、と垂れ下がってしまった。
悪いことを聞いてしまった。
仕方ない、燃やすためにドラム缶に空気を入れ込もう。
俺は、こんなこともあろうかと一応用意していた自転車タイヤの空気入れを、ドラム缶下の空気穴に添えた。
シュッコシュッコ、とレバーを押して、酸素を供給する。
「レムネア、こっちの下から火を点けてみてくれないか」
「は、はい」
空気入れから程よく供給される酸素の力で、杖の先の火勢が強くなった。
よし。燃えかけの草も、良い感じにパチパチと言い出したぞ。
しばらく二人で頑張っていると、草がメラメラと燃えだした。
レムネアの顔が、パァァ、と明るくなる。
「燃えてます、燃えだしましたよケースケさま!」
「そうだな、いい感じ。どうにかなるもんだ」
二つ目のドラム缶も、同じようにして火を点けた。
まだまだ燃やさないといけない草は多いのに、俺たちは何事かを成し遂げた気になって二人ではしゃいでしまった。
「やりました、やりましたよケースケさま。良い焚火です!」
「アツ、アツ! 夏の焚火、めっちゃ熱いーっ! あはははは」
調子に乗ってハイタッチまでしてしまう俺たちだ。
そんな俺たち二人の元に、お爺さんが近づいてきていたことに気づきもせずに。
「おや、野焼きかい?」
「わわっ!?」
声を掛けられてビックリしてしまった。
「おっとっと、驚かせてしまったようじゃ」
「す、すみません気づいていなかったものでして」
頭を下げてから顔を見てみると、ご近所(といってもめっちゃ遠い)の野崎さんだった。確か祖父の葬式の折に色々よくしてくださった方だったな。
「こんにちは野崎さん。――はい、草を除去したので、今日はそれの処理を」
「やあ名前を憶えていてくれたか。嬉しいねケースケくん」
「もちろんです。祖父の葬式ではお世話になりました」
もう一度頭を下げる。
野崎のお爺さんは苦笑しつつ、
「いいって、いいって。むしろワシらも嬉しかったんじゃよ。源蔵さんのお孫さんが来るってね」
――ちらり。
レムネアへと視線を向ける。
「嫁と一緒に移住してくるとは聞いてなかったから、少しビックリしてしまったものじゃんがな」
「「よ、嫁っ!?」」
俺とレムネアは同時に声を上げてしまった。
「ち、違いますよ野崎さん! こちらの女性はレムネア、ウチで農業体験をすることになった外国人留学生で!」
とっさに口から出た嘘がそれ。
いきなりなにを言ってくれるんだ野崎のお爺さんは。
せっかくレムネアとの関係が少しこなれてきたところだったのに、気まずくなるようなことを言い出さないで欲しい。
いやホントに。困るから。
「おや、そうなのかい? レムネアさんは嫁じゃなかったか」
「そりゃそうです。こんな若い(エルフの本当の年齢とかわからないけど)嫁さんを貰える年齢じゃありませんよ俺!」
なにせアラサーだ。
レムネアの容姿は良いトコ10代後半、17、8と言った感じ。凄く若い。
釣り合いが取れないこと甚だしい。
「うーむ。レムネアさんは満更でなさそうなんじゃけどなぁ」
――え?
と横にいる彼女を見てみると、耳まで真っ赤になった若エルフがそこに居た。
「レムネア、そんな赤くなられると誤解されてしまうから」
「え? あ、はい……そうですね。はい。ええ。あの、その」
真っ赤になってしどろもどろ。
野崎のお爺さんはニンマリ笑った。
「嫁、で良くないかい? ケースケくん」
「良くありません!」
「それは残念じゃね。源蔵さんも喜んだじゃろうに」
勘弁してくださいと両手を上げて降参すると、わはは、と笑い。
「スマンスマン、若者をからかってしまうのはジジイの悪い癖じゃな」
空気を変えて、草を焼いているドラム缶の方を見た。
「草を処理しているということは、ここを畑に戻すのかな?」
「はい。せっかく祖父が残してくれた土地なので、活用しようかと」
「もう県の助成は受けたかの?」
「その辺は祖父が教えてくれたので」
農業を継ぐということで、しっかり相談してきた。
祖父が残してくれた遺産もあるし、当面はレムネアと二人でやっていく余裕がある。
「さすが源蔵さん。実はわしらも孫であるケースケくんのことを頼まれていてなぁ。畑のことでわからないことがあれば、いくらでも教えるよ」
「ありがとうございます。助かります」
「いいって、いいって」
手を振って笑う野崎のお爺さんだった。
「にしても、美津音のやつ。こんなカワイイ娘さんをオバケ呼ばわりするとは。失礼な話じゃなぁ」
「……? なんの話ですか」
「なに、この間ウチの孫娘が言ってたんじゃよ。『源蔵じいちゃんの家にオバケが出た』って」
俺とレムネアは顔を見合わせた。
……もしかしなくても、屋根を直していたときにレムネアの魔法が効かなかった女の子に違いない。
そうか、野崎さんの孫娘だったのか。
「屋根の上から金髪の女の子が飛んできたなどと言っててな、わっはっは」
「ぁー」
「あまり変なこと言いふらすなと叱っとくわ」
「「いえ、叱らないであげてください」」
俺とレムネアは同時に声を上げた。
だってオバケじゃないにせよ、その子が変なモノ見たことは事実なので。
「優しいなぁ、おまえさんたち」
優しいわけではないのです。事実なのが心苦しいだけなのです。
そっかー、あの子やっぱり吹聴してたかー。そりゃするよなー。
だけど予想通りというべきか、大人はそんな話をそうそう信じないのだ。
気にしないでおくのが一番波風絶たないようにするコツだよね。
「それじゃ」と去っていく野崎のお爺さんにレムネアと二人で手を振りながら、俺は一人頷いた。
――そう。
大人は信じない。だけど。
……子供たちはどうだろう?
俺はまだこのとき、野崎さんの孫娘さんとその友達たちに、秘密を握られることになろうとは思ってもいなかったのだった。
俺は町の役所に行ったり、前の仕事の用事で東京に呼び出されたりと忙しかった。
なので、レムネアと一緒に仕事をするのが遅くなってしまった。
今日は初めての畑作業だ。
買ったばかりの青ジャージに身を包んだレムネアはやる気満々で、俺が玄関から出てくるのを仁王立ちして待っていたものだ。
「どうそれ、着心地の方は?」
「最高です、肌触りがとてもよくて!」
挨拶代わりに聞いてみると、ご機嫌な様子で彼女は答えた。
気に入って貰えてるようでなによりだ。畑への道すがら、楽しそうに前を歩く彼女を眺める。
野暮ったそうなジャージでも、金髪碧眼の小顔モデル体型が着るとオシャレに見えるから不思議だよな。
「ん? どうしましたケースケさま。そんなにこちらばかり見て」
「あ、いや。似合うと思ってな」
「そうですか!?」
パァッと明るい顔を見せてくるレムネア。
女の子は着た物を褒められると喜ぶよな、――とか思っていると。
「ふふふ。農作業スーツがそこまで似合うという私は、今日から農業の化身」
どうも仕事への情熱が溢れているだけだった。
なんだよ農作業スーツって。と俺がツッコむと、彼女は笑顔で答える。
「衣服屋の店員さまが言っておられました。機能的な作業服といえばコレ、だそうな。安心してオススメできる農作業スーツだと」
「間違いじゃないけど」
「私、頑張りますよー!」
農作業スーツじゃなくて、ジャージというんだ。
あの店員さん、ノリノリだったからな。レムネアを事情知らずの外国人だと思って、好き放題吹き込んでいる可能性がある。
だがまあ、いいか。
農作業スーツを着て、彼女には農業の化身となって貰おう。
やることはいっぱいあるからね。頑張る気分を作っていくのは良いことだ。
というかここ数日、彼女は仕事をしたくてウズウズしていたらしい。
毎朝食事の席で、「今日から仕事ですか?」と聞いてきた。
他の用事があってまだだ、というとシュンとする。
その間は家で待機して貰っていたり近場なら車で付き合わせたり、レムネアも少しだけこちらの世界に慣れてくれた気がする。
それは、俺との生活に少し慣れてきたことも示すのだ。
昨日などは、夕飯の支度を手伝いましょうか、などと言ってきた。
良い傾向だよな。
さて。そうこうあって、今日は二人になって初の畑仕事だ。
この日は抜いた草を焼く。いわゆる野焼きをする予定。
役所と消防署に届け出をした上で、広い休耕地の真ん中に草を集めた。
「魔法すごいな、草がきっちり根から抜けてる」
「草は根が本体ですからね。上だけ千切る魔法じゃダメかと思いまして」
「まさしくだよ。根が残るとそこからまた草が生えてきちゃうから、本来草抜きはとても大変なんだ」
俺は草をひとつ手に取った。
「ほら見て、このスギナ。根だけで1メートル以上ある。こんな長いのが土の中深くまで伸びてるんだから、たまったもんじゃないよなぁ」
それがしっかり根ごと抜けているんだからなー。レムネアには感謝しかない。
俺はレムネアと手分けして、ドラム缶の中に草を入れていった。
焼却用のドラム缶は祖父の家に置いてあったものを使っている。
野焼きは最近の法律で基本的に禁止になったのだが、農家は例外的に許されているのだ。
それでも近隣への配慮で、なるべく煙を出さないようにと指導される。
そのためのドラム缶だった。
ドラム缶は二つ。
草が多いから時間が掛かりそうだな。
「じゃあ、火をつけるぞー」
って、あれれ?
火付けのバーナーが付かない。
「いかがなさいました?」
「ごめん、火の調子が悪いみたいだ。代わりの火種を持ってくるから少し見ててくれ」
「いま詰め込んだ草に火を点ければ良いのですね?」
「え、あ? うん」
「わかりました。それでは」
レムネアはどこから呼び出したのか杖を構え、呪文を唱えた。
「ちょっぴり火を熾す魔法」
杖の先にポッと点った火を、ドラム缶に近づける。――が。
「……なかなか燃え始めませんね」
「まだ草が乾燥しきっていないからな。ホントは灯油でもぶっかけて焼ければ楽なんだけど」
灯油を掛けると煙が凄くなるから自重した。
だけど、こんな燃えにくいとは。経験不足が出てしまった形だ。
「その魔法、火力は上げられないのかな?」
「申し訳ありません、あくまで生活魔法なので……。すごい火力は、攻撃魔法の範疇なんです。ドーン、とかドカーン、とかズドドーンとか」
あ、レムネアの長い耳がシューン、と垂れ下がってしまった。
悪いことを聞いてしまった。
仕方ない、燃やすためにドラム缶に空気を入れ込もう。
俺は、こんなこともあろうかと一応用意していた自転車タイヤの空気入れを、ドラム缶下の空気穴に添えた。
シュッコシュッコ、とレバーを押して、酸素を供給する。
「レムネア、こっちの下から火を点けてみてくれないか」
「は、はい」
空気入れから程よく供給される酸素の力で、杖の先の火勢が強くなった。
よし。燃えかけの草も、良い感じにパチパチと言い出したぞ。
しばらく二人で頑張っていると、草がメラメラと燃えだした。
レムネアの顔が、パァァ、と明るくなる。
「燃えてます、燃えだしましたよケースケさま!」
「そうだな、いい感じ。どうにかなるもんだ」
二つ目のドラム缶も、同じようにして火を点けた。
まだまだ燃やさないといけない草は多いのに、俺たちは何事かを成し遂げた気になって二人ではしゃいでしまった。
「やりました、やりましたよケースケさま。良い焚火です!」
「アツ、アツ! 夏の焚火、めっちゃ熱いーっ! あはははは」
調子に乗ってハイタッチまでしてしまう俺たちだ。
そんな俺たち二人の元に、お爺さんが近づいてきていたことに気づきもせずに。
「おや、野焼きかい?」
「わわっ!?」
声を掛けられてビックリしてしまった。
「おっとっと、驚かせてしまったようじゃ」
「す、すみません気づいていなかったものでして」
頭を下げてから顔を見てみると、ご近所(といってもめっちゃ遠い)の野崎さんだった。確か祖父の葬式の折に色々よくしてくださった方だったな。
「こんにちは野崎さん。――はい、草を除去したので、今日はそれの処理を」
「やあ名前を憶えていてくれたか。嬉しいねケースケくん」
「もちろんです。祖父の葬式ではお世話になりました」
もう一度頭を下げる。
野崎のお爺さんは苦笑しつつ、
「いいって、いいって。むしろワシらも嬉しかったんじゃよ。源蔵さんのお孫さんが来るってね」
――ちらり。
レムネアへと視線を向ける。
「嫁と一緒に移住してくるとは聞いてなかったから、少しビックリしてしまったものじゃんがな」
「「よ、嫁っ!?」」
俺とレムネアは同時に声を上げてしまった。
「ち、違いますよ野崎さん! こちらの女性はレムネア、ウチで農業体験をすることになった外国人留学生で!」
とっさに口から出た嘘がそれ。
いきなりなにを言ってくれるんだ野崎のお爺さんは。
せっかくレムネアとの関係が少しこなれてきたところだったのに、気まずくなるようなことを言い出さないで欲しい。
いやホントに。困るから。
「おや、そうなのかい? レムネアさんは嫁じゃなかったか」
「そりゃそうです。こんな若い(エルフの本当の年齢とかわからないけど)嫁さんを貰える年齢じゃありませんよ俺!」
なにせアラサーだ。
レムネアの容姿は良いトコ10代後半、17、8と言った感じ。凄く若い。
釣り合いが取れないこと甚だしい。
「うーむ。レムネアさんは満更でなさそうなんじゃけどなぁ」
――え?
と横にいる彼女を見てみると、耳まで真っ赤になった若エルフがそこに居た。
「レムネア、そんな赤くなられると誤解されてしまうから」
「え? あ、はい……そうですね。はい。ええ。あの、その」
真っ赤になってしどろもどろ。
野崎のお爺さんはニンマリ笑った。
「嫁、で良くないかい? ケースケくん」
「良くありません!」
「それは残念じゃね。源蔵さんも喜んだじゃろうに」
勘弁してくださいと両手を上げて降参すると、わはは、と笑い。
「スマンスマン、若者をからかってしまうのはジジイの悪い癖じゃな」
空気を変えて、草を焼いているドラム缶の方を見た。
「草を処理しているということは、ここを畑に戻すのかな?」
「はい。せっかく祖父が残してくれた土地なので、活用しようかと」
「もう県の助成は受けたかの?」
「その辺は祖父が教えてくれたので」
農業を継ぐということで、しっかり相談してきた。
祖父が残してくれた遺産もあるし、当面はレムネアと二人でやっていく余裕がある。
「さすが源蔵さん。実はわしらも孫であるケースケくんのことを頼まれていてなぁ。畑のことでわからないことがあれば、いくらでも教えるよ」
「ありがとうございます。助かります」
「いいって、いいって」
手を振って笑う野崎のお爺さんだった。
「にしても、美津音のやつ。こんなカワイイ娘さんをオバケ呼ばわりするとは。失礼な話じゃなぁ」
「……? なんの話ですか」
「なに、この間ウチの孫娘が言ってたんじゃよ。『源蔵じいちゃんの家にオバケが出た』って」
俺とレムネアは顔を見合わせた。
……もしかしなくても、屋根を直していたときにレムネアの魔法が効かなかった女の子に違いない。
そうか、野崎さんの孫娘だったのか。
「屋根の上から金髪の女の子が飛んできたなどと言っててな、わっはっは」
「ぁー」
「あまり変なこと言いふらすなと叱っとくわ」
「「いえ、叱らないであげてください」」
俺とレムネアは同時に声を上げた。
だってオバケじゃないにせよ、その子が変なモノ見たことは事実なので。
「優しいなぁ、おまえさんたち」
優しいわけではないのです。事実なのが心苦しいだけなのです。
そっかー、あの子やっぱり吹聴してたかー。そりゃするよなー。
だけど予想通りというべきか、大人はそんな話をそうそう信じないのだ。
気にしないでおくのが一番波風絶たないようにするコツだよね。
「それじゃ」と去っていく野崎のお爺さんにレムネアと二人で手を振りながら、俺は一人頷いた。
――そう。
大人は信じない。だけど。
……子供たちはどうだろう?
俺はまだこのとき、野崎さんの孫娘さんとその友達たちに、秘密を握られることになろうとは思ってもいなかったのだった。
73
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
家の庭にダンジョンができたので、会社辞めました。
希羽
ファンタジー
都内のブラックIT企業で働く社畜・佐藤健太(27歳)。
手取り18万、残業100時間。唯一の資産は、亡き祖母から相続した郊外のボロ戸建てだけ。
「このまま死ぬのかな……」
そう絶望していたある夜、庭の物置の裏に謎の穴が出現する。
そこは、なぜか最弱モンスターしか出ないのに、ドロップアイテムだけは最高ランクという、奇跡のボーナスダンジョンだった。
試しにスライムを叩いたら、出てきた宝石の査定額はなんと――【1,000,000円】。
「……え、これ一個で、俺の年収の3分の1?」
スマホアプリで即換金、ドローン配送で手間いらず。
たった10分の庭仕事で5000万円を稼ぎ出した健太は、翌朝、上司に辞表を叩きつけることを決意する。
※本作は小説家になろうでも投稿しています。
借金まみれの錬金術師、趣味で作ったポーションがダンジョンで飛ぶように売れる~探索者の間で【伝説のエリクサー】として話題に~
わんた
ファンタジー
「今日中に出ていけ! 半年も家賃を滞納してるんだぞ!」
現代日本にダンジョンとスキルが存在する世界。
渋谷で錬金術師として働いていた裕真は、研究に没頭しすぎて店舗の家賃を払えず、ついに追い出されるハメになった。
私物と素材だけが残された彼に残された選択肢は――“現地販売”の行商スタイル!
「マスター、売ればいいんですよ。死にかけの探索者に、定価よりちょっと高めで」
提案したのは、裕真が自作した人工精霊・ユミだ。
家事万能、事務仕事完璧、なのにちょっとだけ辛辣だが、裕真にとっては何物にも代えがたい家族でありパートナーでもある。
裕真はギルドの後ろ盾、そして常識すらないけれど、素材とスキルとユミがいればきっと大丈夫。
錬金術のスキルだけで社会の荒波を乗り切る。
主人公無双×のんびり錬金スローライフ!
鑑定持ちの荷物番。英雄たちの「弱点」をこっそり塞いでいたら、彼女たちが俺から離れなくなった
仙道
ファンタジー
異世界の冒険者パーティで荷物番を務める俺は、名前もないようなMOBとして生きている。だが、俺には他者には扱えない「鑑定」スキルがあった。俺は自分の平穏な雇用を守るため、雇い主である女性冒険者たちの装備の致命的な欠陥や、本人すら気づかない体調の異変を「鑑定」で見抜き、誰にもバレずに密かに対処し続けていた。英雄になるつもりも、感謝されるつもりもない。あくまで業務の一環だ。しかし、致命的な危機を未然に回避され続けた彼女たちは、俺の完璧な管理なしでは生きていけないほどに依存し始めていた。剣聖、魔術師、聖女、ギルド職員。気付けば俺は、最強の美女たちに囲まれて逃げ場を失っていた。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
出来損ないと追放された俺、神様から貰った『絶対農域』スキルで農業始めたら、奇跡の作物が育ちすぎて聖女様や女騎士、王族まで押しかけてきた
黒崎隼人
ファンタジー
★☆★完結保証★☆☆
毎日朝7時更新!
「お前のような魔力無しの出来損ないは、もはや我が家の者ではない!」
過労死した俺が転生したのは、魔力が全ての貴族社会で『出来損ない』と蔑まれる三男、カイ。実家から追放され、与えられたのは魔物も寄り付かない不毛の荒れ地だった。
絶望の淵で手にしたのは、神様からの贈り物『絶対農域(ゴッド・フィールド)』というチートスキル! どんな作物も一瞬で育ち、その実は奇跡の効果を発揮する!?
伝説のもふもふ聖獣を相棒に、気ままな農業スローライフを始めようとしただけなのに…「このトマト、聖水以上の治癒効果が!?」「彼の作る小麦を食べたらレベルが上がった!」なんて噂が広まって、聖女様や女騎士、果ては王族までが俺の畑に押しかけてきて――!?
追放した実家が手のひらを返してきても、もう遅い! 最強農業スキルで辺境から世界を救う!? 爽快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)
犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。
意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。
彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。
そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。
これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。
○○○
旧版を基に再編集しています。
第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。
旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。
この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる