嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん

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開拓の始まり

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 鋼黒竜ヴェガドを追い出してから、二ヶ月が経った。
 あれから一度、冒険者ギルドの力を借りて大規模な魔物狩りを実施した。
 ヴェガドを追い出すことで、魔物を呼びよせるという『大黒魔石』問題は解決したのだし、この狩りを経て魔物はだいぶ減るはずだ。

 なので俺は、一度触れを出したのだった。

『この狩りの後は魔物が減る、だから商人を呼び込むために街道整備をする人員を募集する』

 と。
 しかしそのとき、領民は笑って信じなかった。『いくらギリアムさまが仰ることでも、そりゃあちょっと』、眉唾だと言わんばかりに肩を竦めていた。

 だがこのところ、少し彼らはザワついている。

『あれ? 本当に魔物を見掛けなくなってないか?』

 そうだな、あれから二ヶ月なんだ。
 そろそろ実感を伴って理解するはずだ。魔物が減ったということを。

「レン草の収穫時期なのに畑が荒らされないんだよ!」
「なんか森の葉がキラキラしてるんだ!」
「町外れの水留め場に、最近普通の動物が顔を出すんだよね」

 領民たちのざわつきが、我が屋敷にも伝わってきた。
 ふふふ、そうだろう? 皆さん気づいてくれましたか、よしよし。

 もちろん、もうドラゴンが畑に現れたりもしない。
 収穫がスムーズに行われ、例年の倍近い量のレン草がとれたことに領民は大はしゃぎだ。加えて森から魔物が減ったことで、普通に動物を狩ることが出来るようなったと喜んでいる。こうなるとこの町で起こることは、決まっている。

 祭りだ。
 三日三晩の大祭り。

 俺もミューゼア嬢を連れて、祭りの夜を楽しむことにした。
 大量に収穫された作物と、森で狩られた動物の肉で、これまでの祭りとは比較にならないくらいの食べ物が並んでいる。

 領民たちは騒ぎ、歌い、中央広場で火を灯し、夜中まで踊り狂った。

「皆さん、すごく喜んでますね」
「そりゃあなー。この土地は、長らく魔物に脅かされてきましたので。あはは」

 俺もエールがうまい。

「よかった……。頑張った甲斐がありました」
「そうですね。これで皆も分かったはずだよ、ライゼル領は大きく変わっていけるんだってさ」

 目立たないところで飲んでいたつもりだったのだが、領民は目聡く俺のことを見つけてくる。彼らは口々に、俺への礼を言葉にした。

『これもそれも、ギリアムさまのお陰です』
『これから毎日レン草をお届けしますよ』
『今日森で獲れた鹿の肉です。一皿いかがですか?』

 皆、浮かれてるなぁ。
 でも俺にはわかってる、すぐに次の問題が浮上してくることが。

 予想通り一週間もすると、今度は収穫しすぎた作物の扱いに困る彼らが居た。
 保存できるものは保存するとしても、そこまで長く持たないものも多いのだ。あー勿体ない、勿体ない。

 そして、我が屋敷に訪問客が訪れたのである。
 この町の小さな商会をまとめる若き長、レグノア・フリューゲントだ。

 応接間に通されたレグノアは、俺とミューゼア嬢に丁寧な挨拶をしたのち、ソファーへと座った。スラっとした長身に眼鏡、黒髪オールバックの青年だ。

「これはレグノアさん、今日はどのようなご用件でしょう」

 俺がにこやかに笑うと、彼は苦笑いをして居心地が悪そうに応える。

「なんとも意地の悪い、ギリアムさま。用件はもうお判りでしょうに」
「急激に収穫量の増えた作物や肉などを持て余している、というお話でしょうか」
「その通りでございます」

 レグノアは頭を下げる。彼もまた、俺が告知した『街道整備の話』を笑って聞き流していた一人だった。

「我が不明をお詫び申し上げます。まさか本当にこの地から魔物が減るとは思っておりませんでしたので」

 仕方ない。なにせ昔の昔その昔から、ここは魔物に溢れていた。
 この土地を最初に開拓したご先祖さまが魔物を一万匹倒した、などと言う逸話が残ってるほどに過酷な環境だったわけである。信じられなくて当然だったと思う。

 特に信じてもらうための努力もしなかったしな、そこは時間が解決してくれると思ってた。実際皆はそれを実感し、祭りまでしたほどだ。

 だけど、その先を考えている者は少なかったようで。

「レグノアさんにもお分かり頂けたように、これからは増えた収穫を金に換えていく為の『交易』に目を向ないと」
「まさしく。ギリアムさまが仰る通り」

 俺はレグノアに笑いかけ、顔を上げて貰った。これでやっと開拓の話を進められる。
 横に座るミューゼア嬢に目配せをして、会話を変わって貰った。交渉事は、女性に頼むのがだいたい良い。

「実は先日、ギリアムさまは『魔物が集まる原因』だった鋼黒竜ヴェガドを、あの森から追い出したのです」
「えええ!? ギリアムさま、あの鋼黒竜を森から追い出したのですか!?」
「あ、うん。邪魔だったから」
「邪魔だったから、で成せる業ではありません! なにそんな平然な顔で、貴方は。まったく!」

 そういや、ギルドにもこのことは報告してなかったっけ。
 すっかり終わった話と認識してしまっていたので、忘れてた。

「だから森も平和になっていたというわけですな。ううむ」

 レグノアは考え込む。
 ミューゼア嬢はこちらを一瞬確認の後、話を進めますとばかりに小さく頷いた。頼んだ、全面的にお任せだぜ。

「お分かり頂けましたかレグノアさま。魔物も減り鋼黒竜も居なくなったあの森は、このライゼルにとって資源の宝庫となることでしょう。将来的なその開拓も見据えたら、まず他領との交易ルートを開くことがどれだけ重要か」
「はい。それがまさに、いま私がここに座っている理由」

 レグノアが胸に手を当てて、ひとまず畏まった。

「ギリアムさま、ミューゼアさま。我がフリューゲント商会に、街道の整備をお任せ願えませんか」
「いいよ」

 俺は軽く答えた。

「いえ、難しい案件かとは思いますが是非とも検討を――って、ええ!? 即決!?」
「もともとそこには異存はないんだ。条件はミューゼア嬢と煮詰めて貰う方向で」
「あ、はい」

 ちょうど昨晩、セバスとミューゼア嬢を交えて相談はしてたんだ。
 この町の商会は小さい物が一つあるだけ。つまりは今ここにいる彼の、フリューゲント商会のみなわけで。
 そこに案件を持っていくこと自体は問題がない。
 あとはどこまで彼らにお金を出させることが出来るか、という話になってくる。この町における商売の窓口役を任せる代わりに、ぶっちゃけ全額負担させたい。

 公共事業としてウチから出金することも考えたんだけど、どうせ俺たちだけでは捌ききれない仕事量になるのは目に見えてる。ならば利権を餌に、フリューゲント商会を動かす方が無駄もないというものだった。

「なるほど、我が商会が窓口役に……」
「代わりに街道の整備に掛かる金銭の負担を。悪いお話ではないと思いますが」
「ふうむ。負担と仰られると、ミューゼアさまのお考えでは、いかほどを?」

 色々と話をしてるなぁ。
 こういうのを任せてしまえるのは、本当にありがたい。ミューゼア嬢は頼りになるな。

「そうですねレグノアさま……これくらいは最低限」
「それは厳しい!」
「未来への投資とお考えいただければ、と」
「その未来とは、ライゼルの未来でしょうか?」
「ライゼルとフリューゲント商会、共にある未来の為ですわ」

 細かい金銭勘定は、俺じゃあ時間が掛かる。
 そんなのはセバスやミューゼア嬢に任せてしまうのがいい。
 ミューゼア嬢とレグノアの交渉を、横から無責任な気持ちで眺めるだけの俺だった。

 しばらく二人のやりとりは続いたが、どうやらバランスを取ることに成功したようだ。少し悔しそうな顔をしながらも、そこそこは満足げな表情という、表現しずらい顔をしたレグノアがミューゼア嬢と握手をした。

「まいりましたな、ミューゼアさまは良い商人でもおありだ。絶妙なラインをついてくる。このような交渉術は、どちらで?」
「第一学園では何故か喧嘩の仲裁などを仕切る経験が多くありまして。そのときに学びました」
「ほほう、さすが都の第一学園きっての才媛と称えられたお方。おみそれいたしました」

 こうしてミューゼア嬢と良い感じに話をまとめて帰ったレグノアだったが、二週間後にまた屋敷へとやってきた。困り顔で頭を抱えて。

「人手が集まらない?」
「そうなのです、ミューゼアさま」

 街道整備のための人員が集まらないのだそう。
 ライゼルの町は山のように出来た初夏の野菜を収穫している時期だ、間が悪かったらしい。

「なるほど……。ではレグノアさま、多少の賃金上昇は受け入れる形で、他領から人を集めるというのは?」
「もちろんそれも試みましたが……」

 ライゼルから魔物が減ったということを信じて貰えず、半端ではない賃金を要求されることになってしまったらしい。

「確かに他領の方々では実感もないでしょうから、理解して貰うのが難しいというのもわかります」
「わかって頂けますか、ミューゼアさま。それに、他領から人を集める場合は宿泊所も作らないといけませんから」
「さらに相場よりお賃金自体が高いとなると、予算のメドすら立たないという感じですか」
「はい」

 二人は共に腕を組んだ。
 なるほどね、確かにこの時期はウチだと人手が足りない。他領の奴らがライゼルの変化を理解できるとも思わない。
 安い、とは言わずとも適正な賃金で雇うことのできる、有能な働き手かぁ。

「困りましたね……。ギリアムさま、なにか良い案はありませんか?」
「あるよ」
「そうですか、そうそう良い案など――え?」
「あるよミューゼア嬢、悪くない案が」
「ええっ!?」

 ミューゼア嬢が少し飛び上がるように驚いた。相変わらずオーバーな人だ。

「あるのですか!?」

 と、これは同時に驚き顔を見せたレグノアの声。こっちは一見冷静そうに見えて、身を乗り出してきている。うーん食いついてるな。あるとも、あるぞ。

「ええと、……魔族に手伝ってもらう、なんて案はどうだろう?」

 俺が言うと。

「「は?」」

 二人は同時に目を丸くしたのだった。

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