嫁に来た転生悪役令嬢「破滅します!」 俺「大丈夫だ、問題ない(ドラゴン殴りながら)」~ゲームの常識が通用しない辺境領主の無自覚成り上がり~

ちくでん

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メリットとデメリット

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 臨時に建てた宿泊所に彼ら魔族たちを案内し、次の日は町を上げての祭りに参加して貰った。ウチの領民は祭りが好きだし、ガリアードレたちも祭り好きだ。

 突発的に開催された大食い大会に武闘会。
 どちらも優勝は魔族が持っていったが、領民たちは魔族の豪快さを大いに褒め称えていた。途中、大食い大会の途中には我が領で栽培された作物の美味しさに驚いたデカールが、領民に栽培のコツを聞き感心するような場面もあり、それもまた大盛り上がり。
 種族の垣根を超えて楽しめた一日となったと思う。

 祭りのシメには、『彼ら魔族の力を借りて、ライゼルの町をもっと発展させたい』という俺のお気持ちを表明した。

 互いが互いの良いところを理解し合ってから発表したのが功を奏したのか、領民にも概ね良好な形で魔族の件を受け入れて貰えた気がする。
 ガリアードレも自領の貧困問題には手をこまねいていたらしく、出稼ぎ先が出来るのは嬉しいと頷いた。出稼ぎには許可制を用い、犯罪などを起こさない者を厳選してくれるとも約束を交わせたのだった。

「というわけでな、ガリアードレ。まずはお試し期間で、おまえたちの有能さと安全さを領民たちに示さないとならないってわけさ」
「なるほどのぅ。だからわし自らを呼びつけたというわけか、選りすぐりの魔族を連れさせて」

 幼女王――いや魔族王のガリアードレが、見た目にそぐわぬ勢いで酒を喉に流し込みながら頷いた。

 祭りが終わった夜の、屋敷の応接間である。
 今ここには、俺とセバスにミューゼア嬢、ガリアードレの4人だけが居た。デカールは身体がでかすぎて屋敷に入れないこともあったが、ガリアードレに代わり他の魔族を見ていてもらうため臨時宿泊所に残って貰ったのだ。

「街道の整備というのは、具体的にどんな作業なのじゃ?」
「そこはセバスから説明して貰う方がいいな。俺は説明下手だし」

 わかりました、とセバスは書類を皆に回して渡す。

「具体的には、商人が使う荷馬車が通りやすいように路面整備と、適した距離に宿の設置をするのがよろしいかと」

 街道の利便性が上がることで、大規模小規模どちらの商人も呼び込みやすくなるし、ライゼルに訪れようとする旅人も増えるはずですので、と彼は言う。

 そうだな、俺もそれを考えていた。

「とりあえずは隣領の商業都市、ポルトガに繋がる大街道までの道を整備をしたいところでありますな」

 回された書類には大雑把な地図が描かれており、予定している街道に色が付いている。

「この距離を見るにじゃが……なかなかに時間が掛かる事業ではないのか?」
「そうですな、ここは近隣から距離も離れた所謂辺境。しっかり予定を組んだら年単位の事業となりましょう」
「結果が出るのが遅すぎではなかろうかの。わしにしても、いつまでも自領を放置しておける身ではないのだが」

 ガリアードレが呆れた顔でグラスの酒を飲み干して、俺にお代わりを要求する。
 うわばみ幼女め。メチャクチャ飲んでる癖に、まったく酔った様子を見せないんだコイツ。

「それに関しては、ミューゼア嬢の考えがあるようだよ」

 俺は棚からなるべく濃い酒を選んでガリアードレのコップに注ぐと、ミューゼア嬢に話を振った。彼女は発想力が凄い。今回の件も、草案はだいたい彼女が立てている。
 本人に説明してもらうのが、手っ取り早いだろう。

「こほん。ただいまご指名に預かりました、ミューゼア・セルベールれす」

 ん? なんか珍しくミューゼア嬢が冗談めかした語り口じゃないか?

「やんや、やんや。よいぞーミューゼア! さすがデカールと長々と話し込んでおった知恵者じゃ。期待しておるぞよ」
「お褒めに預かり恐悦至極。それれはここで、短期的な構想と利益に関して、お子様なガリアードレちゃんにも分かるようにご説明差し上げます。ひっく」
「待ってたのじゃー! よろしく頼むのじゃ、ミューゼアァー!」

 なんだかガリアードレもノリノリだ。
 でもこいつは酔ってないだろうから、ミューゼア嬢をノセていこうとしている、が正しい気がする。

 あ。良く見ればミューゼア嬢の前に、カラになった酒瓶がちょーたくさん。
 あれ全部彼女が飲んだのか? そういやガリアードレの奴が、ちょこちょこ彼女に酒を注いでいたな。なんの目的だよガリアードレ。

「お、おいミューゼアさん? 大丈夫ですか?」
「へーきれす、ギリアムさま! 応援ありがとーござます!」

 呂律回ってない。それに俺は応援じゃなく心配をしたんだが。
 だけどこれはもう、見守るしかない。

「まず、街道工事を無事に続ける、ということ自体が、近隣への安全アピールとなるのれふ。なにせこれまれは、旅するのも危うい街道らったのれすから」
「なるほどのぅ。わからぬではないのじゃ」
「一種の広告戦略れふね、私たちが街道整備を始めること自体が近隣の興味を惹き、注目を集めることになると思いまふ」

 ライゼルまでの街道で魔物が減った、と言葉で言っても信じて貰えなかった。
 だけど実際に安全な状態で工事作業が続いているとなれば、その証拠になるというわけだ。なるほどな。

「効果はどれくらいで出てくると考えておるのじゃ?」
「この世界れは情報の伝達が遅いこちょを加味してもれすね、二ヶ月あればライゼルへ訪れる商人がポツポツ現れるのれはないかとぉ」
「二ヶ月、……そうか二ヶ月かの」

 ガリアードレは考え込む素振りをしばし見せ、

「のぅ、ミューゼアよ。この件、我々魔族にとっての益は実際どうなのだ? お主の主観で構わぬから述べてみてくれぬか」

 と覗き込むようにミューゼア嬢の目を見つめた。
 ああこいつ、彼女の本音を引き出す為にベロ酔いにさせたな!?

「ええとれふね」

 気分良さそうにミューゼア嬢は笑顔を作った。

「プラスもありまふし、マイナスもあると思いまふ」
「ほう。面白いの、聞かせてもらっても?」

 ん。マイナスなんてあったっけ。
 少なくとも俺はウィンウィンの、双方が得する提案だったつもりなんだけど。

「短期的に見たられふね、魔族の利益は大きいと思うんれふ。何故なら、貧民層で生活に困っている魔族に、仕事を斡旋できるのれふから。稼ぎがあれば犯罪も減る、魔族領の治安も良くなることれしょう」

 だろだろ? 良いことじゃないか。
 でも短期的に見たら、ってどういうことなんだろう。

 俺だけでなくガリアードレもセバスも、ミューゼア嬢が次に何を言うのかに注目している。言葉もなく彼女の言葉を傾聴していた。

「ですが長期的……まあ、10年以上先の話になりますが……、そっちの視点れは、マイナスになる可能性もあるのではないかにゃあ、と」
「ふむ。わからぬの、説明を頼むのじゃ」
「領主にとって、領民は金を生み出してくれる財産ということれふ」

 彼女は語り出した。
 領民というのは統治者にとっての金を生む鶏なのだ、と。領民が適正に生活をし、稼いでる限りは、その数がイコール領地の強さとなる。それぞれが金を生み、土地を開拓し、領地を反映させる駒となるのだ――と。

「つまり長期的に見たとき、その金の卵である魔族領の領民がライゼルに取られてしまい兼ねない、とミューゼアは言うのじゃな?」
「イエース、ガリアードレちゃん、あたまいー!」

 テンション高くミューゼア嬢は、ガリアードレに向かって手の平を掲げた。奴が顔にハテナを浮かべて戸惑ってると、

「ハイタッチですよハイタッチ! 手をパーンって合わせるんです。ほら、はい! ハイターッチって言いながら!」
「は……はいたーっち?」

 ペチン、と手の平を合わせていくガリアードレに満足したのか、ミューゼア嬢はそのままテーブルに突っ伏して眠り始めてしまった。どうやら飲みすぎで体力が尽きたようだ。

「セバス、ミューゼア嬢を部屋にお連れしておいてくれ」
「わかりましたギリアムさま……それにしても」
「ああ。この方の考え方は、俺たちの見識では追いつけない『何か』があるな」

 苦笑してしまった。
 ミューゼア嬢の思考方法は、俺たちとはどこか違う。なんというか、見えている範囲が広いとでもいうか。

「なに言ってるれふかギリアムさま! 私からみたらギリアムさまの方が訳ワカらないレベルでイレギュラーで!」

 セバスに抱えられた彼女は、突然大声でそんなことを言って、またすぐ寝息を立てる。彼女が部屋から退場した後も、俺とガリアードレは言葉もなく酒をチビチビ口にし続けた。
「メリットもデメリットも、であるか」

 ポツリ、とガリアードレが呟く。

「カカカ、ミューゼアの酔った本音、恐ろしく鋭いな。ビックリしたわい」
「すまんガリアードレ、正直彼女の言うデメリットの部分を俺は理解していなかった。俺は良かれと思って――」
「カカ、そんなことはわかっておる」

 幼女は豪快に笑った。

「主がそんな器用な男でないことくらい百も承知、善意だったのだろうて。そもそもわし自身、ミューゼアの言うデメリットなど、発想すらなかった。なんていうのだろうな、彼女の物の見方は、だいぶ俯瞰したところからのモノだ。わしらのような単純な者では、そうそう到達できるものではあるまいて」

 ああ、俯瞰している、というのが正解なのか。
 なんだよこいつ、悔しいけど俺より賢いな。

「どうする? 協力を撤回するか?」
「なんの。10年の間に、我が領地も負けじと開拓してゆけば良いだけの話じゃ。そして今回の件は、十分その切っ掛けになり得る」

 そして決断も早い。良い王だよ、まったく。

「あの娘の頭脳に、わしもコインをベットさせて貰おうて。まったく、良い嫁を貰ったものじゃの、ギリアム」
「俺が変わる切っ掛けをくれたのも、ミューゼア嬢だからな」
「お? ノロケか? 聞いてやるぞよ?」
「……じゃあ、ちょっとだけ話してやるか」

 俺は苦笑して、まだ幼かった頃の彼女との出会いや、ここに来てからの話を始めたのだった。なんだか自慢したくなってしまったんだよ、ミューゼア嬢のことをな。わはは。

 ――こうして、とある初夏の夜。
 街道を整備するという、領土上げての事業が形を成していったのだった。
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