10 / 53
第10話 「女帝、初めての町歩き」
しおりを挟む
ダンジョンを後にし、蓮たちは乗合馬車で町へ向かっていた。
目指すのは、ギルド本部もある交易都市──バルディナ。
商人や旅人で賑わい、異種族も多く暮らす港町だ。
馬車の中、ロゼッタは窓の外に広がる青空を、じっと食い入るように見つめていた。
「……こんなにも明るく、温かいものだったのね。太陽って」
「え、今まで浴びたことなかったのか?」蓮が驚く。
「ヴァンパイアにとって太陽は、命を削る毒そのものよ。
でも……封印の間に、ロイゼンが私に少しずつ特殊な薬草と魔法を与えてくれていたみたい。
たぶんあれが……私を、太陽に耐えられる身体に変えてくれたんだわ」
そう語る横顔は、どこか遠くを見るようで、ほんの少し寂しげだった。
凛はその空気を和らげようと、明るい声を出す。
「じゃあ今日は、ロゼッタさん“初めての昼のお出かけ”ですね!」
「……ええ、そうね。ふふっ、どこから楽しめばいいのかしら」
◇
バルディナの城門をくぐった瞬間、ロゼッタは完全に観光客の顔になった。
石畳の通りには露店が並び、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
港から届いた海鮮の干物や、果物を山盛りにした籠。
ロゼッタは一歩進むごとに立ち止まり、蓮と凛を置き去りにする勢いで見入っていた。
「これが……“日常”というものなのね……」
「そんな大げさな……」と蓮が苦笑した矢先、ロゼッタがぴたりと足を止めた。
視線の先には──串に刺さった焼き鳥。
「蓮、あれは……血の味がする?」
「いや、鶏肉だ」
「では食べてみたい」
買って渡すと、ロゼッタは恐る恐るひと口。
……そして目を丸くする。
「なにこれ……! おいしい!」
次の瞬間、女帝は完全に食べ歩きモードに突入。肉串、クレープ、ハチミツ入りパン……気づけば両手が食べ物で埋まっていた。
「おいおい、財布が軽くなるぞ」蓮がため息をつく。
「蓮兄、いいじゃないですか。ロゼッタさん楽しそうですし」凛は笑いながらそう返した。
◇
昼過ぎ、三人は港沿いのベンチに座ってひと休みした。
海風が心地よく吹き、ロゼッタの赤い髪がさらりと揺れる。
「……太陽の下で、こうして座っているだけで、こんなに幸せを感じるなんて。
ロイゼンの想いは、きっとこういう時間を私に与えたかったのね」
少ししんみりするその表情を、蓮と凛は黙って見守った。
やがてロゼッタは、ふっと笑顔を見せる。
「さあ、次はどこに行く? 港の魚料理も気になるわ!」
結局、夕方になるまで三人は町中を食べ歩きし続け、ギルドにたどり着く頃には──
女帝の威厳はすっかり消え、ただの満腹で幸せそうな女性になっていたのだった。
目指すのは、ギルド本部もある交易都市──バルディナ。
商人や旅人で賑わい、異種族も多く暮らす港町だ。
馬車の中、ロゼッタは窓の外に広がる青空を、じっと食い入るように見つめていた。
「……こんなにも明るく、温かいものだったのね。太陽って」
「え、今まで浴びたことなかったのか?」蓮が驚く。
「ヴァンパイアにとって太陽は、命を削る毒そのものよ。
でも……封印の間に、ロイゼンが私に少しずつ特殊な薬草と魔法を与えてくれていたみたい。
たぶんあれが……私を、太陽に耐えられる身体に変えてくれたんだわ」
そう語る横顔は、どこか遠くを見るようで、ほんの少し寂しげだった。
凛はその空気を和らげようと、明るい声を出す。
「じゃあ今日は、ロゼッタさん“初めての昼のお出かけ”ですね!」
「……ええ、そうね。ふふっ、どこから楽しめばいいのかしら」
◇
バルディナの城門をくぐった瞬間、ロゼッタは完全に観光客の顔になった。
石畳の通りには露店が並び、香ばしい匂いが鼻をくすぐる。
港から届いた海鮮の干物や、果物を山盛りにした籠。
ロゼッタは一歩進むごとに立ち止まり、蓮と凛を置き去りにする勢いで見入っていた。
「これが……“日常”というものなのね……」
「そんな大げさな……」と蓮が苦笑した矢先、ロゼッタがぴたりと足を止めた。
視線の先には──串に刺さった焼き鳥。
「蓮、あれは……血の味がする?」
「いや、鶏肉だ」
「では食べてみたい」
買って渡すと、ロゼッタは恐る恐るひと口。
……そして目を丸くする。
「なにこれ……! おいしい!」
次の瞬間、女帝は完全に食べ歩きモードに突入。肉串、クレープ、ハチミツ入りパン……気づけば両手が食べ物で埋まっていた。
「おいおい、財布が軽くなるぞ」蓮がため息をつく。
「蓮兄、いいじゃないですか。ロゼッタさん楽しそうですし」凛は笑いながらそう返した。
◇
昼過ぎ、三人は港沿いのベンチに座ってひと休みした。
海風が心地よく吹き、ロゼッタの赤い髪がさらりと揺れる。
「……太陽の下で、こうして座っているだけで、こんなに幸せを感じるなんて。
ロイゼンの想いは、きっとこういう時間を私に与えたかったのね」
少ししんみりするその表情を、蓮と凛は黙って見守った。
やがてロゼッタは、ふっと笑顔を見せる。
「さあ、次はどこに行く? 港の魚料理も気になるわ!」
結局、夕方になるまで三人は町中を食べ歩きし続け、ギルドにたどり着く頃には──
女帝の威厳はすっかり消え、ただの満腹で幸せそうな女性になっていたのだった。
41
あなたにおすすめの小説
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
魔法が使えない落ちこぼれ貴族の三男は、天才錬金術師のたまごでした
茜カナコ
ファンタジー
魔法使いよりも錬金術士の方が少ない世界。
貴族は生まれつき魔力を持っていることが多いが錬金術を使えるものは、ほとんどいない。
母も魔力が弱く、父から「できそこないの妻」と馬鹿にされ、こき使われている。
バレット男爵家の三男として生まれた僕は、魔力がなく、家でおちこぼれとしてぞんざいに扱われている。
しかし、僕には錬金術の才能があることに気づき、この家を出ると決めた。
転生先は上位貴族で土属性のスキルを手に入れ雑魚扱いだったものの職業は最強だった英雄異世界転生譚
熊虎屋
ファンタジー
現世で一度死んでしまったバスケットボール最強中学生の主人公「神崎 凪」は異世界転生をして上位貴族となったが魔法が土属性というハズレ属性に。
しかし職業は最強!?
自分なりの生活を楽しもうとするがいつの間にか世界の英雄に!?
ハズレ属性と最強の職業で英雄となった異世界転生譚。
異世界に飛ばされた人見知りの僕は、影が薄かったから趣味に走る事にしました!
まったりー
ファンタジー
主人公は、人見知りな占いが大好きな男の子。
そんな主人公は、いるのか分からない程の影の薄さで、そんなクラスが異世界に召喚されてしまいます。
生徒たちは、ステータスの確認を進められますが、主人公はいるとは思われず取り残され、それならばと外に1人で出て行き、主人公の異世界生活が始まります。
転生先の説明書を見るとどうやら俺はモブキャラらしい
夢見望
ファンタジー
レインは、前世で子供を助けるために車の前に飛び出し、そのまま死んでしまう。神様に転生しなくてはならないことを言われ、せめて転生先の世界の事を教えて欲しいと願うが何も説明を受けずに転生されてしまう。転生してから数年後に、神様から手紙が届いておりその中身には1冊の説明書が入っていた。
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
50歳元艦長、スキル【酒保】と指揮能力で異世界を生き抜く。残り物の狂犬と天然エルフを拾ったら、現代物資と戦術で最強部隊ができあがりました
月神世一
ファンタジー
「命を捨てて勝つな。生きて勝て」
50歳の元イージス艦長が、ブラックコーヒーと海軍カレー、そして『指揮能力』で異世界を席巻する!
海上自衛隊の艦長だった坂上真一(50歳)は、ある日突然、剣と魔法の異世界へ転移してしまう。
再就職先を求めて人材ギルドへ向かうも、受付嬢に言われた言葉は――
「50歳ですか? シルバー求人はやってないんですよね」
途方に暮れる坂上の前にいたのは、誰からも見放された二人の問題児。
子供の泣き声を聞くと殺戮マシーンと化す「狂犬」龍魔呂。
規格外の魔力を持つが、方向音痴で市場を破壊する「天然」エルフのルナ。
「やれやれ。手のかかる部下を持ったもんだ」
坂上は彼らを拾い、ユニークスキル【酒保(PX)】を発動する。
呼び出すのは、自衛隊の補給物資。
高品質な食料、衛生用品、そして戦場の士気を高めるコーヒーと甘味。
魔法は使えない。だが、現代の戦術と無限の補給があれば負けはない。
これは、熟練の指揮官が「残り物」たちを最強の部隊へと育て上げ、美味しいご飯を食べるだけの、大人の冒険譚。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる