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第31話 「帰還、そして新たな予兆」
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地下迷宮の最深部に、静寂が訪れた。
崩れかけた壁や床から微かな光が差し込み、先ほどまで荒れ狂っていた影の渦は、跡形もなく消えている。
「……本当に、終わったんだよね?」
凛は膝に手をつき、荒い呼吸を整えながら振り返った。
「ああ……影の王の気配は完全に消えてる」
蓮は剣を杖のように突き立てて立ち上がり、まだ戦いの余韻を引きずる手を見下ろす。
そして、視線を横に向けると、ロゼッタが肩で息をしながらも、凛と蓮の二人を気遣うように笑んでいた。
「二人とも……よく頑張ったわね。あの一撃、正直、私も驚いたもの」
凛と蓮は、顔を見合わせてから小さく笑った。
恐怖も疲労も、確かな達成感が勝っている。
⸻
迷宮を抜ける帰り道は、奇妙なほど静かだった。
影兵たちの姿はなく、ただ残骸だけが散らばっている。
まるで主を失ったことで、すべての脅威が消え去ったかのように。
「ねえ、ロゼッタ」
凛が並んで歩きながら問いかける。
「どうして、あんなに……あの影を吸い取れたの?」
ロゼッタは少しだけ間を置き、フードを被り直した。
「……私が元々、影と同じ性質を持っているからよ。だから、無理をすれば同化することも……吸い取ることもできるの」
「……無理をすれば、ってことは……」
蓮の声が硬くなる。
ロゼッタは小さく微笑んで首を振った。
「心配しないで。今回は……あなたたちがいたから、無事に戻れたわ」
そう告げるその笑顔は強がりにも見え、凛と蓮は言葉を飲み込んだ。
⸻
やがて地上に戻ると、まぶしい陽光が三人を包んだ。
町の名前は《リステア》。
昼間でも活気にあふれる商業都市は、彼らが潜っていた暗い迷宮とは正反対の眩しさを放っている。
「帰ってきたぁぁ……! お風呂入りたい! ご飯食べたい! 布団で寝たい!」
凛が大げさに両手を広げる。
「順番に言えよ。俺も同じだけどさ」
蓮は苦笑しながらも、同じ思いで町の空気を吸い込む。
その姿を見て、ロゼッタも小さく肩を揺らした。
「ふふ、二人とも元気ね」
⸻
三人は冒険者ギルドに直行し、迷宮攻略の報告を行った。
応対した受付嬢は最初、信じられないといった顔をしていたが、持ち帰った証拠品と三人の様子を見て、すぐに表情を引き締めた。
「……影の王の討伐。これは、ギルドとしても重大な記録です。間違いなく、歴史に残る快挙ですよ!」
ギルド内はざわめきに包まれた。
低ランクの冒険者たちが目を丸くし、精鋭の者たちも驚きを隠せない。
「おい、本気かよ……」
「まだ駆け出しだろ、あの三人!」
「いや、見ろよ。あの雰囲気……冗談じゃねえ」
注目を浴びる中、凛は照れ笑いを浮かべ、蓮は少し緊張した面持ちで頭を下げた。
ロゼッタだけはフードを深く被り、視線を避けている。
⸻
報告を終えた三人は、その夜、ギルドから用意された宿に泊まることになった。
柔らかな布団に横になった瞬間、凛は大の字で叫ぶ。
「しあわせ~っ! これぞ文明の恵み!」
「もう寝ろ、明日は……」
蓮が言いかけて、ふと隣の部屋を気にする。
ロゼッタの気配が、妙に沈んでいるのだ。
蓮は少し迷ったが、扉をノックした。
「ロゼッタ、大丈夫か?」
扉越しに、少し間を置いて返事が来る。
「……ええ。大丈夫。心配しないで」
その声は、どこか寂しさを含んでいた。
⸻
その夜——。
リステアの町は賑わいを取り戻していたが、遠く離れた闇の大地では、新たな影が蠢いていた。
『……影の王が敗れた、か』
『ならば次は……我らが出る番だ』
冷たい声が闇を震わせる。
まだ見ぬ脅威が、三人の旅路を待ち構えていた。
崩れかけた壁や床から微かな光が差し込み、先ほどまで荒れ狂っていた影の渦は、跡形もなく消えている。
「……本当に、終わったんだよね?」
凛は膝に手をつき、荒い呼吸を整えながら振り返った。
「ああ……影の王の気配は完全に消えてる」
蓮は剣を杖のように突き立てて立ち上がり、まだ戦いの余韻を引きずる手を見下ろす。
そして、視線を横に向けると、ロゼッタが肩で息をしながらも、凛と蓮の二人を気遣うように笑んでいた。
「二人とも……よく頑張ったわね。あの一撃、正直、私も驚いたもの」
凛と蓮は、顔を見合わせてから小さく笑った。
恐怖も疲労も、確かな達成感が勝っている。
⸻
迷宮を抜ける帰り道は、奇妙なほど静かだった。
影兵たちの姿はなく、ただ残骸だけが散らばっている。
まるで主を失ったことで、すべての脅威が消え去ったかのように。
「ねえ、ロゼッタ」
凛が並んで歩きながら問いかける。
「どうして、あんなに……あの影を吸い取れたの?」
ロゼッタは少しだけ間を置き、フードを被り直した。
「……私が元々、影と同じ性質を持っているからよ。だから、無理をすれば同化することも……吸い取ることもできるの」
「……無理をすれば、ってことは……」
蓮の声が硬くなる。
ロゼッタは小さく微笑んで首を振った。
「心配しないで。今回は……あなたたちがいたから、無事に戻れたわ」
そう告げるその笑顔は強がりにも見え、凛と蓮は言葉を飲み込んだ。
⸻
やがて地上に戻ると、まぶしい陽光が三人を包んだ。
町の名前は《リステア》。
昼間でも活気にあふれる商業都市は、彼らが潜っていた暗い迷宮とは正反対の眩しさを放っている。
「帰ってきたぁぁ……! お風呂入りたい! ご飯食べたい! 布団で寝たい!」
凛が大げさに両手を広げる。
「順番に言えよ。俺も同じだけどさ」
蓮は苦笑しながらも、同じ思いで町の空気を吸い込む。
その姿を見て、ロゼッタも小さく肩を揺らした。
「ふふ、二人とも元気ね」
⸻
三人は冒険者ギルドに直行し、迷宮攻略の報告を行った。
応対した受付嬢は最初、信じられないといった顔をしていたが、持ち帰った証拠品と三人の様子を見て、すぐに表情を引き締めた。
「……影の王の討伐。これは、ギルドとしても重大な記録です。間違いなく、歴史に残る快挙ですよ!」
ギルド内はざわめきに包まれた。
低ランクの冒険者たちが目を丸くし、精鋭の者たちも驚きを隠せない。
「おい、本気かよ……」
「まだ駆け出しだろ、あの三人!」
「いや、見ろよ。あの雰囲気……冗談じゃねえ」
注目を浴びる中、凛は照れ笑いを浮かべ、蓮は少し緊張した面持ちで頭を下げた。
ロゼッタだけはフードを深く被り、視線を避けている。
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報告を終えた三人は、その夜、ギルドから用意された宿に泊まることになった。
柔らかな布団に横になった瞬間、凛は大の字で叫ぶ。
「しあわせ~っ! これぞ文明の恵み!」
「もう寝ろ、明日は……」
蓮が言いかけて、ふと隣の部屋を気にする。
ロゼッタの気配が、妙に沈んでいるのだ。
蓮は少し迷ったが、扉をノックした。
「ロゼッタ、大丈夫か?」
扉越しに、少し間を置いて返事が来る。
「……ええ。大丈夫。心配しないで」
その声は、どこか寂しさを含んでいた。
⸻
その夜——。
リステアの町は賑わいを取り戻していたが、遠く離れた闇の大地では、新たな影が蠢いていた。
『……影の王が敗れた、か』
『ならば次は……我らが出る番だ』
冷たい声が闇を震わせる。
まだ見ぬ脅威が、三人の旅路を待ち構えていた。
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