【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

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本編

エーベルトラーシュ

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【Ewertlars】

この国の次代の王であり竜人である僕のつがいは、遠く離れた国に暮らす人間だった。
種族も分からぬまま番を探して長い事世界を放浪した先で、僕はようやくようやく彼女を見つけた。


人間の彼女には番としての本能はなかったけれど、冒険者を相手にした商店で働く彼女を怯えさせぬよう冒険者を装って少しずつ会話を重ねて行けば、彼女が幸運にも僕に恋をしてくれたから。
妻に乞い自分の国に連れ帰った。

彼女の名前はレーアと言って、黒い真っすぐな髪に黒い瞳をした美しい黒猫のような女の子で、まだ年は十七になったばかりだった。

人間の中でも幼く見えるその容姿にしばらく待つとも言ったのだけれど、レーアが真っ赤な顔をしながらその必要はないと言ったから、

「大事にする」

そう誓って夫婦になった。




王の座についた後は、長い事番を探すため責務を放棄していたせいで僕がやるべきこと、僕にしか出来ない事は山の様にあって。
せっかく同じ城の中にいるというのに彼女と過ごす時間はなかなか取れなかった。

それでも、僕はふと目が覚めたとき彼女が僕の隣で眠っていることがこの上なく幸せだった。






******

そうして一年が経つ頃だった。
侍女から彼女が何も食べ物を口にしない事、無理に口にしても戻してしまうとの報告を受けた。

悪阻かと尋ねれば、違うと呆れたような怒ったような声で返される。
医者を呼べば、彼女の主治医は彼女にはここの暮らしが合わず、心を病んでしまったのだと言った。
そうして医者は、彼女を死なせたくなければ早く彼女を解放しろと言う。


思いもかけない言葉に驚いて、いつの間にか酷くやせ細ってしまった彼女に問えば

『どうぞ離縁してください』

と、苦しそうにそんな意味の言葉のみを繰り返した。

「それは出来ない! 出来る事は何でもするから傍にいて欲しい!!」

そう懇願すれば、彼女は何も言わなかったが、その代わりに見る見るうちに体力は落ち、すぐに寝台から起き上がる事も出来なくなった。





「彼女を国に帰して下さい。もう一刻の猶予もありません!」

そう主治医に言われて、絶望の中で離縁に同意した。

彼女と引き離される事は体から心臓をえぐり取られるよりも苦しい。
でも彼女が生きてくれさえいれば、彼女の事を思いながら僕は生きていけると思った。

別れの時、彼女は涙を零しながら

「さよなら、エーヴェル」

と、それだけを口にした。

愛しているも、愛していたも、大嫌いも、憎んでいるとの言葉さえなかった。
ただ別れの言葉だけ。

それを聞いて。
番の本能の無い彼女にとっては、僕との関係は本当に終わってしまったものなのだという事が分かって。
僕は僕の前に広がる世界が真っ暗になって行くのを感じた。







******

それからまた一年近くが経って――
僕はようやく再び彼女の暮らす国を訪れることが出来た。

遠くから見えた彼女は初めて会った時より随分やせてしまっていたが、以前より少し大人びており、そして城にいた時よりも元気そうで心からホッとした。


声を掛けてよいものか、遠くから見守るに留めるべきか。
どうしようか迷った時だった。
彼女と同じくらいの年の男が気安くレーアに話しかけ、その肩を抱いた。

その瞬間、自分の番に他の男が触れる事の許しがたさに、全身の毛が逆立つ程の怒りを覚えた。

「僕の妻に触れるな!!!!」

行き成り駆け寄り、ひったくるようにして彼女を腕の中に抱き込んで、相手の男の目の前から隠した時だった。
久しぶりに感じたレーアの柔らかな熱を、狂おしいまでに僕の胸を焼く甘い番の香りを腕の中に感じ思ってしまった。

このまま他の男に渡してしまうくらいなら、誰かに彼女を取られてしまうくらいなら……。レーアを殺してしまう方が、ずっとましだと。

そして気づいてしまった。
僕と一緒に居る事でレーアが死んでしまうなら、彼女を見殺しにして自分も死ねばよかったのだと。


だから今度こそ、僕は嫌がる彼女を無理矢理攫った。
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