【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea

文字の大きさ
9 / 39
本編

魔法の回路

しおりを挟む
魔法を習う為、助けた黒猫と一緒にラーシュのお部屋にお邪魔することになりました。

ラーシュは他の冒険者達と同じように長期滞在が出来る宿屋の一室に住んでいるようで、狭い部屋の中にはベッドと椅子、そして数着の着替えとカバンが一つあるだけでした。


「座って」

そう言いながら。
ラーシュが助けた黒猫の為に水と用意していた魚の干物が入った器を部屋の隅に置きました。

子猫は部屋の中でしばらく鼻をヒクヒクさせていましたが、水とご飯には口を付けず、ベッドの上に飛び乗るとそのまま丸くなって寝てしまいました。




ラーシュにうながされるまま、ベッドの向かいにおいてある椅子に座れば。
狭い部屋故、膝を付き合わせる様にしてベッドにラーシュが座りました。

「とりあえず回復呪文だけ覚えようか」

ラーシュに言われ、それがいいと頷きます。

「じゃあ、手を重ねて」

しかし手袋を外したラーシュに手を差し出され、私は酷く戸惑いました。


彼が番であった私の事を、まだ強く求めていた頃の事です。
番の香りを無くした後、何かのきっかけで他意なく彼に触れようとした時、反射的に彼にその手を払われた事がありました。

もちろん、彼はそれほど強く叩いた訳ではありませんでしたし、自分がそんなことをしてしまった事に酷くショックを受けたようで。
何度も何度も謝って

「二度とこんなことしないから」

と、そう強く誓ってくれましたが……。
私は払われた手よりも心が痛くて仕方なかったことを今でも忘れられないのです。


そんな私の途惑いに気づいたのでしょう。
ラーシュが酷く申し訳なさそうな顔をした後

「じゃあ、レーアが手を出して」

と、そんな事を言い出しました。
ラーシュの言う通りにすれば、彼が優しく私の手にその大きく綺麗な手を重ねました。

久しぶり……というよりも、以前の記憶を無くした私としてはほぼ初めて感じる大好きなラーシュの少し低めの体温に、緊張のあまり息を詰めれば

「ちゃんと息して」

そう言ってラーシュが優しく苦笑します。

泣き出しそうな顔をした私の頬に触れようと、ラーシュが思わずその手を伸ばしましたのが分かりました。
しかし……。

ラーシュは結局そうすることなくその手を下ろすと、再びその手を私の手にそっと重ねたのでした。




「始めるよ。痛かったら言って」

思いもかけなかったラーシュの言葉に、何が起こるのかと思わず身を竦めます。
しかし私が感じたのは痛みではなく、触れあった手を通して体の中を暖かなお湯が巡るような心地のよい感覚で。

思わずホッと肩の力が抜けました。

「大丈夫だった? もう少し強くしても平気?」

ラーシュにそう問われて、良く分からないまま頷きます。

『もっと暖かくなるのかな?』

なんて、のほほんとした事を考えた時でした。

「っ?!」

不意にカラダに走った、よく分からない背筋がザワッとするくすぐったさに似た感覚に、思わずラーシュの手を離そうとした瞬間、彼に指を絡めるようにして手を握り込まれました。

「痛くはないだろう。『元』とは言え番だからな。相性は悪くないはずだ」

少しだけ低くなったラーシュの声に、いつもとは違う少し乱暴な言葉遣いに、海の様に綺麗な青い青い瞳に微かに混ざった金の光に。
何かいけないことをしているような気がしてやっぱり手を引こうとした瞬間

「あっ……」

まるで舌打ちをするかのように、小さく息を漏らしたラーシュにベロッと手首を舐められ、自分でも聞いた事が無いような甘い声が洩れました。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!

ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。 前世では犬の獣人だった私。 私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。 そんな時、とある出来事で命を落とした私。 彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。

【完結】番である私の旦那様

桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族! 黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。 バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。 オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。 気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。 でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!) 大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです! 神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。 前半は転移する前の私生活から始まります。

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない

三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた

玉菜きゃべつ
恋愛
 確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。  なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

もう何も信じられない

ミカン♬
恋愛
ウェンディは同じ学年の恋人がいる。彼は伯爵令息のエドアルト。1年生の時に学園の図書室で出会って二人は友達になり、仲を育んで恋人に発展し今は卒業後の婚約を待っていた。 ウェンディは平民なのでエドアルトの家からは反対されていたが、卒業して互いに気持ちが変わらなければ婚約を認めると約束されたのだ。 その彼が他の令嬢に恋をしてしまったようだ。彼女はソーニア様。ウェンディよりも遥かに可憐で天使のような男爵令嬢。 「すまないけど、今だけ自由にさせてくれないか」 あんなに愛を囁いてくれたのに、もう彼の全てが信じられなくなった。

処理中です...