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番外編 永遠の迷宮探索者 ~新月の伝承と竜のつがい~
11.秘密(sideテオドール)
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そんな真っ暗な感情に囚われ始めた時だった。
再び全く思いがけずドアが開いて、旅装束を纏ったレリアが飛び込んできた。
訳が分からずどうしたのかと尋ねれば。
彼女は僕と共に旅に出る為、急いで家に戻るとそのまま家族に別れを告げ、僕がこの街を離れてしまう前にと、慌てて身支度を整え戻って来たのだという。
「テオとずっと一緒にいたい」
そう言って。
初めてレリアが、自らの意思で僕の頬に触れた。
小さく暖かな彼女の手に初めて素手で触れれば、やはり触れられた頬同様、掌が酷く痛んだ。
しかし、やはり掌に焼け爛れたような傷はなくて……。
僕は、レリアに焼け爛れた皮膚を見せるような、怖い思いをさせてしまうような事態にならなかった事に安堵しつつ、この安堵に似た痛みが、このどうしようもない程に甘く苦しい執着心が、生涯消えてしまわない事を願った。
「怖かったら目をつぶってて」
そんないかにも耳障りの良い言葉で、醜悪な金に染まった瞳を見られぬよう彼女を言い含め、その細い肢体を真っ白なシーツの上に横たえた。
彼女に触れる度に走る痛みにどうしようもないくらい胸を焦がしながら、口を重ね、その行為の酩酊するような甘さに酔う。
レリアはただの人間だ。
だから番の本能など持たない。
だから……。
彼女が僕の体の下で破瓜の痛みに小さく声を上げるのを聞いた時、そんな彼女に僕と同じ痛みを少しでも刻めたような気がして。
もっと同じように僕に焦がれて欲しくて、酷くしてしまわないようにするのには、また酷く骨が折れた。
******
僕の最初で最後の妻となったレリアを、時の流れから攫うように迷宮の中に潜ってから、いったいどのくらいの時間が外の世界では流れたのだろう。
唯一無二の伴侶として恋い慕うように、いつの間にか深く深く愛するようになっていたレリアを腕の中に抱いて眠りに墜ちた僕は、随分久しぶりに香りの無い夢を見た。
僕の夢に出て来たのは、かつて僕が、命を賭して愛した人だった。
竜人であるにも関わらず、欠けている力を補いより強い存在へと導いてくれるという番の香りが分からない出来損ないの僕の孤独を、あの世界でたった一人理解し、受け入れてくれた人。
僕にとって誰よりも特別で、誰よりも大切だった人。
しかし、その人は、かつての主君の妻であり、その番であったから。
僕は香りが分からない事に囚われてばかりで、ずっと、本当はそうではないのだと自分自身で呪いの様に思い込んできたのだけれど……。
僕の欠陥を孤独を受け入れてくれた彼女は、そして圧倒的強者を恐れる本能をねじ伏せてまで彼女を守る為の立ち向かうだけの力くれた彼女もまた。
僕にとってまごうことなき番だったのだなと、僕は夢のなかでそんな事を思った。
******
「テオ?」
夢うつつのまま、窓から差し込む朝日をぼんやり眺めていた時だった。
不安そうな顔をしてレリアが僕に向かってその白く細い手を伸べたから。
僕は猫の様に自らその手に額を摺り寄せた。
すると……。
思った通りそこにはこれまで通りの痛みはもう無くて。
僕は番という名の呪いが本当に解けて消えてしまった事を知った。
「何か、哀しい夢を見たの?」
レリアの問いに、僕はしばらく考えた末、首を横に振った。
僕が見ていたのはきっと、幸せだった頃の感情だけが溶けた、ただただ酷く切ない夢。
「実は、まだ君に言っていなかった秘密があるんだ。聞いてくれるかな?」
本能に支配される哀れな獣としてではなく、信頼により愛を育むことが出来る誇り高き人として。
改めて僕を受け入れてくれた彼女に永久を誓おうと口を開いた僕のそんな思いを知ってか知らずか。
「いくらでも聞くわ。いったでしょう、私、竜のお話は大好きなの」
出会った頃より少し幼くなってしまったレリアは、出会った時よりもずっと大人びた表所をして、僕に向かってまたどうしようもなく甘く笑うのだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【勝手に後書き】
これにて全て完結となります。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
沢山の『お気に入り』『しおり』登録、本当にありがとうございました。
おかげさまで、Hotランニング25位まで行け、沢山の方に読んでいただく事が出来とても幸せでした。
既に完結済みのこの話ですが、もしよろしければ『また次何か書いたら読むよ』のサインの代わりに、引き続き『お気に入り』『しおり』入れていただけますと大変喜びます。
もしよろしければ、後学の為にご感想なども教えていただけると更に喜びます。
最後になりましたが、沢山あるお話の中、最後まで読んで下さり本当に本当にありがとうございました。
再び全く思いがけずドアが開いて、旅装束を纏ったレリアが飛び込んできた。
訳が分からずどうしたのかと尋ねれば。
彼女は僕と共に旅に出る為、急いで家に戻るとそのまま家族に別れを告げ、僕がこの街を離れてしまう前にと、慌てて身支度を整え戻って来たのだという。
「テオとずっと一緒にいたい」
そう言って。
初めてレリアが、自らの意思で僕の頬に触れた。
小さく暖かな彼女の手に初めて素手で触れれば、やはり触れられた頬同様、掌が酷く痛んだ。
しかし、やはり掌に焼け爛れたような傷はなくて……。
僕は、レリアに焼け爛れた皮膚を見せるような、怖い思いをさせてしまうような事態にならなかった事に安堵しつつ、この安堵に似た痛みが、このどうしようもない程に甘く苦しい執着心が、生涯消えてしまわない事を願った。
「怖かったら目をつぶってて」
そんないかにも耳障りの良い言葉で、醜悪な金に染まった瞳を見られぬよう彼女を言い含め、その細い肢体を真っ白なシーツの上に横たえた。
彼女に触れる度に走る痛みにどうしようもないくらい胸を焦がしながら、口を重ね、その行為の酩酊するような甘さに酔う。
レリアはただの人間だ。
だから番の本能など持たない。
だから……。
彼女が僕の体の下で破瓜の痛みに小さく声を上げるのを聞いた時、そんな彼女に僕と同じ痛みを少しでも刻めたような気がして。
もっと同じように僕に焦がれて欲しくて、酷くしてしまわないようにするのには、また酷く骨が折れた。
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僕の最初で最後の妻となったレリアを、時の流れから攫うように迷宮の中に潜ってから、いったいどのくらいの時間が外の世界では流れたのだろう。
唯一無二の伴侶として恋い慕うように、いつの間にか深く深く愛するようになっていたレリアを腕の中に抱いて眠りに墜ちた僕は、随分久しぶりに香りの無い夢を見た。
僕の夢に出て来たのは、かつて僕が、命を賭して愛した人だった。
竜人であるにも関わらず、欠けている力を補いより強い存在へと導いてくれるという番の香りが分からない出来損ないの僕の孤独を、あの世界でたった一人理解し、受け入れてくれた人。
僕にとって誰よりも特別で、誰よりも大切だった人。
しかし、その人は、かつての主君の妻であり、その番であったから。
僕は香りが分からない事に囚われてばかりで、ずっと、本当はそうではないのだと自分自身で呪いの様に思い込んできたのだけれど……。
僕の欠陥を孤独を受け入れてくれた彼女は、そして圧倒的強者を恐れる本能をねじ伏せてまで彼女を守る為の立ち向かうだけの力くれた彼女もまた。
僕にとってまごうことなき番だったのだなと、僕は夢のなかでそんな事を思った。
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「テオ?」
夢うつつのまま、窓から差し込む朝日をぼんやり眺めていた時だった。
不安そうな顔をしてレリアが僕に向かってその白く細い手を伸べたから。
僕は猫の様に自らその手に額を摺り寄せた。
すると……。
思った通りそこにはこれまで通りの痛みはもう無くて。
僕は番という名の呪いが本当に解けて消えてしまった事を知った。
「何か、哀しい夢を見たの?」
レリアの問いに、僕はしばらく考えた末、首を横に振った。
僕が見ていたのはきっと、幸せだった頃の感情だけが溶けた、ただただ酷く切ない夢。
「実は、まだ君に言っていなかった秘密があるんだ。聞いてくれるかな?」
本能に支配される哀れな獣としてではなく、信頼により愛を育むことが出来る誇り高き人として。
改めて僕を受け入れてくれた彼女に永久を誓おうと口を開いた僕のそんな思いを知ってか知らずか。
「いくらでも聞くわ。いったでしょう、私、竜のお話は大好きなの」
出会った頃より少し幼くなってしまったレリアは、出会った時よりもずっと大人びた表所をして、僕に向かってまたどうしようもなく甘く笑うのだった。
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【勝手に後書き】
これにて全て完結となります。
最後までお付き合い下さりありがとうございました。
沢山の『お気に入り』『しおり』登録、本当にありがとうございました。
おかげさまで、Hotランニング25位まで行け、沢山の方に読んでいただく事が出来とても幸せでした。
既に完結済みのこの話ですが、もしよろしければ『また次何か書いたら読むよ』のサインの代わりに、引き続き『お気に入り』『しおり』入れていただけますと大変喜びます。
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最後になりましたが、沢山あるお話の中、最後まで読んで下さり本当に本当にありがとうございました。
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