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第一章 最悪の別れと衝撃の出会い
六話
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「えーと、では、お手元の資料をご覧ください」
部長から渡されたバインダーの資料のコピーを麗音に渡すと、俺はバインダーの1枚目をめくった。
「まず、我が社の経営理念ですが……」
口が震える。
入社式以来目にするような文言の数々。
『我が虎居カンパニーは、何事にも挑戦(TRY)していくことをモットーに、皆様の生活を豊かにします』
日常の中で意識なんてしてこなかった理想的な言葉が、俺をなじる。
(やっぱり無理だ、こんな責任重大なこと……!)
「兎山先輩?」
顔を上げると、麗音がこちらを覗き込んでいた。
入念に手入れされた栗色の髪。
無垢に輝く亜麻色の瞳。
薄く開かれた、桜色の唇。
まるで美術品のようなその顔に見つめられ、俺は心臓が止まりそうだった。
「……っわ、悪い!えーと、どこまで説明したっけ」
バインダーをめくる俺を、麗音は手で制止した。
「先輩、この用紙の内容より、先輩が思うこの会社の魅力を教えてください!」
「……っえ゙!?」
なんてこと言うんだこいつ!
難易度が数倍に跳ね上がった。
「いや、有栖川、それもいいんだが、そもそも研修って言うのはだな」
「こんなどこにでもあるありきたりな言葉なんか皆忘れちゃいますよ、それより、兎山先輩がこの会社で働いてよかったところとか、そういう話を聞きたいです!」
麗音はぐい、と身を乗り出した。
「……分かった」
もうどうにでもなれ。
俺は腹をくくって、俺なりの研修を始めた。
部長から渡されたバインダーの資料のコピーを麗音に渡すと、俺はバインダーの1枚目をめくった。
「まず、我が社の経営理念ですが……」
口が震える。
入社式以来目にするような文言の数々。
『我が虎居カンパニーは、何事にも挑戦(TRY)していくことをモットーに、皆様の生活を豊かにします』
日常の中で意識なんてしてこなかった理想的な言葉が、俺をなじる。
(やっぱり無理だ、こんな責任重大なこと……!)
「兎山先輩?」
顔を上げると、麗音がこちらを覗き込んでいた。
入念に手入れされた栗色の髪。
無垢に輝く亜麻色の瞳。
薄く開かれた、桜色の唇。
まるで美術品のようなその顔に見つめられ、俺は心臓が止まりそうだった。
「……っわ、悪い!えーと、どこまで説明したっけ」
バインダーをめくる俺を、麗音は手で制止した。
「先輩、この用紙の内容より、先輩が思うこの会社の魅力を教えてください!」
「……っえ゙!?」
なんてこと言うんだこいつ!
難易度が数倍に跳ね上がった。
「いや、有栖川、それもいいんだが、そもそも研修って言うのはだな」
「こんなどこにでもあるありきたりな言葉なんか皆忘れちゃいますよ、それより、兎山先輩がこの会社で働いてよかったところとか、そういう話を聞きたいです!」
麗音はぐい、と身を乗り出した。
「……分かった」
もうどうにでもなれ。
俺は腹をくくって、俺なりの研修を始めた。
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