魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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道中

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 マカロン王都からシーベック間の移動には専用の駅馬車――都市間移動用の大型箱型馬車が使われており、街道の一定区画ごとに設けられたステージと呼ばれる各停車駅で馬を取り替えるついでに休憩を入れて街道を進み続ける。
 早朝に出発すれば翌日の正午には到達できる計算だ。
 これは乗り心地を優先してゆっくり進んだ場合で、揺れるのを承知で急行馬車をもちいればもっと早く到達できる。
 アヤネルは馬車を二台用意し、一台にはアヤネルとミーアが、もう一台には鬼一法眼が乗ることになった。
 護衛の必要はない。主要街道周辺は衛兵らが定期的に巡回や整備をおこなっており、治安が良いのだ。
 道中なにもすることのない鬼一は持参した初等レベルの呪文書をなんども読み返して内容を頭に叩き込む。
 こちらの世界の魔術を少しでも多く習得したいからだ。

「ロッシーナて国はあちこちにケンカを売っているな、まるで今の中国やロシア、昔のモンゴル帝国だ」

 呪文書以外にも歴史関係の本にも目を通していてそのような感想を抱いた。
 ロッシーナの侵攻を受け、魔法後進国ゆえ苦境に立たされる国はナーロッパ以外にも数多く存在した。それらの国々は急ぎ魔法魔術の軍事利用に着手し、魔術師を諸外国に対する戦力と考え、運用しだした。
 森の奥深くや荒野に隠棲し、正しい知恵と知識を伝え授ける賢者の時代は終わり、荒れ狂う魔力の時代がはじまったのだ。

「……魔法学園そのものはナーロッパ、マカロンが嚆矢こうしというわけではないみたいだな」

 平和的な〝賢者の学園〟はマカロン以前にもいくつかの国に存在したようだ。だがロッシーナの侵攻に対して有事の際には学院の生徒ら魔術師の卵たちですら戦力として導入されていったことが書に記されている。
 学徒出陣である。

「学生を動員するほど追い込まれての勝利……。このいくさはたがいに総力戦だったんだろうなぁ。しかし有志を募って、なんて書いてあるが、どこまで正確かわからんし、どんなあつかいを受けたのかも書いてない。動員された学生らを肉壁にされている間に後方を整えて……、とかそんな使われかたをされたりした可能性もある。独ソ戦のソ連みたいに銃はふたりに一丁とか、そういうレベルで――」
「キイチ」
「よく『入隊の日にコップ一杯の醤油を飲んでいけば検査で引っかかって家に帰される』なんて徴兵逃れの話を聞くが、これは誤りで、入隊じゃなくて入営。しかも当日にそんなことしても手遅れだし、コップ一杯ならやろうと思うとだれでもできる。正確には徴兵検査当日に醤油を一升飲むと死人同然の顔色になって兵隊に取られずにすむ。が正しいんだよな。もっともこれは都市伝説で、そんな詐術はすぐに見破られて厳罰にされたそうだが」
「ホーゲン!」
「いっそ自分自身に呪いをかけてめっちゃ重い病気にでも罹って検査を受ければ――」
「キイチ・ホーゲン!」
「しかし解せんな、この魔導兵団戦術書とやら。火や雷の魔術を使うだけで馬は恐慌状態になり騎兵は機能しなくなる。隊を組んでの弓兵や銃兵の一斉掃射も対抗呪文で防がれる。重装歩兵を並べての密集陣形も広範囲破壊呪文の的にしかならない。これはまぁ、わかる。だが魔術を使えない兵士が敵魔導兵掃討後の拠点制圧や兵站活動や後方支援にしか役に立たないとか、敵の魔導兵を相手に一般兵が立ち向かわなければならない状況というのは捨て駒か敗北が決定した時だけと書いてあるが、はたして本当にそうだろうか? 現にこの前のいくさでは――」
「キ~イ~チ~ホ~ゲ~ンッ!」
「そもそもこの本の内容は破壊魔術をもちいた個人レベルの戦闘にこだわりすぎだ。召喚呪文を使えば戦力を増やせるし、幻術を使えば容易く伏兵でき、魅了や混乱で同士討ちを誘えて、火と風を起こすだけで火計は成功する。それなのにわざわざ魔術師が最前線でドンパチ魔術バトルする意味なんて――」
「……雷火よ・煌めき・迸れ」

 アヤネルの指先から伸びた細い雷光が鬼一の鼻先をかすめて壁にあたって弾けた。

「あぶないじゃないか」
「無視するからよ! あてなかっただけでも感謝なさい。――ねぇ、あなた独学で魔術を習っているんですって?」
「ああ、入学までに少しでも多くのことを知りたいと思って。実践は無理でも知識としてこの世界の魔法・魔術について知っておきたい」
「そう……。ところであなた、今の【昏倒電圧スタン・ボルト】の呪文の詠唱節を四つに区切るとどうなるか知ってる? ルーン魔術は意識し、集中するだけではダメ。唱えるルーン語を変化させることでのみ術式は改変可能なの」
「ふむふむ」
「たとえば――雷火よ・群れなし・煌めき・迸れ」

 アヤネルの繊手せんしゅ10本の指先から放たれた10条の光が壁にあたって弾ける。
 続いて両手を拝むように合わせて前に突き出す。

「雷火よ・群れなし・疾く集え・煌めき・迸れ」

 太い雷光が放たれ、壁に焦げ跡を作る。太さだけではなく威力もまた通常のものより上がっているのは明らかだ。
 生身で当たれば痺れるだけではすまないだろう。

「どう? おなじ魔術、使用する魔力そのものは一緒でも節数や詠唱内容によって変化が生じるの」

 予期せぬ個人授業がはじまった。
 鬼一のいた世界における対人呪術戦というのは手持ちのカードでいかに勝つかにかかっていた。
 手札が足りなかったり弱かったとしても、組み合わせの妙や応用で勝敗は決まる。
 この手札、なにも実際の呪術に限ったことではない。
 知識も〝術〟だ。
 呪術者が数多の問題を解決するにあたり、その手段として呪術が有効なことは確かだが、それはあくまでも手段のひとつ、選択肢のひとつに過ぎない。
 大切なのは、より柔軟に対応する能力なのである。
 ある意味、呪術者が目的のために用いるのなら、剣だろうが銃だろうが、金銭や舌先三寸で人を動かそうが、なんであろうと「呪」なのである。
 呪術は奥が深く、幅が広いのだ。それも様々な方向に。
 この世界の魔術もまた、鬼一の目にはそのように映っていた。
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