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シーベック動乱
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「……おい、ありゃあなんだ?」
詰め所にいた港湾職員たちは外の光景に目を丸くした。
板金鎧の集団が列を作って行進しているのだ。
「パレードがあるなんて聞いてないぞ」
「いったいどこの国の兵隊だ、ありゃ」
「どこってそりゃあマカロンだろ」
「あんな時代遅れの鎧着た兵士なんているかよ」
「いやぁ、いるだろ。いいたかないが中央に比べてナーロッパは、特にマカロンは田舎だからよ」
「え~? いるかぁ?」
「じゃあなんだ、仮装行列だとでも?」
「ん? お、おいっ」
鎧の兵士が振るった鉄拳によって通行人のひとりの頭が熟れたトマトのように叩き潰される姿を目撃し、口々に意見していた職員たちは凍りついた。
「な……」
道行く人々に襲いかかる鎧たち。鎧らは武器を持っていないが、重装鎧の籠手はそれ自体が金属製の鈍器に等しい。
ボカリ、ぐしゃり、どかり、ぼがり、ぼぐり、ドブっ、ごぎゃん、ボズン、ボカリ、ぐきゃっ、――。
道行く人々を次々に撲殺。潮風漂う白日の下、血と脳漿と骨片がぶち撒けられてゆく。
「え、衛兵! 衛兵!」
「け、警備官だ。警備官を呼べ!」
助けを求めようと外へ出た職員の顔面がザクロのように弾ける。板金鎧の兵士が詰め所の中にいる職員らを肉の塊にするのに三分もかからなかった。
網の上に乗せたアワビとサザエが泡を吹いて焼けていくのを鬼一法眼が至福の表情で見つめている。
「ありがたい、ありがたい。こんな上等な海の幸が安値で手に入るんだから港町は最高だ」
「なにやら香ばしい匂いがすると思ったら、こんな場所で朝餉かね」
こんな場所。マカロン王家シーベック屋敷の庭の片隅で浜焼きをしている鬼一にマスターソンが声をかける。
「これはマスターソンさん、おはようございます」
「きみはこの前もただの魚の塩焼きを美味しそうに食べていたね。フライでもムニエルでも、王家に仕える者、ましてや騎士爵の地位が約束された君ならばもっと手の込んだ料理を味わえるはずだが、よほど粗食が好きなのかね」
「とんでもない、日本人にとってはこれがご馳走なんです」
「ニホンジンというのはずいぶん粗食なんだねぇ。――ん?」
買い出しに出ていたアヤネルお付きの侍女ミーアが大慌てで帰ってくるなり、正門である大きな鉄柵の扉と、その横の通用門にもあわただしく施錠している。
「いったいなにごとかね。戸締りするには早すぎないかい」
「鎧を着た集団が街で暴れてるんです! 警備官の人たちが早く安全な場所へ避難するようにって、だから――」
「……その鎧を着た集団というのは、ああいう連中のことかい」
「え?」
マスターソンが指さす先、施錠したばかりの鉄柵扉の前を板金鎧の一団が通り過ぎていく。
そのうちの何人かが足を止め、鉄柵に突進してきた。
「あ、あああっ、そうです! あの人たちです! あの人たちが街で大暴れしていて――」
耳をつんざく金属音にミーアの声がかき消される。
鉄柵扉を強引に突破した板金鎧たちが殺到してくる。
「招かれざる客には、お引き取り願いましょう」
狼藉者たちの前に立ちふさがったマスターソンが腕を一閃すると、板金鎧の肘関節部分に短剣が突き刺さっていた。
(介者剣法か! やるな、このじいさん。だがこの甲冑野郎ども、人ではない!)
介者剣法とは鎧兜を身につけた重装備の剣法、もしくは重装備の敵に対する剣法のことを差す。
腰を落として重心を低くして構え、自分の鎧の防御力を最大限に利用しつつ相手の鎧のすき間や下半身を狙って突いたり足を薙ぎ払うなどの攻撃をするものだ。
どんなに硬い鎧を身に着けていても肘や膝、首筋といった関節部分は守れないし、重い鎧を身に着けた状態で転倒すれば容易に立ち上がれない。
リアリティを軽視していたり、作り手の想像力が乏しい映像作品などではたまに鎧を着こんだ相手に剣で正面から斬りつけ、その一撃で相手が倒されるシーンが出てくるが、鎧を着ている限りそんなに簡単に倒されたりはしない。
そんな鎧ならいっそ着ないほうが身軽なだけ有利である。
板金鎧は一瞬だけ動きを止めたが、負傷した様子もなく腕を振るう。
「ぬぬっ」
「いかん、マスターソンさん。そいつらはリビングアーマーだ。中に人はいない」
リビングアーマー。
魔力によって動く生きた鎧。精霊や幽霊といった霊的存在が憑依して動くアンデッド・モンスターの場合もあるが、今回は魔術によって人工的に作られた魔法生物。ゴーレムタイプだと鬼一の見鬼は見抜いた。
「なんと、どうりで手応えがないわけだ」
どんな堅固な鎧を身につけていても、生身の人間ならつなぎ目狙いの刺突攻撃が有効だ。しかし相手が生身を持たない生きた鎧とあってはダガーでは効果が薄い。
一定以上の損傷を与えてやっと動きを止める生きた鎧相手にどう立ち向かうか――。
「ミーア、ホーゲンさん。ふたりは早くお嬢様のところへ!」
「は、はい!」
「いや、この数を相手にひとりでは骨が折れることだろう。俺にも多少の心得はある、加勢する」
鬼一は近くにあった薪割り用の斧をマスターソンに手渡すと、自身は素手でリビングアーマーの一団に立ち向った。
大振りな攻撃をかわしつつ踏み込んで掌打を放つ。
足の踏み込み、腰の回転、肩のひねりによって生じた力。そこへさらに全体重をくわえて一点に集中された一撃はリビングアーマーの厚い鉄板を穿ち、吹き飛ばす。
さらに打ちかかって来る二体のうち一体の腕を両手でつつみ、軽くひねると、耳障りな金属音を立てて本来ならば曲がらない方向に腕がひしゃげた。人ならば関節が破壊された痛みに悶絶しているところだろう。
そのまま体を揺らすと、いかなる力の作用なのか、リビングアーマーが右に左にと激しく振り回される。
等身大のモーニングスターと化した鎧で周りにいる鎧兵どもをなぎ倒す。
「おお、それらの技は魔闘術というやつかね!?」
魔闘術。
魔術による身体能力の強化の他、拳や脚に魔術を乗せ、打撃の瞬間に相手の体内で直接その魔力を爆発させる魔術師ならではの近接戦闘術。
魔力操作の技術がなければ使えず遠距離攻撃という魔術の利点を捨てることになるが、接近戦では絶大な威力を誇る。
魔術を兵器、魔法使いを兵士として実戦投入している国々ではこぞってこの使い手を登用、育成している。
「いや、ただの発勁と擒拿だ。そんな技は知らない」
武術はもっとも実践的な呪術魔術のひとつ。第十四代目・鬼一法眼そのような考えのもと幼い頃から鍛錬を重ねてきたのだ。
これが獣型のモンスターであったならまた話は変わってくるが、襲撃者が四肢を持った人型モンスターである以上、対人用の武術は大いに効果を発揮した。
「なんであれこのマスターソンも、まだまだ若い者に負けてはおられませんな!」
転倒して起き上がろうとしている鎧にむかって容赦なく手斧を叩き込み、破壊していく。
六体いたリビングアーマーはやがて動きを止め、ただの半壊した鎧と化した。
だが壊れた門のむこうから次々とリビングアーマーの集団が現れる――。
詰め所にいた港湾職員たちは外の光景に目を丸くした。
板金鎧の集団が列を作って行進しているのだ。
「パレードがあるなんて聞いてないぞ」
「いったいどこの国の兵隊だ、ありゃ」
「どこってそりゃあマカロンだろ」
「あんな時代遅れの鎧着た兵士なんているかよ」
「いやぁ、いるだろ。いいたかないが中央に比べてナーロッパは、特にマカロンは田舎だからよ」
「え~? いるかぁ?」
「じゃあなんだ、仮装行列だとでも?」
「ん? お、おいっ」
鎧の兵士が振るった鉄拳によって通行人のひとりの頭が熟れたトマトのように叩き潰される姿を目撃し、口々に意見していた職員たちは凍りついた。
「な……」
道行く人々に襲いかかる鎧たち。鎧らは武器を持っていないが、重装鎧の籠手はそれ自体が金属製の鈍器に等しい。
ボカリ、ぐしゃり、どかり、ぼがり、ぼぐり、ドブっ、ごぎゃん、ボズン、ボカリ、ぐきゃっ、――。
道行く人々を次々に撲殺。潮風漂う白日の下、血と脳漿と骨片がぶち撒けられてゆく。
「え、衛兵! 衛兵!」
「け、警備官だ。警備官を呼べ!」
助けを求めようと外へ出た職員の顔面がザクロのように弾ける。板金鎧の兵士が詰め所の中にいる職員らを肉の塊にするのに三分もかからなかった。
網の上に乗せたアワビとサザエが泡を吹いて焼けていくのを鬼一法眼が至福の表情で見つめている。
「ありがたい、ありがたい。こんな上等な海の幸が安値で手に入るんだから港町は最高だ」
「なにやら香ばしい匂いがすると思ったら、こんな場所で朝餉かね」
こんな場所。マカロン王家シーベック屋敷の庭の片隅で浜焼きをしている鬼一にマスターソンが声をかける。
「これはマスターソンさん、おはようございます」
「きみはこの前もただの魚の塩焼きを美味しそうに食べていたね。フライでもムニエルでも、王家に仕える者、ましてや騎士爵の地位が約束された君ならばもっと手の込んだ料理を味わえるはずだが、よほど粗食が好きなのかね」
「とんでもない、日本人にとってはこれがご馳走なんです」
「ニホンジンというのはずいぶん粗食なんだねぇ。――ん?」
買い出しに出ていたアヤネルお付きの侍女ミーアが大慌てで帰ってくるなり、正門である大きな鉄柵の扉と、その横の通用門にもあわただしく施錠している。
「いったいなにごとかね。戸締りするには早すぎないかい」
「鎧を着た集団が街で暴れてるんです! 警備官の人たちが早く安全な場所へ避難するようにって、だから――」
「……その鎧を着た集団というのは、ああいう連中のことかい」
「え?」
マスターソンが指さす先、施錠したばかりの鉄柵扉の前を板金鎧の一団が通り過ぎていく。
そのうちの何人かが足を止め、鉄柵に突進してきた。
「あ、あああっ、そうです! あの人たちです! あの人たちが街で大暴れしていて――」
耳をつんざく金属音にミーアの声がかき消される。
鉄柵扉を強引に突破した板金鎧たちが殺到してくる。
「招かれざる客には、お引き取り願いましょう」
狼藉者たちの前に立ちふさがったマスターソンが腕を一閃すると、板金鎧の肘関節部分に短剣が突き刺さっていた。
(介者剣法か! やるな、このじいさん。だがこの甲冑野郎ども、人ではない!)
介者剣法とは鎧兜を身につけた重装備の剣法、もしくは重装備の敵に対する剣法のことを差す。
腰を落として重心を低くして構え、自分の鎧の防御力を最大限に利用しつつ相手の鎧のすき間や下半身を狙って突いたり足を薙ぎ払うなどの攻撃をするものだ。
どんなに硬い鎧を身に着けていても肘や膝、首筋といった関節部分は守れないし、重い鎧を身に着けた状態で転倒すれば容易に立ち上がれない。
リアリティを軽視していたり、作り手の想像力が乏しい映像作品などではたまに鎧を着こんだ相手に剣で正面から斬りつけ、その一撃で相手が倒されるシーンが出てくるが、鎧を着ている限りそんなに簡単に倒されたりはしない。
そんな鎧ならいっそ着ないほうが身軽なだけ有利である。
板金鎧は一瞬だけ動きを止めたが、負傷した様子もなく腕を振るう。
「ぬぬっ」
「いかん、マスターソンさん。そいつらはリビングアーマーだ。中に人はいない」
リビングアーマー。
魔力によって動く生きた鎧。精霊や幽霊といった霊的存在が憑依して動くアンデッド・モンスターの場合もあるが、今回は魔術によって人工的に作られた魔法生物。ゴーレムタイプだと鬼一の見鬼は見抜いた。
「なんと、どうりで手応えがないわけだ」
どんな堅固な鎧を身につけていても、生身の人間ならつなぎ目狙いの刺突攻撃が有効だ。しかし相手が生身を持たない生きた鎧とあってはダガーでは効果が薄い。
一定以上の損傷を与えてやっと動きを止める生きた鎧相手にどう立ち向かうか――。
「ミーア、ホーゲンさん。ふたりは早くお嬢様のところへ!」
「は、はい!」
「いや、この数を相手にひとりでは骨が折れることだろう。俺にも多少の心得はある、加勢する」
鬼一は近くにあった薪割り用の斧をマスターソンに手渡すと、自身は素手でリビングアーマーの一団に立ち向った。
大振りな攻撃をかわしつつ踏み込んで掌打を放つ。
足の踏み込み、腰の回転、肩のひねりによって生じた力。そこへさらに全体重をくわえて一点に集中された一撃はリビングアーマーの厚い鉄板を穿ち、吹き飛ばす。
さらに打ちかかって来る二体のうち一体の腕を両手でつつみ、軽くひねると、耳障りな金属音を立てて本来ならば曲がらない方向に腕がひしゃげた。人ならば関節が破壊された痛みに悶絶しているところだろう。
そのまま体を揺らすと、いかなる力の作用なのか、リビングアーマーが右に左にと激しく振り回される。
等身大のモーニングスターと化した鎧で周りにいる鎧兵どもをなぎ倒す。
「おお、それらの技は魔闘術というやつかね!?」
魔闘術。
魔術による身体能力の強化の他、拳や脚に魔術を乗せ、打撃の瞬間に相手の体内で直接その魔力を爆発させる魔術師ならではの近接戦闘術。
魔力操作の技術がなければ使えず遠距離攻撃という魔術の利点を捨てることになるが、接近戦では絶大な威力を誇る。
魔術を兵器、魔法使いを兵士として実戦投入している国々ではこぞってこの使い手を登用、育成している。
「いや、ただの発勁と擒拿だ。そんな技は知らない」
武術はもっとも実践的な呪術魔術のひとつ。第十四代目・鬼一法眼そのような考えのもと幼い頃から鍛錬を重ねてきたのだ。
これが獣型のモンスターであったならまた話は変わってくるが、襲撃者が四肢を持った人型モンスターである以上、対人用の武術は大いに効果を発揮した。
「なんであれこのマスターソンも、まだまだ若い者に負けてはおられませんな!」
転倒して起き上がろうとしている鎧にむかって容赦なく手斧を叩き込み、破壊していく。
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