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シーベック動乱 8
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シーベック総督府の地下にはバンカーと呼ばれる抗魔シェルター機能を備えた危機管理センターが存在する。
「これはあかんこれはあかん、これはあかんでぇ」
側近たちとともにこの最後の砦に立てこもったチャイ・マンガナ総督が頭を抱えてつっぷする間にも銃も剣も魔術も効かないアダマント鋼を加工して造られた魔鋼鉄のゴーレム『スターリ・ルイーツァリ』に搭乗したカルサコフによって総督府は陥落寸前にまで追い詰められていた。
「なんでや~、なんでわいの任官期間中にこないなことがおこんねんっ!」
商工ギルドが実権をにぎっているシーベックでは国から派遣された総督などにさしたる力はない。それでも庶民から見ればじゅうぶん贅沢な暮らしができ、無茶な散財をしなければ任官を終える頃にはひと財産もふた財産を作れる。
野心も才覚もないが安穏で豊かな生活を求める者たちにとっては垂涎の官職だ。
方々に根回しをしてこの地位に就いたチャイ・マンガナ総督だったが、いまはわが身の不幸を嘆くのみだった。
壁につけられた遠目の水晶板には表の映像が、魔力障壁を強引に突破しようとしているカルサコフの姿が映っている。
「袋の鼠になった気分はどうだ、ブルジョワども!」
施設に備わった集音機能がカルサコフの声をバンカー内に伝える。
「――寒波に襲われた牧場で羊の凍死を防ぐために努力をかさねる牧場主や、子どもたちに教育と道徳を教える神官や僧侶、自分の店を持つために一日の三分の二以上の時間を家族で働く移民――そういった平凡な市民たちがことごとく死に絶えた後も、貴様ら富裕層どもはそこで安全に生き残れるというわけか」
「……は? なんやねん、なんやねん、なにいうてんねん!」
「空気浄化装置もフル稼働し、プールもBARも劇場も兼ねそろえた安全な場所で余生を過ごすつもりか」
「な、なんやねん。王城やあるまいし、ここにそんなんあるわけないやろ。なに言うてんねん、アホか!」
「毎晩のように華やかなパーティを開き、贅の限りを尽くしたドレスや装飾品で飾り立て豪華な料理に囲まれて、舞踏にあけくれる。その日の食事にすら事欠く多くの民衆とはかけ離れた生活をする富裕層ども!」
「ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃいまんがな! わては朝から晩まで銭勘定に大忙しや! 事務職は大変なんでっせ!」
「――平凡な市民に重税を課して富を貪る強欲で傲慢な官僚、無能な政治家、欲得しか考えない悪徳商人たちがのさばる堕落と腐敗の巣窟を、このカルサコフが粛清する!」
「キ印や~、キチキチやんけ、こいつ~」
恨み、辛み、妬み、嫉み、憎、怒、忌、呪、滅、殺、怨――。
カルサコフの全身からはありとあらゆる負の感情が実体を持った【呪詛】となってにじみ出ているかのようだったが、なによりも強く感じられたのは狂気と妄想。
襲撃者はそのふたつに囚われた異常者だということを、チャイ・マンガナ総督はいやでも実感した。
「その平凡な市民を数多く犠牲にした、あなたの凶行もここまでよ!」
「……なんだ、きさまらは」
いつの間にか大勢の人々がカルサコフの背後をかこんでいた。
街の警備官や衛兵たちだ。
彼らの先頭に立っているのは武装した少女。
紅玉のように赤く艶やかな髪に蒼玉のように燦然と輝く瞳、白磁の肌を怒気で赤く染めたマカロンの美姫アヤネルが高らかに声をあげる。
「その言い分、なにやら不幸な生い立ちがあるみたいだけど、自分が不幸だからといって他人を不幸にするような道理はないわっ!」
「…………」
カルサコフの目がアヤネルの身につけた硬革鎧の意匠をじっと見る。見覚えのある印、マカロン王家の紋章。つまり、この少女は王家に連なる者。すなわち――。
「富裕層……」
破壊と殺戮に酔いしれ、内に秘めていた妄執に突き動かされている彼の目には、彼女もまた粛清すべき対象にしか見えなかった。
カルサコフは鋼の巨体を揺り動かし、悠々たる足取りでアヤネルを目指す。
四メートルを軽く超える巨人が一歩一歩と近づいて来る威圧感と恐怖は筆舌に尽くしがたい。
周囲の警備官らは思わず数歩後ずさる。豪胆なアヤネルでさえ気圧されて半歩後ずさった。
だが、それで耐えた。高貴なる者の義務感が彼女を踏みとどめたのだ。
「これはまたやっかいな相手だな」
アヤネルの半歩前、まったく動じす臆せず後ずさらなかった鬼一法眼がつぶやいた。
「これはあかんこれはあかん、これはあかんでぇ」
側近たちとともにこの最後の砦に立てこもったチャイ・マンガナ総督が頭を抱えてつっぷする間にも銃も剣も魔術も効かないアダマント鋼を加工して造られた魔鋼鉄のゴーレム『スターリ・ルイーツァリ』に搭乗したカルサコフによって総督府は陥落寸前にまで追い詰められていた。
「なんでや~、なんでわいの任官期間中にこないなことがおこんねんっ!」
商工ギルドが実権をにぎっているシーベックでは国から派遣された総督などにさしたる力はない。それでも庶民から見ればじゅうぶん贅沢な暮らしができ、無茶な散財をしなければ任官を終える頃にはひと財産もふた財産を作れる。
野心も才覚もないが安穏で豊かな生活を求める者たちにとっては垂涎の官職だ。
方々に根回しをしてこの地位に就いたチャイ・マンガナ総督だったが、いまはわが身の不幸を嘆くのみだった。
壁につけられた遠目の水晶板には表の映像が、魔力障壁を強引に突破しようとしているカルサコフの姿が映っている。
「袋の鼠になった気分はどうだ、ブルジョワども!」
施設に備わった集音機能がカルサコフの声をバンカー内に伝える。
「――寒波に襲われた牧場で羊の凍死を防ぐために努力をかさねる牧場主や、子どもたちに教育と道徳を教える神官や僧侶、自分の店を持つために一日の三分の二以上の時間を家族で働く移民――そういった平凡な市民たちがことごとく死に絶えた後も、貴様ら富裕層どもはそこで安全に生き残れるというわけか」
「……は? なんやねん、なんやねん、なにいうてんねん!」
「空気浄化装置もフル稼働し、プールもBARも劇場も兼ねそろえた安全な場所で余生を過ごすつもりか」
「な、なんやねん。王城やあるまいし、ここにそんなんあるわけないやろ。なに言うてんねん、アホか!」
「毎晩のように華やかなパーティを開き、贅の限りを尽くしたドレスや装飾品で飾り立て豪華な料理に囲まれて、舞踏にあけくれる。その日の食事にすら事欠く多くの民衆とはかけ離れた生活をする富裕層ども!」
「ちゃ、ちゃ、ちゃ、ちゃいまんがな! わては朝から晩まで銭勘定に大忙しや! 事務職は大変なんでっせ!」
「――平凡な市民に重税を課して富を貪る強欲で傲慢な官僚、無能な政治家、欲得しか考えない悪徳商人たちがのさばる堕落と腐敗の巣窟を、このカルサコフが粛清する!」
「キ印や~、キチキチやんけ、こいつ~」
恨み、辛み、妬み、嫉み、憎、怒、忌、呪、滅、殺、怨――。
カルサコフの全身からはありとあらゆる負の感情が実体を持った【呪詛】となってにじみ出ているかのようだったが、なによりも強く感じられたのは狂気と妄想。
襲撃者はそのふたつに囚われた異常者だということを、チャイ・マンガナ総督はいやでも実感した。
「その平凡な市民を数多く犠牲にした、あなたの凶行もここまでよ!」
「……なんだ、きさまらは」
いつの間にか大勢の人々がカルサコフの背後をかこんでいた。
街の警備官や衛兵たちだ。
彼らの先頭に立っているのは武装した少女。
紅玉のように赤く艶やかな髪に蒼玉のように燦然と輝く瞳、白磁の肌を怒気で赤く染めたマカロンの美姫アヤネルが高らかに声をあげる。
「その言い分、なにやら不幸な生い立ちがあるみたいだけど、自分が不幸だからといって他人を不幸にするような道理はないわっ!」
「…………」
カルサコフの目がアヤネルの身につけた硬革鎧の意匠をじっと見る。見覚えのある印、マカロン王家の紋章。つまり、この少女は王家に連なる者。すなわち――。
「富裕層……」
破壊と殺戮に酔いしれ、内に秘めていた妄執に突き動かされている彼の目には、彼女もまた粛清すべき対象にしか見えなかった。
カルサコフは鋼の巨体を揺り動かし、悠々たる足取りでアヤネルを目指す。
四メートルを軽く超える巨人が一歩一歩と近づいて来る威圧感と恐怖は筆舌に尽くしがたい。
周囲の警備官らは思わず数歩後ずさる。豪胆なアヤネルでさえ気圧されて半歩後ずさった。
だが、それで耐えた。高貴なる者の義務感が彼女を踏みとどめたのだ。
「これはまたやっかいな相手だな」
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