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シーベック動乱 10
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スターリ・ルイーツァリが魔鋼鉄の鉄拳鉄脚を振り回す。その様はまさに鋼の旋風。
だが鬼一法眼にはかすりもしない。まるで風に揺れる柳葉や波に乗って漂う水草かのように、鬼一はするりするりと回避する。
ゲオルグ将軍との戦いで見せた風身の動きである。
「この異様な動きに先程の奇妙な技と剃りあげた頭……。噂に聞く東方の武僧か?」
徒手空拳の戦闘術に長けた武僧の中でも特に東方には魔術と似て非なる気功術を使う集団がいる。
カルサコフは鬼一の奇妙な体術からそう推測した。
「目標固定、ホーミング効果ON、鉄拳射出装置起動、発射!」
破城鎚や大砲の如く猛烈な勢いで撃ち出されたふたつの鉄の拳を紙一重で避けるも、数メートル先で旋回し、ふたたび鬼一に迫る。
「だがいかなる体術を身につけていようが、しょせんは生身の人間。動き続けている限り、かならず疲労する」
自動追尾効果により延々と狙い続けてくる鉄拳をどこまでかわすことができるか。
右に避け、左に躱し、地を蹴り、宙を舞い、ときに走る。
走る、走る、走る――。
「距離を取るつもりか。たしかに射出した鉄拳の操作範囲には限りがあるが、こちらもこうして距離をつめれば無意味だぞ」
総督府内から街中へと戦いの場が移る。
鬼一を10メートル間隔で追い詰め、隙をうかがうカルサコフ。
動きが鈍った時を見計らい攻撃するつもりだ。どのような術を使おうか、見定めていると、鬼一は様子を見ているカルサコフにむかっていきなり駆け出した。
「なにぃ!?」
速い。
ほとんど一瞬で目前に迫られた。
「【短距離瞬間移動】か!? おのれ、魔導士級の魔法を使うとはッ!」
否。
鬼一は転移系のルーン魔術・魔法を用いたのではない。
縮地を用いたのだ。
仙術ではなく、武術としての縮地の術を。
仙術の縮地とは地脈を縮め長距離をわずかな時間で移動する術だ。では武術としての縮地とは?
瞬時に相手との間合いをつめたり、相手の死角に入り込む体さばきを縮地と呼ぶ。
手足をもって動かずに動く。
手先や足先で動くのではなく、身体全体を駆使して動く。
身体の全体が連動しており、特定の部位が目標に向かっているわけではないので相手はその動きを認識できず、目には消えたように映る特殊な動作のことをさし、日本の武術にも『無足之法』という似たような技術が存在する。
「ウラーッ!」
カルサコフは目の前の鬼一に反射的に攻撃した。
先端の取れた腕で放った大振りの攻撃は簡単に避けられた。それどころかそれを足場に素早くかけ登ってくる。
まるで猫科の猛獣か猿のような人間離れした動きは軽功のなせる技。
頸部のつなぎ目に切り上げ気味の刺突を入れて即座に離脱。
人間ならば致命傷となる部分への攻撃にカルサコフの視界が、モニターの映像が乱れる。
『――メインカメラ損傷――バランサー低下――』
「まだだ、たかがメインカメラをやられただけ――ブゥハァッ!?」
おのれを鼓舞した瞬間、強い衝撃に襲われる。
鬼一を狙い、追尾していた飛翔鉄拳がカルサコフを、ルイーツァリを撃った。
誤作動を起こしたわけではない。たんに鬼一が命中する寸前に避けたため、射線の急変更ができずその場にいたルイーツァリの巨体に命中しただけだ。
『――損傷率18パーセント――被ダメージ小破――戦闘続行問題なし――ただし自己修復機能では全体の○○までしか回復できません――』
「……お、おのれ……」
ルイーツァリ本体と拳に付与された同種の防性魔術は効果を相殺し、魔術によるダメージ減少効果は発動しなかった。
機体はまだいい。だが破城鎚に匹敵するふたつの鉄拳による打撃による衝撃で、内部にいたカルサコフは全身を強く打ち、数秒間朦朧状態におちいる。
そこに――。
「神の大喝あれ!」
どこからかウェンディの呪文詠唱が響く。
神聖魔術【神気霊弾】。局所的に収束する気弾を放ち目標を吹き飛ばす呪文だが、狙いはカルサコフではなく、その頭上。
大きな樽が見えざる力にあおられ、ルイーツァリに落下。中身がぶちまけられた。
独特の臭気が立ち込める。
「なんだこれは……、鯨油?」
「雷火よ・煌めき・迸れ!」
アヤネルの指先から放たれた【昏倒電圧】の電線が地面に火花を生じさせた。周囲を濡らす鯨油に火が点き、ルイーツァリの巨体にも燃え広がる。
「ぐおおおおッッッ!?」
「神の大喝あれ!」
アヤネルはさらに続けて鯨油入りの樽を落として火勢を強める。
鬼一はルイーツァリの飛翔鉄拳から闇雲に逃げ回っていたわけではない。
港湾労働者たちにまざっての荷運び作業でこの場所に鯨油樽があることは知っていた。
総督府でルイーツァリの姿をひと目見た時から剣や魔術呪術で倒すのは困難と考え、鯨油入りの樽が多数置かれた荷物置き場に誘導して先回りしていたアヤネルと協力してこうして火計をくわだてたのだ。
アダマント鋼によって造られた魔鋼鉄のゴーレムがこの程度の火で燃え尽きることはないだろう。
だが中にいる人はどうか。
延焼による高熱で蒸し殺されるか、酸欠によって窒息させることができるはずだ。
はたして鬼一法眼の策は成功したのか否か――。
だが鬼一法眼にはかすりもしない。まるで風に揺れる柳葉や波に乗って漂う水草かのように、鬼一はするりするりと回避する。
ゲオルグ将軍との戦いで見せた風身の動きである。
「この異様な動きに先程の奇妙な技と剃りあげた頭……。噂に聞く東方の武僧か?」
徒手空拳の戦闘術に長けた武僧の中でも特に東方には魔術と似て非なる気功術を使う集団がいる。
カルサコフは鬼一の奇妙な体術からそう推測した。
「目標固定、ホーミング効果ON、鉄拳射出装置起動、発射!」
破城鎚や大砲の如く猛烈な勢いで撃ち出されたふたつの鉄の拳を紙一重で避けるも、数メートル先で旋回し、ふたたび鬼一に迫る。
「だがいかなる体術を身につけていようが、しょせんは生身の人間。動き続けている限り、かならず疲労する」
自動追尾効果により延々と狙い続けてくる鉄拳をどこまでかわすことができるか。
右に避け、左に躱し、地を蹴り、宙を舞い、ときに走る。
走る、走る、走る――。
「距離を取るつもりか。たしかに射出した鉄拳の操作範囲には限りがあるが、こちらもこうして距離をつめれば無意味だぞ」
総督府内から街中へと戦いの場が移る。
鬼一を10メートル間隔で追い詰め、隙をうかがうカルサコフ。
動きが鈍った時を見計らい攻撃するつもりだ。どのような術を使おうか、見定めていると、鬼一は様子を見ているカルサコフにむかっていきなり駆け出した。
「なにぃ!?」
速い。
ほとんど一瞬で目前に迫られた。
「【短距離瞬間移動】か!? おのれ、魔導士級の魔法を使うとはッ!」
否。
鬼一は転移系のルーン魔術・魔法を用いたのではない。
縮地を用いたのだ。
仙術ではなく、武術としての縮地の術を。
仙術の縮地とは地脈を縮め長距離をわずかな時間で移動する術だ。では武術としての縮地とは?
瞬時に相手との間合いをつめたり、相手の死角に入り込む体さばきを縮地と呼ぶ。
手足をもって動かずに動く。
手先や足先で動くのではなく、身体全体を駆使して動く。
身体の全体が連動しており、特定の部位が目標に向かっているわけではないので相手はその動きを認識できず、目には消えたように映る特殊な動作のことをさし、日本の武術にも『無足之法』という似たような技術が存在する。
「ウラーッ!」
カルサコフは目の前の鬼一に反射的に攻撃した。
先端の取れた腕で放った大振りの攻撃は簡単に避けられた。それどころかそれを足場に素早くかけ登ってくる。
まるで猫科の猛獣か猿のような人間離れした動きは軽功のなせる技。
頸部のつなぎ目に切り上げ気味の刺突を入れて即座に離脱。
人間ならば致命傷となる部分への攻撃にカルサコフの視界が、モニターの映像が乱れる。
『――メインカメラ損傷――バランサー低下――』
「まだだ、たかがメインカメラをやられただけ――ブゥハァッ!?」
おのれを鼓舞した瞬間、強い衝撃に襲われる。
鬼一を狙い、追尾していた飛翔鉄拳がカルサコフを、ルイーツァリを撃った。
誤作動を起こしたわけではない。たんに鬼一が命中する寸前に避けたため、射線の急変更ができずその場にいたルイーツァリの巨体に命中しただけだ。
『――損傷率18パーセント――被ダメージ小破――戦闘続行問題なし――ただし自己修復機能では全体の○○までしか回復できません――』
「……お、おのれ……」
ルイーツァリ本体と拳に付与された同種の防性魔術は効果を相殺し、魔術によるダメージ減少効果は発動しなかった。
機体はまだいい。だが破城鎚に匹敵するふたつの鉄拳による打撃による衝撃で、内部にいたカルサコフは全身を強く打ち、数秒間朦朧状態におちいる。
そこに――。
「神の大喝あれ!」
どこからかウェンディの呪文詠唱が響く。
神聖魔術【神気霊弾】。局所的に収束する気弾を放ち目標を吹き飛ばす呪文だが、狙いはカルサコフではなく、その頭上。
大きな樽が見えざる力にあおられ、ルイーツァリに落下。中身がぶちまけられた。
独特の臭気が立ち込める。
「なんだこれは……、鯨油?」
「雷火よ・煌めき・迸れ!」
アヤネルの指先から放たれた【昏倒電圧】の電線が地面に火花を生じさせた。周囲を濡らす鯨油に火が点き、ルイーツァリの巨体にも燃え広がる。
「ぐおおおおッッッ!?」
「神の大喝あれ!」
アヤネルはさらに続けて鯨油入りの樽を落として火勢を強める。
鬼一はルイーツァリの飛翔鉄拳から闇雲に逃げ回っていたわけではない。
港湾労働者たちにまざっての荷運び作業でこの場所に鯨油樽があることは知っていた。
総督府でルイーツァリの姿をひと目見た時から剣や魔術呪術で倒すのは困難と考え、鯨油入りの樽が多数置かれた荷物置き場に誘導して先回りしていたアヤネルと協力してこうして火計をくわだてたのだ。
アダマント鋼によって造られた魔鋼鉄のゴーレムがこの程度の火で燃え尽きることはないだろう。
だが中にいる人はどうか。
延焼による高熱で蒸し殺されるか、酸欠によって窒息させることができるはずだ。
はたして鬼一法眼の策は成功したのか否か――。
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