魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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シーベック動乱 11

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「耐火の護りあれ!」

 火炎による熱で肺と喉が灼ける前に、延焼によって窒息する前に唱えた【耐火レジスト・ファイア】によってカルサコフは炎の害から逃れることに成功した。
 炎熱、冷気、雷撃などの各種エネルギー属性のダメージを軽減ないし無効化する対抗魔術カウンター・スペルのひとつで、物理的防御力は無いものの魔術による作用以外にも効果が発揮されるため汎用性は高い。
 たとえば炎天下の日射病対策や日焼け止めに使用したり、極寒での凍死も防げる。冬場の静電気対策にも使えることだろう。
 どの程度まで軽減できるかは術者の腕によるが、一流の使い手ともなれば燃え盛る炎の海の中でも自由に行動できる。
 全身を炎につつまれていても、カルサコフにはなんのダメージもなかった。

「くだらぬ小細工を! この程度の炎などなんの意味もないわ!」

 炎はむしろカルサコフの闘志を猛らせたようだ。火だるまと化した身体で鬼一法眼きいちほうげんに猛然と打ちかかる。

「うわっ、あちちちッ!?」

 紙一重で避けようものならまとった火焔に炙られる始末。
 水剋火。
 水行術で火気を抑えていなければたちまち焼かれてしまう事だろう。
 まるで炎の衣をまとい、術者の周囲の者を火炎で攻撃する【火炎戎衣フレイム・クローク】でもかかったかのようだ。
 蒸気機関が熱を利用して動くように、熱というのは力を発生させるための重要な要素である。
 スターリ・ルイーツァリにはそのような機能はないが、カルサコフ自身の精神は炎により昂り、火炎の勢いに後押しされたかたちで猛進する。

「ニチェボー! 炎を身にまとう。これは案外良いアイディアかもな」

 壁面に追い込まれた鬼一は熱気に辟易しつつ攻撃を的確に避ける。ルイーツァリの殴った壁に亀裂が生じた。

「……油をまいて火を点ける。いい考えだと思ったんだが、火そのものを剋する魔術があるとはね。やはりこの国の魔術について学院に入ってきちんと学ぶ必要があるな」

 鬼一はそのまま壁際を移動し、ふたたび追走劇がはじまった。

「キイチとかいう東方人、おまえとの戦闘は良いデータが取れるが、そろそろおしまいにしようじゃないか」

 炎などなんの意味もない。
 そう断言したカルサコフではあるが、炎熱によって外部センサー機能がいちじるしく低下していた。
 センサーはメインカメラで見えない部分を補正して可視化する重要な機能だ。ただでさえ先ほどの一撃でメインカメラは破損し、モニターに映る外部の映像は不鮮明になっている。
 当然命中率も低下する。

「こちらの命中率が落ちたのなら、相手の回避力を下げればいい」

 センサー機能の低下により雑になってはいるが、周囲の地形がモニターに映し出されていた。

「このまま追い詰めていけば袋小路だ。せまい空間に押し込めれば自慢の体術で避けることもできまい。詰みだ、キイチ・ホーゲン」

 鬼一はカルサコフの思惑通りに、徐々に徐々にせまい路地へと追い込まれていく。
 だが鬼一にもシーベックの土地鑑はある。だからこそカルサコフを倉庫街におびき寄せて油をまいて火を点けることができたのだ。
 それがなぜ、みずから不利になる場所へと誘導されるのか?
 鬼一にはまだ一計があった。
 行き止まりに、たどり着く。

「これで終わりだ。ウラー!」

 ルイーツァリによる全力の体当たり。
 前方を塞ぐ壁と後方から迫る鉄塊にはさまれ、押し潰される寸前――。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・バヤベイソワカ!」

 鬼一は真言を唱えつつ跳躍した。

「なんだと!」

 古代インドのヴェーダ神話における風の神ヴァーユ。また十二天のひとつでもある風天の真言。
 それは風を自由に操るしゅ
 巻き起こる猛烈な突風が鬼一の身を木の葉のように宙に舞わせ、放物線を描いてルイーツァリの頭上を跳びこした。
 目標を失った鉄の巨体は壁に直撃し、派手な衝突音を響かせる。
 壁一面に蜘蛛の巣状の亀裂が走る。

「ちぃっ、味な真似を!」

 これではまた追いかけっこの繰り返しだ。
 カルサコフは焦燥は駆られた。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・バヤベイソワカ!」

 だが鬼一は遁走せずにふたたび風天真言を唱える。
 その手から爆発的な風が生まれ、ルイーツァリに放たれる。

「無駄な足掻きを! この程度の風では時間稼ぎにもならんぞ!」

 駆け流れる強風は風の壁となってルイーツァリを圧迫している。だがこの魔鋼鉄のゴーレムの重量と剛力をもってすれば吹き飛ばすことはおろか押し倒すことすらできない。せいぜい歩みを遅くする、進行速度を落とすことくらいだ。

「……なにかの時間稼ぎか?」

 だが周囲に援軍らしき気配は感じられない。

「なぜだ、なぜ逃げずにこのような真似を……最後の悪あがきか?」
 
 一歩、一歩、気流に逆らい鬼一ににじり寄る。

 一歩。

 みしり。

 一歩。

 みしりみしり。

 一歩。

 みしみしみし――。
 もう一歩。
 もう一歩の距離でルイーツァリの鉄腕の間合いに入る。

「……肥え太り腐りきったこの街の敗北主義者どもとちがい最後まで立ち向かったのは評価しよう。だが、これはなんだ? なんの意味があってこのような真似を――」

 みしみしみし――ミシミシミシミシィィィッッッ!!

 壁が、堤防が決壊し、大量の海水が流れ込む。

「――――ッ!?」

 いかな鋼鉄の巨人もこの海嘯のごとき圧倒的な水量、水圧にはひとたまりもない。
 叫び声を上げるいとまもなくカルサコフは瀑布に押し流され、荒れ狂う濁流の中に没した。
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