魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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ファリクス邸の怪 2

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 錆の浮いた門の先には古色蒼然とした屋敷が悠然とそびえ立っていた。
 くすんだレンガの壁一面に蜘蛛の巣のように蔦が絡まり、門から玄関までの路は雑草で生い茂っており、かつては清水を湛えていただろう池はどす黒い泥水が溜まっている。

「なかなか侘びた風情のたたずまいじゃないか。この野趣あふれる庭も気に入った。少し手を入れれば良い菜園になりそうだ」
「それはようございました騎士爵様。どうぞごゆっくりご見分ください。では、わたくしはこれで……」

 マカロン王国行政庁勤めの役人は鬼一法眼きいちほうげんに書類の束といくつかの鍵を渡してそそくさと立ち去ろうとする。

「おい、ちょっと待て。中の造りについて口頭で説明して廻らないのか。客と内見は必須だろ」
「この館に関する情報はすべてその書類にまとめてあります。なにか不明なことがございましたら連絡してください」
「噂の幽霊については書かれていないようだが、本当に出るのかな」
「そ、それは……」
「俺の聞いた噂では30年以上前にこの家に住んでいた貴族の一人息子に不幸があり、心を病んだ貴族は他所に引っ越し。それ以降、この家では怪奇現象が多発して買い手がつかないとかなんとか……。それは事実なのかな?」
「はい、おっしゃるとおりです。売却を繰り返した結果、所有者も相続人もいなくなり国有財産である土地とみなされて、わたくしどもが管理することとなったのですが、巷の噂にたがわず奇怪な現象が多発しているのは事実です」
「たとえば、どのような?」
「壁の中や屋根裏から足音が聞こえてきたり、いるはずのない小さな男の子が走り回っている姿を目撃した者がいました。わたくしが以前この目で見たのは、白い服を着た首のない女性でした」
「白い服ねぇ、たとえばあんな感じのか?」
「え?」

 鬱蒼と生い茂る木々の間に、白い夜着を着たひとりの女が立っていた。
 高い。
 異様に背が高い。
 長身というレベルではない、その身長は3メートルを超えている。
 そして異様なのは背の高さだけではなかった。
 首だ。
 首をかしげている。あごの先が横になるほどの角度で。
 普通の人間なら首の骨が折れているところだろう、その姿は見る者に首吊り死体を連想させた。

「ア゛、ア゛、ア゛、ア゛、ア、ア、ア、ア……。アアアあああアアア――」

 頸骨の折れた首からはこのような音が漏れるのだろうか、聞く者の身が総毛立つような奇声が漏れる。

「~~~~ッ!?」

 絶句。
 役人はあまりの恐怖に声も出ない。

「あああアアアぁぁぁアァァァッ――ッ」

 身の毛もよだつ声とともに口から真っ赤な血が滝のように流れ落ち、白い夜着を赤く染める。

「で、で、で――」
「出た?」
「ギャランドゥ!」
「なんだよギャランドゥへそ毛て! 恐怖判定に失敗して錯乱したのか? こんな序盤でおかしくなるなんて探索者失格だぞ」
「あわわわわわ……」

 あまりの恐怖に腰を抜かし、逃げることもできずにいる役人。
 怪女はしばらくのあいだ感情の読み取れない黒目だけの瞳で鬼一をじっと見つめ、陽炎のように揺らいで消えた。

「今のが、噂の幽霊というやつかな」
「そ、そうです! ああいうのが出るのです!」
「ああいう不気味なのが出現するんじゃ、たしかに買い手はつかないだろうなぁ」
「今までの入居者はもって10日といったところでしょうか」
「そうだろう、そうだろう。あんなのが出るんじゃ銅貨一枚でも買うのは御免だろう。むしろ金をもらっても幽霊屋敷なんて欲しくない人のほうが多いだろうな」
「ああ、では騎士爵様もキャンセルなさいますか。今ならキャンセル料はなしで――」
「まけろ」
「は?」
「安い安いと思っていたが、事故物件にもほどがある。半額にまけろ」
「あ、あなたも見たでしょう! 今の恐ろしい幽霊を。それなのに正気ですか!?」
「俺のSAN値はいつだって平常値だ。イカもタコも踊り食いできるぜ」
「はぁ、言葉の意味はわかりませんがとにかく凄い自信だ。……わかりましたそこまでおっしゃるのなら――」

 かくしてマカロン四大七不思議のひとつに数え上げられるファリクス邸は鬼一法眼の住居となった。
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