魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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ファリクス邸の怪 4

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 マカロン王都の近くを流れるシロッテ川。そこからいくつも分かれた小さな支流のひとつが王都の西区に流れる。
 そんな水路のたもとに小さな薬屋があった。
 人が住むには少々湿気が気になる場所だが、その湿度があつかっている素材に良いとかで店主はあえてこの場所を選んだという。

「ごめんください」

 シーン。

「ごめんください」

 シーン。

「ごめんくださ~い」

 死~ん。

「いないのかな……、ごめ――」
「だれだ! 店先で謝ってるのは! なにをやらかした!」
「なにもしていないし、謝罪してるわけでもないですよ。お店は開いてますか?」
「なんだ、客か。やっとるよ、好きに見なさい」

 歳の割には矍鑠かくしゃくとした老婦人のお言葉に甘えて店内を見てまわる鬼一法眼きいちほうげん

「トロールの脂肪とハーピーの羽をあるだけください」
「ほう、あんた錬金術士かい」
「ええ、それに新設される魔術学院で学ぶ予定になっている魔術師見習いです」
「そうかい、そうかい」
「あなたも、いずこかの魔術を学ぶ学舎の生徒だったんでしょう。ジョンキル・ファリクスさん」
「……ッ!」
「その魔術の才を買われて王国に仕える魔術師になった」
「そんな大層なものじゃないよ、少しばかり錬金術ができただけさ」
「はじめまして、実はあなたの亡くなられた息子さんについての話をうかがいたいと思って来たんです。辛いことだとは承知していますが、どうしても確かめたいことがあるので」
「いいよ、時間ならたくさんあるからね。あの子について何が聞きたいんだい?」

 かつてのファリクス邸の主ジョンキル夫人は鬼一に椅子をすすめ、自身も椅子に腰かける。

「あなたの息子のピートはかなり悪戯好きな活発な少年だったようですね」
「ああ、そうさ。よく家のものを困らせて、悪さをするたびにあたしが尻をひっぱたいてやったものさ。懐かしいねぇ……」
「廊下に蝋を塗って滑らせたり」
「あったねぇ」
「蝋の代わりに丸いガラス玉や木の実をばらまいて転がそうとする事も」
「そんな事もあったねぇ」
「食事に大量の塩や胡椒が盛る」
「そうそう、塩と砂糖の瓶の中身が入れ替えたりもしたね」
「寝所に蛇や蛙が投げ込だり」
「あの時は本気で尻を叩いたものさ!」
「カーテンや壁一面に落書きをする」
「…………」

 いつの間にかジョンキルの目には涙が浮かび、頬を伝い落ちていた。

「本当にあの子は、ピートは悪戯ばかり。それが過ぎて空井戸に落ちて死んでしまうなんて、バカな子ですよ」
「ファー・ジャルグみたいな悪戯好きでした?」
「あんた、まさかあの家に?」
「はい。住んでいます。ファー・ジャルグになったピートもまだいますよ」
「あの子はまだこの世に未練があるんだね」

 ピートには生まれつき魔術の才能が、精霊使いとしての才能があった。悪戯をする時は無意識のうちにファー・ジャルグを呼び出し、そのため彼の悪戯は常に会心のできだだったのだ。

「しかしピートは悪戯の途中で死んでしまった。そのためファー・ジャルグは元の世界に帰れなくなった。そしてピートの魂を受け継いだファー・ジャルグが帰れなくなった理由はもうひとつあります。あなたの心が子どもを失って孤独に満ちていたからです」
「私の心が?」
「ファー・ジャルグは混乱を司り悪戯を糧とするファー・ジャルグと同時に孤独も司る妖精なんです。彼らにとって悪戯は孤独を癒すための手段で、孤独な人の心に惹かれる。そして悪戯をする事でその孤独感を他の感情に置き換えようとする。怒りや、楽しさ、驚き――ゆえに彼らは混乱の妖精と呼ばれる」 
「なるほど、あんたの言う通りかもね。ピートはひとりっ子で周りには同じ年の子どももいなかったから、きっと寂しかったんだ。あたしも仕事がいそがしくてかまってやれなかったしね」
「なのであのファー・ジャルグのピートの部分はあなたの心の中に帰します。そうすればピートの魂の一部をあなたが受け継ぐ事になり、あなたは独りでは、孤独ではなくなる」
「なんだって! そんな事ができるのかい!?」
「はい。なのでもう自分が独りだとは思わないでください。あなたが生きている限り、ピートも、あなたの子も生きてるのだから」
「なんで見ず知らずのあたしにそこまでしてくれるんだい」
「私が陰陽師だからです」

 本当はピートを祓わなければ邸に住めないからなんだけどね。
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