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辺境異聞 7 疑惑
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地面の下には無数の死体が埋まっていて、草花の養分になっているようだった。
「……肥料は人の死体か。まるで魔夜峰央の『怪奇生花店』や『茸ホテル』だな」
「わっ!」
「おどかすな」
「全然おどろいてないじゃないか」
「そうでもない。怪奇映画みたいな展開に心臓ばくばくだ」
この子どもじみた悪戯、鬼一法眼《きいちほうげん》に大声をかけたのは言うまでもなくウィリデ・ユウリンである。
「この地面の下に死体が埋まっているぞ」
「マジか!? 常世の風よ・還らざる者たちの・声なき声をとどけよ」
すぐにウィリデは【死体探知】を唱えて確認する。
ナーロッパ地方の大半は寒冷で乾燥した気候のせいで死体が長持ちするいっぽう冬場は雪のために死体の発見が困難になる。
そのためこの死体感知は救助活動に従事する者には必須の魔術だ。
「……たしかに、牛や馬なんかじゃなくて、これは人の反応だな」
「雰囲気のあるゴシックホラーが一転して猟奇殺人ものに変わってしまったな。ヨーグ・ボルツェル辺境伯の正体はジル・ド・レやエリザベート・バートリーのような殺人鬼か……」
「いやいや、まだそう決めつけるのは早いぞ。この辺りの風習で花壇の下に人を埋める火葬ならぬ花葬とかだったり」
「そんな風習聞いたことないわ!」
「どうする、このことを直接ヨーグやフーラに問いただしてみるか?」
「それよりも今すぐにこの城を出たいところだな」
shiny! clap! kaboom!
pour pour
だが雷をともなう激しい風雨はいまだに止む気配がない。
「まるで、私たちをこの城から出さないようにしているみたいじゃないか。読みかけの本を途中で投げ出す真似はしたくないね、それにもしこれがヨーグの仕業だったらますます放ってはおけないだろ。この死体たちが城の使用人か旅人だったかは知らないが、こんなふうにするやつを野放しにできるのか?」
「たまにはまともなことを言う。だが……」
「なんだ」
「さっきのあんたの言葉じゃないが、まだ殺害されたと決まったわけではないんだよなぁ」
この世界、この国、この時代、貴族の領内は一種の治外法権だ。
他国の旅人はともかく自分の領土内の人たちに対してなにをしても咎めがない。とまではいかないが、よほどのことでもない限り帝国の法がおよぶことはない。
「故意に殺されたならまだしも、『死骸を肥料にするから持ってこい』て、感じで領内から墓場行きの死体を徴収したのなら倫理的には問題でも法律的にはセーフだよな」
「では死体をあらためて見るか。故意に殺害されたかどうか、検分してみよう」
「ほう、ウィリデ・ユウリン教授には検死の心得もおありで?」
「そんなものは、ない」
「そうか、ならやめよう」
「ふん、意気地なしめ。死体が怖いのか」
「なんだと! そこまで言うのなら――祈願明鬼、祈願使鬼、祈願返鬼、祈願常傍、至生至死――」
鬼一の口から召鬼操神の呪が唱えられると一陣の陰風が吹き、やがて無数の死骸が土を割って這い出てきた。
生気のない土気色の肌、眼球を失った虚ろな眼窩、そして、鼻をつく屍臭。
その数、10体。
むせ返るような草花の芳香に屍臭が混じり、形容しがたい悪臭が鼻をさいなむ。
「ほぅ、変わった【屍者作成】を使うな」
【|屍者作成《クリエイト・アンデッド】。人や動物の死体をアンデッド化して支配する魔術。死体の状態によりスケルトンかゾンビとなる。
邪悪な死霊魔術師が好んで使うことが多いが、戦場で死んだ兵士を故郷や家族の元へ届けるなどの目的にも使用もされるため、この魔術を使う者が必ずしも悪人というわけではない。
「ああ~、ゾンビなんか出していよいよますますゴシック・ホラーの雰囲気が台無しだぁ。ルチオ・フルチの『墓地裏の家』状態だぁ……。それにこの臭いときたら……、鼻の下に○ィックス○ェポラップ やメ○ソレー○ムを塗りたいところだ」
「軟弱な男だな、この程度の臭い、まだましなほうだろうに。迷宮探索ではもっと凄惨で酸鼻を極める場面もあるんだぞ。それよりもよくごらん。こいつら、妙に干からびてないか?」
「……たしかに、『スカイリム』のドラウグルみたいにカサカサだな」
人の身体とは水分が多いものだ。およそ六割が水分――おもに血液でできている。
だがこの死体からは完全に血が抜かれているとウィリデは見た。
血液は腐敗を促進し、その結果強烈な屍臭を発する。
この血抜きについて犯人の狙いはなにか?
「腐敗の程度をやわらげたり、遅らせるため。じゃなさそうだ。見てみろ、こいつらの首筋を」
ほとんど骨と皮だけになった死体の首筋にふたつ。小さな穴が開いている。
「まるで吸血鬼にでも噛まれたかのような痕だが、まさか……」
「そのまさか、じゃないか? ヨーグの書斎にはたくさんの死霊術関係の本があったが、その中には【不死化】についてのものもあった」
【不死化】。
高位の魔術師や僧侶など、魔導を極めた者が自らに不死の魔術をかけて不死者と化す、死霊術の奥義。
「【不死化】でなれるのはゾンビやスケルトンといった低レベルの死にぞこないではなく吸血鬼やリッチといった高位の不死者だ」
「ええ~と、この世界の吸血鬼ってのはどういう存在なんだ?」
「知らないのなら教えてやろう、ウィリデ・ユウリン先生の講義を心して聴くがいい――」
「……肥料は人の死体か。まるで魔夜峰央の『怪奇生花店』や『茸ホテル』だな」
「わっ!」
「おどかすな」
「全然おどろいてないじゃないか」
「そうでもない。怪奇映画みたいな展開に心臓ばくばくだ」
この子どもじみた悪戯、鬼一法眼《きいちほうげん》に大声をかけたのは言うまでもなくウィリデ・ユウリンである。
「この地面の下に死体が埋まっているぞ」
「マジか!? 常世の風よ・還らざる者たちの・声なき声をとどけよ」
すぐにウィリデは【死体探知】を唱えて確認する。
ナーロッパ地方の大半は寒冷で乾燥した気候のせいで死体が長持ちするいっぽう冬場は雪のために死体の発見が困難になる。
そのためこの死体感知は救助活動に従事する者には必須の魔術だ。
「……たしかに、牛や馬なんかじゃなくて、これは人の反応だな」
「雰囲気のあるゴシックホラーが一転して猟奇殺人ものに変わってしまったな。ヨーグ・ボルツェル辺境伯の正体はジル・ド・レやエリザベート・バートリーのような殺人鬼か……」
「いやいや、まだそう決めつけるのは早いぞ。この辺りの風習で花壇の下に人を埋める火葬ならぬ花葬とかだったり」
「そんな風習聞いたことないわ!」
「どうする、このことを直接ヨーグやフーラに問いただしてみるか?」
「それよりも今すぐにこの城を出たいところだな」
shiny! clap! kaboom!
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だが雷をともなう激しい風雨はいまだに止む気配がない。
「まるで、私たちをこの城から出さないようにしているみたいじゃないか。読みかけの本を途中で投げ出す真似はしたくないね、それにもしこれがヨーグの仕業だったらますます放ってはおけないだろ。この死体たちが城の使用人か旅人だったかは知らないが、こんなふうにするやつを野放しにできるのか?」
「たまにはまともなことを言う。だが……」
「なんだ」
「さっきのあんたの言葉じゃないが、まだ殺害されたと決まったわけではないんだよなぁ」
この世界、この国、この時代、貴族の領内は一種の治外法権だ。
他国の旅人はともかく自分の領土内の人たちに対してなにをしても咎めがない。とまではいかないが、よほどのことでもない限り帝国の法がおよぶことはない。
「故意に殺されたならまだしも、『死骸を肥料にするから持ってこい』て、感じで領内から墓場行きの死体を徴収したのなら倫理的には問題でも法律的にはセーフだよな」
「では死体をあらためて見るか。故意に殺害されたかどうか、検分してみよう」
「ほう、ウィリデ・ユウリン教授には検死の心得もおありで?」
「そんなものは、ない」
「そうか、ならやめよう」
「ふん、意気地なしめ。死体が怖いのか」
「なんだと! そこまで言うのなら――祈願明鬼、祈願使鬼、祈願返鬼、祈願常傍、至生至死――」
鬼一の口から召鬼操神の呪が唱えられると一陣の陰風が吹き、やがて無数の死骸が土を割って這い出てきた。
生気のない土気色の肌、眼球を失った虚ろな眼窩、そして、鼻をつく屍臭。
その数、10体。
むせ返るような草花の芳香に屍臭が混じり、形容しがたい悪臭が鼻をさいなむ。
「ほぅ、変わった【屍者作成】を使うな」
【|屍者作成《クリエイト・アンデッド】。人や動物の死体をアンデッド化して支配する魔術。死体の状態によりスケルトンかゾンビとなる。
邪悪な死霊魔術師が好んで使うことが多いが、戦場で死んだ兵士を故郷や家族の元へ届けるなどの目的にも使用もされるため、この魔術を使う者が必ずしも悪人というわけではない。
「ああ~、ゾンビなんか出していよいよますますゴシック・ホラーの雰囲気が台無しだぁ。ルチオ・フルチの『墓地裏の家』状態だぁ……。それにこの臭いときたら……、鼻の下に○ィックス○ェポラップ やメ○ソレー○ムを塗りたいところだ」
「軟弱な男だな、この程度の臭い、まだましなほうだろうに。迷宮探索ではもっと凄惨で酸鼻を極める場面もあるんだぞ。それよりもよくごらん。こいつら、妙に干からびてないか?」
「……たしかに、『スカイリム』のドラウグルみたいにカサカサだな」
人の身体とは水分が多いものだ。およそ六割が水分――おもに血液でできている。
だがこの死体からは完全に血が抜かれているとウィリデは見た。
血液は腐敗を促進し、その結果強烈な屍臭を発する。
この血抜きについて犯人の狙いはなにか?
「腐敗の程度をやわらげたり、遅らせるため。じゃなさそうだ。見てみろ、こいつらの首筋を」
ほとんど骨と皮だけになった死体の首筋にふたつ。小さな穴が開いている。
「まるで吸血鬼にでも噛まれたかのような痕だが、まさか……」
「そのまさか、じゃないか? ヨーグの書斎にはたくさんの死霊術関係の本があったが、その中には【不死化】についてのものもあった」
【不死化】。
高位の魔術師や僧侶など、魔導を極めた者が自らに不死の魔術をかけて不死者と化す、死霊術の奥義。
「【不死化】でなれるのはゾンビやスケルトンといった低レベルの死にぞこないではなく吸血鬼やリッチといった高位の不死者だ」
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