魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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辺境異聞 19 帰路

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 ウィリデ・ユウリンの一日は一杯のモーニングティーからはじまる。
 速めに起床し、規定のルートで早朝散歩をおこない、その後はお茶を嗜むという貴族的で優雅な朝からはじまるのだ。
 魔術学院に籍を置いているが、教鞭を執ることはほとんどない。
 いつも研究所や図書室でなにか調べものをしている。提出が義務づけられている論文等はアフタヌーンティーの片手間にかたづけ、陽が落ちてからはイブングティーや読書を楽しむ。
 ボルツェル城という仮の住まいでも確立したライフスタイルをくずさないウィリデ。
 鬼一法眼きいちほうげんの方は方で、ウィリデの治療以外の空いた時間は図書室や錬金部屋にこもり、書を紐解いていた。
 逃げたフーラを探し出す際に見つけた地下の隠し部屋のなかには、上階になかった魔術書や錬金レシピを発見。
 それらのなかにベラドンナ・ブラッドという霊薬ポーションがあった。
 この霊薬ポーションを服用した吸血鬼は、その外見的特徴――青い肌や赤い瞳など――を中和されて一見してそうと見分けられなくなる。霊薬ポーションが血液中を循環することにより見鬼もある程度ごまかせるのだ。

「あいつらが生身の人間に偽装できたのはこれのおかげだったのか。ベラドンナは瞳孔を拡張する作用もあるから、目を大きく見せたいご婦人がたの間で一時期流行ったことがあったが……。この組み合わせだとそんな効能がつくのか」
「しかしなんだな」
「どうした」
「今さらだが地方を治め、外敵に備えていた辺境伯が吸血鬼だったというのは結構な大事件なんじゃないか」
「それも半世紀もの間、だれにも気づかれなかったときたもんだ。中央から遠く離れている場所だからこそそんなことが可能だったわけだ」
「人を害する吸血鬼を退治したのはいいが、同時に国に認められた辺境伯を亡き者にしたわけだろう。異民族やロッシーナ帝国との緩衝地帯をそのままにしておくわけにもいかないだろうし、どこにどう報告したものか……。下手をすると俺たちは貴族殺しの下手人あつかいされるかも知れない」
「各国上層部の連中には公私ともに知り合いが何人もいる。そのあたりのことは私から説明しておこう、おまえが危惧するようなことにならないようにな」
「さすが大魔導師グレート・ウィザード様、顔が利くな。あと気になるのが……」
「なんだ」
「この城の中にある物だ。金貨や宝石類、美術品や貴重な霊薬や錬金素材やらなにやら、かなりの量を蓄えてある。それらがごっそり後続のやつに渡ると思うとちょっとな。俺たちはフーラどもに迷惑をかけられたわけだし……」
「いいじゃないか、慰謝料替わりに頂戴しろ」
「そうだよな、そう思うよな。なにも根こそぎもらおうってわけじゃない、少しばかり頂戴する事にしよう」

 いつまでもマカロンを留守にしてボルツェル城にいるわけにもいかない。ウィリデは通信魔導器で王都に連絡し、鬼一ともども近日中に帰宅する旨を伝えた。

「ついでにおまえのことも伝えておいたぞ。私の野暮用を手伝っていることにしておいた。失踪したことにはなっていない」
「ありがたい、助かるよ」
「なあに、おまえは私の魂の傷を癒してくれた恩人だしな」

 ウィリデの霊障が癒えた翌日。城にあった馬車のなかでも造りの良いものを選ぶと、慰謝料として頂戴した荷物を乗せて出発することにした。
 目指すは街道。そこに出てしまえばあとは路なりに進むだけだ。

「剽桿なる獣よ・荒野を走り・我がもとへ駆けよ」

 ウィリデの呪文に応じ、黒い巨躯をした馬が召喚される。肉食魔馬の異名を持つ、激しい気性の汗血馬ブケパロスだ。

「おお、これが肉食魔馬か。俺のいた世界には通常存在しない生き物だ」
「こいつ一頭で並の兵士2、30人は相手にできる。ケチな山賊が襲ってきても蹴散らしてくれるし、熊や狼避けにもなる。馬車馬兼護衛に最適だ」

 主要街道周辺はそれぞれの国が定期的に街道整備を行い、衛兵の詰め所もある。市井の人々が護衛をつけずに行き来できるほど安全だが、辺境ともなれば話は別だ。
 野盗まがいの連中や熊や狼といった野生の獣のほか、魔獣のたぐいに人が襲われたという話はたまに聞く。

「自分が病み上がりだということを忘れるなよ。妙なことになっても、いたずらに魔術を使ってはいけない」
「安心しろ。少ない魔力でも呪文を工夫して威力を増幅すれば【突風ウィンド・ブラスト】程度でも森を根こそぎ吹き飛ばして更地にできる威力を出せる( ̄^ ̄)」
「だからそういうのをやめなさいっての。君子危うきに近寄らず、暴虎馮河の勇を奮うなかれ、だ」

 ボルツェル城を後にして主要街道に通じる支街道を進んで間もなく、思いもよらないものを目撃することになった。

 GAAAAAッッッ!!

 突如として大気を切り裂くような声が轟いた。
 なにごとかと声のした方向を見れば、遠い空の彼方に黒い影が大きく翼を広げている。点のようにしか見えないが、そこまでの距離を考えればその巨大さは容易に想像できた。
 影が翼をはためかせて悠然と空を舞ってまっすぐに翔てくると、視界のなかで影は急速に膨れ上がり、その正体があらわになる。
 巨大な翼、漆黒の鱗、長い首と尾、太い胴体、口は耳まで裂け、頭には大小三対、六本の角が生えている。背筋に沿って暗灰色の毛がなびいていた。
 竜だ。
 竜が鬼一とウィリデの頭上高くを飛びすぎていった。
 猛烈な風が吹き抜ける。
 ドラゴンだ。
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