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まぼろしの城 2 オーパーツ
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「キイチさん、今日はいい白身の魚が手に入ったから香草蒸しにしようと思う」
「む、そうか。……て、これ半魚人じゃね? これ喰うの?」
「ああ、半魚人や人魚じゃないんだ、問題ないだろ?」
「いや、うん、まぁ、はい」
異世界人の感覚ではマーマンもギルマンもサハギンも似たような魚系の亜人やモンスターに思えるが、この世界の人にとっては違うらしい。
ならば入郷随俗だ、食べない理由はない。
レリエル・ラウロールの3分だか10分だかクッキング~☆
ギルマンの切り身は塩胡椒を振っておき5分後ほど馴染ませます。
キノコ類は石づきを取り、子房に分ける。そして魚とキノコを乗せて香草とオリーブオイル、レモンを乗せてクッキングペーパーで包み、フライパンで10分ほど蒸す。
その間にソース作り。ワインとレモングラスにバターを加えて溶かし、軽くとろみが出るまで混ぜる。
蒸し上がったら切り身を皿に移してソースを上からかけてハーブやレモンを飾って完成。
生存決闘以来、レリエルは連日のようにファリクス邸に食材を持参して押しかけ料理を振る舞うなど、なにかと世話を焼いた。
もとより鬼一に好意と興味を抱いていた上に「ラウロール家には命を救われた未婚の娘はその恩人に処女を捧げて家を挙げて手厚く遇する」という古い習わしがあるそうで、窮地を救ってくれた鬼一にベタ惚れだった。
これは現代日本のナウなヤングが言うところの「Zokkon命LOVE 」状態である。
レリエルのこの深情けには鬼一法眼も参った。
「おお、陸で食べるギルマンにしてはよかばい、よかばい♪」
押しかけ状態なのはもうひとり。
内陸にあるマカロン王都にあるファリクス邸と鬼一の呪術で繋がったシーベックの港町からこれまた毎日のようにナミが顔を出していた。
当初は優男然としたレリエルを煙たがっていたが、今やすっかりレリエルの手料理に餌付けされていた。
「おまえは料理が上手し。キイチの次の嫁にしたか!」
「……ナミさん、オレはキイチさんの嫁になりたいんだ」
「ならおまえはあたしの第二夫人だ!」
「そうなのか、キイチさん?」
「いやいや、なにもかも違うぞ。だがこのまま3人で爛れた肉体関係を結ぶのも悪くはないな」
「あたしはよかよ」
「オレは、男も女もキイチさんだけに捧げたい……」
「ああ、俺は今。夢にまで観た〝無責任に恋愛の美味しいとこだけをつまんで本物の愛も恋もなく気軽にセックスすることができる〟ハーレムもの主人公になりつつある――」
そんな羽化登仙の思いを抱いていたある日のこと。
レリエルが珍しいものを持ってきた。
「これは、名古屋城じゃないか……」
座卓の上には一抱えではきかない大きさの、巨大な城の模型が置かれていた。
鬼一のいた世界に存在する名古屋城によく似た城の模型が。
名古屋城。
またの金鯱城。東海道の押さえとして慶長15年(1610年)に徳川家康によって築かれた。
大きな堀と天守閣が特徴で、特に鯱の頭部が異様に大きく、これは遠くから眺めた時に均整がとれて立派に見えるように配慮されているためだ。
平城であり、実際の攻城戦の想定よりも徳川の威信を示すための造り。
壮大で優美な造形をしている。
さらに城の模型は天守閣だけでなく本丸御殿や櫓、内堀など、城全体が再現されていて、もともとはなかった庭の砂や木々までつけ足されていた。
「おお、凄かね!」
「たんに組み立てるのだって難しいのに、この汚し塗装など良いセンスしている――て、そうじゃない! なぜ名古屋城の模型がこの世界に……」
「キイチさんのいた世界はアリフレテラ大陸の東方の諸国によく似た文化圏だと聞いて、あちらに縁のある品々を探したら城の模型だけでもこれだけ集まった」
レリエルは名古屋城以外の模型も並べて見せる。
「……これは、竹田城だな」
竹田城跡。
山城遺跡であり、虎が臥せているように見えることから虎臥城とも呼ばれる。
秋から冬にかけてのよく晴れた早朝に朝霧が発生することがあり、この雲海に包まれた幻想的な姿から、天空の城や日本のマチュピチュとも呼ばれるようになった。
「雲海を現す綿までついているのか、凝ってるな……。これは讃岐の高松城だな。俺、この城好きなんだよなぁ」
高松城。
城の北側が海に面していて、残りの三方の堀には海水を引き入れた堀が広がる、日本三大水城の一つ。堀には真鯛などの海の魚が泳ぎ、天然の牡蠣も生息しているという。
「これは、モデリング・ウォーターの使いどころだな。て、本物の水も入れられるって書いてあるじゃん! むむむ、幻の城、帰雲城なんて完全に想像で作ってるんじゃないか?」
帰雲城。
岐阜県の白川村にあったとされる城だが、大きな地震による山崩れで埋没。これによって城主の内ヶ島一族はすべて死に絶えてしまい、内ヶ島氏は滅亡してしまった。そのとき埋まったとされる埋蔵金伝説があることでも有名だが、城のあった正確な位置は現在でも特定されていない。
「……あまりにも再現度が高い。この世界に俺のいた、俺の国に存在した城と酷似した城がある。なんてレベルじゃないぞ。まるで〝場違いな人工物〟だ。……それともこの模型もまた俺みたいにこっちの世界に転移したのか? 人が異世界転移するんなら物体だって異世界転移してもおかしくはないわな。つうか物だけが異世界転移するオーパーツ系のお話とかありじゃね? 誰か書いてください『……くくく、えっ?』先生とか」
「お、キイチの奴またおかしなひとい言をしはめた」
「なぁ、レリエル。この模型の数々はどういう経緯で入手したんだ?」
「ラウロール商会の関係者にとにかく東方系の物を手に入れたら高額で引き取ると告知して集めた。あとこれはオレが個人的に見つけたものだ」
レリエルの生家であるラウロール商会は万屋組合の経営を主として様々な分野の商売に携わっている。
生存決闘の際に鬼一に言った「下手な王侯貴族よりも遥かに裕福」というレリエルの言葉には偽りはない。
「たとえば、これとか」
「……聚楽第!」
聚楽第。
安土桃山時代に平安京の大内裏跡に豊臣秀吉が建てた政庁兼邸宅。当時の文献には単に聚楽。まれに聚楽城とも書かれている。
ヨーロッパの城塞都市を参考に造られた城であり、周囲には堀の他にも防御用の外壁が張りめぐらされていたという。
天守閣があり外壁は白。高さは45メートルで大阪城よりも高かったという。
当時の技術で作れる白い漆喰は水に弱く脆かったため城などの外壁に使用されることはなく、姫路城に代表される白い城は徳川家康の江戸城からと言われていたが、最近の研究では聚楽第がその嚆矢ではないかと言われているが、さだかではない。
落成からわずか8年で破壊されたため資料の乏しい幻の城だからだ。
その聚楽第の模型が、大宮通りや一条通り。庭園まで再現された精密なジオラマの如き〝いかにも〟な見事な造りで鬼一法眼の目の前にあった。
金色に輝く天守閣の金箔瓦、汚れ一つない真っ白な外壁、二階建ての御殿――。
絢爛豪華な安土桃山時代の歴史の一ページがそこに再現されていた。
「どこでこれを?」
「東地区にある雑貨屋だ」
以前にも記述したがマカロン王都は大きく五つの区画に分かれている。
ひとつ目は北に位置する振興開発地区で、 新設された王立魔術学院と、そこに通う学生達が下宿する寮やアパートなどの学生街が、 その区画の大部分を占めている。
ふたつ目は西地区で一般住宅街。中産、労働者階級に属する一般市民達が主に居を構える区画で、広場が多 <工業地区もこの区画に含まれている。
三つ目は東地区で高級住宅街。資産家、貴族、魔術師などの上流階級の者達が主に居を構える区画で、学院に勤める講師や教授陣もここに居を構える者は多い。
四つ目は南地区でいわゆる商業街であり、マカロン経済の中心地である。もっとも活気に溢れる区画であり、様々な商店街はもちろん、商館に繁華街、倉庫街、さらに奥まで立ち入れば知る人ぞ知る闇市などもある。
そして中央区。別名、行政区とも呼ばれるこの区画は街としてのマカロンを保持し、そして舵を取るマカロンの心臓部といっていい。
ファリクス邸はちょうど北地区と東地区の間。城から見て鬼門にあたる丑寅の方角で、学院にほど近い閑静な場所にある。
「あれ、なんばしょ?」
「ん、どうした?」
「ちんけな人が手招きしちょる」
「なぬ!?」
鬼一が目を凝らすと敷地内の庭園。そこに一人の老人が歩いているではないか。
人形だとするなら精巧な、実に精巧な作りをしている。
小さすぎて顔はよく見えないが、白髪頭に黒い着物姿だということは判別できる。
「…………」
「…………」
「…………」
老人は呆気にとられる鬼一らを見上げると、ちょいちょいと手を振り出した。
「……キイチ、おまんこっそり幻術か式神かなんか使って遊んでたりしちょるか?」
「いいや、使っていない。ちなみにこの模型はマジックアイテムの類でもない。俺の見鬼が誤りじゃないならの話だが、ひょっとしたら呪具の類かもな。極めて巧妙な隠蔽が施された呪具なら俺でも感知はできない」
「キイチさんでも感知できない物があるのか!?」
ちょいちょい、ちょいちょい。老人は変わらず手を振りかざしている。
「これは、手招きをしているのか?」
(鬼一~、レリエル~、ナミ~)
小さな老人が呼びかけてきた。
「なんでうちらの名前を知っちょる!?」
「よせ! 反応するな!」
遅かった。
老人の問いかけに応えたナミは人形のように小さくなり、聚楽第の中へと吸い込まれてしまった。
世の中には呼ばれて返事をする。あるいはそれに対してなんらかの反応をしめすことが引き金となる呪が存在する。
『西遊記』には返事をすると吸い込まれる 紫金紅葫蘆や羊脂玉浄瓶という宝貝。呪具が出てくる。
怪異からの呼びかけに対して『返事をしてはいけない』系の都市伝説や怪談の類など、枚挙にいとまがない。
ナミはそれに引っかかってしまったのだ。
「む、そうか。……て、これ半魚人じゃね? これ喰うの?」
「ああ、半魚人や人魚じゃないんだ、問題ないだろ?」
「いや、うん、まぁ、はい」
異世界人の感覚ではマーマンもギルマンもサハギンも似たような魚系の亜人やモンスターに思えるが、この世界の人にとっては違うらしい。
ならば入郷随俗だ、食べない理由はない。
レリエル・ラウロールの3分だか10分だかクッキング~☆
ギルマンの切り身は塩胡椒を振っておき5分後ほど馴染ませます。
キノコ類は石づきを取り、子房に分ける。そして魚とキノコを乗せて香草とオリーブオイル、レモンを乗せてクッキングペーパーで包み、フライパンで10分ほど蒸す。
その間にソース作り。ワインとレモングラスにバターを加えて溶かし、軽くとろみが出るまで混ぜる。
蒸し上がったら切り身を皿に移してソースを上からかけてハーブやレモンを飾って完成。
生存決闘以来、レリエルは連日のようにファリクス邸に食材を持参して押しかけ料理を振る舞うなど、なにかと世話を焼いた。
もとより鬼一に好意と興味を抱いていた上に「ラウロール家には命を救われた未婚の娘はその恩人に処女を捧げて家を挙げて手厚く遇する」という古い習わしがあるそうで、窮地を救ってくれた鬼一にベタ惚れだった。
これは現代日本のナウなヤングが言うところの「Zokkon命LOVE 」状態である。
レリエルのこの深情けには鬼一法眼も参った。
「おお、陸で食べるギルマンにしてはよかばい、よかばい♪」
押しかけ状態なのはもうひとり。
内陸にあるマカロン王都にあるファリクス邸と鬼一の呪術で繋がったシーベックの港町からこれまた毎日のようにナミが顔を出していた。
当初は優男然としたレリエルを煙たがっていたが、今やすっかりレリエルの手料理に餌付けされていた。
「おまえは料理が上手し。キイチの次の嫁にしたか!」
「……ナミさん、オレはキイチさんの嫁になりたいんだ」
「ならおまえはあたしの第二夫人だ!」
「そうなのか、キイチさん?」
「いやいや、なにもかも違うぞ。だがこのまま3人で爛れた肉体関係を結ぶのも悪くはないな」
「あたしはよかよ」
「オレは、男も女もキイチさんだけに捧げたい……」
「ああ、俺は今。夢にまで観た〝無責任に恋愛の美味しいとこだけをつまんで本物の愛も恋もなく気軽にセックスすることができる〟ハーレムもの主人公になりつつある――」
そんな羽化登仙の思いを抱いていたある日のこと。
レリエルが珍しいものを持ってきた。
「これは、名古屋城じゃないか……」
座卓の上には一抱えではきかない大きさの、巨大な城の模型が置かれていた。
鬼一のいた世界に存在する名古屋城によく似た城の模型が。
名古屋城。
またの金鯱城。東海道の押さえとして慶長15年(1610年)に徳川家康によって築かれた。
大きな堀と天守閣が特徴で、特に鯱の頭部が異様に大きく、これは遠くから眺めた時に均整がとれて立派に見えるように配慮されているためだ。
平城であり、実際の攻城戦の想定よりも徳川の威信を示すための造り。
壮大で優美な造形をしている。
さらに城の模型は天守閣だけでなく本丸御殿や櫓、内堀など、城全体が再現されていて、もともとはなかった庭の砂や木々までつけ足されていた。
「おお、凄かね!」
「たんに組み立てるのだって難しいのに、この汚し塗装など良いセンスしている――て、そうじゃない! なぜ名古屋城の模型がこの世界に……」
「キイチさんのいた世界はアリフレテラ大陸の東方の諸国によく似た文化圏だと聞いて、あちらに縁のある品々を探したら城の模型だけでもこれだけ集まった」
レリエルは名古屋城以外の模型も並べて見せる。
「……これは、竹田城だな」
竹田城跡。
山城遺跡であり、虎が臥せているように見えることから虎臥城とも呼ばれる。
秋から冬にかけてのよく晴れた早朝に朝霧が発生することがあり、この雲海に包まれた幻想的な姿から、天空の城や日本のマチュピチュとも呼ばれるようになった。
「雲海を現す綿までついているのか、凝ってるな……。これは讃岐の高松城だな。俺、この城好きなんだよなぁ」
高松城。
城の北側が海に面していて、残りの三方の堀には海水を引き入れた堀が広がる、日本三大水城の一つ。堀には真鯛などの海の魚が泳ぎ、天然の牡蠣も生息しているという。
「これは、モデリング・ウォーターの使いどころだな。て、本物の水も入れられるって書いてあるじゃん! むむむ、幻の城、帰雲城なんて完全に想像で作ってるんじゃないか?」
帰雲城。
岐阜県の白川村にあったとされる城だが、大きな地震による山崩れで埋没。これによって城主の内ヶ島一族はすべて死に絶えてしまい、内ヶ島氏は滅亡してしまった。そのとき埋まったとされる埋蔵金伝説があることでも有名だが、城のあった正確な位置は現在でも特定されていない。
「……あまりにも再現度が高い。この世界に俺のいた、俺の国に存在した城と酷似した城がある。なんてレベルじゃないぞ。まるで〝場違いな人工物〟だ。……それともこの模型もまた俺みたいにこっちの世界に転移したのか? 人が異世界転移するんなら物体だって異世界転移してもおかしくはないわな。つうか物だけが異世界転移するオーパーツ系のお話とかありじゃね? 誰か書いてください『……くくく、えっ?』先生とか」
「お、キイチの奴またおかしなひとい言をしはめた」
「なぁ、レリエル。この模型の数々はどういう経緯で入手したんだ?」
「ラウロール商会の関係者にとにかく東方系の物を手に入れたら高額で引き取ると告知して集めた。あとこれはオレが個人的に見つけたものだ」
レリエルの生家であるラウロール商会は万屋組合の経営を主として様々な分野の商売に携わっている。
生存決闘の際に鬼一に言った「下手な王侯貴族よりも遥かに裕福」というレリエルの言葉には偽りはない。
「たとえば、これとか」
「……聚楽第!」
聚楽第。
安土桃山時代に平安京の大内裏跡に豊臣秀吉が建てた政庁兼邸宅。当時の文献には単に聚楽。まれに聚楽城とも書かれている。
ヨーロッパの城塞都市を参考に造られた城であり、周囲には堀の他にも防御用の外壁が張りめぐらされていたという。
天守閣があり外壁は白。高さは45メートルで大阪城よりも高かったという。
当時の技術で作れる白い漆喰は水に弱く脆かったため城などの外壁に使用されることはなく、姫路城に代表される白い城は徳川家康の江戸城からと言われていたが、最近の研究では聚楽第がその嚆矢ではないかと言われているが、さだかではない。
落成からわずか8年で破壊されたため資料の乏しい幻の城だからだ。
その聚楽第の模型が、大宮通りや一条通り。庭園まで再現された精密なジオラマの如き〝いかにも〟な見事な造りで鬼一法眼の目の前にあった。
金色に輝く天守閣の金箔瓦、汚れ一つない真っ白な外壁、二階建ての御殿――。
絢爛豪華な安土桃山時代の歴史の一ページがそこに再現されていた。
「どこでこれを?」
「東地区にある雑貨屋だ」
以前にも記述したがマカロン王都は大きく五つの区画に分かれている。
ひとつ目は北に位置する振興開発地区で、 新設された王立魔術学院と、そこに通う学生達が下宿する寮やアパートなどの学生街が、 その区画の大部分を占めている。
ふたつ目は西地区で一般住宅街。中産、労働者階級に属する一般市民達が主に居を構える区画で、広場が多 <工業地区もこの区画に含まれている。
三つ目は東地区で高級住宅街。資産家、貴族、魔術師などの上流階級の者達が主に居を構える区画で、学院に勤める講師や教授陣もここに居を構える者は多い。
四つ目は南地区でいわゆる商業街であり、マカロン経済の中心地である。もっとも活気に溢れる区画であり、様々な商店街はもちろん、商館に繁華街、倉庫街、さらに奥まで立ち入れば知る人ぞ知る闇市などもある。
そして中央区。別名、行政区とも呼ばれるこの区画は街としてのマカロンを保持し、そして舵を取るマカロンの心臓部といっていい。
ファリクス邸はちょうど北地区と東地区の間。城から見て鬼門にあたる丑寅の方角で、学院にほど近い閑静な場所にある。
「あれ、なんばしょ?」
「ん、どうした?」
「ちんけな人が手招きしちょる」
「なぬ!?」
鬼一が目を凝らすと敷地内の庭園。そこに一人の老人が歩いているではないか。
人形だとするなら精巧な、実に精巧な作りをしている。
小さすぎて顔はよく見えないが、白髪頭に黒い着物姿だということは判別できる。
「…………」
「…………」
「…………」
老人は呆気にとられる鬼一らを見上げると、ちょいちょいと手を振り出した。
「……キイチ、おまんこっそり幻術か式神かなんか使って遊んでたりしちょるか?」
「いいや、使っていない。ちなみにこの模型はマジックアイテムの類でもない。俺の見鬼が誤りじゃないならの話だが、ひょっとしたら呪具の類かもな。極めて巧妙な隠蔽が施された呪具なら俺でも感知はできない」
「キイチさんでも感知できない物があるのか!?」
ちょいちょい、ちょいちょい。老人は変わらず手を振りかざしている。
「これは、手招きをしているのか?」
(鬼一~、レリエル~、ナミ~)
小さな老人が呼びかけてきた。
「なんでうちらの名前を知っちょる!?」
「よせ! 反応するな!」
遅かった。
老人の問いかけに応えたナミは人形のように小さくなり、聚楽第の中へと吸い込まれてしまった。
世の中には呼ばれて返事をする。あるいはそれに対してなんらかの反応をしめすことが引き金となる呪が存在する。
『西遊記』には返事をすると吸い込まれる 紫金紅葫蘆や羊脂玉浄瓶という宝貝。呪具が出てくる。
怪異からの呼びかけに対して『返事をしてはいけない』系の都市伝説や怪談の類など、枚挙にいとまがない。
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