魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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雷には雷を

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「なん、だと……」

 ロッシーナ帝国に仕える魔闘士ズンドゥブは予想外の出来事に絶句した。
 虎の子の火炎魔神イフリートはおろか、ゴブリンやオーガ、さらには巨人族ジャイアントといった亜人デミ・ヒューマンらで編成された魔物の軍勢が一瞬にして壊滅してしまったのだ。
 それも相手は一騎当千の達人騎士ナイト・マスターでもなければ、ひとりで一軍に匹敵されるとされる魔導師ウィザードでもない。
 得体のしれない妖術師の技で。

「こ、このハゲー! チビ!」
「ハゲではない、剃っているのだ。チビではない、短身痩躯というのだ」
「紫電の雷精よ・暗き雲より出でて・雷火と迸れ!」

 激しい閃光と轟音をともないズンドゥブの掌からほとばしった雷撃が法眼の体を打ち据えようとした寸前。

「くわばら!」

 鬼一が一喝すると、彼にむかって放たれた雷撃は軌道を曲げてあらぬ方向に飛んでいった。

「なん……だと……?」

 雷除けのまじないに「くわばら」と唱えるまじないがある。
 鬼一はそれに呪力をくわえることで『本物』の呪に仕立て上げたのだ。
 たんなる力づくの言霊ではなく、細密に練られた呪力が乗せられた、きわめて玄妙な言霊術であった。

「ええい、紫電の雷精よ・暗き雲より出でて・雷火と迸れ! 二射ドゥオ!! 三射トレース!!! 四射クァトゥル!!!!」

 耐雷レジスト・サンダーしたわけでも解呪ディスペルしたわけでもない。鬼一の未知の術に対してズンドゥブは『辺境の呪術師の使う妖術』と判断し、力ずくで制圧せんと連続呪文を行使した。
 直前に使用した魔術を複数節の呪文詠唱なしにひとことのルーンを口にすることで発動できる、ロッシーナ帝国の誇る最新鋭の魔術技法。魔法後進国の呪術師ごときが対応できるわけがない、勝った。そう確信する。

「――東方、阿迦陀あかだ、西方、須多光しゅたこう、南方、刹帝魯さつていろ、 北方、蘇陀摩抳そだまに――」

 いたる所に落雷が突き立ち、地震のような衝撃に世界が砕かれたような轟音が響くなか、鬼一とアヤネル以下、マカロン王国の人々に雷が落ちることはなかった。
 鬼一の唱えた雷害を避ける結界を展開させる陰陽道の秘術による効果だ。

「……なん……だと……?」
「さっきからそれしか言えんのか語彙力貧弱太郎め、そんなに雷が好きなら俺からも馳走してやろう。馳走してやるからありがたく死ね! ――ノウマク・サンマンダ・ボダナン・インドラヤ・ソワカ!」

 鬼一が帝釈天印を切り真言を唱えると激しい雷鳴が轟き、瀑布のような勢いで雷流があふれ、押しよせて自然には決して起こらない規模の雷嵐がその場を駆け狂う。
 帝釈天とはインド神話に登場する軍神インドラのことで天空の支配者、雷鳴や稲妻を自在にあやつる存在であり、彼の武器であるヴァジュラは密教法具である金剛杵のもとになったといわれる。
 ロッシーナ帝国の先駆けとしてマカロン王国に侵略した魔闘士ズンドゥブは断末魔の叫びをあげるいとまもなく雷火にさらされ消し炭となった。

「はっはっは! その霊力は安倍晴明の、その法力は弘法大師の、その験力は役小角の再来とも称される当代随一の陰陽師・第十四代目鬼一法眼を侮るから雷に打たれて死ぬはめになるのだ」

(これが、異世界の魔術なの? なんて凄い……。それに、なんて悪そうな人……。でも……強い)

ジュンッ……。鬼一法眼のちょいわるオーラに反応して乙女の花園の奥を秘密の花蜜でかすかに濡らすアヤネルであった――」

「て、だれがどこをなにで濡らすかッ! 勝手に地の文を捏造するんじゃないわよ、このセクハラ魔人!」

 こうしてマカロン王国は異世界の好色どスケベ下ネタ大好きセクハラ魔人――ではなく陰陽師・鬼一法眼の手により滅亡をまぬがれたのだった。
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