魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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ふたりきりの救援隊

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 地面に穿たれたすり鉢状の斜面には螺旋型の歩道が作られており、底には井戸があった。
 その形状はカタツムリを思わせることから日本ではまいまいず井戸と呼ばれている。
 周りを海に囲まれたこの土地では地下水を汲み取るにも、このように深くまで井戸を掘る必要があるからだ。
 その貴重な水源を守るマカロン王国軍を主とする守備隊はロッシーナ帝国軍の奇襲にあい壊滅の危機にひんしていた。

 ウラァー!

 突如として四方に喚声がわきおこり、間断なく矢の雨をあびせられたのだ。
 反撃するいとまもなく一人、また一人と味方の兵士が倒れていく。
 守備隊を率いるロットシュタインの掲げた盾には無数の矢が突き刺さり、重くなる一方だ。
 ぐらり、と身体がかたむいた。矢傷を受けた右肩を中心にして全身から力が抜け落ち、盾が下がる。

(毒か!)
 
 意識はあるが痺れが広がり身体が言うことを聞かない。
 数十本の矢が自分目がけて飛んでくる様が妙にゆっくりと見てとれた。

「ここまでか……!」

 次の瞬間、全身を矢で射貫かれてハリネズミのようになった自分の姿を想像したロットシュタインは戦慄した。

「ナウマク・サマンダ・ボダナン・バヤベイソワカ!」

 だれかの声が響いたその時、一陣の強風が巻き起こり、ロットシュタインら守備隊をつつみ込んだ。
 飛来した矢はことごとく風に防がれ、地に落ちる。

「おおっ!」

 これはいかなる僥倖か。
 だが幸運を天に感謝する間もなく剣光白刃をきらめかせてロッシーナ軍が殺到してきた。
 こちらの二倍や三倍どころの数ではない、十倍か二十倍か、あるいはそれ以上。ロットシュタインは今度こそおのれの死を覚悟した。そのとき――。

「オン・キリウン・キャクウン!」

 また誰かの声がすると、迫りくる兵士達がばたばたと倒れ伏し、身動きひとつできずにいる。
 しかし倒れた兵士の後ろから次々と新手の兵が押し寄せてくる。
 するとまばゆい光があたりを照らし、かぐわしい匂いが立ちこもる。見れば空に異形の巨人が浮かび上がっているではないか。

「な、なんだ? 雲界巨人クラウド・ジャイアントか!?」
「頭が焦げてるぞ!」
「なら火炎巨人ムスペルか!?」
「耳長くね?」

 見るものが見れば頭に肉髷にくけいを頂いた螺髪らほつ、額の白毫びゃくごう。長い耳は耳璫じとうという装飾品を身に着けた仏様に見えたことだろう。なかにはありがたさに平伏した者もいたかもしれない。
 だがロッシーナ帝国軍の面々には菩薩もただの異形の巨人にしか見えなかった。

「アヒンサ~、不殺生戒。人を害してはいけない」

 澄んだ声が朗々と響く。

「武器を捨てて家に帰りなさい。槍や剣で人を害するかわりに鍬や鋤で畑を耕して平和に暮らしなさい。両親に孝行し、お年寄りをいたわって、人の子どもでも大事にしなさい。女性を貴んで炊事洗濯家事全般を手伝い、女友達には週に二回は食事をおごりなさい。あと――」

 菩薩? の声を大音声がさえぎる。

「こいつをしとめれば巨人殺ジャイアント・バスターしの英雄だぞ!」

 騎兵が一騎、槍を手に進み出た。装備からして一般兵ではなく、一軍を率いる将官のようだ。

「きてはァァァッ!」

 気合いとともに菩薩? 目掛けて槍を一閃。すると菩薩? の身が煙のようにかき消えた。

「仏に槍を向けるとは、この罰あたり者め!」

 消えた菩薩? の側から身をひるがえした影が槍を手にした将官の頭に掌打を打ち込んで馬上から放り投げたあと、ストンピング蹴りを何発も喰らわした。
 東方武僧モンクのように剃りあげた頭をした短身痩躯男の青年、鬼一法眼きいちほうげんだ。

「どうだ、仏罰を思い知ったか!」
「おのれ、ヤコペッティ将軍の仇! ウラァー!」

 法眼の説得力のある仏罰を目のあたりにしてもロッシーナ軍は衆を頼みに押し寄せる。

「ノウマク・サラバタタ・ギャテイビャク・サラバボッケイビャク・サラバタタラタ・センダマカロシャダ・ケンギャキギャキ・サラバビギナン・ウンタラタ・カンマン!」

 轟ッ!

 轟きわたる大音響とともに巨大な火炎流が噴出し、命ある飛鳥の如く上下に、命ある大蛇の如く左右に炎の巨体をくねらせ、その身に触れたものすべてを高熱の渦に巻き込んでゆく。
 爆発的な火炎の奔流を至近距離で浴びた兵はその熱に焼かれるより先に転がり落ちてくる大岩に激突したかのような凄まじい衝撃に宙を舞い、ついで数千度の超高熱に達する炎に金属製の武器も防具も瞬時に溶解し、人体は瞬く間に全身の水分を蒸発させて干からび、骨も残さず蒸発する。
 魔導師ウィザード級の魔法使いが使える【爆裂火球フレイム・エクスプローション】に匹敵する、いやそれ以上の猛威を振るう不動明王の火界呪が押し寄せる軍勢を一瞬で飲み込み、哀れな犠牲者たちは衝撃をともなう高熱火炎の洗礼を受けて黒焦げの消し炭となり断末魔をあげるひまもなく絶命してゆく。
 さらに伸びる炎の奔流は後方の軍勢までも飲み込み、そこにいる数百人をも焙り殺しにする。
 運よく火炎に晒されなかった者も炎が周囲の大気中の酸素を燃焼し尽くしたため急激な酸欠に襲われ、意思とは無関係に体が酸素を取り入れようとした結果、高熱の空気に肺を灼かれて次々と息絶える。

「ま、魔法使いだ! 敵に魔導師ウィザードがいるぞ!」

 魔術をいち早く戦争に取り入れたロッシーナ帝国軍である。一兵卒であっても魔法・魔術の恐ろしさは知っていた。
 味方に魔法使いがいない状況で魔法使いを相手に戦闘を続行するのは危険と判断し、ロッシーナ軍は蜘蛛の子を散らすように退散した。

「……相変わらず容赦ないわね、貴方って」
「一城皆殺しにすれば、他の城は戦わずして落ちる。これで逃げてくれればそれで良し。それよりも傷ついている味方を助けよう、そっちは俺には不得手だからな」
「わかってるわ――癒しの風・恵みの雨・彼の者に安らぎを与えよ」

 アヤネルが倒れた兵士らに近づいて呪文を唱える。すると【治癒ヒール】の魔術が発動して血の気を失った兵士の顔に活力が戻り、その身を害した傷が癒えてゆく。

「おお……! 貴女様はアヤネル姫!」
「今までよく頑張ったわね、お父様は無事?」
「そう、よかった……。心強い助っ人をつれてきたわ、お父様のところに案内して」

 アヤネルは重臣たちの反対を押しのけて鬼一法眼のみを供にし、父王の籠もる地への侵入を果たしたのであった。
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