魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

文字の大きさ
7 / 123

湧水の術

しおりを挟む
 アリフレテラ大陸は古くから戦乱の絶えない地である。
 それゆえ魔法・魔術がいち早く戦争にもちいられ、発達し、魔法使いは戦場の華として活躍した。
 森の賢者は勝利をもたらす英雄となり、神秘に満ちた叡智は死と破壊をもたらす破壊の技となった。
 魔法・魔術を軍事技術として採用・発展を遂げつつある超大国ロッシーナは世界の全てを支配しようとする欲望に駆られ、小国の乱立するナーロッパ地方に侵略。
 ロッシーナ帝国軍は各地を蹂躙して版図を広げていった。
 一国のみではこれに対抗することは不可能。
 そう判断したマカロン王国は各地の王に合従策がっしょうさくを主張し、みずからが対ロッシーナ軍の盟主となり兵をあげた。
 諸国の王もこれに呼応して出兵。連合軍はロッシーナ軍を退けて支配された人々を解放することに成功したのだが、これは戦略的レベルの罠であった。
 ロッシーナ帝国軍の略奪によって民衆は困窮しており、民を救い侵略者を退けるという大義名分を掲げる連合軍は民衆を救うために用意されていた兵糧とは別に大量の食料や物資を提供せざるをえなくなる。
 輸送能力を圧迫するどころか必要なだけの物資をそろえるのに各国の財政を逼迫させることとなり、諸王の間では撤兵論が出始めて意見が別れ初期の団結力がなくなった。
 さらに末端の兵のなかには長期の遠征によるストレスや給金の未払いによる不満から略奪に走るものも出始める始末であった。これではどちらが侵略者かわからない。
 このタイミングを見計らい、ロッシーナ軍は反撃に転じる。各地に潜ませていた召喚魔術士が魔物の群れを呼び出して連合軍の輸送部隊を全滅させ、側面攻撃によって長大化した軍列を分断。連合軍が混乱におちいるなか、ロッシーナ軍によって各個撃破されてゆくのであった――。



 ワッシャー島。
 グラスラ内界にある小さな島で、河口部はいくつもの分流があり多くの三角州を形成し、片方を海が広がりもう片方は水路に遮断された大きな岬のような地形をしている。
 島の形や海流も気流も複雑で、低い丘陵が南端で急激に高く盛り上がり、海にむかって急角度で落ち込む。周囲にも無数の小島があり、陸と海とが入り乱れているような不思議な地形となっている。
 マカロン軍はこの辺境の島にまで追いつめられていた。
 たいして広くもない土地に城塞を築いて官署や兵舎や簡易住宅を造りロッシーナへの抵抗を続けている。
 ワッシャー島の港口は水路の左右に山がせまり、巨大な鉄門を思わせる。港の背後には険しい山々がつらなり、陸上からの攻撃はまず不可能で海上から攻撃するしかない。
 海上はロッシーナの軍船に封鎖されて補給の道は閉ざされて昼夜を問わず敢行されるロッシーナの波状攻撃に消耗する一方であった。

「癒しの風・恵みの雨・彼の者に安らぎを与えよ」

 紅玉ルビーのように輝く赤毛と蒼玉サファイアのように煌めく双眸に白磁のような肌をしたアヤネルが武装して戦場を駆ける姿は、その美貌から戦場の乙女、あるいは戦姫と謳われた。
 女神と呼ぶにはまだ若く瑞々しい、ゆえに乙女であり戦姫。
 ただし人を傷つけ殺める戦姫ではない、傷ついた兵を癒やしの業で癒やす戦姫だ。

「清浄なる水・清冽なる風よ・黒き血を取り除け」

 傷を癒やし、解毒してもらった兵士たちは涙を流して歓喜する。

「この井戸は島に籠もる二万人の喉を潤す唯一の水源です。もしこの場所を占領されれば我が軍はおしまいでした。姫様には感謝の言葉もございません」
「二万人……。出陣したときは五千人だったけど、ずいぶんと増えたのね」
「ええ、本国の軍に戻れずにいた他国の兵のほかに帰る場所を失った民を抱え込んでいますので、すっかり大所帯になってしまいました」
「それだけの人数をこんな小さな井戸から汲める水だけでまかなえるの?」
「……実は正直なところ、ここから採れる水だけでは不足でして、みな渇きに苦しんでおります。それにただ飲む水がたりないだけでなく小麦を溶いたり米を焚くこともできず、干した米や肉を飲み下すのさえ苦労するありさま。せめて五日に一度でも雨が降ってくれればここまで渇きに苦しめられずにすむのですが」
「あるいは水霊を操る精霊使エレメンタラーいや召喚術士サモナーがいれば水の確保ができるわよね」

 アヤネルが意味ありげに鬼一法眼に視線を向けるとロットシュタインも期待に満ちた表情を浮かべた。

「あなたは先ほどロッシーナ軍を蹴散らした魔法使い、雨を降らせる魔術が使えるのですか!?」
「まぁ、使えないこともないですが……。見たところ井戸の水位はかなり下がっていて底が見えるくらいで干上がるのも時間の問題と思われる。私の学んだ方術が役に立つかもしれません」
「本当ですか!?」
「はい、たとえば……」

 鬼一はそう言って井戸のほとりに下りた。
 木でも火でも土でも金属でも水でも、呪術によって生じるモノは本来この世には存在しないかりそめの物体、ないしエネルギーであり一時的に呪力が姿形をもったあやふやな現象にすぎない。
 それを現実の物としてしっかりと形作るには、より複雑な術式を組んだり余分に呪力をくわえる必要がある。
 さて今回はどうするか――。
 地面に落ちていた剣を拾うと印を切り、呪を唱える。

「此水不是非凡水、水不洗水、北方壬癸水――」

 さらに呪文を唱えつつ、手にした剣の平を指でなぞる。

「一点在地中、雲雨須臾至、病者呑之、百病消除――」

 そして指先で剣身をはじくと、水滴が生じた。
 二度三度と剣身をはじくたびに水滴は大きく、その数を増し、剣身からはまるで水瓶を逆さにしたかのように水が流れ出てくる。

「金生水――、疾く!」

 気合いとともに井戸の底に剣を投げ込むと、数拍の間ののち、間欠泉のような勢いで水が湧き出し、井戸をいっぱいにするどころか縁からもあふれだし、すり鉢状の斜面は泉の様相となった

「おおっ、これは……!」

 水が尽きかけているとはいえせっかく水気のある井戸である。一から創るのではなく水脈に活を入れて水を増やすことに成功したのだ。
 弘法大師・空海には水にまつわるエピソードが多い。
 日照りに苦しむ人々を救うため雨を降らせたり、水を湧かせたりといった逸話が日本各地に数多く存在する。
『その法力は弘法大師の再来』と豪語する鬼一法眼は、みごとに空海の如く水を湧かせてみせた。
しおりを挟む
感想 107

あなたにおすすめの小説

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~

荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
 ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。  それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。 「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」 『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。  しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。  家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。  メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。  努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。 『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』 ※別サイトにも掲載しています。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...