魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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魔戦の兆し

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 光明神に仕える武僧ジルギタや百魔獣士と称する召喚術士サマナーホドロフスキーら実力のある魔術師が集結し加勢したことで戦況に変化が生じた。
 それまでは一方的に鬼一法眼の打った式神に翻弄され、武器を壊されたり兵糧を奪われたりといった工作いやがらせで士気をくじかれていたのだが、彼らが守りにつくことでそれらが阻止され、敵陣に近づくのも困難になり、そればかりか逆にロッシーナ軍側から魔術や召喚された魔物による攻撃を受けるようになったのだ。
 双方の陣地に式神と魔物が飛び交い、呪術と魔術がが交わされる攻防戦が展開された。
 ワッシャー島に籠もるマカロン連合軍側には魔術を使える者はほとんどいないため、それら魔導戦技兵の相手はほとんど鬼一ひとりで対応することとなる。
 しかし鬼一もまた五行相生・相剋の理をもって効率的に術を行使し、少ない手数をもってなお多勢を圧倒した。

 空を翔けるグリフォン、ワイバーン、フリアイ、ハーピー。
 水中戦にも陸上戦にも長けたリザードマン、半人半魚のギルマンやマーマン、水馬ピアレイ。
 ロッシーナ軍の召喚術士サマナーが召喚した数多の魔物が空と海の両方から攻めてワッシャー島に害をもたらそうとするも。

「東海の神、名は阿明。西海の神、名は祝良。南海の神、名は巨乗。北海の神、名は禺強。四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う――」

 百鬼夜行、数多の霊的特殊生物災害を退ける呪術は異世界の魔物相手にも存分に効果を発揮して人々の住む居住区には一歩もよせつけない。

「東に少陽青龍、南に老陽朱雀、西に少陰白虎、北に老陰玄武、中央に太極黄龍。陰陽五行の印もって相応の地の理を示さん――」

 たとえ退魔の霊陣をくぐり抜けてきた者がいても、たちどころに祓ってみせた。
 もともとワッシャー島は背山臨水。山を背後にして前方に水を臨む吉相の地であり、たんに縁起が良いだけでなく呪術に対する防衛能力が高い。
 そこへ鬼一の手が加わることで島全体が一種の霊域と化し、魔力の類をある程度退ける呪力の結界に覆われている。これに島に籠もる二万の人々の思念が増幅し、結界は並ならぬ域まで強まっていた。
【アースクエイク】や【メテオ・ストライク】といった大地震を起こしたり天から星を落とす儀式級攻性魔法でもない限りこれを破ることはできないだろう。
 物理的にも霊的にも、こと守りという点においては大都市と化したワッシャー島に籠もるマカロン連合軍側が圧倒的に有利であった。

「しかしこれじゃあ埒があかないな」

 いつもの店のいつもの卓で木椀にそそがれた島酒ヴァレドを美味そうに飲み干した鬼一法眼が酒精混じりのため息を吐く。

「いまのワッシャー島はほぼ100パーセント自給自足できるから飢えや渇きに苦しむ心配はないが、こうもひっきりなしに攻撃されてちゃ辛抱たまらん。『信長の野望』や『三国志』でじっくり内政がしたいのに隔月で攻め込まれて合戦ゲーになってる状態だ」
「あたしは毎日いくさができて楽しいぞ! 戦利品も手に入るしな」

 そう言うナミの手には鋭く尖った短剣ダガーが握られていた。討ち取ったワイバーンの尾にある毒針を加工して作った物だ。
 ワッシャー海賊団は昔から海棲魔獣の骨や皮を加工して道具を作る習慣があり、ワイバーンなど本来ならばこのあたりの地域には生息しない魔物を獲物にできてナミはご満悦だった。

「でも確かに守ってばかりじゃあっがくな、いっそこっちから攻めてやろうぜ」
「そうだな……、世界で一番平和を愛する日本人として専守防衛を努めてきたが、いくさが長引けばかえって双方の被害ばかりが大きくなるだけだ。ここはひとつ敵陣に大穴を開けて壊滅まで追い込んでやるか」
「今までが女々《めめ》か過ぎたんよ、とびっきり派手にいこうぜ。……キーチ。あんた、まだ隠し持ってんじゃろ? 天地がひっくり返るようなスゴか術をば」
「あるぞ。天地がひっくり返ったり、天が落ちてくるような術が」
「それ見たか!」
「手品じゃないんだから……」

(いっそ俺が単身出むいて総大将を討ち取って敗走させてやるか。だが魔術師たちが邪魔だなぁ)

 これまでの戦いでロッシーナ軍の魔術師の実力はだいたいわかった。
 注意すべき相手は光明神ホルボーグに仕える武僧ジルギタと百魔獣使と称する召喚術士サマナーのホドロフスキーをはじめ10人ほど。
 今は10人。だが島に籠もる限り敵の援軍は増える一方であり、より手強い相手が、一人が一軍に匹敵する魔導師ウィザード級の魔術師が出向いてこないとは限らない。

(骨が折れるがやはり俺がまずこいつらをかたづけて総大将を討つか……)

 昏い興奮が背筋を駆け抜けてくる。
 身体の芯を熱く、それでいて冷たく火照らせる。
 鬼一法眼は剣呑な感情がこみ上がってくるのを自覚した。
 山を下りた直後の、まだ駆け出しの頃。退魔庁に属さないもぐりの呪術者として行動していた時の、他者を呪殺するさいの昂ぶり。
 いや、それ以上だ。
 なにせこれから自分は本物の戦場を駆けることになる。
 戦争だ。
 鬼一のもといた世界では呪術はあくまでも霊的特殊生物災害を祓うための技術、力。それ以外を目的とした使用が禁じられている。
 たとえそれが国防のためであっても。
 そのことをもどかしく思い、感じる呪術者は多く存在した。
 銃砲火器はおろか身に寸鉄おびぬ人間が離れた場所の人間を殺傷する。
 呪力霊力を帯びない物理的な攻撃をしりぞけ、無効にする。
 なぜこの力を国防に使えないのか、国土を侵す者をしりぞけるために使えないのかと――。
 日本をいつまでも隷従国家としてあつかうアメリカから不利を承知でのまされる約定の数々。
 ならず者ばかりの近隣諸国から国土を奪われかけても声をあらげることすらかなわない。
 国民が血のにじむ思いで磨いた技術も他国にかすめ取られていく。
 経済は政商に振り回され、輸出も輸入も言いなり。
 そのような時代を是正するのにまず必要とされるのははエネルギー、資源だ。それも尽きることのない永遠のもの。
 たとえば龍脈。
 大地を流る無尽蔵な霊力を電気に換えることができれば人々の大きな助けとなろう。現代陰陽師の知恵と技術をもってすれば荒唐無稽な夢物語ではない。
 なのに政府はそうしない。

(政治も外交も経済も軍事も既得利権にしがみついた老害どもが独占して呪術者俺たちは阻害されている。世の中を変える力があるにも関わらず。せめて国を守るためくらいは――ここなら尽力できる――俺のこの力で――)
  
 小麦粉の焼ける良い匂いが、つづいて肉や魚を焼いたり野菜を炒めたりする匂い、さらに嗅ぎなれない香辛料の匂いも流れてきて鬼一の煩雑な思考を中断させた。
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