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魔戦 7
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旗を風になびかせて歩兵がゆく。
戦車が風を切って進む。
ただし歩兵は人ではない。顔がふたつあるもの、みっつあるもの。腕が四本あるもの、六本あるもの、人の胴に獣の顔をしたもの、翼をはやしたもの、腰から下が蛇のもの、腰から上が蛇のもの、牙をもつもの、角をもつもの、長い鉤爪をもつものらがゆく。
戦車を牽くのは馬ではない。馬のようなもの、虎のようなもの、豹のようなもの、獅子のようなもの、熊のようなものが牽いている。
笛や太鼓を鳴らしてそれらを先導するものらは人に見えた。
ロッシーナの召喚術士たちが率いる異形の軍勢だ。
「そぅら、蹴散らせ!」
大地を轟かせてマカロン連合の軍に攻めかかるが、それを迎え撃つマカロン連合軍にも人ならざるものどもが参陣していた。
鬼一法眼の使役する式神たちだ。
一つ目の小人、三つ目の大入道、足のはえた畳、二つ首の犬、尾にも首のある蛇、人の胴をした釜、 角一つある鬼、角二つある鬼、牛ほどもある人の顔、首のない馬に乗る首のない武士、嘴のある蛙、根を足がわりに歩く樹、髪を足がわりに歩く女の逆さ首、火の粉を散らす大蜘蛛、氷の息を吐く女、百の目を持つ肉塊、血まみれの髑髏、宙を舞う刀、光る猫、猿の顔と狸の胴と虎の手足と蛇の尾をした獣――。
あらゆる種類の妖怪たち。
異形の兵と異形の兵同士が衝突した。
絶叫と怒号と雄叫びとがぶつかりあって渦を巻く。地軸を揺るがす馬蹄の轟き、車輪の響き、剣と剣とが打ち合わされ、槍と槍が交差し、戟と戟とが絡み合い、そのつどに火花が散らされる。
ミノタウロスの振るう戦斧が鬼の角を叩き割り、ケンタウロスの蹄が式神兵士を蹴り潰し、天狗の投げた礫にあたったハーピーが悲痛な鳴き声をあげて地に落ちる。
魔物には妖怪をぶつける。
生身の兵たちの被害をおさえるため人外のものどもを前面にくり出しているが、ロッシーナ軍側の魔物のほうが数が多く、一体、二体と鬼一側の式が倒され、どうしても人対魔物の構図ができてしまう。
「魔物相手に無理に立ち向かうな、強敵にはかならず三人以上であたれ!」
鬼一の儀式呪術で恐れをなくしたマカロン兵たちは異形の怪物相手にも果敢に立ち向かう。
士気高揚の儀式呪術の影響で一部の魔物の放つ瘴気や毒の影響も受けにくくなっている。
しかしやはり人と魔物では地力がちがう。
一体を相手に数人でかからなければ勝負にならない。
棍棒を持って暴れまわる五メートルを超える巨人族にマカロン兵が群がり、打ちかかる。
薙ぎ払われる棍棒をかいくぐり、膝やすねを狙って斬るが、巨人の皮膚は硬く、呪術によって膂力も上昇したマカロン兵たちでも致命傷をあたえることはできない。
「オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ!」
鬼一が真言を唱えるとマカロン兵たちの手にした武器に光り輝く梵字が浮かび上がった。
軍神である毘沙門天の加護による呪力付与。刀剣であれば切れ味が、槍であれば貫通力が、鈍器であれば打撃力が大幅に増幅し、通常の武器では傷つけることのできない存在にも物理的なダメージをあたえる。
マカロン兵たちは軍神の刃を振るい、殺到する魔物を追い払った
「シェラさん! 兵たちはもう半日以上も戦場で戦っています。見ればロッシーナ側に生身の兵はなく、魔物たちを前面に押し出してきています。妖怪退治は陰陽師の役目。ここはこの鬼一法眼にまかせていったん退いて休息してください。奴らを祓ったら私もすぐに退きます」
「……わかった。キイチ・ホーゲン、また会おう」
名将は引き際を心得る。これ以上の深追いは危険と判断したシェラは味方の兵を後退させた。
「――東海の神、名は阿明。西海の神、名は祝良。南海の神、名は巨乗。北海の神、名は禺強。四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う。急々如律令!」
あとに残った鬼一は百鬼夜行避けの呪を唱え、魔物たちを根こそぎ蹴散らした。
だがまだそれらを使役していた召喚術士たちがいる。
彼らを無力化すべく見鬼を凝らして戦場を見渡すが、いままでの戦闘でさんざんその実力を見せつけられ、数多の魔物をたおした鬼一に恐れをなし退散したようだ。
二人をのぞいて。
「大気よ暴風よ・見えざる鎚となり・撃ち抜け」
圧縮凝縮された風の塊が鬼一の身に襲いかかった。
「金剋木!」
破城鎚の如き勢いの暴風の前に金気を帯びた呪壁が立ちふさがる。
風は木気か金気。そのいずれかに属するが、鬼一は風弾が木気を帯びていると瞬時に見抜き、金剋木。五行相剋の理にもとづき金気でもって打ち消したのだ。
「チッ、あい変わらず妙な方法で人の魔術を打ち消しやがる!」
仔牛ほどの大きさをした赤い大型犬をともなって百魔獣使ホドロフスキーが姿を見せる。
「キサマァッッ! 先日はよくも下品極まりない呪いをかけてくれたな! 今この場で引導を渡してくれるわ!」
すでに【神性聖衣】をまとった光明神ホルボーグに仕える武僧ジルギタも。
ロッシーナ軍側でも屈指の魔導戦技兵である二人と一体が鬼一法眼の前に立ちふさがった。
戦車が風を切って進む。
ただし歩兵は人ではない。顔がふたつあるもの、みっつあるもの。腕が四本あるもの、六本あるもの、人の胴に獣の顔をしたもの、翼をはやしたもの、腰から下が蛇のもの、腰から上が蛇のもの、牙をもつもの、角をもつもの、長い鉤爪をもつものらがゆく。
戦車を牽くのは馬ではない。馬のようなもの、虎のようなもの、豹のようなもの、獅子のようなもの、熊のようなものが牽いている。
笛や太鼓を鳴らしてそれらを先導するものらは人に見えた。
ロッシーナの召喚術士たちが率いる異形の軍勢だ。
「そぅら、蹴散らせ!」
大地を轟かせてマカロン連合の軍に攻めかかるが、それを迎え撃つマカロン連合軍にも人ならざるものどもが参陣していた。
鬼一法眼の使役する式神たちだ。
一つ目の小人、三つ目の大入道、足のはえた畳、二つ首の犬、尾にも首のある蛇、人の胴をした釜、 角一つある鬼、角二つある鬼、牛ほどもある人の顔、首のない馬に乗る首のない武士、嘴のある蛙、根を足がわりに歩く樹、髪を足がわりに歩く女の逆さ首、火の粉を散らす大蜘蛛、氷の息を吐く女、百の目を持つ肉塊、血まみれの髑髏、宙を舞う刀、光る猫、猿の顔と狸の胴と虎の手足と蛇の尾をした獣――。
あらゆる種類の妖怪たち。
異形の兵と異形の兵同士が衝突した。
絶叫と怒号と雄叫びとがぶつかりあって渦を巻く。地軸を揺るがす馬蹄の轟き、車輪の響き、剣と剣とが打ち合わされ、槍と槍が交差し、戟と戟とが絡み合い、そのつどに火花が散らされる。
ミノタウロスの振るう戦斧が鬼の角を叩き割り、ケンタウロスの蹄が式神兵士を蹴り潰し、天狗の投げた礫にあたったハーピーが悲痛な鳴き声をあげて地に落ちる。
魔物には妖怪をぶつける。
生身の兵たちの被害をおさえるため人外のものどもを前面にくり出しているが、ロッシーナ軍側の魔物のほうが数が多く、一体、二体と鬼一側の式が倒され、どうしても人対魔物の構図ができてしまう。
「魔物相手に無理に立ち向かうな、強敵にはかならず三人以上であたれ!」
鬼一の儀式呪術で恐れをなくしたマカロン兵たちは異形の怪物相手にも果敢に立ち向かう。
士気高揚の儀式呪術の影響で一部の魔物の放つ瘴気や毒の影響も受けにくくなっている。
しかしやはり人と魔物では地力がちがう。
一体を相手に数人でかからなければ勝負にならない。
棍棒を持って暴れまわる五メートルを超える巨人族にマカロン兵が群がり、打ちかかる。
薙ぎ払われる棍棒をかいくぐり、膝やすねを狙って斬るが、巨人の皮膚は硬く、呪術によって膂力も上昇したマカロン兵たちでも致命傷をあたえることはできない。
「オン・ベイシラ・マンダヤ・ソワカ!」
鬼一が真言を唱えるとマカロン兵たちの手にした武器に光り輝く梵字が浮かび上がった。
軍神である毘沙門天の加護による呪力付与。刀剣であれば切れ味が、槍であれば貫通力が、鈍器であれば打撃力が大幅に増幅し、通常の武器では傷つけることのできない存在にも物理的なダメージをあたえる。
マカロン兵たちは軍神の刃を振るい、殺到する魔物を追い払った
「シェラさん! 兵たちはもう半日以上も戦場で戦っています。見ればロッシーナ側に生身の兵はなく、魔物たちを前面に押し出してきています。妖怪退治は陰陽師の役目。ここはこの鬼一法眼にまかせていったん退いて休息してください。奴らを祓ったら私もすぐに退きます」
「……わかった。キイチ・ホーゲン、また会おう」
名将は引き際を心得る。これ以上の深追いは危険と判断したシェラは味方の兵を後退させた。
「――東海の神、名は阿明。西海の神、名は祝良。南海の神、名は巨乗。北海の神、名は禺強。四海の大神、百鬼を避け、凶災を蕩う。急々如律令!」
あとに残った鬼一は百鬼夜行避けの呪を唱え、魔物たちを根こそぎ蹴散らした。
だがまだそれらを使役していた召喚術士たちがいる。
彼らを無力化すべく見鬼を凝らして戦場を見渡すが、いままでの戦闘でさんざんその実力を見せつけられ、数多の魔物をたおした鬼一に恐れをなし退散したようだ。
二人をのぞいて。
「大気よ暴風よ・見えざる鎚となり・撃ち抜け」
圧縮凝縮された風の塊が鬼一の身に襲いかかった。
「金剋木!」
破城鎚の如き勢いの暴風の前に金気を帯びた呪壁が立ちふさがる。
風は木気か金気。そのいずれかに属するが、鬼一は風弾が木気を帯びていると瞬時に見抜き、金剋木。五行相剋の理にもとづき金気でもって打ち消したのだ。
「チッ、あい変わらず妙な方法で人の魔術を打ち消しやがる!」
仔牛ほどの大きさをした赤い大型犬をともなって百魔獣使ホドロフスキーが姿を見せる。
「キサマァッッ! 先日はよくも下品極まりない呪いをかけてくれたな! 今この場で引導を渡してくれるわ!」
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