魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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死闘 2

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 三人の助っ人の出現に無駄口を叩くことなく鬼一法眼きいちほうげんが動く。
 狙うのはホドロフスキーの首。
 まず首を潰して呪文を唱えられなくするつもりだ。

「ッ!?」

 ホドロフスキーは鬼一の動きに反応できなかった。
 鬼一の姿が消えたように見えたからだ。
 呪術による隠形でもなければ魔術による【透明インビジビリティ】でもない。
 縮地だ。
 縮地と言っても地脈を縮め長距離をわずかな時間で移動する方術の縮地ではなく武術としての縮地だ。
 武術としての縮地とは?
 瞬時に相手との間合いをつめたり、相手の死角に入り込む体さばきを縮地と呼ぶ。
『手足をもって動かずに動く』
 手先や足先で動くのではなく、身体全体を駆使して動く。
 身体の全体が連動しており、特定の部位が目標に向かっているわけではないので相手はその動きを認識できず、目には消えたように映る特殊な動作のことをさす。
 日本の武術にも『無足之法』という似たような技術が存在する。
 武の縮地で移動した鬼一がホドロフスキーの首に貫手を入れた。
 相撲でいう喉輪だが、完全に喉を潰すいきおいで突く。
 命中。
 甲状軟骨切断。
 続けざまに股間を蹴り上げる。
 命中。
 睾丸破裂、恥骨粉砕。
 前のめりになるホドロフスキーに対し容赦なく打撃をあびせかける。
 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る――。
 ひたすら、殴る。
 両手で頭と顔を守るようしてうずくまったので、頭部目がけて膝蹴りを叩きこむ。のけ反ってがら空きになった胴に突きと蹴りの応酬。
 とかく呪術師というものは相手も呪術師だと呪術戦になると思いがちであり、それはこの世界の魔法使いも似たようなものだった。
 だが競技ではないのだから、呪術師同士が向かい合って、よ~いドンで呪文詠唱開始。などという決まりなどない。
 呪文の詠唱や集中するいとまをあたえず、肉弾戦に持ちこむ。
 これが鬼一法眼流の対人呪術戦だ。
 そしてこの方法は異世界でも通用した。
 武術とは、もっとも実践的な魔術のひとつなのだ。
 このやり方で鬼一は今まで何人もの呪術者を血祭りにあげてきた。
 呪術者にとって相手の接近を防ぐため護法や式神を守りにつけるのがセオリーだが、プロならともかく護法式をはべらすもぐりの呪術者などめったにいない。
 今回の場合、ホドロフスキー〝とっておき〟の召喚獣を自分の身の近くから離しすぎた。鬼一への攻撃を優先することが裏目に出たのだ。
 一方的。あまりにも一方的な鬼一の攻勢だったが、しかし――。

「!?」

 異様な殺気を感じて跳びすさる鬼一。
 わき腹に痛みが走る。まるで獣にで咬み千切られたかのように肉がえぐられていた。
 内臓までは達していない。致命傷ではないものの、血が流れ出し地面に染みを作る。

「やれやれ、なんて乱暴な野郎だ。魔法使いが奇妙な体術使って肉弾戦とか、ありえねぇ……つうか、攻撃がえげつねぇ……」
「魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです」
「こんなところでタイトル回収してんじゃねえッ!」

 ホドロフスキーの体から声が響く。
 喉は完全に潰したはず。ではどこから?
 ホドロフスキーの肩に牙を剥いた犬の頭が生えている。その犬がしゃべっているのだ。

「くっくっく、召喚されし三十六の禽獣よ、わがもとへ集え。咬み、啄み、啜れ!」

 ホドロフスキーの全身から次々と獣の頭が生える。
 膝からも肩からも犬や猫。鳥の頭が生えてくる。
 指は蛇に、つま先は蝦蟇に、背中からも得体の知れないなにかが生えて不気味に蠢いているのがわかる。
 だが服はどこも破れていない。肉体そのもが変化しているわけではないようだ。
 鬼一のもといた世界ではひとつの巨大な霊的特殊生物災害を中心として無数の霊災が連鎖的に発生し、無数の霊的存在が実体化して暴れ回る状態を百鬼夜行と呼ぶ。
 今のホドロフスキーの醜悪かつ邪悪な姿と、身にまとう妖気の量は、まさに歩く百鬼夜行状態だ。

「おいおい、一人百鬼夜行かよ。ワンマンアーミーなんて言葉はあるが、ワンマン……そういや百鬼夜行を英語にするとなんて言うんだ? パンデモニウム? う~ん、ちょとちがうような……」

 鬼一は軽口を叩きつつ、異形と化したホドロフスキーの姿をしっかりと見鬼る。
 五行の偏向は見られない。しいて言えば呪詛の塊だ。
 一体でも人ひとりを呪殺できる邪悪な動物霊の群れを大量に背負っている。
 下手に接近すれば邪霊獣たちの牙の餌食になる。となれば――。
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