31 / 123
死闘 2
しおりを挟む
三人の助っ人の出現に無駄口を叩くことなく鬼一法眼が動く。
狙うのはホドロフスキーの首。
まず首を潰して呪文を唱えられなくするつもりだ。
「ッ!?」
ホドロフスキーは鬼一の動きに反応できなかった。
鬼一の姿が消えたように見えたからだ。
呪術による隠形でもなければ魔術による【透明】でもない。
縮地だ。
縮地と言っても地脈を縮め長距離をわずかな時間で移動する方術の縮地ではなく武術としての縮地だ。
武術としての縮地とは?
瞬時に相手との間合いをつめたり、相手の死角に入り込む体さばきを縮地と呼ぶ。
『手足をもって動かずに動く』
手先や足先で動くのではなく、身体全体を駆使して動く。
身体の全体が連動しており、特定の部位が目標に向かっているわけではないので相手はその動きを認識できず、目には消えたように映る特殊な動作のことをさす。
日本の武術にも『無足之法』という似たような技術が存在する。
武の縮地で移動した鬼一がホドロフスキーの首に貫手を入れた。
相撲でいう喉輪だが、完全に喉を潰すいきおいで突く。
命中。
甲状軟骨切断。
続けざまに股間を蹴り上げる。
命中。
睾丸破裂、恥骨粉砕。
前のめりになるホドロフスキーに対し容赦なく打撃をあびせかける。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る――。
ひたすら、殴る。
両手で頭と顔を守るようしてうずくまったので、頭部目がけて膝蹴りを叩きこむ。のけ反ってがら空きになった胴に突きと蹴りの応酬。
とかく呪術師というものは相手も呪術師だと呪術戦になると思いがちであり、それはこの世界の魔法使いも似たようなものだった。
だが競技ではないのだから、呪術師同士が向かい合って、よ~いドンで呪文詠唱開始。などという決まりなどない。
呪文の詠唱や集中するいとまをあたえず、肉弾戦に持ちこむ。
これが鬼一法眼流の対人呪術戦だ。
そしてこの方法は異世界でも通用した。
武術とは、もっとも実践的な魔術のひとつなのだ。
このやり方で鬼一は今まで何人もの呪術者を血祭りにあげてきた。
呪術者にとって相手の接近を防ぐため護法や式神を守りにつけるのがセオリーだが、プロならともかく護法式をはべらすもぐりの呪術者などめったにいない。
今回の場合、ホドロフスキー〝とっておき〟の召喚獣を自分の身の近くから離しすぎた。鬼一への攻撃を優先することが裏目に出たのだ。
一方的。あまりにも一方的な鬼一の攻勢だったが、しかし――。
「!?」
異様な殺気を感じて跳びすさる鬼一。
わき腹に痛みが走る。まるで獣にで咬み千切られたかのように肉がえぐられていた。
内臓までは達していない。致命傷ではないものの、血が流れ出し地面に染みを作る。
「やれやれ、なんて乱暴な野郎だ。魔法使いが奇妙な体術使って肉弾戦とか、ありえねぇ……つうか、攻撃がえげつねぇ……」
「魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです」
「こんなところでタイトル回収してんじゃねえッ!」
ホドロフスキーの体から声が響く。
喉は完全に潰したはず。ではどこから?
ホドロフスキーの肩に牙を剥いた犬の頭が生えている。その犬がしゃべっているのだ。
「くっくっく、召喚されし三十六の禽獣よ、わがもとへ集え。咬み、啄み、啜れ!」
ホドロフスキーの全身から次々と獣の頭が生える。
膝からも肩からも犬や猫。鳥の頭が生えてくる。
指は蛇に、つま先は蝦蟇に、背中からも得体の知れないなにかが生えて不気味に蠢いているのがわかる。
だが服はどこも破れていない。肉体そのもが変化しているわけではないようだ。
鬼一のもといた世界ではひとつの巨大な霊的特殊生物災害を中心として無数の霊災が連鎖的に発生し、無数の霊的存在が実体化して暴れ回る状態を百鬼夜行と呼ぶ。
今のホドロフスキーの醜悪かつ邪悪な姿と、身にまとう妖気の量は、まさに歩く百鬼夜行状態だ。
「おいおい、一人百鬼夜行かよ。ワンマンアーミーなんて言葉はあるが、ワンマン……そういや百鬼夜行を英語にするとなんて言うんだ? パンデモニウム? う~ん、ちょとちがうような……」
鬼一は軽口を叩きつつ、異形と化したホドロフスキーの姿をしっかりと見鬼る。
五行の偏向は見られない。しいて言えば呪詛の塊だ。
一体でも人ひとりを呪殺できる邪悪な動物霊の群れを大量に背負っている。
下手に接近すれば邪霊獣たちの牙の餌食になる。となれば――。
狙うのはホドロフスキーの首。
まず首を潰して呪文を唱えられなくするつもりだ。
「ッ!?」
ホドロフスキーは鬼一の動きに反応できなかった。
鬼一の姿が消えたように見えたからだ。
呪術による隠形でもなければ魔術による【透明】でもない。
縮地だ。
縮地と言っても地脈を縮め長距離をわずかな時間で移動する方術の縮地ではなく武術としての縮地だ。
武術としての縮地とは?
瞬時に相手との間合いをつめたり、相手の死角に入り込む体さばきを縮地と呼ぶ。
『手足をもって動かずに動く』
手先や足先で動くのではなく、身体全体を駆使して動く。
身体の全体が連動しており、特定の部位が目標に向かっているわけではないので相手はその動きを認識できず、目には消えたように映る特殊な動作のことをさす。
日本の武術にも『無足之法』という似たような技術が存在する。
武の縮地で移動した鬼一がホドロフスキーの首に貫手を入れた。
相撲でいう喉輪だが、完全に喉を潰すいきおいで突く。
命中。
甲状軟骨切断。
続けざまに股間を蹴り上げる。
命中。
睾丸破裂、恥骨粉砕。
前のめりになるホドロフスキーに対し容赦なく打撃をあびせかける。
殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る――。
ひたすら、殴る。
両手で頭と顔を守るようしてうずくまったので、頭部目がけて膝蹴りを叩きこむ。のけ反ってがら空きになった胴に突きと蹴りの応酬。
とかく呪術師というものは相手も呪術師だと呪術戦になると思いがちであり、それはこの世界の魔法使いも似たようなものだった。
だが競技ではないのだから、呪術師同士が向かい合って、よ~いドンで呪文詠唱開始。などという決まりなどない。
呪文の詠唱や集中するいとまをあたえず、肉弾戦に持ちこむ。
これが鬼一法眼流の対人呪術戦だ。
そしてこの方法は異世界でも通用した。
武術とは、もっとも実践的な魔術のひとつなのだ。
このやり方で鬼一は今まで何人もの呪術者を血祭りにあげてきた。
呪術者にとって相手の接近を防ぐため護法や式神を守りにつけるのがセオリーだが、プロならともかく護法式をはべらすもぐりの呪術者などめったにいない。
今回の場合、ホドロフスキー〝とっておき〟の召喚獣を自分の身の近くから離しすぎた。鬼一への攻撃を優先することが裏目に出たのだ。
一方的。あまりにも一方的な鬼一の攻勢だったが、しかし――。
「!?」
異様な殺気を感じて跳びすさる鬼一。
わき腹に痛みが走る。まるで獣にで咬み千切られたかのように肉がえぐられていた。
内臓までは達していない。致命傷ではないものの、血が流れ出し地面に染みを作る。
「やれやれ、なんて乱暴な野郎だ。魔法使いが奇妙な体術使って肉弾戦とか、ありえねぇ……つうか、攻撃がえげつねぇ……」
「魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです」
「こんなところでタイトル回収してんじゃねえッ!」
ホドロフスキーの体から声が響く。
喉は完全に潰したはず。ではどこから?
ホドロフスキーの肩に牙を剥いた犬の頭が生えている。その犬がしゃべっているのだ。
「くっくっく、召喚されし三十六の禽獣よ、わがもとへ集え。咬み、啄み、啜れ!」
ホドロフスキーの全身から次々と獣の頭が生える。
膝からも肩からも犬や猫。鳥の頭が生えてくる。
指は蛇に、つま先は蝦蟇に、背中からも得体の知れないなにかが生えて不気味に蠢いているのがわかる。
だが服はどこも破れていない。肉体そのもが変化しているわけではないようだ。
鬼一のもといた世界ではひとつの巨大な霊的特殊生物災害を中心として無数の霊災が連鎖的に発生し、無数の霊的存在が実体化して暴れ回る状態を百鬼夜行と呼ぶ。
今のホドロフスキーの醜悪かつ邪悪な姿と、身にまとう妖気の量は、まさに歩く百鬼夜行状態だ。
「おいおい、一人百鬼夜行かよ。ワンマンアーミーなんて言葉はあるが、ワンマン……そういや百鬼夜行を英語にするとなんて言うんだ? パンデモニウム? う~ん、ちょとちがうような……」
鬼一は軽口を叩きつつ、異形と化したホドロフスキーの姿をしっかりと見鬼る。
五行の偏向は見られない。しいて言えば呪詛の塊だ。
一体でも人ひとりを呪殺できる邪悪な動物霊の群れを大量に背負っている。
下手に接近すれば邪霊獣たちの牙の餌食になる。となれば――。
32
あなたにおすすめの小説
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる