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星落とし
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五体の明王に祈祷していたのとは別の場所、別の祭壇の前でもう一人の鬼一法眼が、鬼一の分霊式が祝詞を唱えている。
「―― 天勝国勝奇魂千憑彦命と称へ奉る、曾富戸の神、またの御名は天津甕星の神、是の斎庭に仕へ奉れる、正しき信人等に、御霊幸へまして、おのもおのもの御魂に、勝れたる神御魂懸らせたまひて、今日が日まで知らず知らずに犯せる、罪穢過ちを見直し、聞き直し、怠りあるを許させたまはむことを、国の大御祖の大前に詔らせたまへ――」
天津甕星。
またの名を天香香背男、あるいは星香香背男《ほしのかがせお》。
日本神話に登場する天空と星々を司る神であり、
武甕槌命や経津主神ら天津神の天孫降臨に最後まで抵抗した、まつろわぬ悪神ともされる存在。
大いなる天空の神への怨敵調伏祈願だ。
密教系の術をもちいたその直後に神道系の術をもちいる。まさに現代日本呪術界ならではのバーリトゥードぶりだ。
「星神よ、宙空の住者よ、星々の子らよ。はるかな世界へと至る回廊を開け。天空に輝ける星々の子らよ、わが召喚に応じ、疾く集い来たりて中空を裂く剣となれ、大地を打ち砕く礫となれ、わが敵を撃つ雷火となれ――。 急々如律令!」
鬼一法眼の身体からふたたび膨大な呪が放たれた。
ロッシーナの軍勢が目前へと迫り、数に劣るマカロン連合軍を飲み込もうとした、その時。それが起きた。
空を切り裂いて無数の灼熱の火球が落下し、ロッシーナ軍のそこかしこに突き刺さったのだ。
地に墜ちた火球はこの世のものとは思えないすさまじい轟音と閃光をあげて爆発し、周囲に火礫を飛散させた。
鬼一は軍議の席で「空を落としてみせます」と豪語したとおり、まるで天がくずれ落ちてきたかのような隕石群の雨。
落下地点にいた者は即死をまぬがれず、砕け散った隕石は周囲に石片と炎を振りまき破片と熱によって二重三重の打撃を与える。
一瞬のうちにロッシーナ軍の戦力は半分以下となった。
実際に倒れた者は四分の一程度ではあったが、突然の災厄に動転し戦うどころではなくなってしまった。
全滅に等しい損害である。
全滅。この言葉には「すべて滅びること、滅ぼすこと。また、すべて失敗に終わること」という意味がある。
なのでアニメや漫画などで「全滅した」とあると1兵残らず戦死した、と考えがちだ。
しかし実際の戦争である程度の部隊がひとり残らず死ぬ、ということは実際の戦闘ではまずありえない。
最前線に派遣された小隊や分隊の場合は別だが、作戦参加部隊がみんな死ぬようなことは実際の戦争ではほとんど起こらない。
実際の戦争での『全滅』とは作戦実施部隊あるいは守備隊がその兵力を40%~50%損耗することである。
そこまでやられた部隊にはもう組織的抵抗力がない、と判定されるのだ。
なお、この損耗というのには戦傷者も含まれる。戦えなくなった者は生死を問わず損耗なのだ。
こうなったら上級司令部は部隊を撤退させるか援軍を送るか、という決断を迫られることになる。もっともたいていの場合は援軍など間に合わないが。
逆にいえば勝っている側にとっては敵の組織的抵抗力を奪う事ができれば、それで勝利なのである。
なにも1兵残らず殺す必要はない。それどころか全滅を図ると必死になった敵に反撃され、どんな被害を被るかわからない。窮鼠、猫を噛む。織田信長は長島一向一揆との戦いでこれを経験した。
もちろん歴史上の戦いに相手の全滅を企図したものがなかったわけではない。
1099年7月、第1回十字軍はエルサレムを陥落させ、そこにいた異教徒を非戦闘員まで虐殺した。
これは軍事的必然性からではなく十字軍が持っていた宗教的陶酔の結果であり、軍事的な合理性などがまるで尊ばれていない時代の話である。
相手を本当の意味で全滅させる意図で戦闘が行われることは、まずないのだ。
日露戦争さなかの1904年、日本海軍の連合艦隊司令長官の東郷平八郎大将はヨーロッパから日本に回航してくるバルチック艦隊を撃滅すると誓い、実際に翌年の5月、バルチック艦隊を壊滅させた。
この日本海海戦にしてもバルチック艦隊全38隻中、12隻は逃げのびたが、これでもりっぱに撃滅したといえた。
閑話休題。
鬼一の天津甕星の星落としの呪法によりロッシーナ軍は大損害を被り、無傷だった者も指揮官を失い烏合の衆と化していた。
そこへ余勢を駆ってマカロン連合軍がなだれ込む。
喚声をあげて斬り込んできたマカロン軍の刀槍の前にロッシーナ軍はなすすべもなく斃されてゆく。
初戦から数ヶ月におよんだワッシャー島の攻防戦は鬼一法眼の尽力によりロッシーナ帝国軍の惨敗に終わった。
マカロン連合軍が、鬼一法眼がロッシーナ帝国軍に勝ったのだ。
勝ったのだ。
勝ったのである。
「―― 天勝国勝奇魂千憑彦命と称へ奉る、曾富戸の神、またの御名は天津甕星の神、是の斎庭に仕へ奉れる、正しき信人等に、御霊幸へまして、おのもおのもの御魂に、勝れたる神御魂懸らせたまひて、今日が日まで知らず知らずに犯せる、罪穢過ちを見直し、聞き直し、怠りあるを許させたまはむことを、国の大御祖の大前に詔らせたまへ――」
天津甕星。
またの名を天香香背男、あるいは星香香背男《ほしのかがせお》。
日本神話に登場する天空と星々を司る神であり、
武甕槌命や経津主神ら天津神の天孫降臨に最後まで抵抗した、まつろわぬ悪神ともされる存在。
大いなる天空の神への怨敵調伏祈願だ。
密教系の術をもちいたその直後に神道系の術をもちいる。まさに現代日本呪術界ならではのバーリトゥードぶりだ。
「星神よ、宙空の住者よ、星々の子らよ。はるかな世界へと至る回廊を開け。天空に輝ける星々の子らよ、わが召喚に応じ、疾く集い来たりて中空を裂く剣となれ、大地を打ち砕く礫となれ、わが敵を撃つ雷火となれ――。 急々如律令!」
鬼一法眼の身体からふたたび膨大な呪が放たれた。
ロッシーナの軍勢が目前へと迫り、数に劣るマカロン連合軍を飲み込もうとした、その時。それが起きた。
空を切り裂いて無数の灼熱の火球が落下し、ロッシーナ軍のそこかしこに突き刺さったのだ。
地に墜ちた火球はこの世のものとは思えないすさまじい轟音と閃光をあげて爆発し、周囲に火礫を飛散させた。
鬼一は軍議の席で「空を落としてみせます」と豪語したとおり、まるで天がくずれ落ちてきたかのような隕石群の雨。
落下地点にいた者は即死をまぬがれず、砕け散った隕石は周囲に石片と炎を振りまき破片と熱によって二重三重の打撃を与える。
一瞬のうちにロッシーナ軍の戦力は半分以下となった。
実際に倒れた者は四分の一程度ではあったが、突然の災厄に動転し戦うどころではなくなってしまった。
全滅に等しい損害である。
全滅。この言葉には「すべて滅びること、滅ぼすこと。また、すべて失敗に終わること」という意味がある。
なのでアニメや漫画などで「全滅した」とあると1兵残らず戦死した、と考えがちだ。
しかし実際の戦争である程度の部隊がひとり残らず死ぬ、ということは実際の戦闘ではまずありえない。
最前線に派遣された小隊や分隊の場合は別だが、作戦参加部隊がみんな死ぬようなことは実際の戦争ではほとんど起こらない。
実際の戦争での『全滅』とは作戦実施部隊あるいは守備隊がその兵力を40%~50%損耗することである。
そこまでやられた部隊にはもう組織的抵抗力がない、と判定されるのだ。
なお、この損耗というのには戦傷者も含まれる。戦えなくなった者は生死を問わず損耗なのだ。
こうなったら上級司令部は部隊を撤退させるか援軍を送るか、という決断を迫られることになる。もっともたいていの場合は援軍など間に合わないが。
逆にいえば勝っている側にとっては敵の組織的抵抗力を奪う事ができれば、それで勝利なのである。
なにも1兵残らず殺す必要はない。それどころか全滅を図ると必死になった敵に反撃され、どんな被害を被るかわからない。窮鼠、猫を噛む。織田信長は長島一向一揆との戦いでこれを経験した。
もちろん歴史上の戦いに相手の全滅を企図したものがなかったわけではない。
1099年7月、第1回十字軍はエルサレムを陥落させ、そこにいた異教徒を非戦闘員まで虐殺した。
これは軍事的必然性からではなく十字軍が持っていた宗教的陶酔の結果であり、軍事的な合理性などがまるで尊ばれていない時代の話である。
相手を本当の意味で全滅させる意図で戦闘が行われることは、まずないのだ。
日露戦争さなかの1904年、日本海軍の連合艦隊司令長官の東郷平八郎大将はヨーロッパから日本に回航してくるバルチック艦隊を撃滅すると誓い、実際に翌年の5月、バルチック艦隊を壊滅させた。
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閑話休題。
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マカロン連合軍が、鬼一法眼がロッシーナ帝国軍に勝ったのだ。
勝ったのだ。
勝ったのである。
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