魔法使いが無双する異世界に転移した魔法の使えない俺ですが、陰陽術とか武術とか魔法以外のことは大抵できるのでなんとか死なずにやっていけそうです

忠行

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 ロッシーナ帝国の首都バクシカの中心でひときわ威容を誇る王城クレムリは装飾らしい装飾はまるで施されず、前線の砦を思わせる無骨な造りであった。
 その一室に何十人もが寝そべることができそうな広いテーブルがあり、卓上には山と盛りつけられた料理の数々がならぶ。
 まだ若い仔牛を潰して切り出され、軽く火を通しただけの血の滴るステーキ。肋骨のついた柔らかな羊肉、丸焼きにされた子豚や鶏、牛の尾肉を丁寧に煮込んだスープの大鍋や臓物の新鮮な部位のみを調理したもの、編みカゴには竈から出されたばかりの多様なパンが山のように積まれ、湯で上げられた野菜が彩りを添える。
 チーズも丸ごとの塊が多様に用意され、大きな水差しには葡萄酒や麦酒がなみなみと注がれてた。
 飢え死にしかけた民に分け与えれば百人以上が一週間は生き延びられるであろう量を貪り食うのはたった五人の男たちであった。
 いずれも筋肉質の巨漢である。
 また容貌も親兄弟かのように酷似していた。
 そのなかでも特に上座にあるひとりは他の四人よりも年かさであったが、若い四人を圧倒する体躯を誇っていた。
 その男の発する気だけで空間が圧迫されるような錯覚さえ抱かせるほどだ。
 鋼のような骨格に荒縄のような筋肉は隆々と盛り上がり、さながら鉄魔像アイアンゴーレム
 彼こそロッシーナ帝国の頂点に立つ皇帝ツァーリヴィロディミルその人であり、他の四人は彼の息子である皇太子たちであった。
 すべての嘆きを焼け尽くす暴虐皇帝。
 すべての恨みを破る侵略王。
 すべての言葉を塵と消す獣王。
 あらゆるものを破壊し、奪い、犯し、蹂躙し、焼き尽くし、後に残るは讃歌のみ。
 アリフレテラ大陸の三分の一を支配しつつある地上の主。

「――モドゥ将軍お討ち死に、モダク将軍お討ち死に、マゴメド将軍お討ち死に、ヴィタリー将軍お討ち死に――」

 伝令の口から伝えられるナーロッパ遠征についての報告、数多の将官の死を聞いても皇帝ヴィロデミルも皇太子たちも眉ひとつ肉を喰らい酒を飲み干す。

「俺は――」

 食事を終え、火酒で喉を潤すヴィロデミルが声を出した。皇帝という至高の身分であるにも関わらず『俺』という一人称を使うのは彼の性格ゆえか、はたまたかつて彼とおなじように世界を蹂躙した魔王に倣ってのことか。

「敗戦の報を聞くのが嫌いだ」
「ヒェッ! お、お赦しを! 私はただ彼の地の出来事をお伝えしただけで――」
「恨むのならいくさに負けた彼の地の将兵どもを恨むがいい。――紫電の雷精よ・暗き雲より出でて・雷火と迸れ!」

 皇帝ヴィロデミルの怒りは雷に喩えられた。それは彼の一喝が文字通り〝雷〟となったからだ。
 伝令の体に落雷が突き立ち、地震のような衝撃と世界が砕かれたような轟音が鳴り響き、役目をまっとうしただけの哀れな犠牲者は消し炭となった。

「――俺は敗戦の報を聞くのが嫌いだ。だが好きなことはたくさんある。おまえたちにとって快楽とはなんだ」

 第一皇子が応えた。

「春や秋の涼しい日に逞しい馬に跨りどこまでも続く草原を疾走することです」

 第二皇子が応えた。

「多くの猟犬を率い、手に鷹を止まらせて山野へおもむき、鷹が鳥に一撃を加えるのを見ることであります」

 第三皇子が応えた。

「敵を撃滅し、駆逐し、あらゆる物を奪い、敵の妻、娘、姉、妹。老婆から幼女まであらゆる女を犯し尽くし我が子を妊ませることです」

 第四皇子が応えた。

「春から夏にかけての季節に少年たちとともに水浴びしてから涼んで、歌を歌いながら帰路につくことです」

 ヴィロデミルの手から金牌が投げられ、第三皇子の前に落ちた。
 この金牌を与えられた者は皇帝とほぼ同等の権力を持ち、軍を動かすことや諸侯や大臣らの処罰などを皇帝から一任されるなど、その権力は絶大なものであった。

「ナーロッパを落とせ」
「ははっ、必ずや吉報をお届けします」

 新たな獣が解き放たれ、ナーロッパに牙を剥く。
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