42 / 123
幕間
しおりを挟む
ロッシーナ帝国の首都バクシカの中心でひときわ威容を誇る王城クレムリは装飾らしい装飾はまるで施されず、前線の砦を思わせる無骨な造りであった。
その一室に何十人もが寝そべることができそうな広いテーブルがあり、卓上には山と盛りつけられた料理の数々がならぶ。
まだ若い仔牛を潰して切り出され、軽く火を通しただけの血の滴るステーキ。肋骨のついた柔らかな羊肉、丸焼きにされた子豚や鶏、牛の尾肉を丁寧に煮込んだスープの大鍋や臓物の新鮮な部位のみを調理したもの、編みカゴには竈から出されたばかりの多様なパンが山のように積まれ、湯で上げられた野菜が彩りを添える。
チーズも丸ごとの塊が多様に用意され、大きな水差しには葡萄酒や麦酒がなみなみと注がれてた。
飢え死にしかけた民に分け与えれば百人以上が一週間は生き延びられるであろう量を貪り食うのはたった五人の男たちであった。
いずれも筋肉質の巨漢である。
また容貌も親兄弟かのように酷似していた。
そのなかでも特に上座にあるひとりは他の四人よりも年かさであったが、若い四人を圧倒する体躯を誇っていた。
その男の発する気だけで空間が圧迫されるような錯覚さえ抱かせるほどだ。
鋼のような骨格に荒縄のような筋肉は隆々と盛り上がり、さながら鉄魔像
彼こそロッシーナ帝国の頂点に立つ皇帝ヴィロディミルその人であり、他の四人は彼の息子である皇太子たちであった。
すべての嘆きを焼け尽くす暴虐皇帝。
すべての恨みを破る侵略王。
すべての言葉を塵と消す獣王。
あらゆるものを破壊し、奪い、犯し、蹂躙し、焼き尽くし、後に残るは讃歌のみ。
アリフレテラ大陸の三分の一を支配しつつある地上の主。
「――モドゥ将軍お討ち死に、モダク将軍お討ち死に、マゴメド将軍お討ち死に、ヴィタリー将軍お討ち死に――」
伝令の口から伝えられるナーロッパ遠征についての報告、数多の将官の死を聞いても皇帝ヴィロデミルも皇太子たちも眉ひとつ肉を喰らい酒を飲み干す。
「俺は――」
食事を終え、火酒で喉を潤すヴィロデミルが声を出した。皇帝という至高の身分であるにも関わらず『俺』という一人称を使うのは彼の性格ゆえか、はたまたかつて彼とおなじように世界を蹂躙した魔王に倣ってのことか。
「敗戦の報を聞くのが嫌いだ」
「ヒェッ! お、お赦しを! 私はただ彼の地の出来事をお伝えしただけで――」
「恨むのならいくさに負けた彼の地の将兵どもを恨むがいい。――紫電の雷精よ・暗き雲より出でて・雷火と迸れ!」
皇帝ヴィロデミルの怒りは雷に喩えられた。それは彼の一喝が文字通り〝雷〟となったからだ。
伝令の体に落雷が突き立ち、地震のような衝撃と世界が砕かれたような轟音が鳴り響き、役目をまっとうしただけの哀れな犠牲者は消し炭となった。
「――俺は敗戦の報を聞くのが嫌いだ。だが好きなことはたくさんある。おまえたちにとって快楽とはなんだ」
第一皇子が応えた。
「春や秋の涼しい日に逞しい馬に跨りどこまでも続く草原を疾走することです」
第二皇子が応えた。
「多くの猟犬を率い、手に鷹を止まらせて山野へおもむき、鷹が鳥に一撃を加えるのを見ることであります」
第三皇子が応えた。
「敵を撃滅し、駆逐し、あらゆる物を奪い、敵の妻、娘、姉、妹。老婆から幼女まであらゆる女を犯し尽くし我が子を妊ませることです」
第四皇子が応えた。
「春から夏にかけての季節に少年たちとともに水浴びしてから涼んで、歌を歌いながら帰路につくことです」
ヴィロデミルの手から金牌が投げられ、第三皇子の前に落ちた。
この金牌を与えられた者は皇帝とほぼ同等の権力を持ち、軍を動かすことや諸侯や大臣らの処罰などを皇帝から一任されるなど、その権力は絶大なものであった。
「ナーロッパを落とせ」
「ははっ、必ずや吉報をお届けします」
新たな獣が解き放たれ、ナーロッパに牙を剥く。
その一室に何十人もが寝そべることができそうな広いテーブルがあり、卓上には山と盛りつけられた料理の数々がならぶ。
まだ若い仔牛を潰して切り出され、軽く火を通しただけの血の滴るステーキ。肋骨のついた柔らかな羊肉、丸焼きにされた子豚や鶏、牛の尾肉を丁寧に煮込んだスープの大鍋や臓物の新鮮な部位のみを調理したもの、編みカゴには竈から出されたばかりの多様なパンが山のように積まれ、湯で上げられた野菜が彩りを添える。
チーズも丸ごとの塊が多様に用意され、大きな水差しには葡萄酒や麦酒がなみなみと注がれてた。
飢え死にしかけた民に分け与えれば百人以上が一週間は生き延びられるであろう量を貪り食うのはたった五人の男たちであった。
いずれも筋肉質の巨漢である。
また容貌も親兄弟かのように酷似していた。
そのなかでも特に上座にあるひとりは他の四人よりも年かさであったが、若い四人を圧倒する体躯を誇っていた。
その男の発する気だけで空間が圧迫されるような錯覚さえ抱かせるほどだ。
鋼のような骨格に荒縄のような筋肉は隆々と盛り上がり、さながら鉄魔像
彼こそロッシーナ帝国の頂点に立つ皇帝ヴィロディミルその人であり、他の四人は彼の息子である皇太子たちであった。
すべての嘆きを焼け尽くす暴虐皇帝。
すべての恨みを破る侵略王。
すべての言葉を塵と消す獣王。
あらゆるものを破壊し、奪い、犯し、蹂躙し、焼き尽くし、後に残るは讃歌のみ。
アリフレテラ大陸の三分の一を支配しつつある地上の主。
「――モドゥ将軍お討ち死に、モダク将軍お討ち死に、マゴメド将軍お討ち死に、ヴィタリー将軍お討ち死に――」
伝令の口から伝えられるナーロッパ遠征についての報告、数多の将官の死を聞いても皇帝ヴィロデミルも皇太子たちも眉ひとつ肉を喰らい酒を飲み干す。
「俺は――」
食事を終え、火酒で喉を潤すヴィロデミルが声を出した。皇帝という至高の身分であるにも関わらず『俺』という一人称を使うのは彼の性格ゆえか、はたまたかつて彼とおなじように世界を蹂躙した魔王に倣ってのことか。
「敗戦の報を聞くのが嫌いだ」
「ヒェッ! お、お赦しを! 私はただ彼の地の出来事をお伝えしただけで――」
「恨むのならいくさに負けた彼の地の将兵どもを恨むがいい。――紫電の雷精よ・暗き雲より出でて・雷火と迸れ!」
皇帝ヴィロデミルの怒りは雷に喩えられた。それは彼の一喝が文字通り〝雷〟となったからだ。
伝令の体に落雷が突き立ち、地震のような衝撃と世界が砕かれたような轟音が鳴り響き、役目をまっとうしただけの哀れな犠牲者は消し炭となった。
「――俺は敗戦の報を聞くのが嫌いだ。だが好きなことはたくさんある。おまえたちにとって快楽とはなんだ」
第一皇子が応えた。
「春や秋の涼しい日に逞しい馬に跨りどこまでも続く草原を疾走することです」
第二皇子が応えた。
「多くの猟犬を率い、手に鷹を止まらせて山野へおもむき、鷹が鳥に一撃を加えるのを見ることであります」
第三皇子が応えた。
「敵を撃滅し、駆逐し、あらゆる物を奪い、敵の妻、娘、姉、妹。老婆から幼女まであらゆる女を犯し尽くし我が子を妊ませることです」
第四皇子が応えた。
「春から夏にかけての季節に少年たちとともに水浴びしてから涼んで、歌を歌いながら帰路につくことです」
ヴィロデミルの手から金牌が投げられ、第三皇子の前に落ちた。
この金牌を与えられた者は皇帝とほぼ同等の権力を持ち、軍を動かすことや諸侯や大臣らの処罰などを皇帝から一任されるなど、その権力は絶大なものであった。
「ナーロッパを落とせ」
「ははっ、必ずや吉報をお届けします」
新たな獣が解き放たれ、ナーロッパに牙を剥く。
21
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
捨てられた貴族六男、ハズレギフト『家電量販店』で僻地を悠々開拓する。~魔改造し放題の家電を使って、廃れた土地で建国目指します~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
ある日、主人公は前世の記憶を思いだし、自分が転生者であることに気がつく。転生先は、悪役貴族と名高いアストロメア家の六男だった。しかし、メビウスは前世でアニメやラノベに触れていたので、悪役転生した場合の身の振り方を知っていた。『悪役転生ものということは、死ぬ気で努力すれば最強になれるパターンだ!』そう考えて死ぬ気で努力をするが、チート級の力を身につけることができなかった。
それどころか、授かったギフトが『家電量販店』という理解されないギフトだったせいで、一族から追放されてしまい『死地』と呼ばれる場所に捨てられてしまう。
「……普通、十歳の子供をこんな場所に捨てるか?」
『死地』と呼ばれる何もない場所で、メビウスは『家電量販店』のスキルを使って生き延びることを決意する。
しかし、そこでメビウスは自分のギフトが『死地』で生きていくのに適していたことに気がつく。
家電を自在に魔改造して『家電量販店』で過ごしていくうちに、メビウスは周りから天才発明家として扱われ、やがて小国の長として建国を目指すことになるのだった。
メビウスは知るはずがなかった。いずれ、自分が『機械仕掛けの大魔導士』と呼ばれ存在になるなんて。
努力しても最強になれず、追放先に師範も元冒険者メイドもついてこず、領地どころかどの国も管理していない僻地に捨てられる……そんな踏んだり蹴ったりから始まる領地(国家)経営物語。
『ノベマ! 異世界ファンタジー:8位(2025/04/22)』
※別サイトにも掲載しています。
『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!
たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。
新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。
※※※※※
1億年の試練。
そして、神をもしのぐ力。
それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。
すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。
だが、もはや生きることに飽きていた。
『違う選択肢もあるぞ?』
創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、
その“策略”にまんまと引っかかる。
――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。
確かに神は嘘をついていない。
けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!!
そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、
神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。
記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。
それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。
だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。
くどいようだが、俺の望みはスローライフ。
……のはずだったのに。
呪いのような“女難の相”が炸裂し、
気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。
どうしてこうなった!?
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる