潔癖王子の唯一無二

秋月真鳥

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番外編・後日談

南の領地での暮らし

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 暖かい領地に移り住んでから、ヨウシアとアレクサンテリは最低限の使用人だけを屋敷に雇って、できることは自分たちでして暮らし始めた。領主としての仕事がアレクサンテリにはあったが、その分ヨウシアが生活面は支える。
 料理も二人でレシピを見ながら作ると、作ったもらったものよりもたくさん食べられて、痩せて病弱だったヨウシアも、体格が華奢ながらも、体付きがしっかりしてきた。とはいえ、美少女のような雰囲気は変わらないままで、ほっそりとした美女か美青年か分からない、中性的に育った。
 結婚して四年、成人して二年、その間に生まれた男の子にはヨアキム、女の子にはロヴィーサと名前を付けた。3歳になったヨアキムはヨウシアに似ていて、黒髪に黒い目で女の子とよく間違われる。1歳になったロヴィーサはアレクサンテリに似て、アッシュブロンドの髪に緑の目で凛々しく美しい子どもだった。
 心配していた子育ては、アレクサンテリが領主として仕事をしている間はヨウシアが二人の面倒を見て、仕事が終わると二人で子どもたちと過ごす。オムツ替えも、トイレトレーニングも、ミルクを飲ませるのも、離乳食を食べさせるのも、宣言した通りにアレクサンテリは全く抵抗がなく、ミルクを吐いても、離乳食を吐き出して飛ばされても、忍耐強く子どもたちに接していた。
 世間的には、屋敷に閉じこもって子育てをしているヨウシアが、オメガで母親で、領主として働いているアレクサンテリが父親でアルファと思われているようだった。あまり拘りはなかったし、自分がオメガならば良かったと思っていた時期が長かったので、王族のアレクサンテリがアルファと思われている方が政治的に都合が良いのならば構わないと、ヨウシアはそれを否定することはなかった。
 使用人たちにも緘口令がしかれて、妊娠期に長身なので目立たないアレクサンテリはぎりぎりまで仕事を続け、出産の間は、病弱なヨウシアに付きっきりという名目で休んで産んでいた。
 母乳が出るタイプの男性のオメガもいるようだが、女性でも母乳が出る、出ないは体質であるようで、アレクサンテリは母乳が出ないタイプだった。そのため産んだ後は、ヨウシアがミルクをあげて面倒をみることができた。

「ヴァルネリ様は母乳が出ると聞きました」
「ヴァルネリの話はするな」
「僕、王族に知り合いもいないので、王子様の小さな頃とか、聞きたいのですが、いけませんか?」
「ヴァルネリは私に似ておるから、ヨウシアがとられたら困る」

 ヴァルネリの方が柔らかい印象で体格もいいが、容姿も立派な体躯も似ている二人。マティアスという伴侶がいるのだし、ヨウシアにはアレクサンテリがいるのだから、何か起きるはずもないのに、心配する姿に愛されていると感じて、ヨウシアは胸が暖かくなる。嫉妬されるのも悪くはないと思ってしまうのだから、恋とはどうしようもない。

「ロヴィーサ、林檎のお代わりが欲しいのか?」
「まっ! まっ!」

 ぺちぺちと小さな手でテーブルを叩くロヴィーサは、おやつの林檎のお代わりが欲しくて、アレクサンテリにおねだりをしている。控え目に皿を差し出すヨアキムも、おやつがもう少し欲しいようだ。

「アレク様も食べますよね? もう一個剥きましょうか」
「アレクしゃま、おいちいでつよ?」

 ヨウシアがアレクサンテリを「アレク様」と呼んで、敬語で喋るので、しっかりとヨアキムはそれを覚えてしまっている。

「ヨアキムは本当にヨウシアに似て可愛いな」
「かーいー、うれちいです」

 褒められて照れる様子もヨウシアに似ているヨアキム。周囲からはオメガではないかと言われているが、ヨウシアは自分に似ているからアルファではないかと考えていた。
 小さなお口に合うように、薄く小さく切った林檎をロヴィーサのお皿に、8分の1に切った林檎二切れをヨアキムのお皿に、残りをアレクサンテリとヨウシアで食べる。
 手で握って食べるのが上手になったロヴィーサは、林檎を摘んでは、お口に入れて、シャクシャクと咀嚼して楽しそうに食べている。少し前までは林檎も擦り下ろしていたのに、子どもの成長は早い。
 自分の分を食べてしまったロヴィーサが、ヨアキムの分に手を伸ばすと、残っていた一切れを一生懸命手で割って、ヨアキムはロヴィーサに半分渡した。

「ヨアキム、良いのか?」
「よーは、おにいたんです。ロヴィがいっぱいたべて、おおちくなるとうれちいのです」
「ありがとう、ヨアキム」

 よく食べるロヴィーサは、アレクサンテリに似ているのか、ムチムチとよく体が育っている。細身のヨアキムの体重を超える日も近いのではないかとヨウシアは心配していたが、抜かされてもヨアキムはそれほどショックでもなさそうだった。
 ヨウシアの身長は、長身の女性くらいで、男性にしては小柄な部類に入るくらいまでしか伸びなかった。このまま育てばヨアキムは小柄で、ロヴィーサは長身になるのかもしれない。

「お着替えして、少しお昼寝しましょうかね」
「よー、あとびたいでつ」
「ロヴィーサを僕が寝かせますから、ヨアキムはアレク様とお散歩に行きますか?」
「アレクしゃま、いーでつか?」
「庭のサンルームでヨウシアを待っていようか」
「あーい!」

 飛び跳ねて喜ぶヨアキムを着替えさせて、アレクサンテリが庭に連れ出している間に、ヨウシアはロヴィーサのオムツを替えて、着替えさせて、ベビーベッドに寝かせる。丸いお腹を撫でていると、指をしゃぶりながら、ロヴィーサはうとうとと眠り始める。
 窓から入る日差しも、春を前に暖かくなってきた。
 眠ってしまったロヴィーサをお包みに包んで抱き上げると、ヨウシアは庭のサンルームに足早に向かった。天井と壁がガラス張りになっているサンルームは、冬場でも庭で暖かく過ごせるように、元々この領地の屋敷にあったものを整備して、ヨウシアが一人で子どもたちをみるときにも退屈させないようにと整備されていた。
 中は暖かく保たれていて、ソファやベビーベッドも設置してある。飲み物を作る簡易キッチンのようなスペースも作ってもらったので、ミルクを作るのにも苦労しなかった。
 サンルームのベビーベッドにロヴィーサを寝かせると、サンルームで飼われている猫たちが寄ってくる。庭では犬を飼っているが、サンルームの中では、ヨウシアとアレクサンテリは数匹の猫を飼っていた。
 潔癖症なので動物は無理かと思っていたが、子どもが生まれてからある程度緩和したようで、アレクサンテリは猫が膝に乗ってきても、落ち着いて過ごせるようになった。
 サンルームの猫たちはヨアキムにもよく慣れていて、引っ掻かないし、噛みつかないので、追いかけて抱っこしていてもヨウシアは安心して見ていられた。
 猫の一匹はロヴィーサを気に入っていて、ベビーベッドに寝かせると必ず添い寝をしてくれる。
 庭の犬たちがサンルームの周りを入りたそうにうろついているが、サンルームは猫だけと決めているので、入れることはできなかった。
 簡易キッチンでお茶を淹れて、飲みながら駆け回って猫と遊ぶヨアキムを見守る。猫たちもサンルームも、ヨアキムは小さい頃からのお気に入りだった。

「だっこたててくだたーい!」
「ヨアキム、嫌がっていたら下ろしてやるのだぞ?」
「あい」

 捕まえた猫に逃げられて、追いかけてお願いしているヨアキムに、アレクサンテリが親らしく言い聞かせているのも、ヨウシアには微笑ましい。

「アレク様、素敵なお母さんですね」
「ヨウシアは良き父親だと思うぞ」

 お茶の入ったカップを手渡すと、アレクサンテリの手にヨウシアの指が触れる。家族で過ごすスペースには、使用人は掃除のときにしか入れないので、アレクサンテリは安心して、手袋を外している。責務に戻らなければいけないときはあるので、手袋をいつも持ってはいるが、子どもたちに触れるときには必要としない。

「ヨウシア、ロヴィーサも1歳になったことだし……」
「は、はい?」
「そろそろ、発情期に乱れても良いのではないか?」

 耳許で囁かれて、耳朶を噛まれて、ヨウシアはびくりと震えた。発情期を自分で操れる体質なので、子どもが小さすぎるうちは、我慢して次の子どもができないようにフェロモンを抑えてくれている。
 たっぷりとアレクサンテリのフェロモンに溺れると、ヨウシアは泣いてわけが分からなくなる。それもまた、快楽に落ちていくだけで、決して嫌ではないのだが、次の日腰が立たないのは、子どもたちの面倒が見られなくて困る。

「て、手加減、してくださいね?」
「嫌ではないのだな」
「それは……」

 泣いて、腰が立たなくなっても、アレクサンテリを拒むことなど、ヨウシアができるわけがない。耽溺されて、受け入れられている。
 ヨウシアは愛されている幸せを噛み締めていた。
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みんなの感想(1件)

haruyatsusan
2021.07.06 haruyatsusan

めっちゃ好きです(語彙力

解除

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