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第二十五章 オブリビアダンジョン
第四百八十七話 戻りゆくダンジョンにて
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諸々を喰らい終えた狼は大きな欠伸をすると、自分の仕事は終わったとばかりに身体を伸ばす。
「これで終いだ。直にダンジョンも自己修復を始め本来の姿に戻る、お主等も急いで脱出するが良い…見てみろ」
狼が尻尾で指し示した先では、空間の至る所で割れたガラスのようなヒビが入り、割れ落ちたソレは砂みたいにサラサラと崩れてゆく。
最初は何もない空間のみだったが、直ぐに地面にも同じ様なヒビが入り出した。
「始まったぞ。アレに飲み込まれたら、まず助からん」
「それはマズいな」
イズミは腕を伸ばし緊張を解しベリアと共にマスタングに乗り込むと、運転席側の窓を開け狼と別れの挨拶を交わした。
「では、我々は撤収します。また何処かで」
「うむ」
イズミは窓を閉めてマスタングのアクセルを踏み込むと、階層の扉へと走り出した。
バックミラーで狼の様子を伺おうとしたが、既に姿は消えてしまっていた。
扉までの道にはグール化した魔物が屯していたが、何故か一切攻撃して来なかった。
それどころか、身動き1つ取っていない。
「不気味だな」
「グール化の原因が消えて、おかしくなったのかもな」
「何にせよ戦わずに済むなら万々歳だ」
マスタングは速度を上げて門を通過すると、広い縦長の空間が目の前に広がっている。
大自然ではなく、地面が石造りの大広間のように見える。
「イズミ、此処が休憩とか帰還用の魔法陣が有る、非戦闘エリアだ。冒険者ギルドでは休憩階層とか転移可能階層とか、色んな言い方をする」
「そうか…所々天井が崩れているようだが」
「ダンジョンの自己修復ってヤツじゃないか?ダンジョンの外壁は境界線だから、アタイの全力で攻撃しても壊れない筈」
「そうだとしたら、急いで此処からも撤収だな」
イズミはマスタングのモニターで位置情報を確かめるが、正面に上階層への門と左右に1つづつある道の先に転移用の魔法陣があるだけの、とてもシンプルなマップが表示された。
「マスター、階層の門は閉じられているようです」
「オルドリン達は転移魔法陣で撤収したのか」
周囲を見渡すがオルドリン達の移動しただろう足跡は見当たらず、ベリアに聞いても何の痕跡も無いと言われてしまった。
「んな事あるのか?」
「ダンジョンの自己修復の影響で、掻き消された可能性があります」
「どうしたものか」
マスタングに魔法陣の解析を頼むにしても、天井が崩れ落ち始めているこの階層内で呑気に待ってはいられない。
イズミは独断で向かう先を決めた。
「人は左右に扉があったら、左側を選ぶ割合が高いと聞いたことがある。左の魔法陣に行こうと思うが、ベリアはどっちが良い?」
「右でも大丈夫だと思うけど、イズミの判断を信じるよ」
「分かった、左だ」
アクセルを踏み込み崩れ落ちた天井の石を避けつつ、左側の転移魔法陣を目指して走り出す。
「…ぶねぇ!」
ベリアは窓を開けると風魔法を発動し、マスタングに当たりそうな障害物や落下物を吹き飛ばしてくれたので、イズミは遠慮なくアクセルを強く踏み込み運転に集中する。
魔法陣のある小部屋への道は思ったより狭く、マスタングの車幅で余裕が左右に10cmずつあるかどうかと言ったタイトさだ。
徐行運転で擦る事無く魔法陣の前にまで到着すると、奥から白装束の男がふらりと現れマスタングの前に立ち塞がった。
「イズミ、どうする?」
「…ちょっと話してくるわ」
イズミはベリアに車内待機をお願いすると、素早く降車して白装束の男と対峙する。
無論、魔法陣の中には入らない。
「コレがアンタの望んだ結末か、トレイズ?」
白装束はフッと姿を消すと、イズミの目の前に瞬間移動をする。
イズミは反応出来ずに目を見開くと、白装束の男の顔がハッキリと分かった。
色白で整った顔立ち、短く整えられた銀髪、翡翠のような色をした目と柔和に見える目尻が、生前なら数多の女性を虜にしただろうと思えるようなイケメンである。
「思っていたのとは、少し違ったかな」
白装束の男…元いトレイズは、そう言って微笑んだ。
その声はアニメの主人公ではなかろうかと錯覚するような、男性主人公の声を当てる女性声優にも思える声だった。
「勇者がオブリビアに訪れ、全てを断ち切る事を願ってあの結界を張ったんだけどね。勇者よりも先に不思議な男が来たから、此方には時間も余裕も無い…で、賭けてみたんだ」
「知らぬ間に賭けの対象にされる者の気持ちも、今後は少し考慮して欲しいものだが」
「申し訳ないね」
トレイズは右手で少し離れた場所を指差し、イズミに回収するように頼む。
「あの木箱を持って行って欲しい。ダンジョンボス討伐のドロップ品と、帝国の魔術師が持っていた書物と魔道具が入っている」
「そんな物を俺に渡しても、なんにもならんぞ」
「どう使うかは、貴方に委ねる…どうやら限界みたいだ」
トレイズの姿が薄くなってゆく。
消えてしまう前に、イズミは餞別として酒瓶を1本用意する。
「異世界産の酒だ、持っていけ。餞別あるいはお礼だ…酒は飲まないか?」
「いや、私は故人だ…生前に遵守していた規則は、少しだけ忘れるとするよ」
酒瓶を受け取ったトレイズの姿が見えなくなる。
「ありがとう。異世界からの旅人」
「こちらこそ。面白い冒険だったよ」
トレイズは完全に消えてしまった。
小さくため息をついたイズミはトレイズに頼まれた木箱を回収すると、足早にマスタングに乗り込んで魔法陣の中へ移動する。
淡い紫色の光が魔法陣を浮かび上がらせると、マスタングは別の場所へと転移した。
それとほぼ同時に、魔法陣のある小部屋の天井が崩れ落ちた。
「これで終いだ。直にダンジョンも自己修復を始め本来の姿に戻る、お主等も急いで脱出するが良い…見てみろ」
狼が尻尾で指し示した先では、空間の至る所で割れたガラスのようなヒビが入り、割れ落ちたソレは砂みたいにサラサラと崩れてゆく。
最初は何もない空間のみだったが、直ぐに地面にも同じ様なヒビが入り出した。
「始まったぞ。アレに飲み込まれたら、まず助からん」
「それはマズいな」
イズミは腕を伸ばし緊張を解しベリアと共にマスタングに乗り込むと、運転席側の窓を開け狼と別れの挨拶を交わした。
「では、我々は撤収します。また何処かで」
「うむ」
イズミは窓を閉めてマスタングのアクセルを踏み込むと、階層の扉へと走り出した。
バックミラーで狼の様子を伺おうとしたが、既に姿は消えてしまっていた。
扉までの道にはグール化した魔物が屯していたが、何故か一切攻撃して来なかった。
それどころか、身動き1つ取っていない。
「不気味だな」
「グール化の原因が消えて、おかしくなったのかもな」
「何にせよ戦わずに済むなら万々歳だ」
マスタングは速度を上げて門を通過すると、広い縦長の空間が目の前に広がっている。
大自然ではなく、地面が石造りの大広間のように見える。
「イズミ、此処が休憩とか帰還用の魔法陣が有る、非戦闘エリアだ。冒険者ギルドでは休憩階層とか転移可能階層とか、色んな言い方をする」
「そうか…所々天井が崩れているようだが」
「ダンジョンの自己修復ってヤツじゃないか?ダンジョンの外壁は境界線だから、アタイの全力で攻撃しても壊れない筈」
「そうだとしたら、急いで此処からも撤収だな」
イズミはマスタングのモニターで位置情報を確かめるが、正面に上階層への門と左右に1つづつある道の先に転移用の魔法陣があるだけの、とてもシンプルなマップが表示された。
「マスター、階層の門は閉じられているようです」
「オルドリン達は転移魔法陣で撤収したのか」
周囲を見渡すがオルドリン達の移動しただろう足跡は見当たらず、ベリアに聞いても何の痕跡も無いと言われてしまった。
「んな事あるのか?」
「ダンジョンの自己修復の影響で、掻き消された可能性があります」
「どうしたものか」
マスタングに魔法陣の解析を頼むにしても、天井が崩れ落ち始めているこの階層内で呑気に待ってはいられない。
イズミは独断で向かう先を決めた。
「人は左右に扉があったら、左側を選ぶ割合が高いと聞いたことがある。左の魔法陣に行こうと思うが、ベリアはどっちが良い?」
「右でも大丈夫だと思うけど、イズミの判断を信じるよ」
「分かった、左だ」
アクセルを踏み込み崩れ落ちた天井の石を避けつつ、左側の転移魔法陣を目指して走り出す。
「…ぶねぇ!」
ベリアは窓を開けると風魔法を発動し、マスタングに当たりそうな障害物や落下物を吹き飛ばしてくれたので、イズミは遠慮なくアクセルを強く踏み込み運転に集中する。
魔法陣のある小部屋への道は思ったより狭く、マスタングの車幅で余裕が左右に10cmずつあるかどうかと言ったタイトさだ。
徐行運転で擦る事無く魔法陣の前にまで到着すると、奥から白装束の男がふらりと現れマスタングの前に立ち塞がった。
「イズミ、どうする?」
「…ちょっと話してくるわ」
イズミはベリアに車内待機をお願いすると、素早く降車して白装束の男と対峙する。
無論、魔法陣の中には入らない。
「コレがアンタの望んだ結末か、トレイズ?」
白装束はフッと姿を消すと、イズミの目の前に瞬間移動をする。
イズミは反応出来ずに目を見開くと、白装束の男の顔がハッキリと分かった。
色白で整った顔立ち、短く整えられた銀髪、翡翠のような色をした目と柔和に見える目尻が、生前なら数多の女性を虜にしただろうと思えるようなイケメンである。
「思っていたのとは、少し違ったかな」
白装束の男…元いトレイズは、そう言って微笑んだ。
その声はアニメの主人公ではなかろうかと錯覚するような、男性主人公の声を当てる女性声優にも思える声だった。
「勇者がオブリビアに訪れ、全てを断ち切る事を願ってあの結界を張ったんだけどね。勇者よりも先に不思議な男が来たから、此方には時間も余裕も無い…で、賭けてみたんだ」
「知らぬ間に賭けの対象にされる者の気持ちも、今後は少し考慮して欲しいものだが」
「申し訳ないね」
トレイズは右手で少し離れた場所を指差し、イズミに回収するように頼む。
「あの木箱を持って行って欲しい。ダンジョンボス討伐のドロップ品と、帝国の魔術師が持っていた書物と魔道具が入っている」
「そんな物を俺に渡しても、なんにもならんぞ」
「どう使うかは、貴方に委ねる…どうやら限界みたいだ」
トレイズの姿が薄くなってゆく。
消えてしまう前に、イズミは餞別として酒瓶を1本用意する。
「異世界産の酒だ、持っていけ。餞別あるいはお礼だ…酒は飲まないか?」
「いや、私は故人だ…生前に遵守していた規則は、少しだけ忘れるとするよ」
酒瓶を受け取ったトレイズの姿が見えなくなる。
「ありがとう。異世界からの旅人」
「こちらこそ。面白い冒険だったよ」
トレイズは完全に消えてしまった。
小さくため息をついたイズミはトレイズに頼まれた木箱を回収すると、足早にマスタングに乗り込んで魔法陣の中へ移動する。
淡い紫色の光が魔法陣を浮かび上がらせると、マスタングは別の場所へと転移した。
それとほぼ同時に、魔法陣のある小部屋の天井が崩れ落ちた。
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