異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第四百九十五話 準備に時間はかかるもの

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「ベリアさんのSランク冒険者昇格の式典だが、出身国であるジェヴェドール王国の王都にて執り行われる事に決まった。準備には4~5ヶ月はかかると思います。本番は6ヶ月後と考えておくのが妥当ですね」

「またジェヴェドールに戻るのか」

「現状でのスケジュールは仮ですがこんな所でして」

数日かけてヒュミトールに戻って来たイズミ達は、早速冒険者ギルドにて話を聞くことになった。
厳密に言えばイズミは冒険者では無いので部外者なのだが、ベリアと旅を共にしている『共同生活者』として同席を頼まれたのだ。

まずジェヴェドール王国が式典の準備をしている間に、ヒュミトールではSランク昇格を祝した記念の宴が催されるそうだ。
これが約1ヶ月後。

その間にも各国の冒険者ギルドや貴族等様々な関係者への報告や連絡の業務があり、王国での式典出席者の移動に伴う様々な特需対応やらで膨大な人と金の動きがあると説明を受けた。
更に各国の重鎮も参列する事になれば、国家間会議も併せて行われる可能性が浮上するので超ビッグイベントが連続してしまうのだ。

繁忙期過ぎて過労死する人が出て来そうで心配である。

「それでですね、大変恐縮なのですが…2カ月程はヒュミトール近辺に居て欲しいのです」

「連絡が付かなくなると大変って意味合いですか?」

「それもありますがね、ベリアさんの式典用衣装の製作や調整もありますので」

「だとさベリア、大変だな」

「めんどくさい、気が重い」

イズミは何処か他人事の様に言ってみせたが、当のベリアはげんなり気味だった。
それもその筈、現在ベリアはこの説明を聞きながら何人もの服飾士の手によって衣装用の採寸をされているのだ。

「普段の冒険者の服装じゃ駄目なのか?」

「極稀に特例措置で許可される場合もありますがね、正式な場においては原則として礼服の着用が義務付けられております」

「俺は大丈夫だよな?」

「現在確認中です。国王がイズミ殿に会いたいと考えていた場合、ベリアさんと同席する形での謁見になる事も覚悟しておいた方が良いでしょう…10日後には謁見に関する話の返事が届くと思いますので、詳しくはその時にでも」

「やれやれだな。それにしても、宴が1ヶ月後なのには理由でもあるのか?」

イズミは椅子に背中を預け、だらけながら説明をしてくれた男、ヒュミトール冒険者ギルド長のレオンチーノに確認する。

「あぁ、梅雨の季節が来る前に宴をしておきたいのですよ」

梅雨の季節と聞いて、ベリアの耳と尻尾がへニャっと垂れ下がる。

「梅雨かぁ…」

「この地方の梅雨の時期は凡そ1ヶ月です。なので、梅雨が明けたらジェヴェドール王国へ出発するような想定でいて下さい」

「梅雨の時期は何をするにも怠いんだよなぁ」

冒険者の仕事は基本的に外での作業である。
身近な仕事で薬草採取に素材採取、魔物の討伐等様々だが、そのほとんどが外仕事である。
そうなると、ベリアのような獣人族は全身の体毛が濡れてしまい、兎に角大変なのだと言う。

「濡れると重くなるし乾かないし、ずっとジメジメして気分も悪いし、暑い寒いは我慢出来ても、梅雨のジメジメは嫌で冒険者を休業する獣人族も多いんだ」

「だから梅雨に入る前に宴をすると」

「そうです」

レオンチーノはそう言うと、大きなため息をついた。

「私も気が重いのですが、宴を聞きつけたドワーフ族や商人達がヒュミトールに向けて移動を始めているとの噂がありまして」

「宴に酒は付き物だからな、酒好きなら来るだろうな…その酒代って誰の財布から出るんだ?」

イズミは当然気になる疑問を何気無く聞いてみると、レオンチーノが羽根ペンの羽根を撫でながら答えた。

「領主様と冒険者ギルド、そして商人ギルドで折半です」

「じゃあ面倒くさそうだな」

「本当ですよ!しかも商人ギルドからしたら突然降ってきた書き入れ時ですから、気合いの入り具合が違います」

「そりゃ目の前にチャンスがあるのに動かない商人なんて、商人と呼べないだろ」

そんな話をしている時、イズミの脳裏に唐突にある不安が過ぎった。
ヒュミトールでの宴は良いにしても、ジェヴェドール王国への移動途中に立ち寄る町でも、何かしらあるのでは無いか、と。

現在の仮スケジュールでは約2ヶ月後に出発、式典の準備に4~5ヶ月、本番は恐らく6ヶ月後。普通の冒険者の移動スピードで考えれば王国の王都までは2ヶ月前後の計算だ。
確かに普通に受け取れば主役のベリアがジェヴェドール王国に到着するまでに時間的な余裕を持たせておき、式典の準備とリハーサルをしながら最終調整をして、万全の状態で本番に挑むスケジュールである。

しかし、それは馬車での移動を想定している計算なのだ。
自分とマスタングが居る前提で考え直してみようとすると、果たしてどうなるだろうか?

ベリアは現時点でAランクなので移動する際には連絡と報告が必要であり、となると報告ギルドのある町はSランク冒険者となるベリアの来訪を把握している事になる。

式典には参加出来ずとも、自分の領地を経由してくれるタイミングで行動を起こす事は可能なのだ。
例えば領主が屋敷の1部屋を貸し出して来たり、別邸を使うようにと冒険者ギルドと連携を取る事だって有り得る。

Sランク冒険者に好印象を与える、または何かしらの恩を売っておきたいと考えるのは不思議な話では無いのだ。

「レオンチーノ。もしかしてだが、ジェヴェドール王国への移動ルートに指定があったりするのか?」

イズミが睨みを効かせつつ聞くと、観念したのかレオンチーノは手元にあった地図を広げた。

「ジェヴェドール王国もハルハンディア共和国も利用出来るモノはしっかりと利用するさ、まだ仮だが経由地点の候補は此処だな」

イズミが予想していた通り、商人達や冒険者達が通る道を通過しながらも、大きな町しかも貴族の屋敷があるだろう規模感の町ばかりを経由していたのだ。
それもマスタングでの移動であれば、どの町にも2~3日は滞在が可能なのだ。

「…やられた」

何時もは気楽な旅路を意識していたが、今回ばかりは難しそうだと覚悟するのだった。
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