異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第四百九十六話 休めそうにない

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冒険者ギルドでの長い話から開放された2人を出迎えに現れたのは、フラウリアとリコだった。

「フラウリアさん、リコ、久しぶり」

「イズミおじちゃん、こんにちは!…ベリアお姉ちゃんだ!」

イズミとベリアが挨拶をすると、リコは元気にベリアへと飛びつく。
するとベリアの尻尾がブンブンと揺れ動き、さっき迄の憂鬱さが吹き飛んでいるかのようだった。

「オブリビアの調査は大変だったですね」

「えぇまあ、ボチボチに。フラウリアさんの方はどうでした?」

「私ですか?グラテミア叔母様から報告の度に睨まれつつ、美容クリーム制作に勤しんでましたよ。今はニキビ消しクリームの調合で大変なんですよ」

遠い目をするフラウリアだったが、しっかひと仕事として対応しているのが素晴らしい。

「何れは大きな稼ぎになると考えるしか」

「…ですね。それはそうと、聞きたい事があったのよ」

「なんです?」

「除毛クリームって何ですか」

イズミは周囲に人が居ない事を確認すると、簡潔に説明をする。

「そのクリームを塗れば、ムダ毛の処理が楽になるって感じですね」

「ムダ毛ですか」

「人間は成長すると脇や手足や陰部に毛が生えてきますよね。それをクリームを使って除去するのです」

使い方はシンプルで、クリームを塗り数分放置、その後水やぬるま湯で綺麗に洗い流す。
コレだけである。

「ただクリームで除去だけをすると肌に負担がかかりますので、美容クリームを塗ってケアまですれば完璧かと」

「それは…量産出来たら売れそうですね」

「間違った使い方をされないように、暫くは美容に関する専門知識を学ばせた方への専売にするのが良いかと」

「私達の商品を取扱いたい者達を集め、商品知識や使用後のケア方法等を学んで貰い、一定の技術を持った者に購入と使用許可を出すと」

「美容クリームだけなら問題無いと思いますがね」

フラウリアの先導で冒険者ギルドから出ると、道行く人々の視線がベリアに向いているのが分かった。
すっかり有名人である。

「なんか、視線がむず痒いんだけど」

「そりゃベリアは今最もホットな有名人だからな」

グラテミア達の住まう屋敷へと向かうと、丁度屋敷から出て来た馬車と入れ違いになった。
その馬車には紋章が刻まれている。

「あれは贔屓にしている商会の馬車です。美容クリームのテスト品を取りに来ていたようですね」

「テスト品ですか」

「人間族の肌質に合うか、合わなかったらどんな反応が出るのか、鋭意調査中なんですよ。第1弾の報告では肌が赤みががるとか、少し痒くなるとの事例があったので、第2弾では調合比率を調整して肌の弱い方向けのクリームも用意したんです」

「順調そうですね」

「美容クリームは順調ですね…ケーキを担当している料理長はもっと大変です」

用意された馬車置き場の一角にマスタングを駐車し、屋敷へと入るとアヤが出迎えてくれた。

「お久しぶりですわ」

「アヤさんも元気そうで何よりです。エレノアさんは?」

「あの子は食堂でチーズケーキでも食べてますよ、最近妊娠している影響なのか、酸っぱい物とか甘い物が恋しいと言ってまして」

「産まれる子供の為にも、必要な栄養の摂取は大切ですからね」

グラテミアの執務室へ案内されると、イズミとベリアは用意された椅子に座る。

「先ずはオブリビア調査、お疲れ様でした。そしてベリアさんのSランク昇格、おめでとう御座います」

「ありがとう御座います」

グラテミアの挨拶から始まり、トレットが用意してくれた紅茶を飲む。
熱すぎず落ち着ける香りのする紅茶だった。

「オブリビアのダンジョンですが、20年以上前にあった帝国の侵攻時に仕掛けられた魔法の影響かと思われます」

「フラウリアの分身から状況は見させて頂きましたわ。大量に用意された汚れた魔石と、最終階層にあった大結晶も、帝国の魔術師が仕掛けたと考えて良いですね…禁術指定されている魔法なのですが、当時の帝国は気にしていなかったみたいね」

「この様子だと、他の場所でも似たような事をしてそうです」

イズミはカップをテーブルに置くと、今後の予定をザックリと話し始めた。

「ベリアがSランクに昇格するので、暫くは冒険者ギルドと国の行事に付き合う事になります。その後は未定ですが、北か南の国へ行ってみようかと考えています」

「まだ行ったことの無い国へ、ですね?」

「そうです」

「でしたら、先ずはこの屋敷で身体を休めて下さいませ。イズミ様の左腕も診させて頂きたいですし」

グラテミアの視線がイズミの左腕を見つめる。
痛みは大分引いてきたが、筋力が低下しているような気はしている。

「ヒュミトールを出発する迄、身体の調整をしましょうか」

「お、お手柔らかにお願いします」

グラテミアからの圧を感じつつ、ふとベリアとの旅路での会話を思い出す。

「そうだ、ベリアに転移魔法が使えるのか、グラテミアさんに見て欲しいのですが」

「転移魔法を?」

グラテミアは椅子から立ち上がりベリアの側へと歩き出し、両肩を掴むとベリアの両目を凝視した。

「あ、あの…」

「黙って。もう少しで分かるから」

蛇に睨まれた蛙のように動けないベリアだったが、程なくして解放され一息ついている。

「素養はありそうね。頑張り次第では分身も体得出来るかも」

「本当か!?」

新たな可能性を知ったベリアの尻尾が揺れ動くと、グラテミアは静かに話を続ける。

「教えても良いのだけれど、ちゃんと対価は貰うわよ」

「どんな対価だ?」

「そうね…今フラウリアに頼んでいる美容クリームの商品展開に、獣人族向けのを追加を考えてるのよ。試作品は出来てるから、これからヒュミトールを出発する迄の間は、毎日協力してもらうわね」

「獣人族向けの美容クリームねぇ。アタイら獣人は全身が体毛に覆われてるし、使う場所が少ないと思うけど」

「私もそう思っていたわ…新たなレシピが来るまでは」

グラテミアが見せたレシピにはこう書かれていた。
顔用美容クリーム、手足用保湿クリーム、身体用保湿クリームで使用箇所違いの3種類。
更に無香料と花の香り付き等の豊富なバリエーションまで可能らしい。

「と言う訳で、よろしくお願いしますね。ベリアさん」

「…おうふ」

逃げ道を塞がれたベリアは、直後に入室して来たフラウリアに捕獲されて別室へと連れて行かれた。
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