異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百九話 双子の魔術師

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マスタングの側で白湯を飲みながら、イズミはリコを追いかけるトレットとカーネリアの姿を眺めている。
腕時計を確認すると午前10時になる所だった。

左腕から外して竜頭を巻くと、小気味良い音が馬車置き場内に響いたような気がした。

ヒュミトールに戻ってから野良猫の姿を見ていないが、聞くところによるとアヤと屋敷の従者が野良猫を見かけたらご飯をあげてはいるらしい。

「イズミ、今って大丈夫か?」

今日も今日とて冒険者ギルドへ顔を出しているベリアから、魔法通信が入ったので返事をする。

「大丈夫だ」

「今ギルドに冒険者ギルドお抱えの魔術師が来ててさ、アタイ達が倒した魔物との戦闘の記憶を見たいんだとさ」

「記憶を?」

以前青い髪のエルフの女性と何処かの冒険者ギルドで、そんな事をした記憶が思い出される。

「キマイラの討伐の話しは他国の冒険者ギルドでも話題なんだとさ。それで色々な関係者から記憶を見せて貰ってるって」

「ベリアも見せたのか?」

「ついさっきな。で、アタイの記憶だけではキマイラの戦闘情報が不足してるらしくて」

「それで、俺の記憶も確認したいと」

「そういう事」

そこまで話を聞いた所で、イズミは前回見てもらった時の事をハッキリと思い出した。

「ベリア、他に戦った魔物の記憶も見られたのか?」

「…見られた。あのキメラも魔石化した頭蓋の魔物も」

「その記憶も欲しがってたりは」

「勿論。強力な魔物との戦闘記録は、これからを生きる冒険者達にとって貴重な教材なんだとさ」

「分かった、記憶を見せても良いと伝えてくれ。場所は?」

イズミは食器類を片付けると、合流場所の確認をしておく。
場所は冒険者ギルドの訓練場だった。

今から向かうとお昼の時間帯と被るので、ランチタイム終了後に待ち合わせとして魔法通信を切ると、イズミは身体を伸ばしてから一息ついた。

「久し振りだな、オブリビアはどうだった?」

「まぁ楽しめましたよ」

魔法通信を切ったのを察したのか、いつもの野良猫がマスタングのボンネット上に香箱座りで寛ぎながら声をかけてきたのだ。

「左腕の傷に右腕の手形の跡、苦労はしただろうに」

「冒険にリスクは付き物ですからね…この手形の跡は何時消えるのやら」

服を捲り右腕を確認すると、あの女性の細い手形がクッキリと残っているのだ。

「暫くは残るだろうな。呪い返しの効果が出てくれば自ずと消える、お主には影響は無いから安心すると良い」

「呪い返しの調子はどうなんだろうな」

「今ごろ帝国内で順調に広まっているだろう…あの小娘が抱いていた怨念は凄まじいものがあった」

「野良猫さんは会ったのか?」

「うむ、黒いのから頼まれて我が道案内をしたのだ。タマゴサンドなる食べ物は美味であった」

どうやら野良猫は漆黒の狼と面識があるようで、仕事を頼める間柄のようである。

「なのでタマゴサンドを所望する」

「はいはい、タマゴサンドね」

マスタングに実体化を頼むと、サンドイッチ3種類セットが実体化されたので野良猫に渡す。

「タマゴサンドにツナマヨサンド、カツサンドの3点セットだ」

「これは美味だな!女神達の会食にも出すと良い。菓子よりも食事を楽しみたい者も居るのだ」

思わぬ所でメニューが1つ決まったが、イズミは気になっていた事を尋ねた。

「あの子はこの後、どうなるんだ?」

「それは小娘次第だ。暫くは聖樹の元で魂の休養をさせるが、その後は転生するのか女神の手伝いをするのか。今は呪い返しが収まるまでは女神の保護下だ、安心せい」

「…そうか。なら良かったと思う事にしよう」

聞きたい事は聞けたので、イズミは冒険者ギルドへ向かう準備を始める。


冒険者ギルドに到着すると、ベリアと受付の人が訓練場へと案内をしてくれた。

「2度目まして、アミです。此方は姉のミア、よろしく」

「イズミです、どうぞよろしく」

身長もほぼ同じ、髪は長さが違えど色は同じ、外見には違いが殆ど無い双子の魔術師である。
ちなみに髪が長い方が姉で、短い方が妹さんのようだ。

「早速だけど、貴方の戦いの記憶を見させて欲しい」

「一方向からだけの情報で魔物を判断するのは危険、多角的に見て精度を高める事で、より実戦的な訓練が出来るようになるし、冒険者の練度向上と死傷率の低下が期待出来る」

双子の猛プッシュにたじろぎつつ、イズミは取り敢えず椅子に座る。

「見て頂くのは構いませんが、私の戦い方は殆どの冒険者には何の参考にもならないかと」

「戦い方は正直問題じゃない。魔物の戦闘パターンや使った魔法、その威力や規模感、戦った者達が魔物と対峙した時に感じた緊張感とか恐怖心とかが大事」

妹のアミが水晶玉を取り出したので、イズミは右手を近づける。
呪文を唱えると、水晶は輝き出した。
様々な色の光を放ったと思ったら、直ぐに消えてしまった。

「終わった…凄い魔物と戦ってたんだね。是非訓練の教材にしたい、お金は払う」

「前回の条件は覚えています?」

「勿論、貴方の名前は伏せる。冒険者が戦闘記憶を見たいと言ってきたら、貴方の姿はボヤケさせて特定し難いように調整する」

「大丈夫そうだな」

イズミは満足気に頷くと、姉のミアが口を開いた。

「訓練場で使いたいのは、キマイラとこの魔物です。このキメラはSランク限定にするべきか悩みどころです。Aランクのパーティー1組では倒せない可能性が高い」

「そこはお任せします。訓練ですから経験させる意味合いで限定的に許可するのもありでしょう…例えばAランクパーティーが2組以上であれば、訓練は出来るとか。あの気持ち悪い姿は出来れば、二度と拝みたくありませんけど」

「それには同意します。何故この様なおぞましいキメラが生まれてしまったのか…」

ミアとアミはキメラの姿を想像したのか、その身体をブルッと震わせる。
これ以上キメラの話題をされても困ってしまうので、記憶の使用料について話をする事で落ち着かせた。

「使用料は前回と同じで構わない」

「一体につき、金貨1枚でしたね…3体使用したいから、金貨3枚で使い放題。コレで大丈夫?」

アミが金貨3枚を取り出すと、イズミの前にそっと置いた。

「確かに3枚、受け取りました」

左手で金貨を摘みショルダーバッグへ収納すると、双子と握手をして交渉成立となった。



数週間後。
双子の魔術師がジェヴェドール王国のある訓練場にて、キマイラをゴーレムで再現している。

「こんな巨大なキマイラと戦っていたのか」

対峙しているのは、巷では銀狼の騎士の再来と呼ばれる男とその仲間達、そして丁度よい練習になるからと呼び出された貴族の女性が1人。

「あの方達の事ですから、きっと余裕で倒していたかもしれませんよ?」

貴族の女性…一年も前なら下半身不随で歩く事すら出来なかった辺境伯家の御令嬢…エレナがキマイラを睨みつけながら言った。

「かもしれんな。奴ならやりかねん」

「私達も負けじと頑張りましょうね…取り敢えず氷漬けにします」

エレナはピクリと右手を動かすと、キマイラの足を一瞬にして氷で固めてしまった。
その直後に氷の大槍を作り出し、キマイラに向けて飛ばすと串刺しにする。

「エレナ嬢、戦闘経験は殆ど無いと言ってましたよね?」

冒険者の1人がエレナの魔法に愕然としながら、ボソリと呟いた。

「私達貴族には魔物から領民を守る為に戦う責務がありますから」

そう力強く答えたエレナは貴族として、魔術師として何より人間として、確実に大きな成長をしていたのだった。
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