異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百十話 向き合わねばならない事

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「イズミさん、女神様の会食の会場なのですが」

アヤがイズミが日中帯に入り浸る馬車置き場にて、木箱に座りながら現状を報告する。

「ガーネディアン公爵邸、光の教会の1部屋、商人ギルドの運営店【ジュリエッタ】が有力です」

「商人ギルドは知り合いが居ないから難しいな。公爵邸で会食をしたら、かなり騒がしくなりそうだ…それは光の教会でやっても似たようなものか?」

「一番穏便に収まりそうなのが、光の教会での会食ですね。他ですと女神が姿を現したとなれば、その事実を商売に利用しかねませんし」

「だよなぁ…それは避けたいかな。女神様もそんな事は望んではいないだろう」

イズミは悩んだ結果、光の教会にもう一度部屋を借りれないか相談をする事に決めた。

「さて、今回は何と言われる事やら」

「前回は黙秘を貫きましたが、今回ばかりは難しそうですね」

「巻き込むにしても、用意する菓子や飲み物の知識が無いから事前に教えないと駄目だし」

「我々の料理班なら数名貸し出せますが」

「前回は3人でてんてこ舞いだったし、増員は是非ともお願いしたい」

「そう言えば、オブリビア調査から皆さん戻られたそうですよ。ヒュミトールに何名残るのかは存じ上げませんが、お手伝いを頼んでみるのはどうでしょう」

「知った顔なら頼みやすいし、頼み込んでみるか」

イズミはオブリビア調査でお世話になった人の名前をアヤに伝え、光の教会に対応が出来るかどうかの確認を依頼する。
此方の事情を分かってくれる人が残っていれば良いのだが。


返事は翌日の昼に屋敷へとやって来た。
光の教会にて女神像の管理をしているリーベルトが、わざわざグラテミアの屋敷まで直接赴いたのだ。

イズミとアヤが打合せ室でリーベルトと話し合いを始める。
リーベルトの眼光は鋭く、前回の件で有耶無耶にした事を聞きたそうなのはよく分かった。

「18日後に、一番広い部屋をレンタルでしたね」

「そうです。準備もあるので丸一日のレンタルでお願いしたい」

「イズミ殿が指名した者達で対応出来るのは、現時点で確定出来るのはロレッタだけですね。セリーヌはオルド=リン司祭と共にダンジョン調査報告で参加は難しく、テレジアとヴィラードはオブリビアに別班が到着してから戻る手筈になっておりまして、ヒュミトール到着がレンタル予定日の2日前が最短なのです」

「ギリギリですね…イレギュラーで人数不足になるのは避けたい。今回はロレッタさんの追加サポートをお願いしたい」

「他には?」

「前回は黙秘と隠蔽体質もあって私への印象も悪いと思いますので、秘密を守れる口の固い者を1人追加でお願いしたい」

「1人?」

「そう、1人です。多過ぎても困るので」

リーベルトは真剣な表情で考え込む。
適任者の選出次第では、光の教会として問題になるかもしれないと考えているようだ。
実際問題、相手にするのは女神様や精霊達なので、選出者の失態は教会の失態に直結しかねない。
そこは女神様達の認識次第ではあるが。

「分かりました。今日中に追加要員を確定して、明日正式にご連絡差し上げます」

「よろしくお願いします」

最初の打合せは無事に終わったので、今日の所は一安心である。
リーベルトが一度教会へと課題を持ち帰り、明日の回答待ちになったのだ。
今のうち会食のメニュー内容を固めていかねばならない。

イズミはアヤと一緒に料理班の元へ向かうと、簡単な打合せとして料理の確認を行なう。

「準備をお願いしたいのは軽食を3~4品、スープを2~3品、お菓子を5~6品です。運搬方法はアイテムボックスで考えていまして、容量的に何とか入り切るという認識で大丈夫です」

「それぞれ何食分の用意でしょうか?」

「軽食は各40食分、スープは大鍋でそれぞれ5個分、お菓子は100で足りるかと」

「…多いですね。会食の相手をお伺いしても?」

料理班の1人がイズミに確認を取る。
アヤに聞くと副料理長だと言うので、責任ある者としてお出しするお客の事は伝えておくべきだろう。

「皆さん、この件は内密にお願いしますね…相手は女神様やヒュミトールを活動拠点にしている精霊達です」

料理班の表情が固まり、身動きも完全に止まってしまった。

「わ、私達の料理を、女神様がお召し上がりになられる?」

「そうです、当日は現地にて接客対応もお願いします。料理についての質問をされたら、笑顔でお答え頂きたい」

それを聞いた副料理長は卒倒してしまい、他の料理班に支えられ近くの椅子に座らせていた。

「イズミ様、私達は料理人ではありますが、女神様のお口に合うかまでは流石に分かりかねます」

「素材の味を活かした料理であれば、女神様達も喜ばれる事と思いますが」

「その、素材の味を活かしたの範疇が掴みきれないのです。どの領域での話なのかで、私達の技量では答えられないかもしれないのです」

例えば農民の料理と王都の料理人の料理では違いがあって当然であり、王都の料理人と王宮専属の料理人でも料理の腕の違いはあるのである。
彼女達の心配や不安の種はそこにあるのだ。

「そう言われると難しいですね、判断基準に出来る材料や料理が少ない」

そんな時、ふと女神様と関係を持っている存在に思い当たる節がある事を思い出した。
何時でも何処でも現れる事が出来る存在、あの野良猫である。

「聞いてみるか…」

イズミは一か八かの賭けをする感覚で、マスタングの元へ向かう。
野良猫は馬車置き場で休憩をしているマスタングのトランク部分で、その身体を伸ばし寛いでいた。

「野良猫さんや、相談させて頂きたい事があるのですが」

「なんだ?」

「近々女神様達向けに会食の場を設ける事はご存知かと存じますが、提供する料理の質に関して料理人達が不安を抱えておりまして」

「ふむ、自分達の料理が女神の口に合うかが心配と」

「そうです。そこで野良猫さんに試食をして貰って、色々と試行錯誤をしたいと考えたのですが」

「…まぁ、女神とて本音と建前はあるか。良いだろう」

「ありがとうございます」

野良猫の協力を取り付けたイズミは、料理人達に報告して味見の準備をしてもらう。

この時イズミ達は知る由もない。
野良猫が自分達の想像よりもグルメだった事に、その野良猫の首を縦に振らせる為にイズミが日本料理のレシピ本を実体化する羽目になる事に。
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