異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百十三話 探しにゆかねば

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イズミは運動不足解消の運動をし終えると、朝一番に冒険者ギルドに向かう。
冒険者ギルドであれば、ヒュミトール近辺で蜂蜜を作る蜂が生息する場所を知っているかもしれないからだ。

ヒュミトールの冒険者ギルドはここ数日ベリアと一緒に来る事もあってか、冒険者登録をしていないにも関わらず受付嬢とはちょっとした会話が出来る位にはなったのだ。
なので今回しれっと確認してみたのだ。

「蜂蜜ですか…有るには有るのですが、とても危険な場所ですよ?」

「具体的には」

「此処からですと…東南東方向になるのですが、魔力を豊富に吸った花の蜜を吸う蜂が居るとされています。問題はその蜂がとても凶暴なのです。Aランク冒険者ですら太刀打ち出来ない時があるんですよ」

「それは恐ろしいですね」

「ですよね!過去に盗賊が蜂蜜を狙って近付いて、兵隊蜂に全身を突き刺されて死んでいるのを冒険者パーティーが発見した事が何度もあるんですから」

「成る程ねぇ」

「…これは私の独り言なのですが、蜂の縄張り近くを通る際は、通る直前に砂糖水を作っておくと良いですよ。蜂達は砂糖水を渡すと攻撃を仕掛けない限り襲って来ないんです」

「ほう…今日は一日中天気も良さそうですし、散歩にはうってつけですね」

イズミは有益な情報を独り言として教えてくれた受付嬢に、周囲に悟られないようにしながらチップとして金貨を3枚渡しておく。

「そうですね。私も休暇なら買い物に行っていたでしょう」

自分は冒険者では無いので、情報収集の手段はかなりアナログである。
ベリアは宴直前で冒険者ギルドに捕まっているので、蜂蜜探しに同行してもらう場合は出発が昼過ぎになる。
ベリアに聞いてみると同行する気満々なので、解放されるまで時間を潰す事にした。

砂糖の売っている商店で買い物をし、蜂対策の砂糖水を作る準備を済ませる。
付き添いで居てくれるアヤは宴直前の喧騒で、少しだけ顔に疲れが見える。

「アヤさん、一度屋敷まで戻りましょうか?お疲れのようですし」

「大丈夫です、こんなに賑やかなのは久し振りでして。そう言えば、光の教会との打合せは順調なのですか?」

アヤの質問に対して、イズミは少し回答に詰まった。
時は少し遡る。



リーベルトが追加人員を連れてイズミ達の元へやってきたが、その人員がどうも怪しく感じてしまったのだ。

「口が固く秘密を守れる、我々の中でも信頼のおける人物を選定致しました」

「デュークです、どうぞよろしく」

デュークと名乗る男は身長凡そ180cmのガッシリ体型、その眼光は鋭く声から感情は伝わってこない。
教会勤めにしてはと考えると筋肉的にワガママボディに見えるので、絶対に事務仕事担当とは思えない肉体である。
顔は若き日のポール・ニューマンを彷彿とさせる美形なのが、デュークと言う男を怪しく感じてしまう要因でもある。
美形なお顔に筋骨隆々、アクション映画脳のイズミからすると、何か特殊なお仕事をしている人認定するに十分過ぎる男なのだ。

「よろしく…私は握手で利き手を預けられる程の自信家では無くてね、恐縮ですが握手は省略でお願いしたい」

「分かりました」

デュークから差し出された右手に利き手を伸ばす事はせず、言葉だけの挨拶に留めておく。
互いに椅子へ座ると、イズミが当日の仕事内容を話し始める。

「つまり、私達は皆さんが用意した料理の補充と、会食にいらっしゃった方々から聞かれたら料理の説明をするのですね」

「そうなります。料理は現在鋭意作成中で、会食の3日前までには全料理のリストと説明資料を用意しておきます。無論、事前に試食もしてもらいたいのですが」

イズミはここで言葉を切り、相手の顔を確認する。
今のところは問題なさそうに見えるので、改めて話しを続ける。

「教会の戒律として食べてはいけない料理はありますか?我々の用意する料理に使われている可能性があるので、今のうちに確認です」

「それでしたら、馬ですね」

「馬肉は使われてませんのでご安心ください。お菓子やお酒は大丈夫ですか?」

「大丈夫です。お酒も少しだけでしたら」

「それは良かった」

試食出来ない料理は無いようで一安心である。

「イズミ殿、1つ確認をさせて頂きたい」

デュークが真剣な表情でイズミに確認をする。

「会食の相手は、どのような御方なのです?相手が分からなければ、心の準備がしきれず不安なまま当日を迎える事になります」

「相手ですか…」

イズミはどう伝えるべきか、少し考え込む。
その様子をジッと観察しているデュークは、口を真一文字に閉じてイズミの回答を待っていた。

「貴方方がどれ程強く望んでも会うことが叶わない方々、とだけ言っておきます。一度お会いしたら最期、死ぬ迄私と同様の苦労をする事になるでしょうけど」

イズミはそう言って笑ってみせると、デュークは少しだけ表情を険しくしたように見えた。



打合せから数日、料理の大半は完成し説明資料も出来上がって来ている。
フレンチトースト用の蜂蜜が手に入れば、料理は全て完成と言って良いだろう。

「まぁ、順調ですかね。蜂蜜が手に入ったら、直ぐにでも教会に最終打合せに行けますよ」

「それは何よりです。きっとお客様も楽しみにしてますよ」

「それなら良いのですが」

冒険者ギルドへと戻ると、解放されたばかりのベリアの姿が見えた。

「お疲れ」

「おう!魔物討伐とは違う疲れが溜まって来てるぜ」

アヤをマスタングの後部座席に座らせると、シートを戻して2人が乗り込む。
ベリアの足元から白い蛇が姿を見せたので、これから蜂蜜探しに出かけると告げた。

「フラウリア、これから蜂蜜を探しにヒュミトールを出る。急な話で申し訳ない」

「分かりました。お気をつけて」

イズミはドアを閉めるとアクセルを優しく踏み込み、ヒュミトールの出入り口へとマスタングを走らせる。
ベリアはヒュミトールでは知らぬ者は居ない位の有名人になっており、門を守る衛兵がベリアを一目見ると敬礼をして通してくれた。

「…ベリア、衛兵の方々に何かしたのか?」

「素行不良で血気盛んな衛兵達と訓練をしてやったくらいかな。遠慮せずミッチリ鍛えてやった」

「厄介者を更生させたから、お礼としての顔パスなのかもな」

そんな事を言いながら、イズミ達は東南東方向へと移動を始めた。
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