異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百十八話 蜂蜜ゲット

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マスタングから降車したアヤと妖精が何か話し込んでいるが、イズミは別の事で頭を抱える事になっている。

「あの…この蜂達は何を御所望で?」

イズミとベリアの目の前には、蜂の大群が羽音を立ててジリジリと接近して来るのだ。

「妾を誘拐したと勘違いしたようじゃ、誤解は解いたのだがまだ気が立っておる。変に刺激すると攻撃されるぞ」

「それは困るな、まだ蜂蜜の話も出来ていないのに。砂糖水でも用意します?」

「…上等な砂糖を使ったものであれば助かる」

蜂達にも思う所があったのだろうか。
女王蜂を誘拐されてしまったとなれば、兵隊蜂の沽券に関わるとか死活問題だとか。

イズミはマスタングのトランクを開けると、砂糖を実体化してもらい砂糖水を作ってゆく。
マスタングは白ざら糖と黒糖の二種類を実体化し、鍋と水も同時に用意してくれた。

「ベリア、また火を用意してくれないか?」

「別に良いけど、今度は何をするんだ」

「砂糖水と黒蜜を作る」

「黒蜜…よく分かんないけど、火は用意するよ」

ベリアがチャチャッと火を用意してくれたので、手始めに砂糖水を作り皿に盛って蜂達の近くに置いてから、黒蜜作りを始める。
作り方は割とシンプルで、黒糖1kgと水1Lを鍋に入れてかき混ぜたり塊を崩したりしながら煮詰めるだけだ。

いきなり1kgの黒糖を混ぜてゆくと大変なので半分の500gで1回作り、出来た分を蜂達に渡してもう半分を作ってゆく。

「うぉ、黒蜜ってのは独特な甘さだな」

「だろ?この味わいがクセになる人もいるんだ」

投入を終えた袋に残っていた一欠片の黒糖を舐めたベリアが、目をパチクリとさせながら唸る。

「確か温かい土地で作られる植物だったかから作れるんだ。十分な日当りと豊富な水資源が無いと駄目とか、そんな話を聞いた事がある」

「黒糖ってやつの方が、甘さが優しいな」

「何事もバランスさ、ケーキの甘さだって優しい感じがあるだろ」

「砂糖単体での優しさなら、黒糖の方がアタイは好きだな」

「それは良かった…出来たぞ」

イズミが最初に黒蜜を入れた皿を確認すると、既に空になっていた。
少し冷ましてから皿に盛ると、蜂達はがっつくように皿へ群がってゆく。

「奴等も黒蜜とやらが気に入ったようだ…礼を言う」

女王蜂は妖精の姿のままでイズミに近付くと、綺麗な礼をしてくれた。

「妾の名はネイリア。この地のメリッサ族を束ねる女王である」

女王蜂…ネイリア…に丁寧なお辞儀をしてから、

「ネイリア様、どうぞお見知りおきを。とは言え私は成り行きとは言え、やれるだけの事をしたまでです。一緒にどうです?」

鍋に残った黒蜜を女王蜂専用として実体化させた小皿に盛り付け、マスタングのルーフに載せた。
変化の魔法を解いた女王蜂は、黒蜜を一口舐めた途端に喜びながら平らげてゆく。

用意した砂糖水と黒蜜を綺麗に完食した蜂達は、イズミとベリアの顔をジックリと観察した後で巣へと戻って行った。

「久しく味わった事のない美味であったぞ」

「この辺りでは見かけない植物由来の砂糖だからかもしれませんが」

「妾の兵達も気に入ったようだ…蜂蜜が欲しいと言っていたな」

「そうなんです。先程お出ししたトーストに添えたいのです」

「妾達の蜂蜜が添え物なのか?」

女王蜂はトーストに添えたいと言う言葉に引っかかりがあるようだったので、イズミはハッキリとした言葉で断言してみせた。

「主役ですね。一度蜂蜜を掛けて食せば、かけ無けないで食した時に悟る事になるでしょう…蜂蜜が無ければ、この料理が完成する事は無いのだと」

それを聞いた女王蜂は満足気に、イズミ達を自らの巣へと案内する。
案内された先には巨大な蜂の巣が何個もあり、その内の1つは馬車1台分の大きさにまでなっている。

「今回は特別だ。黒蜜を作った鍋いっぱいの蜂蜜をくれてやろう」

「!…それは大変有り難いですが、よろしいのですか?」

蜂蜜は蜂達が懸命に働いて溜め込んだ貴重な食糧であり、鍋いっぱいまで渡してしまったら後々苦労するのでは無いかと不安になったのだ。

「お主は妾達にも優しいのだな」

「種族は違えど助け合い、手を取り合っていければと考えるだけです」

「あの賊は人間族、お主の同族だったが?」

「話し合いをする以前に襲うつもり満々な同族ならば、私は容赦しないだけです」

「…そうか」

イズミの言葉に偽りを感じなかったのか、女王蜂は部下に指示を出して蜂蜜の準備をさせる。
この際に鍋を渡すと、鍋に残っていた僅かな黒蜜まで綺麗に食べられていた。

「イズミだったな、妾はあの黒蜜とやらが気に入った。また食したいと思った時はどう連絡を取れば良い?」

「そうですね、私は旅人なので彼方此方に行ってますから…」

イズミは少し考え込むと、アヤに相談をしてみる。

「アヤさん、ラミア族はこの地の蜂達と交友関係はありましたか?」

「無い訳では無いです、関係性が希薄なだけで。イズミさんの言う女王蜂様も魔族…メリッサ族ですので」

「そう言う事ですか、その辺りは私も勉強が必要そうです…どうすれば円滑な交友が出来るか」

案として浮かぶのはラミア族とメリッサ族間での取り決めをしてもらい、黒蜜が食べたい時に転移魔法で送るのが単純ではある。
しかし、それではラミア族に旨味が少ないように思える。

他には自分とメリッサ族との間で魔法通信や物のやり取りが出来るようにする案だが、自分は魔法が使えないので完全にメリッサ族側で解決してもらう事だ。
この案は自分が生きている時のみ有効であり、自分の死後に黒蜜が食べたくなったら別の手段をメリッサ族が模索する事になる。

生きている内にこの世界で黒糖を見つけ出し、持続的に確保出来る体制を整えるまでなら何とかなるかもしれないが、しばらくは頭の片隅には入れておいてもらわないといけない。

イズミは浮かんでいる案をネイリア達メリッサ族に説明すると、ネイリアが部下の一匹を呼び出した。

「妾の娘の1人で、名はネリフィアと言う。局所的な転移魔法が使えるから、お主に転移魔法の印を付けるとしよう」

「印、ですか?」

確認するとネリフィアの転移魔法は自分の印を付けた場所にのみ転移が出来る代物であり、色々と使用制限があるらしい。
その1つが、転移先の指定には印が必要であり、自身の針を刺す事で目印にする。

つまり、印付けの為にこれから蜂に刺される事が決まったようなものなのだ。

「その印は第三者に見られたり上書きされたり、消されたりはしないものですか?」

「その辺りは問題無いだろう…ネリフィア、印を付ける場所を決めるのだ」

ネリフィアと呼ばれた蜂は変化魔法で妖精の姿になると、イズミの周りを数周してから上着を脱ぐように促した。

「此処が良いでしょう」

そう言って触れられた場所は、ホクロのある所だった。
小さなホクロで特に気にする様な場所ではないから、印を付けるとすると丁度良いのかもしれない。

「もしかしてですが、刺さる時って結構痛かったりします?」

「チクッとするくらいだろうな。当然だが毒も無い、転移魔法の印を刺して付けるだけだ」

採血をする時のような痛みがしたと思うと、印付けは終わったのかネリフィアは離れてゆく。
少し距離をとってから転移魔法を発動し、印が正常に付いた事を確認する。

「母上、問題なく印を付け終わりました」

「ご苦労。今後は印を介してイズミに連絡を取り、黒蜜を確保するように」

ネイリア達側の話しは付いたようなので、イズミは黒蜜を渡す時の注意事項を確認する。

黒蜜は作るのにひと手間があるので、事前に連絡が欲しいと言う事。
鍋に入れた状態で渡すと食べ難いので、後日食べやすい小皿を選定する事。

そして黒蜜を渡した時の対価だ。
今回は蜂蜜だったが、時には対価として蜂蜜を出し難い場合があるだろう。
そんな時は薬草や花の種を、メリッサ族が困る事のない範囲で分けてくれれば良いとした。

「これで交渉成立と言う事で…蜂蜜、ありがとうございます。大切に使わせて頂きます」

「うむ。今後ともよろしく頼む」

イズミ達は兵隊蜂の案内でマスタングの元にまで戻ると、大きなため息と共に緊張の糸を解していった。
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