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第二十六章 梅雨の季節
第五百二十二話 名前の意味
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イズミが部屋に戻りバウムクーヘンを所望した女神の前に戻ると、ショルダーバッグからバウムクーヘンを取り出しテーブルの上に置いた。
「お待たせ致しました、此方がバウムクーヘンです」
その瞬間、部屋内の喧騒が止み皆の視線がバウムクーヘンに向かう。
その視線は強烈で、イズミや隣に居たアヤですら硬い表情のまま身動きが取れないでいる。
「き…切り分けさせて頂きます」
振り絞るようにそう言ったアヤが、小刻みに震える手で何とかバウムクーヘンを食べやすいサイズに切り分けると、女神は静かに1つを手に取り口へと運ぶ。
「甘くてシットリ、初めて食べる美味しさ」
「それは何よりです」
「あの魂の手荷物にあったこの菓子、どんな意味があるの?」
女神の質問に対し、イズミは簡潔に答えようと思案する。
「そうですね…私の居た国では【木のケーキ】と呼ばれていました。生地を何度も重ねて焼く工程から、幸せが幾重にも重なるようにとか、長寿や繁栄の願いを込めて贈り物として渡す事がありました。あの子の魂の未来が、幸せで幾重にも重なるようなものであって欲しい…そう思って渡しました」
柄じゃないけどと付け足して答えると、女神は納得したような表情をして2口目のバウムクーヘンを手に取った。
「綺麗な生地の層、確かに木の幹みたい。ありがとう」
女神がそう言って微笑むと、近くに居た精霊達も我先にとお菓子コーナーに向かって来た。
「イズミ。あのお菓子って確か、オブリビアで用意したヤツか?」
「あぁ。色々あって用意出来てなかったな、あれも後で用意するよ」
「そうこなくっちゃ!」
自分もバウムクーヘンを食べられると分かったベリアは、先程より元気を取り戻して軽食コーナーに戻って行く。
それからも続々と女神達がやって来ては酒と料理を楽しみ、慌ただしく動いていたら午後3時を回っていた。
軽食コーナーは落ち着いたのか対応していたベリア達が小休止に入り、ロレッタはお酒コーナーのサポート、デュークは音も無く空いた皿を片付けている。
軽食は全て品切れになったようなので新しい皿を置くと、アヤがお菓子を綺麗に盛り付けてくれた。
「少しは落ち着いたようだな…イズミよ、あの酒のアレンジを頼む」
「分かりました」
イズミはテーブルの上にグラスとカクテルセットを用意すると、魔王から預かっていたお酒を注ぎ穴あきスプーンを乗せる。
そのスプーンの上に角砂糖を置いてからお酒を染み込ませ、カクテル担当のメーレルさんに頼んで角砂糖に火を点けてもらった。
角砂糖が溶けるのを待っている間に、このカクテルに興味がありそうな方の分も魔王に許可を取って作り始める。
「良い感じに溶けてきたかな」
イズミはカクテルセットから使う事は無いと思っていた道具…グラスに乗せるタイプの水差し…を手に取ると、グラスに乗せて冷えた水を注ぐと1滴ずつ角砂糖に垂れてグラスへと落ちてゆく。
女神達も精霊達も、見たことの無いアレンジに興味津々な様子で、グラス内で水と酒が混ざってゆくのを見守っている。
「ほう…色が変わるとはな」
「あのお酒のような反応をするとは、全く想像もしてませんでした」
イズミの元いた世界のお酒で緑の詩神や緑の妖精と称され、多くの芸術家が愛飲し多くの中毒者を出したと言われる、魔性の酒の様な反応である。
イズミにはそこまで思い入れのある酒ではなかったが、昔トラックの荷台部分をバーにカスタムして経営していたお店で1度か2度飲んだ程度だ。
「面白いね。魔王はこのお酒をどうするの?」
「そうさな…魔界でも作られたばかりの酒だ、此方側にレシピを持ってくるのは当分先になる。取り敢えず飲んでから考えるとしよう」
角砂糖が溶け切りグラス内に水も入り希釈も出来たので、水差しを外し穴あきスプーンで軽くかき混ぜる。
「火を使うとお酒の香りや風味が飛んでしまったりもしますし、パフォーマンス重視にはなるアレンジですね」
イズミはそう説明しながら完成したカクテルを先ずは魔王夫妻に、その次に興味のある女神に渡すと、そっと口に運んでゆく。
「砂糖を入れた分の甘さもあり、苦味も薄くなったな」
「これは飲みやすいですね。飲む前に火を使わずに砂糖を入れたらどうなるのでしょうか」
「作ってみましょう」
イズミはメーレルさんに頼み分量は一緒のカクテルを作ってもらう。
上質な砂糖を角砂糖を1個分程度を目分量で入れてから、しっかりと撹拌させる。
「どうでしょうか?」
「此方の方が風味は気持ち強く感じるな。しかし、角砂糖と溶かしている過程を見る楽しみが減るのは惜しい」
魔王夫妻も女神達もそこそこの量を飲んでいる筈だが、イズミが見る限り酔っているようには思えない。
酒豪なのか女神や魔王のような存在には、酒酔いと言う概念自体が無いのか疑問ではあるが。
「良い会食の場を設けてもらい、感謝する。これはちょっとした礼代わりだ、受け取り給え」
魔王は何処からか木箱を取り出すと、近くにあったテーブルに置いた。
「…分かりました。有難く頂戴致します」
イズミは一度魔王の顔を見る。
口元は微笑んでいるが、目元は真剣であった。
その表情から何かを察したイズミは、何も詮索せずに受け取る事にした。
「それで良い。我々はそろそろ戻るとしよう、その酒はイズミが好きに使うと良い」
「ありがとうございます」
魔王夫妻が去ると、イズミは木箱の中身を確認せずにショルダーバッグに収納した。
会食の場で開けるのは野暮だと思ったのだ。
仕舞い終えたイズミが改めて酒コーナーを見ると、メーレルが忙しそうにカクテルを作っていた。
どうやら自分が作っている間は他の方々はオーダーを控えていたらしく、落ち着いたので頼んでいるようだ。
お菓子のコーナーには昼前には居なかった氷の精霊ジーヴルや、雨の精霊アルハの姿も見える。
ジーヴルは何時もの酒を片手にケーキを食べており、アルハはドライフルーツを食べているようだった。
「さて、もうひと頑張りしますか」
イズミは小さく息を吐くと、酒コーナーに向かいお酒を用意してゆく。
「メーレルさん手伝います、何を作りしましょうか?」
「助かりますぅ!では、ギムレットなるお酒をお願いします」
ギムレット
その単語を聞いたイズミが顔を上げると、メーレルの隣に見覚えのある女神の姿があった。
「お待たせ致しました、此方がバウムクーヘンです」
その瞬間、部屋内の喧騒が止み皆の視線がバウムクーヘンに向かう。
その視線は強烈で、イズミや隣に居たアヤですら硬い表情のまま身動きが取れないでいる。
「き…切り分けさせて頂きます」
振り絞るようにそう言ったアヤが、小刻みに震える手で何とかバウムクーヘンを食べやすいサイズに切り分けると、女神は静かに1つを手に取り口へと運ぶ。
「甘くてシットリ、初めて食べる美味しさ」
「それは何よりです」
「あの魂の手荷物にあったこの菓子、どんな意味があるの?」
女神の質問に対し、イズミは簡潔に答えようと思案する。
「そうですね…私の居た国では【木のケーキ】と呼ばれていました。生地を何度も重ねて焼く工程から、幸せが幾重にも重なるようにとか、長寿や繁栄の願いを込めて贈り物として渡す事がありました。あの子の魂の未来が、幸せで幾重にも重なるようなものであって欲しい…そう思って渡しました」
柄じゃないけどと付け足して答えると、女神は納得したような表情をして2口目のバウムクーヘンを手に取った。
「綺麗な生地の層、確かに木の幹みたい。ありがとう」
女神がそう言って微笑むと、近くに居た精霊達も我先にとお菓子コーナーに向かって来た。
「イズミ。あのお菓子って確か、オブリビアで用意したヤツか?」
「あぁ。色々あって用意出来てなかったな、あれも後で用意するよ」
「そうこなくっちゃ!」
自分もバウムクーヘンを食べられると分かったベリアは、先程より元気を取り戻して軽食コーナーに戻って行く。
それからも続々と女神達がやって来ては酒と料理を楽しみ、慌ただしく動いていたら午後3時を回っていた。
軽食コーナーは落ち着いたのか対応していたベリア達が小休止に入り、ロレッタはお酒コーナーのサポート、デュークは音も無く空いた皿を片付けている。
軽食は全て品切れになったようなので新しい皿を置くと、アヤがお菓子を綺麗に盛り付けてくれた。
「少しは落ち着いたようだな…イズミよ、あの酒のアレンジを頼む」
「分かりました」
イズミはテーブルの上にグラスとカクテルセットを用意すると、魔王から預かっていたお酒を注ぎ穴あきスプーンを乗せる。
そのスプーンの上に角砂糖を置いてからお酒を染み込ませ、カクテル担当のメーレルさんに頼んで角砂糖に火を点けてもらった。
角砂糖が溶けるのを待っている間に、このカクテルに興味がありそうな方の分も魔王に許可を取って作り始める。
「良い感じに溶けてきたかな」
イズミはカクテルセットから使う事は無いと思っていた道具…グラスに乗せるタイプの水差し…を手に取ると、グラスに乗せて冷えた水を注ぐと1滴ずつ角砂糖に垂れてグラスへと落ちてゆく。
女神達も精霊達も、見たことの無いアレンジに興味津々な様子で、グラス内で水と酒が混ざってゆくのを見守っている。
「ほう…色が変わるとはな」
「あのお酒のような反応をするとは、全く想像もしてませんでした」
イズミの元いた世界のお酒で緑の詩神や緑の妖精と称され、多くの芸術家が愛飲し多くの中毒者を出したと言われる、魔性の酒の様な反応である。
イズミにはそこまで思い入れのある酒ではなかったが、昔トラックの荷台部分をバーにカスタムして経営していたお店で1度か2度飲んだ程度だ。
「面白いね。魔王はこのお酒をどうするの?」
「そうさな…魔界でも作られたばかりの酒だ、此方側にレシピを持ってくるのは当分先になる。取り敢えず飲んでから考えるとしよう」
角砂糖が溶け切りグラス内に水も入り希釈も出来たので、水差しを外し穴あきスプーンで軽くかき混ぜる。
「火を使うとお酒の香りや風味が飛んでしまったりもしますし、パフォーマンス重視にはなるアレンジですね」
イズミはそう説明しながら完成したカクテルを先ずは魔王夫妻に、その次に興味のある女神に渡すと、そっと口に運んでゆく。
「砂糖を入れた分の甘さもあり、苦味も薄くなったな」
「これは飲みやすいですね。飲む前に火を使わずに砂糖を入れたらどうなるのでしょうか」
「作ってみましょう」
イズミはメーレルさんに頼み分量は一緒のカクテルを作ってもらう。
上質な砂糖を角砂糖を1個分程度を目分量で入れてから、しっかりと撹拌させる。
「どうでしょうか?」
「此方の方が風味は気持ち強く感じるな。しかし、角砂糖と溶かしている過程を見る楽しみが減るのは惜しい」
魔王夫妻も女神達もそこそこの量を飲んでいる筈だが、イズミが見る限り酔っているようには思えない。
酒豪なのか女神や魔王のような存在には、酒酔いと言う概念自体が無いのか疑問ではあるが。
「良い会食の場を設けてもらい、感謝する。これはちょっとした礼代わりだ、受け取り給え」
魔王は何処からか木箱を取り出すと、近くにあったテーブルに置いた。
「…分かりました。有難く頂戴致します」
イズミは一度魔王の顔を見る。
口元は微笑んでいるが、目元は真剣であった。
その表情から何かを察したイズミは、何も詮索せずに受け取る事にした。
「それで良い。我々はそろそろ戻るとしよう、その酒はイズミが好きに使うと良い」
「ありがとうございます」
魔王夫妻が去ると、イズミは木箱の中身を確認せずにショルダーバッグに収納した。
会食の場で開けるのは野暮だと思ったのだ。
仕舞い終えたイズミが改めて酒コーナーを見ると、メーレルが忙しそうにカクテルを作っていた。
どうやら自分が作っている間は他の方々はオーダーを控えていたらしく、落ち着いたので頼んでいるようだ。
お菓子のコーナーには昼前には居なかった氷の精霊ジーヴルや、雨の精霊アルハの姿も見える。
ジーヴルは何時もの酒を片手にケーキを食べており、アルハはドライフルーツを食べているようだった。
「さて、もうひと頑張りしますか」
イズミは小さく息を吐くと、酒コーナーに向かいお酒を用意してゆく。
「メーレルさん手伝います、何を作りしましょうか?」
「助かりますぅ!では、ギムレットなるお酒をお願いします」
ギムレット
その単語を聞いたイズミが顔を上げると、メーレルの隣に見覚えのある女神の姿があった。
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※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
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