異世界無宿

ゆきねる

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第二十六章 梅雨の季節

第五百二十四話 色々な置き土産

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会食を終えて一息ついたイズミは、余った料理の数を数え始める。
どの料理が人気だったのか、不人気だったのかが気になったのだ。

「お菓子はほとんど無くなったのか」

「はい、大変人気でしたよ。チーズケーキも凄かったですが、ドライフルーツが思った以上に好評でしたね」

そう教えてくれたアヤの左肩には、1体の妖精が座っている。

「アヤさん、左肩にいらっしゃるのは?」

「はい、会食中に仲良くなりまして。ラミア族のお菓子事情にとても強い興味があるので、一緒に屋敷まで行きたいと」

妖精は首を大きく縦に振ると、手に持っていたドライフルーツを食べる。

「それと、ライムの差し入れがありましたよ」

どうも光の女神は去り際にライムを置いていってくれたらしく、綺麗な竹籠に10個程入っていた。

イズミは立ち上がるとライムを手に取り、自分を除く部屋内の全員分のギムレットを作り始めた。
カクテル担当のメーレルさんに作り方を教えていると、ロレッタとデュークも真剣な表情で話を聞いていた。

「このカクテルの材料は大きく分けると2パターンありまして、違いはこのシロップ…砂糖水を入れるか否かです」

「入れると甘く飲みやすくなり、入れないとお酒とライムだけのシンプルな味になると」

「そうです。初めて飲むならシロップ入りで、本当の味を求めるならシロップ無しですね」

「本当の味、ですか?」

メーレルの疑問に対して、簡単に答えておく。

「ある女神様のお気に入りってヤツです」

「分かりました、覚えます」

2人でシェイカーを作りギムレットを作ると、片付けはそこそこに簡易的な打ち上げの1杯を飲む。
イズミはマスタングの運転があるので、残っていたトニックウォーター…炭酸はほとんど無い…を飲む。

「イズミ様、このギムレットなるカクテルに使うドワーフ酒は、これが指定なのですか?」

メーレルが手に持つドワーフ酒は、以前光の女神が認めた物である。

「そうですね…他のでも作れはしますが、コレが一番最初、オリジナルだと考えて下されば良いかと」

「分かりました。ギンメル酒蔵のドワーフ酒なんですね」

「酒蔵は知りませんでした。入手は容易な方で?」

「特級のドワーフ酒を扱える酒店でしたら、ハルハンディア共和国内であれば何処でも買えます」

イズミはショルダーバッグからバウムクーヘンを取り出すと、全員分を均等に切り出す。
マスタングがそこそこの数を実体化してくれていたので、まるっと1個が余っていたのだ。

女神達にせっつかれたから出そうと思っていたが、綺麗に1個だけ残ったのだ。
もしかすると手持ちに1個ある事を知っていながら、打ち上げ用の為に目を瞑ってくれたのかもしれない。

「おぉ、コレがバウムクーヘンか!」

ベリアは飛びつくように近付くと、一口で半分を食べてしまう。

「イズミ、このギムレットなるカクテルが、女神様が認定したレシピの酒なのか?」

「そうだ。作り方もレシピ通りさ」

「なんと…これが」

デュークはじっくりと味わうようにギムレットを飲み、感慨に耽っているようだった。

「冷えているうちに飲みきった方が良い。温くなると美味しさ半減だ」

「あの道具を使って酒を冷やしているようだが」

「そうだ、あの容器に氷を詰めてシェイクすれば、効率的に酒とジュースを混ぜつつ冷やせる。あのシェイカーは以前ラミア族で極少数生産した事があるから、後日購入依頼をすると共にレクチャーを受けたら良いんじゃないかな。申し訳無いが俺は教えん」

「どうしてだ?」

「さっきのシェイクを見て分からなかったか?俺よりメーレルさんの方が上手いし美しくシェイクするんだ」

メーレルのシェイクは2段式で、滑らかで綺麗な軌道を描きながらシェイクするのだ。
姿勢も整っており、イズミとは違う特別な雰囲気を纏っているようにまで見える。

「ありがとうございます。ある女神様からも褒められたんです、丁寧で美しい所作だって」

そう微笑むメーレルが持つシェイカーは、他のよりも少し輝いて見える。

「…メーレルさんでしたか、会食中に女神様に触れられたりしましたか?」

「え、はい。お酒をお出しした時に何度か」

デュークが何か言いたげな表情をしながら、隣にいるロレッタに小声で話しかける。

「ロレッタ、メーレル氏のスキルを見れるか?」

「勝手に見るのは違反行為では」

「今から私の責任で話をつける」

イズミの元に向かったデュークは、イズミとメーレルに相談をする。

「疲れている所で恐縮なのだが、メーレル氏のスキルを見させて欲しいのです。女神様に触れられた影響で、何かしらの変動が起きているか確認をさせて頂きたい」

「…別に、構いませんけど」

メーレルはシェイカーをテーブルに置くと、ロレッタの鑑定を受ける。

「失礼しますね…あぁ、なんてこと」

「どうしたんです?」

ロレッタは鑑定を終えると頭を抱えてしまったので、落ち着くまで全員が見守る。

「メーレルさん。スキルが1つ、称号が1つ増えているみたいです」

「と、言いますと?」

「スキル:カクテル作り、称号:最初のバーテンダー、が追加されたようですね」

今日の会食で沢山カクテルを作ったからか、女神達や精霊達がカクテルを飲んで美味と認めたのか、メーレルは新たな境地に到達したらしい。

イズミはメーレルの使っていたシェイカーを綺麗な布で軽く拭くと、シェイカーの底に何か文字が書かれている事に気付いた。

「コレは何だ?」

異世界の文字に見えるが達筆故に読めなかったので、メーレルとアヤに確認をしてもらう。

「ええと…愛しき時は短く、だか永遠の如き価値あり。ですって」

意味は分からないが、誰かが自分達が気付かぬ内に書いたのかもしれない。

片付けを終えたイズミ達は、ロレッタとデュークに改めて今日の出来事は口外しない事を頼み、グラテミアの屋敷へと帰って行った。
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